■英題が「Ring」なのに、邦題が「リンク(Link)」を採択しているのは、不協和音を作りたかったからなのだろうか
Contents
■オススメ度
ネット小説を巡るサイコホラーが好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/kBUM7DBivtc
鑑賞日:2023.2.2(109シネマズHAT神戸)
■映画情報
原題:网络凶铃、英題:The Perilous Internet Ring(「危険なインターネットの連鎖」)
情報:2020年、中国、96分、G
ジャンル:あるネットの小説を読んだ人物が次々と不審な死を遂げていく様子を描いたサイコホラー
監督:鶴田法男
脚本:ヤン・ヤン
原作:マ・ボヨン/马伯庸『彼女はQQで死んだ(原題「她死在QQ上」)
キャスト:HN=ネット小説のハンドルネーム
スン・イハン/孙伊涵(ジョウ・シャオノア/周小諾:従姉の死を不審に思う大学生)
フー・モンポー/傅孟柏(マー・ミン/馬鳴:シャオノアの同級生、犯罪心理学に詳しい記者志望の学生)
ニー・ムーシー/倪慕斯(タン・ジン/唐静=HN:ジンホン/惊鴻:小説家志望のシャオノアの姉)
チャン・ユンイン/张云亭(ショウ・ナ/邵娜=HN:ルーシン/如心:タン・ジンのチャット相手)
シャオ・ハン/含笑(リー隊長/李隊長:公安警察)
チョウ・ハオドン/周浩东(トン教授/佟教授:シャオノアの通う大学の教授、心理学専攻)
ハン・チウチ/韩秋池(ダイ・ユンツォン/載雲聰=HN:ションジョウ/勝舟:転落現場にいた車椅子の男)
ワン・マンティ/王嫚笛(スー・シャオジン/蘇暁静=HN:リウリー/琉璃:不審死を遂げる住民)
チャン・チン/张晶(ジャン・チォン/蒋穹=HN:ミン/茗:不審死を遂げる住民、シャオジンの妻)
ワン・ツーイー/王紫伊(シア・ウェイイー/夏唯一:ネット小説の参加者)
シャ・モ/夏茉(長髪の白い服の女)
シェカイ・シェン/谢恺炫(NH:ズーシャン/子山のビジュアル)
リウ・パン/刘鵬(シャオノアの父)
カン・ピン/甘萍(シャオノアの母)
フェン・ジン/冯婧(タン・ジンの母)
リン・ジ/林紀(呉刑事)
■映画の舞台
中国のどこかの都市
ロケ地:
中国:上海
九子公園
https://maps.app.goo.gl/grZ8tWxJDWGkakCR6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
ある夜、小説家志望のタン・ジンはネットのホラー小説を読んでいた
かつて自分が参加して連作していたものだったが、3年前に閉鎖され、データは消去されたはずだった
タン・ジンは友人のショウ・ナからの連絡で復活したことを知るが、3年前にはない「章」が加えられていた
怖くなったタン・ジンは従妹のシャオノアに連絡を入れる
「部屋に行ってもいいか」という内容だったが、深夜でもあり、シャオノアは「明日、そちらにいく」と言って断ってしまう
翌日、タン・ジンの元を訪ねたシャオノアは衝撃の現場を目にしてしまう
そこには自分の首をナイフで2回切って自殺したタン・ジンがいて、警察は早々に自殺認定をする
だが、シャオノアには腑に落ちない点が多く、そんな折、大学の心理学の授業に紛れ込んだマー・ミンという名の学生と出会うことになった
マー・ミンはインターンで記者の仕事を手伝っていて、シャオノアが彼に事件のことを話すと「自殺とは思えない」というのである
そこで、シャオノアとマー・ミンは独自に調査を始めるのだが、事件の担当刑事・李隊長は「危険だから手出しをするな」と忠告するのであった
テーマ:連鎖する電脳空間の恐怖
裏テーマ:後悔が生んだ狂気
■ひとこと感想
ネット小説を読んだ人が次々に不審な死を迎えるという内容で、日本のホラー監督が中国のホラー小説を映画化するという異例の案件になっていました
中国では「幽霊」の存在は信じれられておらず、検閲にガッツリ引っかかったとのこと
製薬のある中で、原作を忠実に映画化にして、少しばかり「幽霊要素」を入れ込んでいくという感じに仕上がっていました
本当は近場の映画館で鑑賞予定でしたが、まさかの「レイトしかやっていない」状態で、やむなく神戸まで遠出をすることになりました
これで「めっちゃくだらなかったらどうしよう」と思っていましたが、そこそこ楽しめたかなあと及第点は上げられる内容かなと思います
ネット依存はダメよというメッセージ付きですが、映画をちゃんと観ていると「ネットがメインではない」ということがわかります
とにかく「検閲クリア」のために入れざるを得なかったシーンがいくつかあって、少しばかり興味深い内容になっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネットの連鎖自殺といえば「Blue Whale Challege」なのですが、たぶん一般的ではないと思います
解説は後ほど書きますが、ネット上のコミュニケーションをきっかけに自殺を扇動するというゲームが世界中で広がりを見せたのが2016年頃だったと思います
映画はそのゲームに着想を得た『彼女はQQで死んだ』という小説を映像化したもので、そこにJホラーっぽさをうまく嵌め込んでいました
でも、ハンドルネーム(小説内の名前)などが飛び交い、誰が誰かわかりづらいので人物相関は頭に入れておいた方が良いかもしれません
パンフレットはガッツリネタバレみたいになっている(熟読するとわかる)のですが、ネット上で映画の情報があまりないので(レビューとか、感想ぐらいしかない)有益かなと思います
ブログを書くに至って、オリジナルタイトルでググって頑張って中国語を読んでみましたが、中国語をタイピングできないのが難点でしたね
なんとなく雰囲気がわかるんだけど、詳細を詰めるにはかなりの労力が要りました
■ブルー・ホエール・チャレンジ(青い鯨ゲーム)について
「ブルー・ホエール・チャレンジ(Blue Whale Challenge)」とは、2016年に発生したソーシャルネットワーク現象で、いくつかの国で同様の現象が見られたものでした
あるネットコミュニティの管理者とプレイヤーの間で交わされるミッションが過激化し、だいたいの場合は「50回目で自殺をしろ」という命令が下されます
49回目までの簡単なチャレンジはSNS上でアップロードすることが義務付けされていて、それが最後の段階でいきなりアップグレードするという内容になっています
「青い鯨」をグーグル検索に入れると、検索候補には「洗脳」「自殺」「ググってはいけない」などが並ぶ、非常に厄介な問題となっています
表面化したのは2016年にロシアの報道機関が記事にしたことで、5月の新聞「Novaya Gazeta」が初発とされています
その経緯として、2015年の11月にロシアの若者が「nya bye(タガログ語で「さようなら」という意味)」とキャプション付きの自撮り写真を自殺の直前に公開し、その後、彼女の死についてネットで騒然とした動きが起こります
ロシアの新聞では、この管理人は少なくとも130人の若者を自殺に駆り立てたと書かれていますが、実際にはどこまで関与があったのかは不明となっています
50日間にわたる「1日1回のミッションの積み重ね」という特徴があって、管理者が12〜14歳くらいの子どもだったとも言われています
2016年、大学を退学になった元心理学科の21歳の男性フィリップ・ブダイキン(Philipp Budeiken)が「2013年にこのゲームを発案した」と名乗りを上げ、「単なる遊びだった」と供述するものの、「16人の10代の少女の自殺扇動の罪」によって逮捕され、有罪になっています
また、2017年には郵便配達員のイリヤ・シドロフ、2018年にはロシアの金融アナリストであるニキータ・ニアノロフが逮捕されています
この現象は世界じゅうに飛び火し、ブラジル(ピンクの鯨)、中国(QQ)、インド(各SNSプラットフォーム)、ロシアなどでも同様のゲームが行われました
これらの心理学的なカラクリを引用すると真似する人が出て来ると困るので詳細には書きませんが、「判断能力を49回のタスクで鈍らせる」というのが骨子にあります
いわゆるマインドコントロールの手法の一つで、軽微なタスクから「睡眠時間を奪うようなタスク」へと変化していきます
そうした末に「正常な判断ができなくなる」のですが、管理者との間に「主従関係ができる」というところもポイントなのでしょう
映画では、「中国のQQ上で起こった事件」に着想を得て書かれた小説が題材になっていますが、映画内でも「小説サイトの見えない管理人」と「読者」という関係があって、「小説を読むとマインドコントロールされてしまう(イメージとしては判断能力が鈍り、過去のいじめに対する罪悪感が増悪する)」ということが描かれていました
映画では「手法」に関してはぼやかされていますが、「検閲」以前に模倣犯の可能性を考えると、描かなくて正解であると思いました
追記)
監督より指摘があり、原作『彼女はQQで死んだ』は20年以上前の作品で、「青い鯨事件」とは無関係とのこと
調べ直したところ、原作の出版年度は2006年で、「青い鯨事件」は2016年のことでした
直接的な関係性がないことをここに追記いたします
失礼いたしました
■映画内登場書籍について
【バベルの犬】
マー・ミンがシャオノアに「読んだことないのか?」と問い質した小説
作者はキャロリン・パークハースト(Carolyn Parkhurst)で、2003年に書かれた「バベルの犬(The Dog of Babel)」はベストセラーになっています
主人公は言語学者のポール・アイバーソンで、彼の妻レクシーが自宅にあったりんごの木から落ちて死んでいるのを知る、というところから始まります
警察は事故と断定しますが、ポールは妻の行動に疑問を持っていました
事実を知っているのは飼い犬のローレライで、ポールはローレライを話せるように訓練を始めるのですね
もちろんうまくいくはずもなく、ポールは刑務所にいるウェルデン・ホリスという犬のコミュニケーションの専門家に手紙を書くという流れになっています
なんとなく、物語の前半部分がオマージュされているように思えて来ますね
映画では「シャオノアから話を聞いたマー・ミンが行動を開始するきっかけ」のようなキーアイテムになっていました
【黄帝内経(こうていだいけい)】
トン教授が学生相手の講義で引用した書物で、中国最古の医学書とされています
トン教授が「古代からあるマインドコントロール」という意味合いで学生たちに紹介する会話の中に登場していました
このシーンはトン教授がサイトの管理者で、彼の娘がシア・ウェイイーだと判明するシーンの後に登場しています
古代から「マインドコントロールをする方法」なるものが研究されていて、その一つとして挙げたのが本書なのですが、「黄帝内径」は現在の「易学」「鍼灸」「気功」などのベースになっているとされています
心理学という言葉が世界で認知されたのは1879年のドイツの心理学者ヴィルヘイム・ヴントであるとされていますが、古代から心理学と呼ばれるジャンルの研究はあったと言われています
アリストテレスがいた時代に遡り、それらは「人類の文明の歴史」とリンクしているのはいうまでもありません
「黄帝内径」は心理学に特化したものではありませんが、医学のルーツにもなっている本で、漢方薬や鍼灸に興味のある人は一度くらいは読んだことがあるかもしれませんね
値段はめっちゃ高いので、大きめの図書館などで取り寄せてもらうか、大学の図書館に足を運んだ方が良いかもしれません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は当局の検閲を受けた作品で、パンフなどによると「幽霊を認めない」とのことで、霊的な方向には持っていけなかったそうです
また、「最後は警察が解決する」というもので、名探偵と助手が事件を解決するのではなく、最後は警察に投げるという流れを汲むとされています
ぶっちゃけ、髪の長い白い服の女は日本では幽霊アイコンのようなもので、シャオノアたちの前に現れる「女」をどのように「幽霊ではない方向に持っていくのか」は興味がありました
白い女は「罪悪感が見せた幻影」というものだと思いますが、それらを誘発するのが「小説」になっています
おそらくは「ゲシュタルト崩壊」が起こる描写があったので、「文字列」もしくは「微量に流れている音楽」がそういったものを呼び起こしているのではないかと思います
ゲシュタルト崩壊は「同じ文字をじっと見ていると認知機能の低下を起こす」というもので、映画内の描かれ方は「小説の文章がバラバラになる」という感じになっていました
音楽が実際に映画の中で流れていたのかまではわかりませんが、音楽が心理に影響を及ぼすということはかなり研究されていますね
興味がある人は「ソルフェジオ周波数」でググってもらった方が早いのですが、幸せの周波数「528Hz」というものがある一方で、「不快に感じる2000〜4000Hzの周波数帯」というものがあります
実際に可能かどうかは置いておいて、実行のイメージとしては小説を読ませる導入の部分によって幸せ系の周波数でのめりこませ、小説の不快で不安定な部分で「不快周波数帯を鳴らす」というイメージでしょうか
映画では「AIが小説を書いた」みたいな感じで説明されていて、もしかしたら「不気味の谷現象の文字列版」というものがあったかもしれません
新しく追加された小説は文体が違うというセリフがあり、その違和感がAIの書いた小説文法である可能性もあります
そして、その違和感のあるポイントを読んだと判断されるタイミング、もしくはリズムによって「心地良い音楽の裏側で微かに鳴る不快周波数」というのはあり得そうに思えてきますね
なんだが、小説の犯罪トリックのネタ探しをしているような気分になりますが、映画の細かなところを理屈で追っていくとこんな感じなのかなあと思いました
あくまでも個人的な意見なので、制作意図や手法とは異なっていると思うので、読み流していただいてもOKですよ
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382714/review/8d29ff45-1e91-48fd-821d-1363d2b0bb14/
公式HP: