■ブギーマンを躾に使った大人は、殺される運命にあるのかもしれません
Contents
■オススメ度
古典的なホラー映画が好きな人(★★★)
スティーヴン・キング原作のファンの人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.24(T・JOY京都)
■映画情報
原題:The Boogeyman(悪い子どもを拐っていくと言われる民間伝承の鬼的存在)
情報:2023年、アメリカ、98分、PG12
ジャンル:セラピストの父が奇妙な患者と出会ったことで、一家に不可思議な出来事が舞い込んでしまうホラー映画
監督:ロブ・サベッジ
脚本:スコット・ベック&ブライアン・ウッズ&マーク・ヘイマン
原作:スティーヴン・キング『The Boogeyman(1973年)』
キャスト:
ソフィー・サッチャー/Sophie Thatcher(セイディ・ハーパー:母の事故死を引きずったままの高校生)
クリス・メッシーナ/Chris Messina(ウィル・ハーパー:セイディとソーヤーの父、セラピスト)
ビビアン・ライラ・ブレア/Vivien Lrya Blair(ソーヤー・ハーパー:セイディの妹)
Shauna Rappold(カーラ・ハーパー:事故死したセイディたちの母)
リサゲイ・ハミルトン/LisaGay Hamilton(Dr.ウェラー:ウィルが相談する精神科医)
Madison Hu(ベサニー:セイディの元親友)
Maddie Nichols(ナタリー:セイディにキツく当たる元友人)
Rio Sarah Machando(アン:セイディの元友人)
Leeann Ross(キャシディ:セイディの元友人)
Aadyn Encalarde(セイディのクラスメイト)
デビッド・ダストマルチャン/David Dastmalchian(レスター・ビリングス:ウィルの元に当然現れる謎の男)
マリン・アイルランド/Marin Ireland(リタ・ビリングス:レスターの妻)
Maisie Bogert&Eille Bogert(アニー・ビリングス:レスターの娘)
Cristala Carter(ガーランド:刑事)
Daniel Hagen(ブギーマンの中の人)
■映画の舞台
アメリカのどこかの田舎町(ロケ地はニューオーリンズ)
ロケ地:
アメリカ:ルイジアナ州
New Orleans/ニュー・オーリンズ
McDonogh 35 College Preparatory High School
https://maps.app.goo.gl/ZzV6rVrzBLXtQjH87?g_st=ic
■簡単なあらすじ
母を事故で失ったセイディと幼い妹ソーヤーは、傷が癒えぬまま、通常の生活に戻ることを余儀なくされていた
事故以来、セイディは高校でハブられていて、唯一声をかけてくれるのは「元」親友のベサニーだけだった
父ウィルはセラピストとして、自宅を診療所代わりにしていて、家族のために仕事を再開させていた
ある日、予約もせずに一人の男が現れ、彼はレスリーと名乗った
「家族を失ったあなたなら理解できる」と言い、ウィルは仕方なくセラピーを始める
初回の人は会話を録音するというルールに従い、話し始めるレスリーだったが、情緒不安定で何をしでかすかわからない状態だった
ウィルは席を外し、緊急通報をするものの、部屋に戻った時、レスリーは首を吊って死んでいたのである
警察が駆けつけて事情を聞くものの、ウィルには心当たりなどなく、レスリーは妻カーラのクローゼットで首を吊っていた
そして、その日を境に、ソーヤーは奇妙な音を聞き、全身黒ずくめの謎の物体と遭遇することになる
だが、誰もがソーヤーの話を信じることができず、事態はさらに不可思議で恐ろしい現象を引き連れてくるのである
テーマ:子どもを信じる心
裏テーマ:恐怖に侵食される人間の弱さ
■ひとこと感想
スティーヴン・キング作品は大好きで、彼の小説作法の本なども書棚に陳列されています
かなり古い小説の映画化になっていて、どうしてこのタイミングなのかはよくわかりませんでした
映画は、かなり古典的な感じになっていて、いわくつきの家族と関わったことで恐怖の伝染を起こっていく様子が描かれていきます
ブギーマンは民間伝承のような存在ですが、今回はガッツリと姿を見せるに至っていますね
主人公は姉妹で、ヤバいと分かっていながらも単独行動をしてしまうホラー映画あるあるを踏襲していますね
ちょっと暗いシーンが多めで、凝視する分出てきた時に怖いという感じになっていますが、光の演出が面白くて、フラグが立ちまくっていたところはコミカルに思えてしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作は、ある家族の忌まわしき事件をきっかけに、媒介者を通じて感染が広がっていくように描かれていました
しかも、広がっていく過程が「疑心暗鬼」という感じになっていて、ソーヤーが見ているものをセイディが覚知するまでにタイムラグがあるという感じになっています
映画は、怖がらせ系でチラ見せ系ですが、ラストにはクリーチャーの姿をきちんと見せていましたね
燃えるということは物理的な何かのようで、そこに繋がるまでの「ここ伏線!」というものがよくわかる仕様になっています
ブギーマンの伝説を知っている方が良いとは思いますが、単純に「子どもの恐怖を糧にしていたぶるのが趣味」という感じになっているので、意外なほどに死人が出ないタイプの映画になっていました
最後までブギーマンの正体はわかりませんが、得体の知れないものに襲われた時に「どうやって人に伝えるか」と言うのはかなり難しいと思います
見えている人以外に倒せないものでもあるので、それは恐怖の克服が本人にしかできないと言うところに通じているようにも思えました
■ブギーマンって何者?
ブギーマン(Bogeyman、Boogyeman)とは、「大人が子どもを躾けるときに使う民間伝承の一種」で、特定の外見を持たないとされています
一般的なビジュアルとしては、子どもたちを罰する男性的な怪物として描かれてきました
恐怖を擬人化する場合に登場するので、悪魔に近い印象があるとされています
ブギーマンの歴史は、19世紀半ば頃で、「悪魔の準固有名詞」という意味合いがありました
恐怖を意味する「Bogge」、ゴブリンを意味する「Bugbear」などが語源として関連づけされています
身体的特徴としては、爪と鋭い歯を持っていて、どちらかというと「精霊」のイメージがあるそうです
悪魔とか魔女、その他の伝説的な生き物というよりは、特定の動物の特徴を持っているのですね
映画でも、クリーチャーっぽさがあって、狼のようにも見えるので、動物感が強かったように思えました
ブギーマンにはいくつかの性格的特徴があり、「行儀の悪い子どもを罰する」「暴力を受けやすい子どもを守る」「罪のない子どもたちを守る」という感じで、全て「幼い子どもに世の中を教えてやる」的な性格をしています
悪質なブギーマンは「子どもたちを誘拐」「暴力を振るう」とされていて、「罪を犯したものを罰する」というブギーマンもいます
ブギーマンは色んな国にも同じような存在がいて、ポルトガルやスペインでは「サックマン(Sack Man)」、スペイン語圏では「エル ココ(Coco)」、ブラジルでは「Cuca」、地中海では「ババウ(Babau)」、ドイツでは「ブッツェマン(Butzemann)」などがあります
日本だと「なまはげ」が一番近いのでしょうか?
「鬼」「お化け」などもそうですが、恐怖によってコントロールするという文化は、どこの国にもあるところが面白いと感じました
■恐怖の芽生えと拡散のロジック
本作では、ブギーマンの存在を認知する順番というものがあって、ハーパー一家だと「ソーヤー→セイディ→ウィル(パパ)」という順番になっています
この流れになるのは、ブギーマン伝承自体が「大人のでっち上げだと知っている人ほど信じない」という感じになっていますね
ソーヤーの年齢だと、躾として登場するブギーマンを「本当にいる」と感じている世代なので、黒い影もそのように見えてしまうのですね
そして、ソーヤーの恐怖心を食らうことで、ブギーマンは実体化していくように描かれていきました
ソーヤーの次にブギーマンの存在を信じるのがセイディで、彼女の歳だと「ブギーマンは嘘」というのを知っているのですね
なので、ソーヤーが訴えても一向に信じず、自分が襲われることで理解するという流れになっています
この流れはウィルも同様で、彼の場合は「嘘をついた側」になっていて、彼だけはブギーマンの怒りを買っていたりするのですね
ソーヤーとセイディは嘘をつかれる側だったものの、ウィルは「ブギーマンの存在を自分のために利用する側」になっています
ブギーマンを凶暴化させているのは「嘘をつく側」なので、ブギーマンからすればたまったものではないでしょう
でも、本作のブギーマンは実に好戦的なので、彼のようなブギーマンが存在することが、ブギーマンを凶暴化させる要因になっていたりします
このあたりは、「鶏が先か、卵が先か」みたいな感じになっていて、ブギーマンを怒らせたから凶暴化したのか、元から凶暴だったのか、というどっちでも良いような問題が蔓延ることになりました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
原作は1973年のもので、短編小説としてオムニバス形式で所収されている作品でした
とは言え、これまでに何度映画のネタになったのか!というぐらいに登場していて、そのイメージの多くが暴力的で残忍という描かれ方をされています
ホラー映画の定番のようなキャラで、そのイメージを変えることもできないのですが、そのうち「優しい顔をしているブギーマン」とかが出てきてもおかしくないかもしれません
本作は、恐怖が伝播することによってブギーマンが実体化する流れを描いていて、最終的には「物理的な攻撃で死ぬ」という展開になっていきます
このラストの実体化は賛否両論で、そもそもブギーマンは実態のない恐怖の象徴なので、最後まで登場しない方が合っていると思うのですね
元々、実態のある暴漢が暴れている系なら良いのですが、ブギーマンのような「いるかいないかわからないから怖い系」というのは、実態が見えた瞬間に陳腐になってしまいます
しかも、炎上して死ぬという茫然とする流れになっていたのは驚いてしまいました
シナリオとしては、このブギーマンの燃えカスのようなものは発見されず、セイディたちが見たものというのが誰にも伝わらないエンドの方が良かったと思います
彼女たちの感じた危機は本当にあったものなのか?
このテイストで描く方が本作には合っていたと思います
本来ならば見せない方がベストですが、見せる方向で行くならば痕跡がないので確認できない路線でしょう
このあたりが少しだけ微妙に思えたので、ラストバトルは派手だけど、「何か違う感」というものが残ってしまったように感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.20thcenturystudios.jp/movies/boogeyman