■どちらが望まれざる者になるかは、今後の対応によって変わるかもしれません
Contents
■オススメ度
フランスの闇に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.5.30(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Les Indésirables(欲望の塊)、英題:Batiment 5
情報:2023年、フランス&ベルギー、105分、G
ジャンル:パリ郊外のある団地の解体を巡る市民との衝突を描いた社会派ヒューマンドラマ
監督:ラジ・リ
脚本:ラジ・リ&ジョルダーノ・ジェレルリーニ
キャスト:
アンタ・ディアウ/Anta Diaw(アビー・ケイタ/Haby Keita:マリ出身の女性、市の計画に反発しデモを行う)
アレクシス・マネンティ/Alexis Manenti(ピエール・フォルジュ/Pierre Forges:パリの市長代理、小児科医)
オレリア・プティ/Aurélia Petit(ナタリー・フォルジュ/Nathalie Forges:ピエールの妻、移民支援)
Manon Arizmendi(ジョアンヌ・フォルジュ:ピエールの娘)
Nathan Haggege(アントニー・フォルジュ:ピエールの息子)
Corinne Valancogne(フランソワーズ:ピエールの医院の受付)
アリストート・ルインドゥラ/Aristote Luyindula(ブラズ:アビーの友人)
Bass Dhem(バカリ:ブラズの父)
Haby Ly(ハビー:アビーの妹)
Penda Ly(アビーの親族)
Sira Ly(アビーの親族)
Eladj Ly(シアカ:アビーの母?)
スティーヴ・ティアンチュー/Steve Tientcheu(ロジェ・ロシュ/Roger Roche:パリの副市長、都市計画担当者)
Bangali Konate(ヨセフ:ロジェの息子)
Nizar Ben Fatma(カリム・ラルビ/Karim Larbi:ピエールの家の庭師)
ジャンヌ・バリバール/Jeanne Balibar(アニエス・ミアス/Agnès Millas:パリの代議士)
Olivier-Pierre Richard(ビゾット知事)
Madeleine Baudot(市長の秘書)
Stéphane Mercoyrol(県の職員)
Julie Tessier(市庁舎の秘書、アビーの同僚)
Judy Al Rashi(タニア:アビーの元で働くシリア移民の女性)
Mohamad Al Rashi(エリアス:タニアの父)
Gladys Chauvellier(ファトゥ夫人:アビーと同じ棟の住人、食堂経営)
Djénéba Diallo(タンティ:アビーの友人、住民)
Philippe Collin(ジルベール・ブノワ/Gilbert Benoît:?)
François Perache(メートル・ペリエ/Maître Pelletier:?)
Stéfan Godin(CRSの長官)
Christophe Vandevelde(CRSの准将)
Cédric Briquez(CRSの職員)
Valentin Pradier(CRSの職員)
Ophir Azoulay(CRSの職員)
Max Blethez(CRSの職員)
Carima Amarouche(警察署長)
Abdelkader Hoggui(病院の待合室の男性)
Timera Moussa(マリ人の父、相談者)
Astan Bathily(マリ人の母、相談者)
Sherif Bathily(マリ人の通訳)
Juliette Savary(選挙で選ばれた野党議員)
Robinson Fyot(選挙で選ばれた野党議員)
Nabil Akrouti(棺を担ぐ男)
Bachir Ghouinem(葬儀社の男)
Adama Baradji(女性活動家)
Céline-Nathalie Depkonto(女性活動家)
Cédric Welsch(消防士)
Wahiba Djafer Bey(アルジェリア協会の女性)
Farouk Benalleg(アルジェリア協会の男性)
Yaya Diaby(男性の協会委員)
Karim Lagati(郵便配達人)
Al-Hassan Ly(TVのジャーナリスト)
Raphaëlle Bardet(看護師)
Saïdi Jemma(食料品店の店主)
Fatoumata Sylla(若い抗議者)
Imène Cherif(マットレスに逃げる女の子)
Mama Bouras(マットレスに逃げる女の子)
Faisal Daaloul(車いすの避難民)
Fadma El Aliani(車いすの避難民の母)
Bob Brahmi(避難民)
■映画の舞台
フランス:パリ
バティモン5号棟
ロケ地:
フランス:パリ
■簡単なあらすじ
フランス・パリ郊外にある集合団地では、老朽化する建物の解体工事が始まっていた
ある日、1棟の解体作業ににて甚大な被害が出てしまう
解体式に参加した人々は埃に塗れ、市長もそれに巻き込まれてしまう
市では市長代理を誰にするかで紛糾し、議会内の投票にて、小児科医のピエールが市長代理に任命された
副市長のロジェが支えるものの、団地解体に関して疑惑が残っている段階で、住民たちの反発も抑えきれずにいた
ある日、アビーは団地解体後の計画について知ることになり、大家族が住めないことがわかった
ピエールに抗議をするものの、都市計画はロジェが担当しているという
そこでアビーは仲間を募ってデモを起こすことになったが、市側は強硬な姿勢に打って出るのである
テーマ:詭弁と本音
裏テーマ:共生の正体
■ひとこと感想
『レ・ミゼラブル』にて、強烈なパリの実情を描いたラジ・リ監督の「パリ郊外実態映画」の続編のような作品になっていました
パリ郊外にある老朽化した団地の建て替え問題が浮上していて、新しい計画では大家族が住むようにはできていませんでした
それに対して反発するアビーですが、計画の責任者であるロジェは、不法移民や違法な住み方をしている者を排除しようと考えていました
老朽化は言い訳のような者で、パリを選挙する不届者を一掃しようという狙いがありました
映画では、現市長が怪我で入院し、そのために市長代理が議会で選出されることになりました
それでも、選挙で選ばれていないのに高圧的な政策を次から次へと打ち出し、かなり強引な展開で退去を迫っていく様子が描かれていました
さすがにそこまで無茶をしたらダメだろうと思わざるを得ませんが、対抗するには数で攻めるしかないと追い込んでいるのは市側だったように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
あれこれ理由をつけて一掃しようと考える市側が法律を盾に人権を無視する様子を描いていて、人道的な問題は傍に置かれていたように思います
いかにして法的根拠を持って退去させるかという目論見があるのですが、権力を持った小心者がそれを利用して理想郷を作ろうとしているようにしか見えないのですね
そこまでしたら反発するだろうとわかっているのですが、あえて挑発して、公権力を使おうとしていましたね
アビーはそれを逆手に取って、法律を歪めさせてヘイトを溜め込ませるように仕向けていきます
そして、政治的なシンボルとして立ち上がっていく様子が描かれていました
後半には、団地である事件が起き、それによって事態が悪化してしまいます
ここぞとばかりに強硬路線を貫くことになりますが、それによって根源的な問題へとぶつかってしまいます
生存権を脅かされた手負が何をしでかすのか
そこに至るまでに何ができるのかというのが、人間としての最低限の素養のように思えました
■事件の背景について
本作は、フランスが抱える問題を映している作品で、主に「団地」にまつわるものをピックアップしていました
監督自身が団地育ちだったこともあり、これらの住宅は当初は中流階級向けに開発されたものの一つでした
1960年代には、パリの南東にあるイヴリー・シュル・セーヌ市に14階建ての380戸の大規模な公園団地が完成しました
この建物にソビエト連邦からユーリ・ガガーリンが来たことによって、この建物は「シテ・ガガーリン」と呼ばれるようになりました
映画『GAGARINE/ガガーリン』にて、この団地が取り壊される様子が描かれていて、本作もこの映画のように老朽化が進んで建て替えやむなしという状況に置かれています
フランスのパリ郊外のことを「バンリュー(Banlieue)」と呼ぶのですが、これは移民などが多くいる公営住宅地帯のことを指すと言われています
1970年代から1980年代には「バンリュー」という言葉は、パリなどの大都市のはずれにある「旧植民地からの移民が主に住む低所得世帯用の公営団地」のことを指し示すようになります
フランスは第二次世界大戦から復興の過程で多くの意味を受け入れた歴史があり、1960年以降のパリの東部に移民のために安価な住宅を建て始めるようになりました
これらは仮住まいのような簡素なつくりになっていたとされています
その後、石油ショックによって、移民を必要とした時代は終わりを告げ、1980年以降は若い世代に職がない不景気な時代が訪れます
特に、移民2世、3世などは就業自体が困難で、失業率が増加していきます
団地での軽犯罪が増えるようになって、バンリューの団地は危険であるというイメージがついてしまいます
これらの犯罪増加に対する極右政党「国民戦線」などの躍進があり、1990年代からバンリュー問題は社会問題化し始めるようになりました
2005年10月27日には、パリ北東部のクリシー=ス=ボワにて、警官から逃げようとした二人の若者が変電所にて感電死する事件が起きます
これによって、数百人の青少年と官憲による大規模な衝突や暴動が起こってしまい、11月以降フランス全土に広がっていくことになりました
この時には15歳から18歳の未成年者が3人以上で行動するのを禁止したり、16歳未満の若者が大人の同伴者なしで20時以降外出を禁止するものもありました
これが映画の後半で描かれている問題で、アビーたちがCRSと相対する場面が描かれていました
ちなみに、このCRSとは「フランス共和国保安機動隊」のことで、いわゆる国家警察の警備警察部隊のことを言います
ガッツリと政府主導で鎮圧に向かっていることを表していました
■公権力の限界点
本作では、市長が亡くなったために「代理」を置くことになりました
この時点で、市議会は改築関連で市民団体から突き上げを喰らっていて、クリーンな市長を立てる必要に迫られていました
そこで白羽の矢が立ったのが小児科医のピエールで、彼は形だけの市議会による投票を済ませて、市長代理として要職に就くことになりました
この流れを受けて市民団体が抗議活動を強め、体制側はさらに強硬な姿勢を保持することになりました
ピエールは市民から選ばれていない市長であるにも関わらず、市民に選ばれた市議会の決定であることを盾に自分の立場を強調します
マスコミの前で挑発的に思えるような態度を示し、それがユーモアと捉えられずに、市民を馬鹿にしているように思われていきます
また、市長であるにも関わらず、アビーの質問に向き合わず、「文句は担当に言え」と丸投げしていました
その時も答弁のような規定文句を返すだけで、市民に選ばれていないどころか、市民とも向き合おうともしません
映画は、公権力の横暴を描いていて、それを誇張しているように見えますが、先の2005年のパリ郊外の暴動事件や、その後の締め付けなどは実際に起きていることなので、そこまで盛っているようには思えません
1990年代になって、ヨーロッパ各国は「選択的移民政策」というものを始めるのですが、これは高度技能の人材を優遇するというものでした
でも、フランスでは2000年に入った頃から、「望ましくない移民の排除」に力を注ぐようになります
これを始めたのは当時のサルコジ大統領なのですが、暴動の沈静化などを正当化するための詭弁になっていて、本作内でもその一端が描かれていました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、市の方針に苛立ちを見せるアビーが、法には法をと言う名目で市長選の対抗馬として出ることを決めていきます
友人のブラズは彼女の行動には否定的で、それでも該当のポスターなどを燃やしたりと、意味のない抵抗を続けていきます
極め付けは、市長の家に殴り込んで火をつけようとするのですが、圧政に対する抵抗としては、歴史にある流れの一環のように思えます
人類は民主主義を推し進め、法治国家としての体裁を整えていきますが、実際には「管理者にとっての法律」になっているのですね
法律は知っている人の味方であり、その勉学を怠ったのは個人の責任であると言う風潮になっているのですが、その行き着く先は両極端な未来である、と言えるのかもしれません
あくまでもその路線で戦おうとするアビーと、そう言った勝ち組のルートを辿ろうとはしない無敵の人状態のブラズが対比になっているのですが、この動きを他の国民はどう見るか、と言うところが重要なのでしょう
アビーの行動を賞賛するのか、ブラズの感情を肯定するのかなど、どっちが正しいとは言えない現状があり、ブラズを反面教師とする考え方もあれば、生存権の最後の手段として糧にする人もいると思います
ブラズの行動は褒められたものではないのですが、あそこまでしても「排除される側の感情を彼らが理解するのかわからない」と言うもどかしさがあります
たとえ市長の家が燃やされて、家族が外に放り出されたとしても、彼らを救済するものは果てしなく用意されていて、ブラズはとことんまで地の底を這う未来しかありません
でも、ブラズをどのように扱うかによって、市民感情は大きく動きます
ある意味、殉教者的な扱いになるのと同時に、軽蔑の対象となるのですが、どちらに振れるのかは、今後の扱いによって変わるとも言えます
パリに住んでいるブラズと同じ立場の人には理解できる部分があるので、そのようなものが一大勢力となれば、政治としても動かざるを得ない部分があるのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101213/review/03866700/
公式HP: