■古代と現代の悪がリンクしてこそ、復活の意味があるのではないだろうか
Contents
■オススメ度
ドウェイン・ジョンソンさんの暴れるところが見たい人(★★★)
DCEUを間違えて見始めた人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.12.2(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Black Adam
情報:2022年、アメリカ、125分、G
ジャンル:現代の問題を解決するために古代から甦らされたアンチ・ヒーローが大暴れするアクション映画
監督:ジャウム・コレット=セラ
脚本:アダム・スティキエル&ロリー・ヘインズ&ソーラブ・ノシルヴァーニ
原作:オットー・バインダー&C・C・ベック『Black Adam』
キャスト:
ドウェイン・ジョンソン/Dwayne Johnson(テス・アダム/ブラックアダム:神々の力を授けられたカーンダックの元奴隷)
オルディス・ホッジ/Aldis Hodge(カーター・ホール/ホークマン:エヌスメタルの翼で空を飛ぶJSAのリーダー)
ノア・センティネオ/Noah Centineo(アルバート・ロススタイン/アル:分子構造を制御するメタヒューマン能力を持って巨大化できるJSAのメンバー)
クインテッサ・スウィンデル/Quintessa Swindell(マキシン・ハンケル / サイクロン:ナノボット技術によって風を制御して操作する能力を持つJSAのメンバー
ピアース・ブロスナン/Pierce Brosnan(ケント・ネルソン/ドクター・フェイト:運命の兜を装備し、未来が予見できるJSAのメンバー)
サラ・シャヒ/Sarah Shahi(アドリアナ・トマズ:ブラックアダムを復活させるカーンダックの大学教授)
モハメド・アメル/Mohammed Amer(カリーム:アリアドナの弟、陽気な電気屋)
ボディ・サボンギ/Bodhi Sabongui(アモン・トマズ:アリアドナの息子)
ジェームス・クサティ=モイヤー/James Cusati-Moyer(サミール:アドリアナとカリームの同僚)
マーワン・ケンザリ/Marwan Kenzari(イシュワマル・グレゴール/サバック: アクトン王の末裔、カーンダックに侵攻する犯罪組織インターギャング軍の指導者)
マーワン・ケンザリ/Marwan Kenzari(アクトン王:イシュマエル、アダムに虐殺されたカーンダックの古代の専制君主)
ジャロン・クリスチャン/Jalon Christian(フルット:アダムの息子)
(成人期:Uli Latukefu)
Odelya Halevi(シルタ:アダムの妻)
Henry Winkler(アル・プラット:ロススタインの叔父)
ジャイモン・フンスー/Djimon Hounsou(シャザム:ハルートに力を与える魔術師)
ヴィオラ・デイヴィス/Viola Davis(アマンダ・ウォスラー:政府組織A.R.G.U.Sのトップ)
ジェニファー・ホランド/Jennifer Holland(エミリア・ハートコート:ウォラーの部下)
Henry Cavill(クラーク・ケント/スーパーマン)
■映画の舞台
古代ローマ:バビロン
カーンダック
現代:カーンダック(架空)
ロケ地:
アメリカ:ジョージア州
アトランタ
■簡単なあらすじ
紀元前5000年の古代ローマ、バビロンではアクトン王が魔神サバックの力を有するために、エタニウムを原料とする「サバックの王冠」を作ろうとしていた
そこでは多くの奴隷が日夜働かされていて、その中にテス・アダムと息子のハルートもいた
ハルートはこれだけ多くの奴隷が決起したらアルトン王の暴挙を止められると思っていて、ヒーローが必要だと感じていた
ある日、奴隷の一人がエタニウムを見つけ、それの奪い合いになってしまう
だが、ハルートはそれを奪い、アルトン王の部下にそれを渡した
これによって、奴隷から解放されるかと思われたものの、無慈悲な仕打ちが彼らを襲った
殺されたと思ったハルートは、その英雄的行為を魔術師シャザムたちに認められ、絶大な力を獲得し、それを父アダムに分け与えた
アダムは怒りに任せて、アルトン王以下を抹殺してしまった
それから数千年経った現代、アダムの地カールダックはインターギャングの暗躍で荒廃した街になっていた
そこで大学教授をしているアリアドナは、古代の文献からある山脈の奥地にアダムが眠っていると考えていた
アリアドナの弟、友人らを従えてその場所を見つけたものの、同行したイシュマエルの裏切りに遭ってしまった
テーマ:力の使い方
裏テーマ:真の英雄とは何か
■ひとこと感想
DCEUの流れで、なんとなく鑑賞
とにかくブラックアダムが暴れまくるのだと思っていましたが、予告編で多くのシーンが登場していて残念な仕上がりになっていました
映画のシナリオも「あっちこっち」と乱高下する内容で、悪い意味で着地点が見えづらい印象がありました
登場人物が多すぎて整理されていないのが難点で、JSAのメンバーも不要に思えるちょい出しに無駄な時間を割いていましたね
また、主人公格であるアリアドナ・ファミリーもあまり効果的ではなく、イシュマエルらインターギャングが支配力を掴む為に探していた、というシナリオでも通じてしまうところがなんだかなあと思ってしまいます
ともかく、CGアクションになっていて、ドウェイン・ジョンソンさんが演じる必要がないくらいに超常パワー合戦になっていたのはどうなんでしょうねえ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネタバレというネタバレはなく、エンドクレジットの後に「例のマッチョマン」が登場するくらいしか驚くようなことはありません
ともかくカーンダックの現代パートの描写が雑すぎて、インターギャングがアクトン王のように奴隷王国を作ろうとしているのかなと思ってしまいました
ともかく荒廃し、物資も豊かではない世界の中で、暴力が暴力を支配するという内容だったので、ヒーローものとしてのテーマが今さらそれなの?と思ってしまいます
アクションシーンも現実離れしすぎている魔法合戦のようなものになっていて、肉体派が主演である必要性もなかったですね
もっと泥臭い感じになるのかなと思っていました
ブラック・アダムを倒すために登場させたJSAの存在も微妙でしたね
最終的には団結して戦うのですが、前半での衝突は噛ませ犬みたいな扱いになっていました
それぞれのキャラのカッコよさはあると思うのですが、単体作品を作ってからのカメオ的な扱いの方がもっと盛り上がったように思えました(特にフェイトがもったいない)
■権力の使い方
映画のブラックアダムはカーンダックの英雄で、最後に玉座に座るかどうかを選ぶことになっていました
そこで彼は玉座を破壊し、アクトン王との違いというものを見せつけます
魔道士シャザムたちは彼の利他的な精神を見抜いていたのかは分かりませんが、傍若無人に見えたブラックアダムは、JSAとの共闘の末に、権力というものの本質を捉えていったように思えました
古代のカーンダックでは、アクトン王が自身の権力の維持のために奴隷を使って、サバックの王冠の原料であるエタニウムの発掘をさせていて、そこで偶然発見されたエタニウムを奴隷同士が奪い合うという展開を見せます
これを制したのがアダムの息子ハルートで、でもそのハルートをアクタル王の部下は殺してしまうのですね
これはアクトン王の支配にとって、ハルートが最大の脅威になるはずでしたが、部下の感情的な理由でその脅威というものが消えてしまいます
そして、シャザムたちは彼に力を与えることに決めました
権力者が恐れるのは奴隷の結束で、多くの人間の歴史で「命を賭けて先頭に立つ英雄」というものが現れます
それによって、新たな役割を得た奴隷は、その目的に向かって命を投げ出します
この時に彼らの中で起こるのは、「奴隷のまま死ぬ」ということと「目的のために死ぬ」という二択が起こるのですね
もし、エタニウムを手に入れたアクトン王(この場合は部下)がその褒賞を与えていたら事態は変わっていたでしょう
今の労働の報いがそこにあると知れば、奴隷は奴隷であることを肯定してしまいます
でも、カーンダックにはその概念がなく、それが却って民衆を立ち上がらせる動機になっていました
現在でも奴隷っぽい制度が世界の各地で蔓延りますが、そこそこの褒賞と懐柔をうまく使い分けることによって権力を維持する狡猾さというものがあります
ある意味、蜂起に至る理由を奪うことでぬるま湯に浸かってしまうのですが、そのぬるま湯からも逸脱する人が現れた時、その人は「無敵の人」になってしまうのですね
現在の日本も傍から見えれば狡猾な奴隷制度を維持している国です
でも、この国の歴史を紐解ければ、民衆のそこそこの利益が損なわれ、セーフティネットから外れた人々による暴力の歴史で溢れかえっています
現代では、SNSの普及により、見えないところでの決起が増え、これまで見えなかった情報が可視化もされています
そう言った意味において、「無敵の人」の量産傾向は続くのではないかと思いました
■勝手にスクリプトドクター
本作はブラックアダムの誕生譚ということで、古代ローマの時代での誕生劇と、現代に蘇る場面を展開していきます
古代のシーンは申し分なく、アクトン王の非道っぷりも振り切っていましたし、彼らの部下もトコトンイカれていました
それに対して、現代のカーンダックの状況がイマイチ読み取れず、そもそも国家なのか、一つの街なのかもわからず、そこを統治している者の姿もありません
そこで貧困だけど自由に生きているように見えるのがアモンで、街はインターギャングの横行が蔓延っているというのが設定になっています
インターギャングの一味であったイシュマエルが黒幕っぽいのですが、彼が街でどれだけの力を持っていて、これからどうしたいのかがよく分かりませんでした
また、アリアドナもブラックアダム(当初は眠れる英雄みたいなざっくりしたもの)を復活させることで街の治安が戻ると思っていたようですが、その辺りの流れがわかりづらく、いち市民であるアリアドナがその先頭に立っている理由は分かりません
彼女が率いているのは弟とその友人で、公的な機関でもなければ、専門的な機関でもないので、復活させることが私的な感情のように思え、それで良いのかと思ってしまいます
原作は未読なので設定は分かりませんが、この流れだとアリアドナとアミルはブラックアダムの近親もしくは末裔という流れがしっくりきて、「来るべき時に復活をさせる」というような伝承的なもので行動に移した方がよかったと思います
本作の難点は、アリアドナとアミルが何のために存在しているかわからないところで、ブラックアダムを復活させる理由もなければ血縁もないところでしょう
ビジュアル的にはアダムの母親の系統であるとか、アミルはハルートに似ているところがあったのですが、そのあたりはスルーになっていたのにも関わらず、この親子を全力で守っていたところはよくわかりませんでした
むしろ、イシュマエルが悪の科学者設定で、それに付き合わされたアリアドナたちという流れとか、イシュマエルの陰謀のためにアミルが人質になっているとかの方がしっくりきたのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は好きな人にはハマる映画で、ノれない人にとっては粗が目立つ作品だと思います
個人的には嫌いではないけれど、物語のピースが綺麗にハマってこないので、もやもやしてしまいました
JSAの扱いも「かませ犬」から「共闘」の流れを汲むのですが、これまでにカーンダックに関わって来なかったヒーローがいきなり訪れても何だかなあという感じになってしまいます
それぞれのキャラがシリーズでは初めてに近いので、彼らの力量とかキャラがわからず、映画の中での描写だけでは足りないと思います
なので、JSAのメンツを出すなら、単体映画で出してからの方が効果的であったように思えました
単体作品の一作目は「そのキャラクターの背景を細かく描くもの」で、ブラックアダム以外のキャラクターを出す必要はなかったと思います
サイクロンとアルでは単体映画は厳しいかも知れませんが、ホークマンとドクター・フェイトは作れると思うのですね
なので、今回でサラッと出てきて、サラッと退場したドクター・フェイトの扱いが勿体無いと思いました
古代の英雄の復活のパターンはある程度限られていて、「間違って復活させるアクシデント系」と「意図された陰謀系」のどちらかだったりします
今回は「意図された陰謀系」なのですが、その陰謀の背景がほとんどわからないまま復活に至るので、「いつの間にかイシュマエルがいないんですう〜みたいな雑な展開」になっているのですね
もともとイシュマエルは怪しさ満点のポジションで、彼が裏切っても驚きもないので、「明確な現代のカーンダックの悪」としてきちんと描いていた方がわかりやすかったかも知れません
ブラックアダムの怒りは為政者に向くものなので、彼が復活して敵を倒すというのは、古代の行動理念からも合っているので、もう少し巨悪にして対立構造を明確にしても良いのかなと思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383282/review/14100eec-27ef-4c77-81a8-bf8b50efc96f/
公式HP: