■本当のディアボロは長女だったのかもしれませんね


■オススメ度

 

ライオンに襲われる系の映画が好きな人(★★★)

スリラーにリアルを求める人(★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.9.10(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:Beast

情報:2022年、アメリカ、94分、G

ジャンル:サファリでライオンに襲われる父娘を描いたサバイバル映画

 

監督:バルタザール・コウマウクル

脚本:ライアン・イングル

 

キャスト:

イドリス・エルバ/Idris Elba(ネイト・サミュエルズ/ナサニエル:妻に先立たれた医師)

イヤナ・ハーレイ/Iyana Halley(メラ/メレディス・サミュエルズ:ネイトの娘)

リア・ジェフリーズ/Leah Sava Jeffries(ノラ・サミュエルズ:ネイトの娘)

シャールト・コプリー/Sharlto Cpley(マーティン・ナトルズ:ネイトの友人の生物学者)

 

Naledi Mogadime(アマーレ:ネイトの亡き妻、メラとノラの母)

Liyabuya Gongo(夢の中に出てくる女性、村長?)

 

Martin  Munro(キース:密猟グループのリーダー格)

Daniel Hadebe(アブドゥラ:冒頭で襲われる密猟者)

Chris  Gxalaba(チポ:冒頭で罠にかかる密猟者)

Thapelo Sebogodi(カモ:密猟者)

Chris  Langa(スペシス:密猟者)

Mduduzi Mavimbla(密猟者)

 

Kazi  Khuboni(セスナの女性パイロット)

 

Tafara  Nyatsan(バンジ:ライオン監視人、マーティンの盟友)

 

Ronald Mkwanazi(ムテンデ:ツォンガ村の瀕死の負傷者)

 

(ディアボロ:密猟者を襲う群れの生き残りの雄ライオン)

 

(ナンディ:村の近くにナワバリを持つ群れの雌ライオン)

(クーダ:ナンディの群れの雄ライオン)

(カーウェ:ナンディの群れの雄ライオン)

 


■映画の舞台

 

南アフリカ:モパニ保護区

クルーガー国立公園

https://maps.app.goo.gl/1HXEgmUgE1ePrTLS6?g_st=ic

 

ロケ地:

南アフリカ:ケープタウン

リンポポ

https://maps.app.goo.gl/KdD2ka3Jd71sipUk9?g_st=ic

 

北ケープ州

https://maps.app.goo.gl/whJbzzgDo4rxAavM9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

妻に先立たれた医師のネイトは、娘のメラとノラを連れて、母の生まれ故郷である南アフリカを訪れた

そこには現地の保護区を守っている動物学者のマーティンがいて、久しぶりの酒を酌み交わした

 

彼らが向かうのは観光地ではないサファリゾーンで、地元の住民たちが普通に暮らす地域だった

そこにはナンディと呼ばれる雌ライオンが統括している群れがあり、そこを守る雄ライオンのクーダとカーウェはマーティンが育てた雄ライオンだった

 

その後、ツォンガ村を訪れた彼らだったが、そこは無人で様子がおかしかった

奥に進むと、何人もの女性や子どもがライオンに殺されていて、男性は瀕死の現地民ムランデしかいなかった

 

ムランデは絶命してしまい、ここは危険であると察した彼らは避難を開始する

だが、奥地へ向かったマーティンとは交信が途絶え、さらにネイトたちは凶暴な雄ライオンに付け狙われてしまうのである

 

テーマ:家族を守るということ

裏テーマ:親子の和解

 


■ひとこと感想

 

予告がすべて系のサバイバル映画で、執拗に襲う雄ライオンこと「ディアボロ(悪魔)」との戦いがこれでもかといいうぐらいに展開していきます

昼夜を問わずという感じで、密猟者に群れを殺されたディアボロが復讐を果たそうとするのですが、そのしつこさは相当なものでした

 

実際にこんなに執拗に恨みを抱くライオンがいるのかは知りませんが、崖から落ちても平気だし、麻酔銃は効かないしと何でもアリの展開になっていました

 

このサバイバルと並行して描かれるのが、妻に先立たれたネイトたちの家庭内内紛で、父を許せないメラと間に挟まれるノラが精神的に不安定になっていました

この家族の回復も同時に描かれるのですが、それはもうかなりざっくりと「それどころじゃねえだろう」感を無視して親子喧嘩を展開していました

 

とにかく「あり得ないほどアホな行動を起こしまくる」ので、状況がわかっていないキャラに苛立ちを感じることは間違いなし

リアリティは皆無という内容なので、お化け屋敷的な怖がり方をするキャラを眺め、ご都合主義のテンプレートに失笑するしかないように思えました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

細かいことを考えては楽しめない映画ではありますが、細かいところがやけに目につく映画になっていましたね

サバイバル映画としては微妙で、ヒューマンドラマはない方が良い感じに雑で、何をどう評価したら良いのかわかりませんでした

 

家族の諍いの理由がいまいち明確ではなく、医者なのに妻の病気に気づかなかったことを悔いているようですが、見た目で癌を診断できる医者などいないと思います

また、妻の死の際に不在だったという状況の説明がなく、仕事をしていたからなのか、まさかの他の女性といたのかなど、エクスキューズがあるのかないのかすらわかりません

 

最初にライオンに襲われるまでに車の外に出たりするのはわからないではないのですが、襲われてからでも外に出ようとする娘二人のメンタルは意味不明でした

あんなに至近距離からライオンに襲われたのに、その怖さが滲みていないように見えるシーンが多く、マーティンを助けたいという動機は理解できても、何かに長けているわけでもないので無謀な行動ばかりが悪目立ちしていましたね

 


ライオンの習性

 

ライオンは主に草原やサバンナで生息している野生動物で、雄の体重は250キロを超えることもあります

生息地はアフリカ大陸のサブサハラ(サハラ砂漠より南の地域)で、インドにも生息していますが、こちらは絶滅が危惧されています

寿命なおおよそ10年前後で、縄張りを巡って戦うことが多く、その傷が寿命を縮めることになっています

縄張りの範囲は20から400平方メートルで、吠えたり尿を撒いたりして縄張りの主張をします

 

雌と子どものライオンを中心として、少数の成熟した雄が群れ(プライド)を作ります

狩りは雌が行い、連携を取ることもしばしば

ライオンが人を襲うことはマレだが、被害がないわけではありません

主な事例としては、1898年のケニアで起きた「ツァボの人喰いライオン事件」で、ケニアのツァボ川に橋を架ける工事をしていた際に襲われたと言う記憶があります

被害者は6名で、全員が噛み殺された事件でした

最終的には28人の犠牲者が出たとされていて、原因は推測の域を出ていないようですね

 

この他には南アフリカのクルーガー国立公園(ロケ地になっている)では夜中にその地域を横切るモザンビークの難民が定期的に襲われていると指摘されていて、ロバート・R・フランプが『エデンの人喰いライオン』と言う記事を新聞に投稿していました

この件に関しては国立公園側も把握をしていましたが、その地域はアパルトヘイト問題によって、その地域の通過が余儀なくされていると言う指摘もあります

 


勝手にスクリプトドクター

 

本作はかなりの低評価を食らっている作品で、その多くが「主人公家族のバカな行動」に集約されています

他にも「ライオンの動きが人間みたい(実際に中の人は人間ですが)」とか、ディアブロの執拗さがライオン本来の習性からかけ離れているように感じる、などがありますね

私個人は「背景にある家族の不和の解消」部分にかなりのガッカリ感があって、何度も亡き妻の夢を見るのはわかるのですが、そこまで執着があるのにどうして別れたの?と言うところに疑問が湧きました

また、この夫婦に在り方について長女メラが執拗に父を攻撃するシーンが多く、そこまで言われる筋合いがあるのかと父親を擁護したくもなります

 

この夫婦がどのように破綻したのかはわからず、「そばにいなかった理由」も全くわかりません

仕事で忙しかったのかとか、他に女作ったのかとか、明確な夫婦の軋轢の理由がわからないのでモヤモヤしてしまいますね

そこが描かれないために、なんでディアボロと同じぐらいメラは執拗に父を責め立てるのかが理解できませんでした

 

父は医師で、迅速な外科的な処置を見ると外科医だったのかなと思われます

マーティンの傷の応急処置に姉妹が手を貸すことになりますが、18歳と13歳が直面する危機的状況としては、相当ハードルが高いでしょう

父が処置の現場に慣れていても、娘たちに動揺がほとんどなく、手術のお手伝いをしていたりするので、相当タフなのか脚本家の想像力が足りないのかは悩むところでしたね

 

本作では「危機的状況」を乗り越える過程で「父が尊厳を取り戻して、娘たちが見直す」と言う流れを汲みますが、最後の作戦の前に「辞世の句のような押し付け」があるのは微妙でしたね

あの状況で「パパを許してくれ」と言われてもメラは困惑するだけでしょうし、許さないと非道に思われる究極の押し付けは逆効果であると言えます

本来ならば、何も言わずに作戦を決行し、その行動を見て娘たちが認識を変えると言うことになるのですが、その順序が逆だったために違和感が募りました

 

その他にもカットや編集が悪いのかもしれませんが、マーティンを救い出すシーンもメラが肩を貸していたと思ったら、いきなり車内で処置を始めるし、廃校からディアボロを誘き寄せるシーンも瞬間的に平原に移動しているし、と距離感が無茶苦茶な映画だっとと思います

川のほとりで立ち上がらせるよりは、川から車に戻る道中の方が距離もあって厳しいし、廃校から平原までは「まだ歩くの?」レベルの距離感(俯瞰映像では)に感じてしまいます

ライオンが追いかける速度よりも速く走れる人類がいるとも思えず、平原まで無傷で襲われないと言うのも無茶な展開になっていましたね

 

その後は、縄張りにディアボロを誘き寄せるのですが、ディアボロがよほどアホな子でない限り、ナンディの縄張りに入る危険性がわかっているはずなのですね

なので、縄張りまで逃げたらディアボロは追うのを諦めると思うので、決死の覚悟で縄張りに入るほどネイトを殺したい理由があるとか思えませんでした

実際には縄張りの外にクーダとカーウェが出てきてネイトを助けたようにも見えて、そう言った行動を2頭が起こす理由もありません

これがマーティンなら理解できるのですが、2頭からすればネイトが誰かを認識していないし、そこまで懐いているわけではないので、あのシークエンスの一連の動きというのはかなり不可解な感じに思えました

 

 

この映画のシナリオを直すのは難しく、設定から全てを変えなければなりません

ネイトと妻の関係性をメラは誤解しているという前提が必要で、そこに医師としての未熟さというものの加味が必要になります

医者なのに助けられなかったというネイトへの無力感というものが恨みに変わるとしても、そうなるにはネイトとメラの関係性がそもそも悪いという前提が必要になります

そうなると、メラとネイトの軋轢の正体が必要になってきて、父と娘が喧嘩になっていて、それに挟まれているノラが精神的に追い詰められているという状況が必要になります

映画では、その理由がイマイチぼかされていて、「そばにいなかった」の説明がまったくなされていません

なので、この家族に何が起こったのかがわからず、それぞれの行動の原点が不明すぎて、共感も理解もできないのではないかと思いました

 

その後の行動を見ると、メラはとにかくネイトの言うことをまったく聞きません

ライオンがそばに居ようが構わずにトラックから出て単独行動をするし、家族パートではひたすら父を罵倒、このキャラに苛立った人も多かったのではないでしょうか

ここまで醜悪なキャラ設定になると、大体殺されると思うのですが、女子供は殺されないルールが発動して、それにゲンナリとしてしまいました

メラがライオンに食い殺された方がスカッとすると言うのは無茶なシナリオですが、それぐらいにメラのキャラは印象が悪いように思えましたねえ

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は「閉鎖された空間から逃げられない系スリラー」が基礎になっていて、その割にはキャラクターは自由に動きます

行動範囲も広くて、ディアボロ以外に危険がないかのように、まったく襲われる気配すら見えません

実際のサファリには数え切れないほどのリスクがあるでしょう

また本作のテイストだと、孤立した状態からいかにして抜け出すかがメインとなってくるはずでした

その状況が一変するのが密猟者たちに見つかると言うもので、その後いきなりディアボロが密猟者を襲うことで、トラックを手に入れることになりました

でも、鍵が見つからずに探すと言うシークエンスがあって、あの状況で鍵を抜くドライバーがいるのかはかなり疑問がありました

 

とにかく緊張感を出そうとして、しかもじっとしていたら面白くないので動きを出そうと懸命になっていますが、そのどれもがリアリティの欠如を助長しているだけになっていました

「イラつく娘の勝手な行動」「父を孤立させるためにマーティンを無理やり退場させる」「押し付けの贖罪」「フィジカルでライオンと互角」など、おかしなところは枚挙に暇がありません

様々な工夫をシナリオに入れ込んでいますが、すべて滑っている(逆効果になっている)のは力量不足を感じさせます

 

リアルに寄せすぎても単調になることは理解できますが、かと言ってアトラクションのように嘘で動きを作るのもナンセンスでしょう

観客に主人公たちの恐怖を追体験させることが第一義であると思いますが、本作はことごとく失敗していると思います

いっそのこと、家族ドラマは完全に排除して、ひたすら襲われ続け、密猟者からも付け狙われるぐらいの方がマシだったかも知れません

本作にはオリジナル性と言うものがあまり感じられず、現地民を俳優で使ったとか、現場による撮影とか、特殊効果は類を見ない凄さなどの映画の価値とは微妙にズレているところが強調されがちです

やはり映画はシナリオが全てを牛耳っていると思うので、それをおざなりにして「撮りたいシーンを重ねただけ」と言うのが本作の本質なので、「そりゃあ評価されないよね」となるのは自然なことなのかもしれません

ライオンが見たいのなら「ドキュメンタリー」か「動物園」に行った方がマシでしょうが、ここませ動くライオンを見るのは無理かもしれませんね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/383626/review/10f85ed0-6f2d-486b-b05c-8cf9927f3dc6/

 

公式HP:

https://www.universalpictures.jp/micro/beast

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投稿者 Hiroshi_Takata

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