ベネデッタ教を生み出した、宗教家たちの過ち


■オススメ度

 

修道女の闇を覗きたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.2.22(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:Benedetta

情報:2021年、フランス、131分、R18+

ジャンル:17世紀の田舎の修道院を舞台に繰り広げられる神の啓示を受けた修道女の愛と罪を描いた伝記ベースのラブロマンス

 

監督:ポール・ヴァーホーベン

脚本:デビッド・パーク&ポール・ヴァーホーベン

原作:Judith C. Brown『Immodest Acts:The Life of a Lesbian Nun in Renaissance Italy』

 

キャスト:

ビルジニー・エフィラ/Virginie Efira(ベネデッタ・カルリーニ/Benedetta Carlini:6歳で修道院に入ったシスター)

 (若年期:Elena Plonka

ダフネ・パタキア/Daphné Patakia(バルトロメア・クリヴェッツ:ベネデッタと関係を持つ修道院に逃げ込んだ女)

 

シャーロット・ランプリング/Charlotte Rampling(シスター・フェリシタ:ティアテノ修道院の院長)

ルイーズ・シュビヨット/Louise Chevillotte(シスター・クリスティーナ:フェリシタの娘)

 (若年期:Heliise Bresc

Guilaine Londez(ヤコパ:病気になる修道女)

Lauriane Riquet(ロサーナ:幼い修道女)

Guaelle Jeantet(ペトラ:元娼婦の豊満な修道女)

Justine Bachelet(ジュリアーナ:修道女)

 

ランベール・ウィルソン/Lambert Wilson(ジリオーリ:ベネデッタを裁く教皇大使)

オリビエ・ラブルダン/Olivier Rabourdin(アルフォンソ・チェッキ:ペシアの首席司祭)

エルベ・ピエール/Hervé Pierre(パオロ・リコーダーティ/Paolo Ricordati:神父)

 

David Clavel(ジュリアーノ・カルリーニ/Giuliano Carlini:ベネデッタの父)

クロチルド・クロ/Clotilde Courau(ミデア・カルリーニ/Midea Carlini:ベネディタの母)

 

Nicolas Gaspar(傭兵の隊長)

Pero Radicic(片目の傭兵)

Satya Dusaugey(傭兵)

 

Jonathan Bresc(ベネデッタの前にだけ現れるイエス・キリスト)

 

Sophie Breyer(修道院を訪れる貴婦人)

Cella Kaci(貴婦人の娘)

Boris Gillot(売り物を盗まれる商人)

Quentin D‘Hainaut(村人)

 


■映画の舞台

 

17世紀、イタリア

ペシア/Pescia(現在のトスカーナ地方)

https://maps.app.goo.gl/LcrLYyeMw8Rnb7uq7?g_st=ic

 

ロケ地:

イタリア:

ヴァル・ドルチャ/Val d‘ Orcia

https://maps.app.goo.gl/6A3vvTDG9s9zXi5N8?g_st=ic

 

べヴァーニャ/Bevagna

https://maps.app.goo.gl/15ZcUz9PbUaqDKvd9?g_st=ic

 

モンテプルチャーノ/Montepulciano

https://maps.app.goo.gl/fifvdSQedfTrU1jF7?g_st=ic

 

フランス:

ル・トロネ修道院/Le Thoronet Abbey

https://maps.app.goo.gl/eEgDCQmvxuSFTCi68?g_st=ic

 

シルヴァカンヌ修道院/Silvacane Abbey

https://maps.app.goo.gl/HSEymRPeSvvHsCNNA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

17世紀のイタリアの田舎町ペシアでは、6歳になったばかりの少女ベネデッタが両親に連れられてティアテノ修道院を訪れていた

それから18年後、イタリアではペストが流行し始め、ベネデッタは修道院で純真無垢な成人となっていた

 

ある日、父の暴力から逃げてきた女性バルトロメアが修道院を訪れた

ベネデッタは彼女の世話係になり、一緒に暮らし始める

そんな折、ベネデッタは夢の中でキリストに遭い、「あなたは私の花嫁だ。私のもとへこい」と言われてしまう

その言葉を信じたベネデッタは、神父にそれを懺悔する

 

「痛みこそ、キリストを知る唯一の方法」と聞かされたベネデッタは、痛みに対して執着を持ち、そしてある夜に全身に激痛を感じて叫び声を上げた

フェリシタはバルトロメアをベネデッタの看護につけ、それから奇妙な同室の生活が始まる

そして、ベネデッタの体に聖痕が現れ、それを機に修道院長に任命されるのであった

 

テーマ:啓示と運命

裏テーマ:慟哭の果てにある選択

 


■ひとこと感想

 

修道女がレズビアンという情報ぐらいしか知らない状態で参戦

映倫区分がR18+だったので、相当ヤバいシーンがあるのだろうと思っていました

眼福の連続ではありますが、とにかく画面が暗くて目が疲れる映画でしたね

 

物語は「事実に着想を得た」というもので、17世紀に実在したベネデッタ・カルリーニの半生を切り取る流れになっています

その中で、同性愛を結んだとされるバルトロメアとの関係、そして「イエスの花嫁」と啓示を受けた宗教論争へと突き進みます

 

歴史的背景を知らなくても問題ありませんが、デートムービーとしては最悪の映画だと思います

絡みも多いし、激しいし、拷問シーンは直接的ではないけれど「痛い」ですね

う〜ん、想像するだけで、マリア像も器具も怖くなってしまいますね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画はガッツリヘアーまで映る映像で、同性愛のプレイも激しく、マリア像がまさかの使われ方をしています

カトリックの人、激おこ案件だと思うのですが、実際のところどうなんでしょうねえ

 

物語は「史実にある内容」ということで、これが本当なら「ヤバい女」にしか見えません

聖痕のくだりが自演じゃないだろうか論争もさることながら、最後の同性愛裁判も大概エゲツなかったですね

 

どこまでが史実なのかは英語版wikiとパンフレットで調べるとして、女の園はやはり恐ろしいものだなあと思ってしまいます

閉鎖的な村での出来事で、ベネデッタに対する信仰というものが生まれていて、キリスト教的にどうなんだろうと思って見ていました

 

本来なら、教皇大使をボコるというヤバい展開だとその後、村が無くなりそうな勢いを感じますが、国も教会もペストでそれどころじゃない感というのは感じられました

 


ベネデッタ・カルリーニについて

 

ベネデッタ・カルリーニ(Bebedetta Carlini)は、1590年1月20日生まれで、神秘的な体験をしたと主張したイタリアのカトリック修道女でした

ペシアにある修道院にて院長を務め、修道女の一人であるバルトロメアと関係を持っていたとされています

この関係は映画と同じように、バルトロメアへの拷問によって発覚し、それによって階級を剥奪され、投獄されています

 

ベネデッタが生まれたのはフィレンツェの北西にある人里離れた土地で、父ジュリアーノは農場主であり、敬虔なカトリックでした

母のミデアは教区の司祭の妹で、ベネデッタは二人の間に授かった唯一の子どもであるという記録があります

出産は危険な状態で行われたものの、母子とも無事で、「祝福された」という意味を持つ「ベネデッタ」と名づけられます

ベネデッタの教育は主に父親が行い、その後は独学に道を進みます

5歳の時には多くの祈りの言葉を暗記し、6歳の時にはラテン語をマスターしていました

 

1599年、父は娘誕生の時に立てた誓いを果たすために、彼女をペシアの修道院に連れて行き、出家させることになります

修道院に預けられたベネデッタは、そこでマリア像に祈りますが、その時に彫像が倒れるという事件に遭遇します

その後は普通の生活を送っていましたが、1614年、ベネデッタ23歳の時に、彼女は超常的な風景を見ることになります

この際のベネデッタはトランス状態のように見えたそうです

神父のパオロは、彼女の懺悔に対して「それを信じないように」と忠告し、そのビジョンを抑圧しようと試みました

でも、1615年頃から、ベネデッタは全身に激しい痛みを感じるようになります

何をしても痛みは治らず、そこでベネデッタは「この痛みは神がもたらしたしるしである」と考えるようになります

この痛みは約2年間続いたとされています

 

1617年、今度は「イエスと天使に出会うビジョン」を見るようになります

そこで登場した何人かのイエス・キリストの中の一人が、彼女に対して花嫁になるように頼み、彼女はそれを断ってしまいます

拒否によって痛みは激しくなり、それは約8時間ほど続く痛みでした

その際にバルトロメアが彼女の看護を担当するようになります

 

そして、1618年、修道院が新しくなったのと同時に、ベネデッタは恍惚なトランス状態で、ペシアの街を彷徨います

その様子を見た人々は、ベネデッタが何に導かれて歩いているかはわからなかったそうです

ベネデッタ自身は、マリアに会い、そこで祝福されたと言いますが、そのビジョンは誰も見てはいませんでした

 

その3ヶ月後、ベネデッタはキリストの傷から光が飛び出すのを見て、その光は彼女に激しい痛みを与えます

それによって、ベネデッタの手足にバラのような赤いアザが現れ、バルトロメアはその目撃者となります

所謂「聖痕」の誕生であり、それを機に教会は彼女を修道院長に選出することになりました

 


聖痕とは何か

 

聖痕(Stigmata=スティグマータ)は、イエス・キリストが磔刑になった時についたとされる傷で、また科学的に説明できない力によって信者の体に現れたものを指します

特に、カトリック教会では「奇跡の顕現」とされています

新約聖書のガラテヤの信徒への手紙「6章17節」において、聖パウロは聖痕のことを「イエスの焼印」と呼んでいました

聖痕は、キリストの受難において、釘で打たれた左右の手足と、ロンギヌスの槍によって刺された脇腹を合わせた五箇所とされています

この他にも、十字架を背負った際にできた背中の傷、荊冠を被せられた時の額の傷なども含まれています

 

聖痕を得る前には、キリストやマリア、天使などの幻視するとされていて、場合によっては声を聞いたということもあります

劇中のベネデッタもキリストに会ったとされるその後に手足に傷が出現していました

その時に同居していたバルトロメアが証言者となりましたが、のちに自分でつけたのではないかと思われる欠片が発見されていました

実際にどうだったのかは謎ですが、そう思わせるだけのものが彼女にはあったのでしょう

 

ちなみに、創作の世界でも「聖痕」というのはあって、主に「キャラクターの見た目」に使われることが多いですね

この場合は、キャラクターがすぐ認知できるようにつけられるので、頬に十字傷とか、胸にあざなどの露出した部分であるとか、パワーを発揮する時だけに出現する、なんてものもあります

特に漫画の主人公には必ずと言って良いほど露出部のどこか、もしくは能力発揮とともに発言するものがあてがわれています

シナリオの本などにも「聖痕に意味を持たせること」が重要視されていて、それくらいキャラクターを認知させるのに必要な要素となっています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、超常体験を武器にコミュニティの中で存在感を持っていく女性を描いていて、その体験をどう伝えるかというところが鍵になっています

その体験はベネデッタのものでしかなく、ほとんど彼女の脳内の出来事なので、一緒に見ることはできません

でも、ベネデッタは人の前で奇跡を見せることで、町民と教会を信じさせるに至ります

そして、このベネデッタの躍進によって割を食った「過去の支配層」というものが、彼女を引き摺り下ろそうと考えます

 

ベネデッタが実際どうだったのかはわかりませんが、このような背景には信じるに値する何かというものが必ずあります

時はペストが流行していた時期で、ペシアの町はそこまで被害がありませんでしたが、都市部には蔓延しつつありました

修道院は生活に困った人たちが訪れる場所でもあり、栄養状態の悪い人が多く、犠牲になる人も増えて行きました

なので、ベネデッタのいる修道院内で流行ってしまうと、一気に広がる恐れがありました

 

当時はペストに対する知識はなく、ペスト菌が発見されたのも1894年のことです

なので原因不明の致死性の高い病いという認識で、それが社会情勢に不安をもたらします

医療技術も進んでいないし、ワクチンや特効薬の無い時代なので、生死は罹患者の体力と運としか言いようがありません

このような情勢下ゆえに、何かに縋りたいという気持ちが強まり、民衆の支持を得たことで、教会はその人気を利用し始めます

 

でも、ベネデッタをよく思わない人たちのリークによって、ベネデッタはカトリックでは禁忌の同性愛者として裁判にかけられることになります

バルトロメアを拷問して関係性を吐かせ、そしてベネデッタを火炙りの刑に向かわせます

ベネデッタは誰よりも自分のそばにキリストがいると思い込んでいて、神が守ると本気で信じていました

その姿を見た民衆は蜂起し、その刑を止めるために暴動を起こしました

ジリオーリは狂信者の手によって殺され、彼がペストを町に持ち込んだと断罪されることになりました

 

結局のところ、事実に即すと、ベネデッタを守る何かはあったということになりますが、それが神の力なのかはわかりません

でも、あの場面でもしベネデッタが死んだとしても、おそらくはその死はキリストになぞらえられるだけで、さらに求心力を増したことでしょう

あの瞬間、ペシアの町はキリスト教ではなく、ベネデッタ教のようなものが生まれていて、その地位まで押し上げたのが教会であるというところに皮肉がありました

 

映画はその顛末を描いていますが、ある程度の知識は必要かもしれません

パンフレットは引用されている様々なものに対するキーワード集などもありますので、薄い本の割にはお得感がありましたね

購入チャンスがある人は、キリスト教系の映画を観るときの参考知識にもなるので、購入をオススメいたします

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384706/review/edf75a36-93c8-4306-a3d6-7b926d99ffa1/

 

公式HP:

https://klockworx-v.com/benedetta/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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