■この未来を維持したい層にも、様々な思惑があったのだと思います
Contents
■オススメ度
カルト系の映画が好きな人(★★★)
内臓とか大丈夫な人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.24(T・JOY京都)
■映画情報
原題:Crimes of the Future(未来の犯罪)
情報:2022年、カナダ&ギリシャ、108分、PG12
ジャンル:臓器摘出パフォーマーと彼らを取り巻く闇の組織を描いたスリラー映画
監督&脚本:デヴィッド・クローネンバーグ
キャスト:
ビゴ・モーテンセン/Viggo Mortensen(ソール・テンサー:「加速進化症候群」にて体内で新しい臓器を成長させる男)
レア・セドゥ/Léa Seydoux(カプリース:テンサーのパートナー、臓器摘出パフォーマー、元外科医)
クリステン・スチュアート/Kristen Stewart(ティムリン:テンサーに関心を持つ国立臓器登録機関の女)
ドン・マッケラー/Don McKellar(ウィペット:国立臓器登録機関の男)
スコット・スピードマン/Scott Speedman(ラング・ドリティス:不慮の死を遂げた息子を持つ父)
リヒ・コルノフスキー/Lihi Kornowski(ジュナ・ドリティス:息子を手にかける母)
ソゾス・ソティリス/Sozos Sotiris(ブリッケン・ドリティス:プラスチックを食べる8歳の少年)
ウェルケット・ブンゲ/Welket Bungué(コープ刑事)
ヨルゴス・ピルパソプロス/Yorgos Pirpassopoulos(ナサティア博士:元美容外科医)
タナヤ・ビーティ/Tanaya Beatty(ベルスト:「Life Form Ware」のエンジニア)
ナディア・リッツ/Nadia Litz(ダニ・ルーター:「Life Form Ware」のエンジニア)
デニス・カペッツァ/Denise Capezza(オディール:カプリースの友人、肉体損壊パフォーマー)
アレクサンドラ・アンガー/Alexandra Anger(オディールの施術外科医)
タッソス・カラハリオス/Tassos Karahalios(クリネック:全身に耳をつけた男)
エフィー・カンツァ/Ephie Kantza(エイドリアン・ベルソー:クリネックの施術士)
ジェイソン・ビター/Jason Bitter(ター:ラングの仲間)
ペネロペ・ツィリカ/Penelope Tsilika(ビューティスパの客)
ビリー・シオガス/Billy Ziogas(ビューティスパの客)
ミハルス・ヴァラソグルー/Mihalis Valasoglou(NVU「ニュー・バイス・ユニット」のエージェント)
デスピーナ・ミロウ/Despina Mirou(切り合うカップル)
■映画の舞台
痛みと感染症の消えた近未来
ロケ地:
ギリシャ:
Piraeus/ピレウス
https://maps.app.goo.gl/WnCjRcKKshgiM5S37?g_st=ic
Athens/アテネ
https://maps.app.goo.gl/AkcVfyGEwTdAuCJGA?g_st=ic
Elefsina/エレフシーナ
https://maps.app.goo.gl/4ULGhs95nxQ7AcL57?g_st=ic
Iris Film Theatre(Summer Sinema)
https://maps.app.goo.gl/qPWePYq1Zyb9TCJaA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
痛みと感染症が消えた近未来
海岸で遊んでいた少年ブリッケンは、普通の食べ物は食べず、プラスチックを主に食していた
母ジュナは溜まりかね、彼を窒息死させ、その遺体の引き取りを夫ラングに投げた
その世界では、体内で未知の臓器を作り出せるソールと、その臓器にタトゥーを入れて、それを摘出するパフォーマンスをしているカプリースがいた
二人は「ビューティ・スパ」と呼ばれるサロンで公開臓器摘出をパフォーマンスとして行っていて、他にも全身に耳をつけた男がダンスをしたり、顔中に切り傷を入れて模様を作る女などもいた
臓器登録局も彼らのパフォーマンスを注視し、サロンに足を運ぶ
法律では、未知の臓器にはタトゥーを入れて管理する決まりになっていて、カプリースはそれに倣って彫っていた
ある日、息子を妻に殺されたラングがソールの元を訪れ、息子を公開解剖してほしいと言い出す
新しいパフォーマンスの提案に心が騒ぐふたりだったが、遺体を前にしてカプリースはできないと言い出す
テーマ:人類に必要な進化とは何か
裏テーマ:生物の正常化バイアス
■ひとこと感想
試写会で退場者続出という謳い文句に「どれどれ」と思って臨みましたが、医療現場にいると感覚が麻痺していますね、はい
臓器摘出とか、皮膚切開とかの写真は診察室のそこらへんに貼ってあるので耐性がついてしまっていたようです
映画は、そのグロを楽しむというよりは、痛覚の消失によって変化した人類の欲望というものを描いています
「手術はセックス」というキャラも登場し、ぶっ飛んでいる価値観が次々と重なっていきます
いくつかの組織が登場しますが、どれもが胡散臭い感じになっていて、その関係性の説明はほとんどありません
観客が少ないのにあっさりとパンフが売り切れていましたが、意味がわからなかった人が救いを求めて買っているのかなと思ってしまいます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
どこまでがネタバレなのかわからない映画ではありますが、一応はミステリー仕立てのようになっています
ソールは刑事と関係がある内定者なのですが、何を追いかけているのかわからない感じになっていましたね
臓器登録局の二人も役員には見えず、嬉々としてパフォーマンスを見ているあたりは怪しさが満点だったりします
テーマとしては、降って湧いたような環境問題と人類の進歩のようなものがありますが、ソールの体で「プラスチックを消化できる器官」は作れないようですね
いわば、神様は環境問題に関して無頓着で、人類だけが切望している問題のようにも思えてきます
■この未来が描くもの
映画の設定では、「痛覚と感染症がない世界」となっていて、それによって「通常だと痛くてできないこと」ができるようになっていて、清潔観念がぶっ飛んだ世界になっています
ガラスで隔たれているような無菌室ではなく、飲み食いしているようなサロンでパフォーマンスが行われていて、その行為に「痛みを想像する」という反応が見受けられます
この観客の反応から察すると、元々痛覚があった世界から「ある日突然消えた」という感じに思えました
生まれた時から痛覚を感じていない人類と、痛覚の存在を知っていて、それが失われたけど想像できる人類がいる、という感覚ですね
劇中で生まれながらに痛覚がないのは、殺されたブリッケンだけのように思えます
ブリッケンの母ジュナが彼を殺すに至った理由は、彼がプラスチックを食べているからで、自分の中からこんな悍ましいものが産まれたとは認めたくない、という感情がありました
彼女が「悍ましい」と感じているというのは、それが異質であるという世界があった証拠にもなっていて、ブリッケンは人類にとっての特別な存在として「公開される」に至ることになりました
痛覚のない世界だと人の寿命は大幅に縮まり、それによって人口減少も激しくなると推測されます
痛みの緩和は人生の終盤におけるメインテーマのようなもので、痛みがあるからこそ、人は行動をセーブするに至ります
でも、ブリッケンのように「痛覚以外にも特殊な構造を持つ存在」というのは希少種で、これが作り出された人工物なのか、天然における進化なのかは明確ではありません
かつて人類の目的は「繁栄」であり、種の保存というものが念頭にありました
それが飽和した現代では、爆発する人口激増を人為的に抑えた結果、今度はコントロールできない少子高齢化へと舵を切っています
本作のように痛覚のない未来というのは、高齢化を抑え込む可能性がとても高いでしょう
ソールの新しい臓器を生み出すという流れはよくわかりませんが、プラスチックを消化できる個体の出現によって、彼の中で起こっていることは、ある野望に動かされている、という感じがしないでもありません
その最たる理由としては、「死を恐れない軍隊を作ること」になると思うのですが、そのあたりの背景は完全に隠されていたように思えます
■人類の快楽の涯て
映画内にて、臓器登録局のティムリンが「手術は新しいセックス」という表現をしていました
突き詰めると、セックスそのものは「異物を体内に入れる」というもので、そこに快楽というものが付随しています
本作では、痛覚がないために「皮膚を切開して異物を入れる」という行為そのものに抵抗がなく、体幹の至るところの空間は快楽に続く「柔らかい部分」という感じになっています
穴という穴を快楽に結びつけてきた人類は、痛覚の消失によって、穴のない場所に穴を作ることで、これまでにない快楽の追求へと突き進むことになります
人体に穴を開ける行為が快楽につながるというのは、さほど理解できない範疇ではありません
ボディメイクとして、様々なところに穴を開けては異物を装飾するという文化が根付いていて、それの延長線上のように見えてくるのですね
それによって、体内を掻き回される快感というものが生まれることで、それ自体がセックスに近い行為に派生していったのだと思います
穴の中に異物を入れることを快楽だと感じられるのは性差がありますが、映画内ではカプリースとティムリンという女性の共通の会話になっていたところに意味があるのかなと感じました
人間の快楽への追求は文明の進化の歴史のようなものに見えてきます
フェチズムの台頭によって、様々な性的趣向というものが生み出され、それは言語化ならぬ映像化の歴史でもありました
かつて働いていた店でアダルト関連を販売していたのですが、「誰が買うんだろう」と思えるようなフェチ系のビデオ(当時はDVDがなかった)が1万円以上で飛ぶように売れるという体験があり、人ってわからないものだなあと感じた記憶がありますね
このフェチズムの進化は快楽の追求と相関関係があるのですが、その土壌を作るのが「人類が直面する問題」だったりするところが面白いところだと言えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のタイトルは「Crimes」ということで、様々な犯罪というものが描かれていきます
核となっているのはプラスチック食材で、それを消化できない人類を淘汰するために作られている節があります
近未来において、痛覚のない世界は人類を思わぬ方向に進化させていて、これまでは胃腸まで届かなかったものが届く世界になっています
ブリッケンがプラスチックを食べられるようになったのは、痛覚消失の弊害のようなもので、飢餓から目の前のものを食べるに至ったから、と推測されます
子どもの時は「口にしてはいけないものを口にする」のですが、大体のものは痛覚によって遮られて、それ自体を摂取するというところに至りません
口にしてはいけないものは、そのまま消化管を通り、そのまま排出される傾向があります
昔ながらの考えでは、「異物を飲み込んだら、出てくるまで待つしかない」的な対処療法みたいなものがありました
ビー玉などを飲み込む異物摂取は、原型をそのまま留めて排出されてきましたが、今回のように痛覚クリアで咀嚼できるものというのは、ワンチャン消化に向かう可能性があったのですね
そこで消化され、体に吸収されたものは、本来ならば拒否反応を示して、毒物摂取のように死に至るものなのですが、それをクリアする個体が出てきた
これが、本作における近未来の姿なのでしょう
映画は、この消化が可能な人類を認知させたくない当局と、それを一般公開して世間に知らしめるラング側のパワーゲームになっていました
最終的には、当局側とされるティムリンによってブリッケンの内蔵は取り替えられていて、これらの臓器はかつてカプリースがソールから摘出したタトゥー入りの臓器であったように思えます
その後、ラングは「Life Form Ware」の二人組に殺されるのですが、彼女たちが当局に通じていたのかなどは不明瞭な感じになっていました
ラングの存在は世界にとっての脅威には違いないのですが、当局の考える脅威と、ティムリンが考える脅威は意味が違います
また、ティムリンとブレスト&ルーターの思惑は似通ったところがあったように思えました
当局は、プラスチックを食べる人類の存在認知を恐れていて、それは潜在的な予備軍を掘り起こすことで、食糧危機的な問題や、毒物汚染を懸念しているのだと考えられます
一方のティムリンたちは、自分たちの快楽を優先させていて、この世界の維持を考えていました
社会の動乱によって価値観が変わってしまうことを恐れていて、このままで良いと考える保守的な部分がありましたね
その保守の目的が個人的な快楽の追求、ひいては自身の経済活動の継続へとつながっているものなので、思惑が合致したところがあるのでしょう
なので、個人的な感覚では、ティムリンは当局とは結びついていないけど、彼女とブレスト&ルーターは目的一致として繋がっていたのかなと感じました(合ってるかどうかはわかりませんが)
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: