■出オチで出し尽くした感があるけど、続編は作られるのだろうかと心配になる
Contents
■オススメ度
吉沢亮さんの変顔を拝みたい人(★★★)
福田雄一テイストが好きな人(甘さ控えめ)
■公式予告編
鑑賞日:2022.12.23(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、108分、G
ジャンル:就活に失敗してフリーター3年目になる若者がクリスマスを支えるブラック企業で働かされることになるコメディ映画
監督:福田雄一
脚本:福田雄一&鎌田哲生
原作:中村光『ブラックナイト・パレード(2016年、集英社)』
キャスト:
吉沢亮(日野三春:大学受験に失敗し、黒いサンタの会社にスカウトされるフリーター)
(幼少期:野濱拓海)
玉木宏(クネヒトの声:黒いサンタクロースの首領、サンタクロースハウスの社長)
ムロツヨシ(帽子さん:中身おっさんの妖精)
橋本環奈(北条志乃:可愛い顔して狂気的なハッカーサンタ)
渡邊圭祐(古平鉄平:黒いサンタクロースとして働く嫁にしたいイケメンサンタ、料理長)
中川大志(田中皇帝/カイザー:三春のバイト時代の同僚、DQNでチャラいパリピサンタ)
中田青渚(カイザーの彼女)
佐藤二朗(吉川輝:三春の元上司、ポーソン練馬北口店の店長)
若月佑美(赤井稲穂:ポーソンの元従業員)
山田裕貴(日野冬馬:三春の父)
藤井美菜(三春の母)
■映画の舞台
東京都:練馬区
コンビニ・ポーソン練馬北口店
北極「サンタクロースハウス」
ロケ地:
東京都:日野市
福井県:福井市
British Hills(サンタクロースハウス:外観)
https://maps.app.goo.gl/PmHpZ6kHtuHSSJK96?g_st=ic
群馬県:前橋市
ロイヤルチェスター前橋 アルフォンソ|群馬 前橋の結婚式場
https://maps.app.goo.gl/3KfexXtiMF1y6MV2A?g_st=ic
■簡単なあらすじ
大学受験に失敗し、就活もままならないまま3年を迎えた三春は、サボり癖のあるカイザーと一緒に、ポーソン練馬北口店でしがないクリスマスウィークを迎えていた
その日、カイザーはさっさと彼女としけ込み、三春は店長からあらぬ疑いをかけられるなど、散々な1日を過ごしていた
帰宅の途中、屋台を見つけた三春は、そこでやけ酒を食らう
だが、そこの店主は真っ黒なサンタの格好をしていて、突然屋台の上にあった大きな袋のようなものに飲み込まれてしまう
誘拐されたと思った三春だったが、連れてこられたのは「サンタクロースハウス」という、世の中に子どもたちに「プレゼントを届けるプロ集団」だった
流されるまま、そこで就職することになった三春は、そのブラックっぷりに唖然とする
個人情報一切無視のハッキングから、魔法の鍵を使っての不法侵入などやりたい放題
だが、高額な報酬に釣られて、三春はそこで「特別待遇のトナカイ」を目指すことになったのである
テーマ:条理と不条理
裏テーマ:ブラックへの適性醸成
■ひとこと感想
イケメン&美少女に変顔をさせるのが趣味の監督なので、今回のキャスティングも攻めてるなあと思いました
原作は存在すら知らなかったんですが、出オチっぽい設定でどうなるのかと思っていましたが、この映画では「基本設定」を描くところまでになっていましたね
ブラックサンタという着想とブラック企業を掛け合わせて、底辺フリーターの悲哀をギャグにしているのですが、三春を支配していた「呪い」はありきたりではあるものの、ちょっとヤバい感じはしますね
ある意味、幼少期の刷り込みが原因で、子どもが夢を持つことは否定しないのですが、その道を全て周囲で作りきっているというホラー感はあります
底辺なので、降りかかる不条理を「運が悪い」と断罪しますが、伝統芸の踏襲制などもイメージが被るので、どこまで自由意思が介在しているのかはわからない部分があると思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
福田雄一監督だったので、「いつもの」があるかと思ったのですが、今回はサラッと菜種油を潜らせただけ、みたいなテイストになっていました
原作準拠なのかはわかりませんが、物語の本質が「良い話風のホラー」なので、それを感動系でオブラートに包むという手法を徹底しています
よくよく考えれば、「親の敷いたレール」に載せられている無垢な子どもが、知らず知らずに誘導されていたという話で、これが上級国民ならいざ知らず、という感じになっています
サンタがブラックかどうかについても、残業に関してはほぼ1週間ぐらいしかない職場であの高給なので、労働的にブラックと言えるのかは謎ですね
SNSを駆使した今風の解決策などもあって、発注ミスの先輩にケツを拭かせるあたりは爽快感がありました
この映画で感動する人もいると思うのですが、そういう人ほどブラックに染まりやすいのかなと思えてしまいますね
■ブラックは不条理か条理か
映画ではサンタの職場はブラックだったというコメディ要素があって、実際にブラックっぽい感じの職場が描かれています
でも、実際に働くのはクリスマス当日だけで、それまでの数週間の「プレゼントの選別」が完徹作業という感じになっていました
この働き方がブラックかどうかは何とも言えませんが、現実にあるブラック企業にも様々なタイプがあると言えます
私個人もブラックっぽい職場で働いたことはありますが、能動的なものと受動的なもので印象が変わります
社内の風土というものが如実に現れていて、私が勤めていたところは「好きなだけ働いて、好きなだけ休め」というスタンスで、結果至上主義の職場でした
なので、店の売上を上げるために様々な方策をする際には、寝る間も惜しんで働くということは普通に行なっていました
この仕事を振り返って、ブラックだったかというと微妙な感じがして、要は効率を考えて動けるようになったり、自分の仕事をうまく人に振り分けることができれば、勤務時間を調整できる職場だったと言えます
実際のブラック企業というのは、法律にふれている企業で、残業代を出さないとか、過剰な労働を押し付けるなどがあって、それを個人の責任に転嫁している企業のことを意味します
仕事を与える裁量が上司にあって、その配分のバランスが非常に悪く、精神論で強いるというような体力至上主義の職場だと起こりやすい印象がありますね
また、個人評価主義かつ結果至上主義だと、社員間がギスギスしますし、それによって居心地の悪い職場に感じたりすることがあるでしょう
この精神的な疲弊というものが法律では明記されていないので、ブラックだと感じても法律的には問題ないという状況を生んだりもします
企業と従業員の関係性は、その風土に合うか合わないかというところが最も重要で、この個々の問題の不一致がそのままブラックであるとは認定できません
不一致であるという個人的な理由と、法規を無視した過剰な就労要求を混在するとおかしくなってしまうし、これらのバランスは「労働者の市場価値」によって簡単に揺らぐものだと言えます
なので、就職先には「自分を大きく見せないこと」も重要ですし、面接などで虚飾をすると、それだけで目に見えない過剰な仕事が待っていたりします
縁があれば入社に至るというマインドの方が自分に合った仕事場が見つかると思うのですが、どうしても自分の実力以上の場所を探す人が後を絶ちません
分不相応の企業に就職して、そこでうまく行かずにドロップアウトしてしまうことの危険性は、この日本ではとても大きいのですね
次の面接では当たり前のように前職の退職理由を聞かれますし、一度行った誇張の余波は当分の間自分について回るものでしょう
企業にとって、「雇用がリスク」であり続ける限り、それを避けるのが一般的な判断なので、前職の短期間のリタイアというのは、のちの再就職にも影響を与えます
かと言って、ある程度の年月を合わない職場で過ごすのもストレスになるので、この再雇用の困難さというものの構造が変わらない限り、そこがブラックであろうがなかろうが、しがみつくしかないという風潮を生み出してしまいます
ブラックというのは「法規を無視している場合」は否応なしにアウトですが、雇用側の条理に対して、従業員側にどれだけの圧力があるかというところを見極めなければなりません
企業が一人の人間を雇うのに必要な金銭と労力は、従業員側が想像しているよりも高額なものなのですね
それでも、新規雇用至上主義が蔓延っているのは、「退職」という二文字に対して、企業の拒否反応が激しすぎるという要因があります
それらの多くは、真っ白な状態で企業風土に馴染ませる方が、後々の利益につながると考えているからで、営利企業であれば、その考え方は当然の帰結のように思えます
賃金を払いながら育成するという状況がある以上、初期の風土適応というのは相応の忍耐が必要である、というのが現在の問題の根底にあるように感じます
■環境と夢という洗脳装置
本作では、父の後を継がせるというサンタクロース・ハウスの思惑があって、幼少期の頃の夢から逸れた三春を元の位置に戻す、という方針が定められていました
この一連の流れは結構恐ろしいものがあって、自分で選んだ感じになっているけれど、実際にはそうではないという状況があります
三春は様々な過程を乗り越えて、反骨心で宣言をしますが、まんまと嵌め込まれているという印象は拭えません
子どもが親の仕事に憧れを持つことは普通のことだと思いますが、本作の場合だと、行き過ぎた管理によって、本人の意思を捻じ曲げているという怖さがあります
三春が大学受験を目指したり、一般企業に就職しようと考えるのは、現実的に自分がどう生きるかということと夢を天秤にかけた結果だと思うのですね
でも、その思惑を全て妨害して、コンビニで育成までしていたというのは、このレールこそがブラックと言わざるを得ません
自分たちの世界を守るために、救世主を作るということになるのですが、この流れに際して、どこまで亡き父が絡んでいたのかは重要な要素であると思います
映画でははっきりと明言されていませんが、幼少期の頃からそのルートは発動していたように思えるので、組織ぐるみだったのかなと思います
母親がどこまで関知していたかも不明ですが、おそらくはサンタクロースであることも隠していたのでしょう
秘密を有したまま、まるで自由意志で行なっているかのような誘導の先に三春の人生はあって、その性格形成なども含めて、次期サンタになるための準備というものが敷かれていったと考えられます
サンタになれる資質が優先されたのか、単に洗脳しやすい環境だったのかは分かりませんが、数々の自由意志を打ち砕いて行って、その先に二択を迫るというところは鬼だなあと思ってしまいました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画ではまるで出オチのようなブラック・サンタの現場が紡がれ、そこからサンタクロースが本当にいたらどんな感じになるかというところをリアルに描いていました
志乃がハッキングをして個人情報を抜き取るシーンがあっても、元々不法侵入をしていたサンタのことを考えれば、その質は同じようなものです
この映画で面白いのは、サンタへの手紙というのが「消印が押されて郵便のように届いている」というところでしょう
映画では言及されませんが、あの郵便をポストに入れたのは誰かは分かりませんし、実際には「サンタさんへ」という宛名を書いただけで、魔法によって承認(消印)されて、郵便物に紛れ込むのか、特別な配達人がそれを受け取ることになるのかは分かりません
ツッコミどころとしては、サンタさんへのお願いってのが、前日の夜にされることが多くて、世界中の子どもたちから一斉に送られてくることを考えると、一夜では捌き切れないというところでしょう
現実的なことを考えるのはアレですが、現在の世界には21億人の子どもがいて、毎年1億3200万人もの子どもが生まれてきます
この中でサンタクロースを信じていて、プレゼントを届ける人数がどれくらいになるか分かりませんが、対象年齢を6歳から10歳くらいに限定すると、およそ8億人ぐらいいることになります
子どもの半分が悪い子だとすると、4億人の「がっかりするプレゼント」を探すことになるのですが、一人あたり1分かかるとして4億分なので、それを一昼夜(24時間)で行うとなると1600万人/時間という計算になりますね
となると、1600万人ぐらいのサンタクロースがあの部屋でプレゼント選定作業に入らないと間に合いませんが、どう見ても「1人か2人で行なっている罰ゲーム」という感は否めません
サンタクロースハウスの中の時間だけ1600万分の1のスピードで進むとかじゃないと無理だと思います(冷静に考えることではありませんが)
映画は「赤いサンタに、俺はなる」みたいな終わり方をしましたが、どのような展開と修行によってサンタになるのかは分かりません
続編ありきなのかもしれないのですが、2作目からは全く違ったジャンルの映画になるような気がしないでもないですね
赤いサンタの修行と、ネズミの主との戦いなどのバトル要素を考えると、展開としては面白そうではありますが、このギャグのノリを考えると、ものすごいテンポの悪い作品になりそうな予感がします
一作目が福田雄一監督だったので、続編があれば続投は間違いないと思いますが、そうなると『新解釈・三国志』みたいなことになるのでしょうか
それはそれで面白そうではありますが、クリスマスシーズン以外に公開してもあまり意味はなさそうなので、来年の今頃までコンテンツとしての価値を放ち続けるのかは微妙かもしれません
そう言った意味において、よく企画が通ったなあと思いますが、これから色々と大変なんだろうなあと、余計な心配をしてしまいます
続編があれば観ると思うのですが、興行収入が立ちにくい案件に思われる(年越せば客は一気に減る)ので前途は多難でしょう
ネタ映画としては悪くはないですが、コンテンツ力がかなり弱い案件なので、このまま出オチ系ネタ映画で終わってしまう可能性の方が高いかもしれません
キャラは結構好きですが、サンタの仕事が現実的でないのと同じくらい、続編の可能性に現実味がないと言えるのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384119/review/f605f3b1-91cf-4b79-80c7-c3188b4f674e/
公式HP:
https://bnp-movie.jp/