■祈るタイトルに込められた、エンタメ性を作り出した犯人は誰でしょうか?


■オススメ度

 

安楽死問題に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.2.3(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題Tout s’est bien passé(「すべてうまく行きました」)、英題:Everything Went Fine

情報:2021年、フランス、113分、G

ジャンル:脳卒中を患った父が安楽死を望み、それに苦悩する家族を描いたヒューマンドラマ

 

監督&脚本:フランソワ・オゾン

原作:エマニュエル・ベルンエイム/Emmanuèle Bernheim『Everything Went Well』 

 

キャスト:

ソフィー・マルソー/Sophie Marceau(エマニュエル・ベルンエイム:アンドレ娘、長女、小説家)

 (青春期:Madeleine Nosal Romane

アンドレ・デュソリエ/André Dussollier(アンドレ・ベルンエイム:脳卒中を患い、安楽死を望むエマニュエルの父、元実業家)

 

ジェラルディン・ペラス/Géraldine Pailhas(パスカル・ベルンエイム:アンドレの娘、次女)

シャーロット・ランプリング/Charlotte Rampling(クロード・ド・ソリア:アンドレの妻、アルツハイマー型認知症、元彫刻家)

 

エリック・カラバカ/Éric Caravaca(セルジュ・ツゥビアナ:エマニュエルの夫)

Judith Magre(シモーネ:アンドレのいとこ)

Catherine Chevallier(シルヴィア:クロードの家政婦)

Quentin Redt-Zimmer(ラファエル:パスカルの息子)

Alexia Chicot(ノエミ:パスカルの娘)

 

ハンナ・シグラ/Hanna Schygulla(スイスの協会の女性)

 

グレゴリー・ガドゥボウ/Grégory Gadebois(ジェラード・ボイスロンド:アンドレを追いかけ回す迷惑な男)

ジャック・ノロ/Jacques Nolot(ロベール:救急病院で同室になる脳卒中の男)

Karim Melayah(ティエリー:レストラン「ヴォルテール」のウェイター)

 

Daniel Mesguich(ジョルジュ・キージャマン:アンドレの弁護士)

François Pérache(ロシェ:公証人)

 

Nathalie Richard(ペーテルセン:エマニュエルを取り締まる警部)

 

Lara Neumann(ニューマン医師:アンドレの主治医)

Stéphane Hillel(救命医)

Annie Milon(看護師)

Laëtitia Clément(看護師)

 

Annie Mercier(クリニックの責任者)

Alexandra Célérier(臨床介護士)

Aymen Saïdi(民間救急車のスタッフ)

Lamine Cissokho(民間救急車のスタッフ、ムスリムの人)

 

Denise Chalem(エマニュエルの編集者)

 


■映画の舞台

 

フランス:パリ

 

ロケ地:

フランス:パリ

ラリボワジエール AP-HP病院

https://maps.app.goo.gl/JyRrLhpEDrrZcxmp9?g_st=ic

 

ブロカ AP-HP病院

https://maps.app.goo.gl/FBKtitNpSL7PVSKp8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

フランスのパリで小説家として活動しているエマニュエルは、ある日妹のパスカルからの電話で現実に引き戻される

それは、父アンドレが脳卒中に倒れたというものだった

命に別状はなかったものの、脳卒中の後遺症で寝たきり状態になり、その後も容体が不安定になるなど予断を許さなかった

 

エマニュエルは父との日々を思い起こしながら介護を続けるものの、ある日父は衝撃的な一言を漏らす

それは「終わらせて欲しい」というもので、安楽死を望んでいたのである

エマニュエルは動揺を隠せず、パスカル屋夫のセルジュに相談するものの、彼らも同じように父から「終わらせて欲しい」と聞かされていた

 

そこでエマニュエルは「スイスで安楽死の手伝いをする」という情報を耳にしてコンタクトを取る

女は「最後は自分で薬を飲んでもらう」と言い、舞台は用意するが手は下さないと付け加える

 

そして、決行の日が近づいてきたある日、アンドレを訪ねて、ジェラールという男が親族を名乗って病院へと入り込むのである

 

テーマ:尊厳死

裏テーマ:最期に娘に伝えたいこと

 


■ひとこと感想

 

安楽死問題を取り扱った実話ベースということで、どんな法律の壁をクリアするのかと思っていたら、そう言ったことよりも「父と娘のヒューマンドラマ」にウェイトが傾いていました

話の展開が早いのですが、どこに着地されたいかわからない感じになっていて、「通報したの、誰よ」という感じで終わってしまいました

 

映画は「生きると延命は違う」というアンドレの言葉に凝縮されるように、「やりたいことができなくなったら生きている意味はない」とか、「あと10年若かったら(劇中では85歳)戦った」というように、晩年をどう生きるかにスポットライトを当てていました

 

85歳の脳卒中で自由に動けないという状況だと、安楽死が制度化されれば実行する人な増えるような予感がありますね

何でもかんでも安楽死というのは無茶ですが、年齢と病気の予後、ADLは加味されても良いような気はしないでもないですね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

いきなり病院に運ばれるところから始まり、MRIの画像で素人目にも脳疾患であることはわかります

救急病院から回復期病院に移り、最後は在宅も視野に入れたクリニックへと移っていったので、急性期的には問題はなかったのかもしれません

でも、アンドレ自身が「生かされる人生」に意味を感じておらず、また「安楽死」が何かのチャレンジかのように周囲を巻き込んでいきます

 

最後の方で「通報」があるのですが、映画では犯人の特定はされていません

パスカルとエマニュエルはジェラードだと思っていますが、個人的な感覚だとアンドレ自身もしくは妻クロードなのかなと思いました

と言うのも、アンドレは「自分の安楽死がエマニュエルの新しい小説のネタになる」と考えていて、安楽死チャレンジ(と言ったら語弊がありますが)にひとりだけ前向きのように見えていたからですね

 

また、壊れたように見えるアンドレとクロードの関係も、実は壊れていなくて、アルツハイマーを患っているクロードは、半身不随で動けないアンドレの気持ちが理解できているように思えます

彼がなぜ多くの人に「安楽死をすること」を伝えるのかを考えた時、そこには「暴露によって右往左往する姉妹(特にエマニュエル)」がいるからなんですね

それを最終的には「送り出す」と言うような感じになっていて、共犯者感というものがほとんど薄れていましたが、それがアンドレの狙いだったのかなと感じました

 


安楽死情勢について

 

「安楽死(Euthanasia)」とは、「人または動物に苦痛を与えずに死に至らせること」を言い、「尊厳死(dignified death)」とも呼ばれます

安楽死に至る方法としては、「積極的安楽死(医師の助けを借りるもの)」と「消極的安楽死(治療を中止して死に至る)」があり、末期癌の患者などに対して「合法化」している国もあります

スイスはいち早く導入し、その時期は1940年代の頃、2000年代になってアメリカのいくつかの州、オランダ、ベルギー、ルクセンブルクなどが合法化し、2010年代になってコロンビア、カナダ、オーストラリア、2020年代になってスペイン、ニュージーランド、オーストリアが合法化に至っています

 

「積極的安楽死(positive euthanasia)」は、致死性の薬物によって死に至らしめる行為で、医療上の場合は「耐え難い苦しみや痛みに襲われている患者」「助かる見込みのない末期患者」などの「自由意思」に基づいて、医師が薬物を投与します

合法化に至る最大の障壁は「宗教」で、キリスト教内でもプロテスタントは許容派、カトリックは反対派という感じになっていて、映画の舞台であるフランスは「カトリックの反対が強く合法化に至っていないとされています

イスラム教は「安楽死=殺人」と規定していますが、消極的安楽死に関しては必ずしも反対されてはいません

 

ちなみに、日本では容認されていないので、本人の意思による積極的安楽死でも、それに加担すると「嘱託殺人罪」の対象となります

また、「患者本人の明確な意思がある」「死に至る回復不能な病気・障害の終末期で死が目前に迫っている」「心身に耐えがたい重大な苦痛がある」「死を回避する手段も、苦痛を緩和する方法も存在しない」という4項目をクリアした場合に容認あれているケースもあります

 

ちなみに病院勤務ではありますが、積極的な治療を終了して緩和の方に入っている患者さんを時折見かけます

それでも、心肺停止に至る結構ギリギリのラインまで治療はされていて、患者家族(本人の意思を確認できない場合が多い)に対して、最期どうするかを確認することがあります

いわゆる「DNR」という蘇生処置拒否というもので、これは「消極的安楽死」とは意味合いが違います

延命治療は患者本人の意思で決定されますし、「消極的安楽死」に関わる医師の「意図」というものが異なっています

「患者の命を終わらせようとするのが安楽死」で、「患者本人の意思を確認して延命治療をしない」という違いがあるのですね

延命治療をしないというのは何もしないということではなく、疼痛緩和に関する医療行為というのは最期まで行われます

 


どのような印象を残せば、自分らしく生きたと思えるだろうか

 

映画では、父アンドレが長女エマニュエルに「終わりにしてほしい」と頼みますが、個人的な感覚だと「まずは迷惑をかけずに一人で実行する」と思います

おそらくは、映画のように犯罪に巻き込むようなことはしないでしょう

アンドレが望んだのは「この状態では生きている意味はない」というもので、「好きなことができないのは生きているとは言えない」とまで言ってしまいます

一見するとわがままにも思えますが、アンドレはこれまでの人生でそれが通ってきた立場があったからだと思います

 

アンドレは元実業家で、富裕層の人間であり、妻も著名な彫刻家として財を残しています

アンドレは「アートコレクター」ですが、色々ググってみても情報はほとんどありません

その妻クロードは著名な彫刻家で、作品総点数は2000点以上、その一部がフランス国立美術館によって購入されています

アンドレは経済的には裕福で、妻の仕事を考えると身の回りのことは家政婦などにさせていたと思います

なので、好きなようにできないことの苦痛というものが、一般の人よりも強いのかもしれません

 

また、これまでの人生でアンドレ自身が作り上げたものはそう多くはなく、誰かの作品を収集し、売買したり、それらを公開したりしてお金を得ますが、他者の創作物の中にはアンドレ自身はいません

そして、順調だった人生に突如暗雲が立ち込め、これまでに行っていたことができず、惨めにも思える身の回りのケアを託すことになります

ちなみに、このあたりのシーンでアンドレの同性愛が仄めかされていて、最初の救急病院こそ女性の看護師でしたが、後半のリハビリ病院とクリニックは男性の介護士でした(女性が世話をしている時のアンドレの様子でも察することができるかもしれません)

なので、察しの良い人は、ジェラールが何者かは推測できたかもしれません

 

アンドレがこの世に残したものは「エマニュエルとパスカル」だけで、DNA的にはどちらにも残っているものの、文化的遺伝子というものはありません

そこで、アンドレは作家であるエマニュエルに自分を書かせるために、この騒動を持ちかけたのかなと感じました

劇中でも「小説のネタに使え」とおどけて見せていますが、おそらくあれは本心で、愛する娘の作品の中に自分を遺したいという願望が少なからずあったのではないかと推測できます

でも、そのまま「スイスに行ったのでは小説っぽくはない」のですね

そう言った意味も含めて、「通報したのは本人じゃないか」説というものが浮上するのかなと感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画の邦題は「すべてうまくいきますように」と願望が入ったタイトルになっていて、映画の内容も「成功するかどうか」を見守る感じになっていました

多くの問題が生じる中で、バレたら中止の危機があるのですが、「アンドレの安楽死に対して」それを止めようという動きは少なかったように思います

それが家族間の関係性によるものかはわかりませんが、苦渋の決断で見ていられないパスカルはまだしも、クロードは「好きにしたら良い」だし、ジェラールも最期のお別れを言いたくて付き纏うことになっていました

結局はエマニュエルが父の最期の願いを叶えるために奮闘するのですが、背景にはエマニュエルとパスカルへの「密約」があったのではないかと感じています

 

その一つは「財産問題」で、アンドレは「二人に分ける」と明言し、妻には何も残していません

離婚状態か、別居状態かはわからなかったのですが、わざわざ「二人に」と言及するからには、クロードには何かしらの権利があったのかなと思ってしまいます

また、計画のことはエマニュエルにもパスカルにも打診しますが、最終的にはエマニュエルが主導していくことになります

彼女が主導していく経緯はどちらかといえばなし崩し的な感じなのですが、パスカルは子どもの世話を理由に絶妙な感じで距離を置いていました

 

その後、エマニュエルはスイスの女性と出会い、本格的に計画を推し進めていくのですが、その日が近づくにつれ、さまざまな問題が押し寄せてきます

しかも、そのほとんどが「アンドレの行動によるもの」で、彼自身の行動だけを追っていくと、「成功させたいのか?」と勘繰ってしまうほどなのですね

「友人やいとこに話す」「日にちを直前で変える」などの偶発的なアクシデントを引き起こしていますが、それらはすべて「計画遂行のための障壁」となっていて、その都度エマニュエルが動くと言う構図になっていました

 

最終的には「通報」にまで及びますが、これらの一連の流れを見ていくと、「アンドレ自身がトラブルを楽しんでいる」ように思えます

彼自身が死ぬのが怖くなってトラブルを引き起こしていると言うのではなく、うまくいかないように事を起こしているように見えるのですね

なので、個人的な感覚だと、「通報はアンドレだった」のではないかと考えていました

アンドレは安楽死を望む一方で、エマニュエルの作品に自分を残したいと考え、その作品がエマニュエル自身を苦しめないようにと言う愛情があったと思います

それによって、実に「映画的な安楽死ミッション」が行われているように見えるのですね

 

映画の原作にあたるノンフィクションを読んだわけではないので、映画としての脚色はあるのかもしれません

原作者も2017年に亡くなっているし、クロードも2015年に亡くなっています

映画化に至った経緯はわかりませんが、原作を読んだ印象から「通報犯」を感じ取ったのかもしれません

映画内では、ジェラールかシモーネかまさかのクロードと言う路線もあるのですが、ジェラールがアンドレのところに来たのもアンドレの仕業でしょうし、シモーネだと詳細は知らないし、クロードは好きにすれば良いと言うスタンスでしょう

なので、あの時点で「あの日に決行する」と言うこととを知っている人物の中で、動機がありそうなのはアンドレしかいないんじゃないかなと思いました

あくまでも個人的な想像ではありますが

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385614/review/a5799222-6ccd-475a-9332-1b0cd7d6664f/

 

公式HP:

https://ewf-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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