■1985年の問題が今でも残り続けていることに、根本的なアプローチができていないという印象を持ってしまう


■オススメ度

 

実話ベースのドキュメンタリータッチの映画が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.12.22(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題Sans toit ni loi(屋根も法律もない)、英題:Vagabondo(放浪者)

情報1985年、フランス、105分、G

ジャンル:実際に起こった若いホームレスの経緯を追っていくドキュメンタリータッチのヒューマンドラマ

 

監督&脚本:アニエス・ヴァルダ

 

キャスト:(ほぼ登場順)

サンドリーヌ・ボネール/Sandrine Bonnaire(モネ/シモーヌ・ベルジェロン:行く宛のない若いホームレスの女性)

 

Setti Ramdane(モネの死体を発見するモロッコ人)

Francis Balchère(警察)

Jean-Louis Perletti(警察)

Urbain Causse(職質を受ける農場主)

 

Dominique Durand(ヌード写真を買うバイクの若者)

Joël Fosse(ポロ:バイクの若者、ヨランデの恋人、ジャン=ピエールの息子)

 

Patrick Schmit(下心のあるトラックの運転手)

Daniel Bos(トラック運転手と話すカフェの男)

 

Katy Champaud(ポンプ場の使い方を教える女性)

Raymond Roulle(マッチをくれる老人、ポンプ女性の父)

 

Henri Fridlani(モネを起こす墓場の男)

 

Patrick Sokol(サンドイッチを奢る若者)

 

Pierre Imbert(車を修理する男、モネと体の関係を持つ修理工)

Christophe Alcazar(バーナーを使う修理工)

 

Michel Constantial(会計士)

 

マルト・ジャルニアス/Marthe Jarnias(リディ:ヨランダの母、ジャン・ピエールの叔母、ワイン好きの盲目の老女)

ヨランド・モロー/Yolande Moreau(ヨランデ:ポロの恋人、リディの娘)

 

Patrick Lepcynski(デイビッド:モネと関係を持つ首に鎖をつけている男)

 

Sylvain(メガネをかけた羊飼いの男)

Sabine(羊飼いの妻)

 

Michèle Doumèche(街中で物物交換する女)

 

メーチャ・マリル/Macha Méril(ランドール:モネを気にいる教授)

 

ステファン・フレイス/Stéphane Freiss(ジャン=ピエール:農場主、ランドール教授の知り合い)

Laurence Cortadellas(エレアーヌ:ジャン=ピエールの妻)

 

Emmanuel Protopopoff(献血バックパッカー)

Vincent Sanchez(看護師)

 

Garibaldi’ Fernández(石工師)

Michel Constantial(石工場のマネージャー)

Alain Roussel(森でモネを襲う暴力的な男)

 

Yahiaoui Assouna(モネに仕事を与える剪定師)

Aimée Chisci(葡萄畑の管理人)

Marguerite Chisci(テレビ見ている女、管理人の妻)

 

Geneviève Bonfils(モネを誘う怪しい旅人)

 

Christian Chessa(駅でカバンを投げつける男)

Setina Arhab(銀食器を断る女性)

Jacques Berthier(銀食器を断る身なりの良い紳士)

Oliver Jongerlynck(写真を売りつける男)

Rémi Leboucq(写真を売りつけられる男)

 

Jean Dambrin(モネをナンパする男)

Bébert Samcir(ハーモニカを吹く男)

 

Agnès Varda(ナレーター&インタビュアーの声)

 


■映画の舞台

 

フランス:オクシタニー地方エロー県

Saint-Aunès/サン=トネス

https://maps.app.goo.gl/8yh87i6ayWJT8cdZA?g_st=ic

 

ロケ地:

南フランス

オクシタニー地方圏ガル

https://maps.app.goo.gl/p9EEyN1qUjNqA5Xe7?g_st=ic

 

エロー

https://maps.app.goo.gl/YG9qYcV37PYrdEtX8?g_st=ic

 

リュネル

https://maps.app.goo.gl/vYWjTC1ZHxbqJDgX8?g_st=ic

 

マルシヤルグ

https://maps.app.goo.gl/iaYt9CcTp2Ftd6eC7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

南フランスのある田舎町にて、ワインまみれになった若い女性の死体が見つかった

警察は自然死として取り扱うものの、その経緯は不明だった

そこで取材班は近隣の町に出向き、彼女を知る者から話を聞くことになった

 

それらのインタビューなどを交えたフィルムは、彼女がこの町で認知されたところから紡いでいく

初めは海辺の町、そこからヒッチハイクで内陸部を目指していき、都市部も訪れていく

だが、彼女を知る誰もが、彼女のことを良くは言わない

唯一、彼女に好意的な発言を寄せたのはランドール教授ぐらいで、その他にも複数の男性が彼女と大人の関係になったことを仄めかしていく

 

テーマ:不条理を引き寄せたもの

裏テーマ:生存と自尊心のバランス

 


■ひとこと感想

 

実のところ、古い映画とは知らずに、今のフランスのホームレス事情を切り取っている社会派作品だと思っていました

ある18歳の女性の死体が見つかって、それを正の時系列で真相を描いていくというスタイルになっていましたね

初めはビーチで泳いでいたのを地元のバイク乗りの二人が目撃し、そのうちの一人が最終的にモネの生死に関わっているなど、人物の把握さえできれば、複雑に絡みあったもののつながりが把握できると思います

 

物語は南フランスの田舎町を旅しているのですが、距離的にはほとんど動いてません

車で移動をしているものの、さっき会った人と何度も会うというのを繰り返していましたね

パンフレットによると、場面的には13シーンということになっていて、海辺から内陸部へと移動していく様子が描かれています

 

モネのキャラクターはあまり共感性がないのですが、だからこそこのような顛末になってしまうのかなと思わせます

弱みにつけ込まれることを嫌いながらも、欲望を果たすことは厭わないという感じで、いろんな男と寝たんだろうなあという描かれ方をしています

でも、これらは全て「モネを知る人の証言」に基づいていて、ほとんどの人物が好意的には捉えていなかったということがわかります

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画のロケハンは4つの町になっていて、オクシターニ地方圏の田舎町を舞台にしています

モデルとなった女性が亡くなったのはモンペリエの少し西側で、ロケ地はもう少し東寄りのあたりになりますね

同じ生活圏なので、まるでドキュメンタリーのような印象がありました

 

映画は劇的な展開はなく、モネがどのような経緯でその場所に辿り着いたのかを克明に描いていきます

良くも悪くも印象に残る女性だったということで、女性のほとんどは嫌悪的で、男性の一部は好意的だったかなと思います

 

映画のタイトルの意味は「屋根も法律もない」というもので、セーフティネットが機能していない時代を切り取っています

今では少し改善されているのかもしれませんが、共同生活が苦手な人にとっては、明日は我が身なのかもしれません

 


いくつかの証言

 

映画は「ある葡萄畑の発見」から遡るのではなく、彼女が認知された瞬間から時系列を追っていく流れになっていました

 

流れとしては、

「海辺の目撃」

「下心のヒッチハイク」

「ポンプとマッチ」

「墓場で野宿」

「サンドイッチ」

「車の整備工場」

「盲目の老女とヨランダの告発」

「鎖の男」

「羊飼い家族」

「ランドール教授との交流」

「農場主ジャン=ピエールと妻の嫉妬」

「献血」

「石工所」

「強姦未遂」

「葡萄畑の剪定」

「旅人と駅舎」

「廃墟の火災」

「祝祭」

「葡萄畑への逃避と死」

となっていました

 

その中で「カメラ目線でモナのことを話す人」の多くは、彼女を否定的に捉え、特に女性は敵意をむき出しにしています

その中でも彼女に好意的な言葉を紡ぐ人はいますが、俯瞰して見ると「モナの行動がそのまま跳ね返ってきている」という印象を持ちます

当初のモナは全方位に敵を作っている状況で、それはまだ余裕があったからと推測できます

でも、段々と余裕がなくなって、精神的に疲弊してくると、途端に異性に靡くようになっていきます

それでも、その異性に付随する女性などの反感を買うので、結局は追い出されるというシーンが繰り返されていきました

 

最終的に彼女はある駅の近くに辿り着き、そこで同じようにホームレスをしている男たちの中に混じっていきます

飢えを凌ぐために体の関係を持ったりすることも厭わなくなり、精神的にかなり疲弊して、正常な判断ができなくなってしまっていました

その後、火災から逃げるように町を彷徨っていると、そこでワイン祭りに遭遇してしまいます

意味のわからぬまま逃げた先には葡萄畑があり、そのビニールハウスで暖を取ろうとしますが、そこには全く温かみがありません

そして、翌朝には「自衛のために仕掛けられた害獣用の罠」に引っかかることによって、野晒しのまま凍死をするに至りました

 

映画ではジャン=ピエールやポロなどの男性が何度かモナに会うし、彼女を好意的に見ている人にも出会います

彼女が阻害され続けた背景には、それぞれの住民の自衛というものがあって、農家はそのまま畑を荒らされないように守ろうと罠を張るし、女性たちも自分の状況が不遇にならないように排除を考えます

モナが人と迎合できるキャラならば変わったとは思いますが、行く先々で彼女をよく思わない人に遭遇し、それによって悪い方向へと人生が転がっていきました

不条理といえばそれまでなのですが、相手には相手なりの条理があるところがやるせなくもありますね

 


フランスのホームレス政策

 

現在のフランスには30万人ものホームレス(シェルター避難民も含めて)がいて、その40%が女性と言われています

女性は人目を避けているので目立たないのですが、それはレイプ被害などが後を絶たないからですね

シェルターなどでも、男女混合の支援施設だとレイプ被害が起こるとされていて、そういったところに入らずに、自衛のために身を隠していると言われています

これらの現況を鑑みて、2018年末にようやく「女性専用施設」の増設が決まったとされています

 

パリの路上には5000人ほどのホームレス女性がいて、女性専用施設に入れているのはその4分の1程度と言われています

このような施設に入って、お金を節約し、アパートを借りれる生活に戻ることを目指しますが、そのレールに乗れない人が圧倒的に多いという現実がありました

映画の時代は1980年代で、今よりも施設も少なければ、ホームレスへの偏見も強かった時代でしょう

そんな中で、監督のアニエス・ヴァルダは「ある女性」の存在を知って、それが作品制作の原動力となっていました

 

映画の冒頭で、彼女はビーチで泳いでいるシーンがあり、そこで監督のナレーションとして「彼女は海から来たのかもしれない」という言葉が入ります

そして、モナはどんどんと大陸の奥地に入って行くのですが、海から距離ができるほどに、その肉体も精神も朽ち果てていくように見えます

モナ自身がどうしてこのような生活を選んでいるかはわかりませんが、はじめのうちは「キャンプをしている」というふうに人々に答えています

彼女自身が「ホームレスであることを否定している」ので、それは「同情を買いたくない」という心理があるのだと思います

本当ならば、同情を得て寝食を得る方が賢い生き方なのでしょうが、そのためには「同性からの憐れみと嫉妬に耐え、異性の慰み者になる」という覚悟が必要になるという現実があるのだと思います

本来はこんなことがあってはならないのですが、人は霞を食べて生きることもできず、目の前の欲を抑えることも困難な環境があるということでしょう

これらが改善されればホームレスも減るのかもしれませんが、その光はまだ見えていない状況であると言えます

また、女性のホームレスの末期にはレイプされて子どもを連れているというのも多くあって、中絶の費用も捻出できぬまま路頭を彷徨うという現実が社会問題になっています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画では社会に迎合できないモナの姿が映し出されますが、この映画におけるモナは「たくさんの目撃者の証言」により作り上げられた虚像に近い印象を持ちます

そして、この虚像は監督が映画制作の途上で出会ったある女性のホームレスの残像が色濃く反映されているのですね

伝聞と印象、それが重なったのがモナという人物になっています

ホームレスに対して良い印象を持つ人は少なく、自分の視界からいなくなってくれれば良いと思う人の方が多数なのですね

それゆえに、誰もが爪弾きにするように彼女の居場所を奪っていきます

 

最終的に彼女が辿り着いたのが、同じように「屋根も法律もない人々の居場所」で、そこすらも火災によって追われてしまいます

その後彼女が辿り着いたのは葡萄畑で、そこのビニールハウスに身を寄せますが、モロッコ人の農夫に見つかってしまいます

彼はモナを助けたいと思うものの、農場管理人はそれを許しませんでした

 

これらの背景にはフランスの農村地方の貧困というものがあって、身寄りのないホームレスを雇ったり、保護をしたりする余裕がないからだと言えます

なので、映画のタイトルには「法」という言葉があり、国家として取り組むべき案件であったという意味合いを含んでいます

映画は1985年のもので、現在は法整備も進んでいますが、それでも40万人とも言われるホームレスで溢れかえっている国です

今後、ホームレスの救済案はもとより、ホームレスを生み出さない政策が必要になりますが、コロナ禍によってそれらの動きが鈍化しているとも言えます

 

この映画が今になって日本で公開された意味はよくわかりませんが、監督の没後に再評価されたとされています

よく考えれば、1985年から約40年近く経っても、まだ対応に追われているという現状は根本の何かが間違っているのでしょう

それが制度や国家だけの問題ではなく、ここまで来ると個人や習慣、権利と主義主張などが絡んでくると思います

そう言った意味において、監督自身の目を通して描かれたモナという人物の方にも、何かしらの要因があるように見えるのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/20162/review/fda67b75-ded4-467a-890c-6f01bb820347/

 

公式HP:

http://www.zaziefilms.com/fuyunotabi/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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