■分業化で拡大した産業は、いずれ一本化を目指して、オーダーメイドに移行していくのかもしれません


■オススメ度

 

ファッション映画に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.10.24(イオンシネマ久御山)


■映画情報

 

情報:2024年、日本、125分、G

ジャンル:発達障害を抱えた女子高生が自分の夢を追いかける様子を描いた青春映画

 

監督:西川達郎

脚本:鈴木史子&西川達郎

 

キャスト:(わかった分だけ)

服部樹咲(神谷史織:発達障害を抱える高校生)

 

岡崎紗絵(神谷布美:史織の姉、ファッションデザイナー)

吉田栄作(神谷康孝:史織の父、紡績工場の経営者)

清水美砂(友野静江:康孝の姉)

赤間麻里子(神谷由香子:遥の亡き母)

 

長澤樹(鴨下真理子:史織の親友)

 

知花くらら(滝本セシル:史織の憧れのファッションデザイナー)

 

田中俊介(宮澤直人:史織の担任の先生)

 

山口智充(斎藤さだを:布美の恩師、デザイン学校の先生)

 

近藤芳正(稲毛洋一:紡績工場の経営者)

 

黒川想矢(大村満:発達障害を持つ高校生、音集めが趣味)

吉澤健(大村源次郎:満の祖父、整理工場の職人)

 

早瀬結菜(東川里菜:ファッション科の生徒)

森瀬葉月(横山:里菜の友人)

久保みのり(立野:里菜の友人)

瀬戸琴楓(梢:インフルエンサー)

 

太田汐珊(山田:クラスメイト)

永井日和(石川:クラスメイト)

 

平野莉玖(糸田佑馬:クラスメイト)

永原諒人(サッカー部の男子生徒)

竹内雄大(サッカー部の男子生徒)

 

古畑奈和(加奈:布美の友人、ガールズバーの店員)

 

佃典彦(平木:銀行員)

 

筧十蔵(校長?)

 

星野奈緒(派遣会社の社員)

石川晴那(加奈の友人?)

河合良輔(路上の警備員)

憲俊(?)

宮﨑大和(会場のスタッフ)

静谷篤(?)

笹川淳(?)

梅村昇矢(?)

絵馬緋美葵(会場の観客)

山吹萌(?)

熊崎友愛(会場の観客)

林奈央(ファッションショーのモデル)

吉永毬乃(ファッションショーのモデル?)

吉村憲二(会場のスタッフ)

小林千莉(?)

大山真絵子(ショーのモデル)

 


■映画の舞台

 

愛知県:一宮市

 

ロケ地:

愛知県:一宮市

愛知県立一宮高等学校

https://maps.app.goo.gl/3QnxH4waEAb2rZtq6?g_st=ic

 

ReTAil

https://maps.app.goo.gl/kqkpNWxg7fDjqau98?g_st=ic

 

真清田神社

https://maps.app.goo.gl/Kb6sQ8vPX8z5AQcN7?g_st=ic

 

岐阜県:羽島市

MITSU BOSHI

https://maps.app.goo.gl/gV8FbKWvvLnV9Kcc6?g_st=ic

 

愛知県:名古屋市

割烹 駄々

https://maps.app.goo.gl/H1QKHwyKGYAJfwLr6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

愛知県一宮市の繊維工場の次女・史織は、発達障害のために世間とはズレた生活を余儀なくされていた

母・由香子の死以降、父・康孝と彼の姉・静江で史織を育てながら工場を続けてきたが、それも限界に近づいていた

 

史織には、唯一の親友・真理子がいて、彼女は周囲の目を気にしなかった

ある時に、実習でファッション科の生徒から難癖をつけられても平気な顔をして言い返していた

 

ある日、学校主催のデザインコンテストのことを知った真理子は、史織に内緒で彼女のデザイン画を応募した

見事に優秀賞を取ることができた史織に、そのデザインで一宮市のファッションショーに出ようと言い出す

だが、過保護な父がOKを出すはずもなく、そんなところに東京でブティックを経営していた姉・布美が戻ってきてしまう

父と姉は犬猿の中で、さらに悪い空気が家族の中で立ち込めてしまうのである

 

テーマ:遺すべきもの

裏テーマ:才能を輝かせる方法

 


■ひとこと感想

 

イオンで激推しされている作品で、愛知県一宮市(尾州)を舞台にした地場産業振興の映画でした

いわゆるお仕事系の映画で、糸を作るところから始まり、一枚の布に仕上げる過程を描いていきます

 

引っ込み思案なのかなと思っていましたが、ガッツリと発達障害という設定になっていました

挙動不審だけど物凄い集中力を発揮するというキャラで、唯一の理解者である真理子が彼女をグイグイと引っ張っていっていました

 

家族内の衝突は主に父親とのもので、親子喧嘩は「親が負けてあげるものよ」という静江の言葉が印象的でしたね

また、機織りの音で落ち着くなど、もう一人の発達障害の少年の活躍も見事だったと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画は、尾州の名産品とも言えるウールの生産とリアルが描かれていて、この地域の振興をどのように行うかというものが描かれていきます

零細企業が生きていくための難しさなどもあり、この状況をどのように打破すべきかというものが描かれていました

 

いわゆる天才肌の主人公が登場しますが、セシルがいうように「才能は見つける人と守る人がいてはじめて輝く」という言葉がしっくり来ましたね

姉が努力型として敵わないものの、彼女の経験値は活きてくるわけで、いずれは家業を手助けしていくのかなと思いました

 

映画は、ファッションショーのランウェイの機器トラブルというわかりやすい絶望を描いていますが、この時点で彼女を応援したくなるかどうかというのがストーリーの肝だったように思います

本作は、常に危なっかしさを感じさせつつも、史織の人間性はとても清いものだったので、自然と立ち上がってほしいと思えるような流れになっていたと感じました

 


尾州ウールについて

 

本作の舞台は、愛知県一宮市を中心とした尾州地域で、木曽川を含む自然環境に恵まれて、ウール産地として発展してきた場所になります

今では、イギリスのハダースフィールド、イタリアのビエラと並ぶ「世界三大毛織物産地」と呼ばれています

毛織物に使用される糸は、製法の違いによって「梳毛糸」「紡毛糸」に分類されます

羊の毛(ウール)が圧倒的に多いものの、アンゴラヤギの「モヘヤ」、ラクダの「キャメル」、アルパカの「アルパカ」というものもあります

 

毛織物が登場するまでは、毛皮をそのまま身に纏っていました

起源は曖昧なものの、古代メソポタミアのあたりでは羊の毛を刈って、そこから服を作ることを発見したとされています

その後、紡いで織るという方法が確立され、メソポタミアの重要な産品となっていきます

それが貿易によって、インド、地中海諸国、アフリカ大陸などに広がっていきました

 

日本では、越後国が「兎褐」と呼ばれるウサギの毛を綿糸に混ぜて織るというものがあって、本格的な毛織物工業の成立は明治時代に入ってからとされています

尾州に関しては、奈良時代から織物産業が始まっていて、麻織物、絹織物、綿織物などの素材を活かして発展を遂げていきました

その後、第一次世界大戦を機に、明治時代から輸入されていた毛織物が途絶えてしまいます

そこで、国内品の流通が拡大し、その拠点となったのが尾州地域とされています

 

そして、綿や絹から毛織物への転換が行われ、全国シェアで70%を超えるまでになります

大正に入ってからも研究が重ねられ、天然繊維を取り込んだり、婦人服や子供服などの普及も相まって、生産量が増大していくことになりました

作り方などは映画でも紹介されていますが、パンフレットにも細やかな説明がされていましたね

また、この産業でも、職人の高齢化問題は深刻になっていて、後継者不足に悩まされているとされています

 


才能が世界に羽ばたく理由

 

本作では、紡績一家の日常が描かれていて、生まれながらにその世界にいる女子高生が描かれていました

幼い頃から工場に関わってきていて、技術という部分は申し分ないと思います

そんな彼女が衣装のデザインをすることになり、そこには尾州ウールを使うという前提のデザインを生み出します

衣装のデザインはビジュアル面のイメージがあっても、そこに使用される素材のことを考える必要があるので、見る人が見れば、それを想定してデザインしているかはわかるのでしょう

 

史織が憧れるデザイナーのセシルは、世界的に有名なデザイナーで、素材に関しても精通している人物だと思います

多くの素材の特徴を知り、その組み合わせから可能なデザインを追求し、時にはデザイン優先でそれを再現できる素材を探していきます

そうした先にあるものが唯一無二のものとなっていて、史織はそう言った実用と想像の重なりというものに憧れを抱いていたのではないでしょうか

真理子は単純にデザイン力に何かを感じていて、それは素人目線でも具現化できるものになっています

 

セシルは真理子に対して、「才能は見つける人と守る人がいて初めて輝く」と言い、彼女が史織を表舞台に引き出したことを評価しています

史織の才能は実現可能性の高いもので、それはイメージを持たせやすいものになっていて、真理子自身もデザインを見た時にランウェイのイメージが持てたのだと思います

この具現化されるイメージの共有というのはなかなか難しくて、ある種の特別な共通言語のように思えます

この共通言語を持っていたのが劇中では史織、真理子、セシルという感じに描かれていて、それゆえに「この才能を見つけて守ってきた真理子の存在の大きさ」というものをセシルは高く評価しているのですね

真理子自身はデザインもできなければ紡績に関しても素人ではあるものの、才能を具現化できる存在とのパイプ役になるというのは、それだけでとても素敵な才能であると思います

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、地場産業の振興を考慮した作品になっていて、紡績に関するマニュアル書のような部分もありました

ご当地の観光名所を紹介して来てもらう系の映画ではなく、世界に誇れる産業の紹介をしていきます

そんな中で、世代交代する工場を描いていて、時代の変遷を思わせる内容になっていました

時代と共に産業はシフトし、ニーズというものも変わっていきます

その過渡期になっているのはどこの業界も同じで、それをどのように存続するのかというのがテーマとなっていました

 

名産品には、その土地でしか取れない素材と、長年培われて来た技術というものがあり、そのどちらかが欠けても続いては行かないように思います

素材に関しては代替品があるものもあれば、素材そのものがブランド化していて、代用できないものもあります

技術に関しては深刻なもので、その産業で食べて行けないレベルだと後進は育ちません

世間のニーズがないから産業として成り立たないという側面もあり、それをクローズアップしていくことの難しさというものはあると思います

 

人類の歴史を紐解けば、多くのものが生まれて廃れての繰り返しになっていて、その要因は様々なものだと言えます

産業として成り立って来たものも、時代背景によって浮き沈みは激しく、特に不景気だと余力がなくなるので、存続させることすら難しくなっています

いわゆるロストテクノロジー化するというもので、科学の発展があっても再現できない過去の技術というものはたくさんあります

 

本作では、紡績工場の顛末を描いていて、これは素材産業の未来を描いているのだと思います

紡績そのものが直接使用品にはならず、何らかの技術を加えて商品化することになります

そんな中で、これまでは素材として需要があったものが、徐々に廃れていくという状況に陥っていました

それをどのように改善するかという問題の中で、史織は「尾州ウールだからこそ作れるものを作ろう」と考えるようになります

 

それを否定するのが父親の役割なのですが、製造から商品化までを一つの場所で行うというパラダイムシフトについて行けなかったのだと思います

これまでは素材だけを作り続け、クライアントの要望に応えてきた生活があって、クライアントが別の素材を有したら需要がなくなる、という構造になっていました

でも、現在ではその分業化だけでは厳しい時代になっています

これまでは、業務を細分化し、それぞれの適切な配置によって効率化を推し進めて来ました

紡績に関しても、最後の素材ができるまでに、別の技術者が営む工場で行っていきます

 

これだと、専門性が高まって効率化がなされる一方で、全体を通して俯瞰することができなくなってしまいます

18世紀頃に生まれた自由経済主義のアダム・スミスの分業論などが浸透してきて産業は巨大化したけど、今はそれでは産業が成り立たなくなっているのですね

その理由は色々あると思いますが、個人的には「大量生産、大量消費の時代が終わりつつあるから」だと思います

 

人口増加が起こっている国ならばこの理論で産業は育ちますが、ある程度成熟した国においては、個人の時代の到来もあって、オーダーメイドやオリジナリティというのが優先されてきます

この流れに分業化では対応できなくなり、一本化していく産業も増えて来ています

映画では、そこまでの未来は提示されていませんが、史織の考える未来にはそれが組み込まれているように思えます

彼女が紡績の全てを一本化し、その中で素材を活かせるデザインをして商品化していくことはそこまで難しいものではないでしょう

そして、このような産業コミュニティが新たな事業を生み出して、商品を流通させる方向に向かうのではないか、と感じました

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101964/review/04406139/

 

公式HP:

https://bishu-movie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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