■親子で同じ難題に向かうとき、最適解を導くのは子どもの方だったりするから侮れません
Contents
■オススメ度
SFジュブナイルが好きな人(★★★)
近未来の世界観が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.10.21(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、120分、G
ジャンル:取り壊し予定の団地に不時着した宇宙船を母星に帰そうと奮闘する子どもたちを描いたSF青春映画
監督:黒川智之
脚本:佐藤大
キャラクターデザイン:吉田隆彦
制作:ゼロジー
原作:今井哲也『ぼくらのよあけ(2011年、講談社)』
キャスト:声の出演
杉咲花(沢渡悠真:阿佐ヶ谷団地に住む小学校4年生、宇宙のことが大好き)
悠木碧(ナナコ:沢渡家の女性型のオートボット)
朴璐美(二月の黎明号:ナナコの体を使って語りかける謎の存在)
藤原夏海(岸真悟:悠真の友人、4年生)
戸松遥(岸わこ:真悟の姉、6年生、SNS命)
横澤夏子(岸みふゆ:真悟とわこの母)
岡本信彦(田所銀之介:悠真の友人、6年生)
水瀬いのり(河合花香:悠真の友人、女子とうまくいかない6年生)
津田健次郎(河合義達:花香の父、はるかたちの友人)
熊谷俊輝(デンスケ:河合家のオートボット)
花澤香菜(沢渡はるか:悠真の母)
細谷佳正(沢渡遼:悠真の父)
北川里奈(千石美智:わこのクラスメイト)
柚木尚子(佐山香里:わこのクラスメイト)
道井悠(市川実菜:わこのクラスメイト)
中川聡(TVの男性キャスター)
繁田美貴(TVの女性キャスター)
■映画の舞台
2049年の夏、日本(原作は2038年)
東京都:杉並区
阿佐ヶ谷団地
モデル:
プラウドシティ阿佐ヶ谷ガーデンA-2棟(旧阿佐ヶ谷住宅)
https://maps.app.goo.gl/dX2wnkLijES3TTF19?g_st=ic
天王橋(カエル取りの場所)
https://maps.app.goo.gl/r2PqdBDLyuUE9xobA?g_st=ic
杉並区立杉並第二小学校
https://maps.app.goo.gl/CjfCjuVD7GTKNGcR6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
取り壊し予定の阿佐ヶ谷団地に住む沢渡悠真は、家に導入されたオートボット「ナナコ」に落胆し、冷たい態度を取っていた
母は「仲良くしなさい」というものの、悠真はどうしても素直になれなかった
悠真は世間で話題になっている「SHⅢ–アールヴィル彗星」に夢中になっていた
ナナコには人工衛星「SHⅢ」と同じAIが搭載されていたが、単なる家事ロボット以上のことができなかったからである
ある日、友人の真悟のところに行ったきり帰ってこない悠真を探しにナナコは外出する
そこで、システムエラーが起きてしまい、動作が不能になってしまった
自動修復で戻るものの、原因不明のエラーを抱えたまま、ナナコは悠真のところに向かった
その帰り道、ナナコは取り壊し予定の団地へと勝手に消えてしまう
悠真は真悟と銀ノ介と一緒に後を追って団地の屋上へと登る
そこで彼らは、ナナコが「二月の黎明」と名乗る謎のAIに体を乗っ取られていることを知るのである
テーマ:青春の光と闇
裏テーマ:青春の夜明けの正体
■ひとこと感想
映像だけはすごい系かな〜と思っていたら、その勘はドンピシャな感じで、宇宙船が出現するところとか、「虹の根」のビジュアルなどは満足いくものでした
それでも、キャラ設定とか、ストーリー展開などは「ちょっとどうなの」というシーンが多かったですね
基本的には内輪揉め系で、そのやりとりが何度も繰り返されるので、だんだんと「勝手にやっといて状態」になってしまいます
かと思えば、いきなり使命感に溢れて、それまでの諍いがひとことで和解したりしていましたね
このあたりの流れを許容できればOKかと思います
テーマとしては、青春期の「夜」とは何かというところになっていて、それが明けていくために必要なものを描いていると言えます
そのテーマ性とかは良いのですが、子ども同士の喧嘩とかいじめとか不快な部分は多めかなと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人工衛星に搭載されているAIが家庭用家事ロボットに転用されている近未来で、小学校の授業とか、日常のゲーム風景などに近未来感がありました
空気中にディズプレイが出るいつもの仕様で、SNSもそのままアップデートされていて、「サブ」と呼ばれる「裏垢」なんかも出てきます
リア充っぽいわこが瞬時にハブられるとか、当てつけに花香をいじめていたりなど、闇っぽいところもありますが、メインテーマは「青春期の夜を作り出しているのは両親」で、それをナチュラルに描いていました
映像美は申し分ないのですが、やはりグダグダになる子ども同士の会話と、そのせいでテンポが悪くなっている部分でしょうか
微妙にリアルを追求しているのですが、不要なものはできるだけカットしておいら方がこれだけの尺はいらなかったと思いました
■時代が変わってもなくならないもの
映画の設定は原作と映画では10年ほど変わっていますね
原作は2038年で、映画は2049年となっていました
これによって、現在の私たちから見た未来観というものに影響を及ぼしています
15年後の未来と25年後の未来にどこまでの差異があるかはわかりませんが、映画で描かれる未来が15年後ではまだ無理ではないかと判断されたのかもしれません
それでも、10年延びたことによって、様々な弊害が出ているのも事実でしょう
映画で登場する阿佐ヶ谷団地にはモデルがあり、それは阿佐ヶ谷住宅と呼ばれる団地群でした
阿佐ヶ谷住宅というのは全350戸からなる巨大な団地群で、2013年に解体されています
原作が2011年のものなので、リアルに取り壊しが行われている最中になっていました
この2011年時点で、リアルに取り壊される阿佐ヶ谷住宅を2038年設定に変えたものが原作で、当時はそれが画期的なものとして映りました
無論、原作設定の2038年でも団地の取り壊しをしているということはないように思えますし、少子化もかなり進んでいて、団地を再開発する意味がその時代にまだあるのかも微妙かもしれません
それでも、取り壊されるはずの団地が実は宇宙船だった(正確には違うけど)というのは斬新なアイデアになっていましたね
映画では、そんな時代に生きる子どもたちが描かれていて、持っているデバイスとかは進化していますが、やっていることはほとんど変わっていませんでした
このあたりは未来だから斬新なことが起きると考えるよりは「今から25年前」もデバイスこそ違っても、子どもたちは「流行の何かで時間を潰していたよね」ということが思い出されますね
いじめ問題も当時からあったもので、SNSで露見したのか隠蔽されたのかはわかりません
今風のサブ(裏垢)みたいなものが出現していますが、これの発端は2018年頃だとされています(SNS登場後に急速に発展)
2011年の段階で「サブで相手をディスる未来」を描いていたというのは結構先見の明があったのでしょうか
原作未読なのですが、映画に際してのアップデートということなら、うまく現代風にアレンジされているのかなと思います
■子どもの成長に必要な大人との関わり方
本作は「親世代の難題」を子どもたちが解決するというストーリーになっています
二世代で宇宙船と関わることになっていて、悠真たちが為し得たのは宇宙船と関わった年代が関係しているのかなと思いました
映画の表記では、悠真の父たちが宇宙船を認知したのが中学時代のことでしたのね
この年齢の微妙な差が、宇宙船を母星に帰すための原動力として現れていたのだと思います
映画ではオートボットが二体だけ登場して、それは沢渡家と河合家のふた家族だけでした
銀之介や真悟のところにはオートボットがないのですが、それが経済的な違いなのかまではよくわかりません
悠真は団地に住んでいて、裕福な家庭というイメージはありませんでしたね
なので、想像するには、悠真の父たちは中学の時代に宇宙船の存在を知って科学方面に歩んだ、ということになるのかなと思います
就職先がそういう開発系で、普通の家庭よりは安価に購入できるということなのかなと想像しています
悠真たちが宇宙船を本気で帰せると思った具体的な根拠は描かれませんが、身近に科学的なものがあることと、悠真自身がその方面に異常な執着があるからでしょう
いわゆる「宇宙バカ」なのですが、小学生が宇宙に興味を持つのは家庭環境の影響が大きいのだと思います
そうした環境で育ち、それに興味を持つためには「家庭で肯定的に受け入れられる」というものが必要になります
もし、悠真の「宇宙バカ」に対して、家族や友人が否定的で芽を潰すようなものだったら、悠真が根拠のない自信を持てたのかは微妙だったと言えるのではないでしょうか
子どもがどう育つかは親の方針がかなりの影響を与えます
幼少期に習い事やクラブ活動をしますが、実際に体験しないと「自分にどんな趣味趣向があって、適性があるのか」がわかりません
私個人もそろばん、水泳、書道、少年野球などの習い事に、漫画クラブ、小説クラブ、サッカー部、野球部、MSXやPC8801などの様々なものにふれてきました
そろばんは秒で辞め(実際には消しゴム投げて遊んでいたので追い出されました)、運動系はそこそこだけど継続しないために、文化系に落ち着いています
子どもの時の習い事はお金がかかりますが、個人的には色々なものを試させて、3ヶ月続いたものを集中してさせるのが良いのかなと思っています
自分に合わないものを親の押し付けでさせるとストレスになるので、ある程度選択肢を広げる意味も込めて、多くのものにふれる機会を作ってあげられると良いのでしょう
ピアノを買えなくても、簡単なキーボードで良いでしょうし、そういった中で子どもの反応を見ていると、適性というものに近づいていきます
何らかの障壁を伴っても、子どもがそれにチャレンジしようとする姿勢を大事にすることで、自ずと進路というものは定まっていくのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作では「自発的に動く子どもたち」を描いていて、そんな中で様々な難題が降りかかるという内容になっています
また、彼らの計画が頓挫する流れにしても、等身大の問題ばかりで、大体が「感情的な反射によるもの」が多かったですね
それゆえ、大人から見るともどかしっこくて、少しばかりイライラしてしまうかもしれません
でも、子どもたちは「直に問題と接することで成長する」ので、むやみやたらに大人が介入すれば良いというものではありません
子どもの興味は移ろいやすく、費用も掛かってしまいます
経済的に裕福だと選択肢は増えるように思えますが、興味を細分化して掴んでいくことで、最短距離でそこにたどり着ける可能性があります
現在では様々なアプリケーションが無料で使える時代になっていて、多くのことが費用ゼロで始められたりします
でも、実際には選択肢が多すぎて、何をしたら良いのかわからないという問題が生じています
なので、可能な限り、アプリのような内包型よりも、すぐに手に取れるガジェット(おもちゃなど)の方が効果があると思います
家の中に多くのガジェットを置いておくのは難しいと思うので、たくさんのものにふれる機会を増やしてあげることが肝心だと思います
今だと複合型の商業施設には何でも揃っていますので、そこで好きにさせてあげたら良いでしょう
そして、時には子どもが立ち寄る可能性の低いところにも連れて行ってあげる方が良いのですね
ショッピングモールだと紳士服売り場とか、高度なスポーツ用品などがありますし、学校教育よりも先を行く「科学館」「博物館」「美術館」なども良いと思います
そうした先で「子どもが好き勝手に動くこと」を恐れるのですが、子どもたちのゾーンに入る場所では、そういったことが起こらなくなったりします
いきなり静かになって、夢中で何かを追い始める
これは本能的な部分が多くて、そして最適解に近い状況になっています
そこで、対話を積み重ねて、子どもがそこで立ち止まった理由について考えさせるのですね
そうすることによって、子どもの中でも感情や思考の言語化の訓練が培われるようになって、そのレベルが上がれば「自分がそこに惹かれる理由」というものに自然と足が運び、「やってみたい」と思うようになるのではないでしょか
実際にはもっと様々な問題があると思いますが、子どもが持つ執着というものは意外と侮れないものだったりします
その執着を親子で分解することで、良き情操教育が行われると考えているので、そういった場面に遭遇した時は、「これがチャンスなんだ(子ども目線)」で「大人の事情は傍に置いておく」というのが良いのではないでしょうか
本作のタイトルは『ぼくらのよあけ』でした
映画のラストで夜が明けるということは、物語の始まりは「夜だった」ということになります
そこで描かれていたのは「親子関係」であるとか、「子ども同士のいざこざ」であったりとか、日常で起こるものばかりでした
そうしたものと並行して行われた彼らのミッションは、執着が結晶となった瞬間であると思います
なので、夜が続くとしたら、子どもたちは自分が進むべき執着に出会っていないということになるので、その時が少しでも早く来るように、大人がサポートしてあげたら良いのかなと感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/382049/review/373472fd-4d39-47c3-98b2-522e2be25f48/
公式HP: