■散った花びらの美しさは、咲き誇っている時にはわからないものだったりするのですね
Contents
■オススメ度
ボクシング映画が好きな人(★★★★)
ヒューマンドラマが好きな人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.25(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2023年、日本、133分、G
ジャンル:後がない人生に挑むボクサーとトレーナーを描いたスポーツボクシング映画
監督:瀬々敬久
脚本:瀬々敬久&星航
原作:沢木耕太郎『春に散る(朝日新聞社)』
キャスト:(わかった分だけ)
佐藤浩市(広岡仁一:40年ぶりに故郷に戻った元ボクサー)
横浜流星(黒木翔吾:一度ボクサーを断念した男)
橋本環奈(広岡佳菜子:仁一の姪)
坂東龍汰(大塚俊:東洋チャンプ)
尚玄(郡司:大塚のセコンド、ジムのトレーナー)
松浦慎一郎(山下裕二:「山の子ボクシングジム」のトレーナー)
坂井真紀(黒木和美:翔吾の母、ガソスタ勤務のシングルマザー)
奥野瑛太(原田:和美の彼氏)
窪田正孝(中西利男:世界チャンプ)
小澤征悦(巽会長:中西のジムの会長)
片岡鶴太郎(佐瀬健三:仁一の旧友、元ボクサー)
哀川翔(藤原次郎:仁一の旧友、元ボクサー)
山口智子(真田令子:亡き父からボクシングジムを継いだ仁一の旧友)
宮田佳典(パパボクサー)
佐々木麦帆(居酒屋のチンピラ)
宮澤佑(シンジ:居酒屋のチンピラ)
安藤稜(タイチ:居酒屋のチンピラ)
福地勇治(ボクシングのレフリー)
染谷路朗(ボクシングのレフリー)
亀海喜寛(ボクシングの解説者)
冨樫光明(リングアナ)
須藤尚紀(リングアナ)
清瀬汐希(ラウンドガール)
上運天美聖(ラウンドガール)
渡邉愛乃(弁当屋の少女)
有山実俊(弁当屋の少年)
片岡礼子(次郎の恋人、遺影)
■映画の舞台
東京:荒川周辺
大分:大分市
ロケ地:
千葉県:船橋市
ハレカフェ
https://maps.app.goo.gl/cVPKizXVuDTUY84R9?g_st=ic
千葉県:松戸市
テラスモール松戸
https://maps.app.goo.gl/mFu7a427tCCccREb6?g_st=ic
東京都:江戸川区
UNITED BOXING GYM
https://maps.app.goo.gl/xJ66BPmNP8dzRVRw7?g_st=ic
東京都:練馬区
三迫ボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/TKcc73jucKQDyYUi7?g_st=ic
東京都:世田谷区
カネコボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/dYpcjc2U2pagdJpJA?g_st=ic
東京都:文京区
後楽園ホール
https://maps.app.goo.gl/hrCo876PyZvVBiS17?g_st=ic
東京都:北区
王子ビアガーデン 集っこ
https://maps.app.goo.gl/aYTfUrvf9kbigt7r7?g_st=ic
神奈川県:平塚市
平塚総合体育館
https://maps.app.goo.gl/ag4ZpnohaW97x3Qt7?g_st=ic
大分県:大分市
早吸日女神社
https://maps.app.goo.gl/ALtQ86nmqkg6ytaP6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
かつて世界王者を目指してアメリカに渡ったプロボクサーの広岡仁一は、夢破れて、そのまま現地の日系人に拾われてホテルマンとして活躍していた
40年ぶりに日本に戻った仁一は、かつてのボクシング仲間を探しまわっていた
ある居酒屋で周囲の迷惑を顧みないグループを注意した仁一だったが、路上で売られたケンカを見事に捌いて見せる
その様子を見ていた黒木は、彼に殴りかかり、あっさりとカウンターを受けて沈んでしまう
その後、旧友たちと再会を果たした仁一は、都内の事故物件を借りて住むことになった
そして、そこに黒木は現れ、「ボクシングを教えてくれ」と頼み込む
黒木はかつてプロボクサーとして活躍していたが、ある理由でリングから遠ざかっていて、この出会いを運命だと感じていた
だが、仁一はボクシングを教える気などさらさらなく、それでも黒木は必死にしがみつくことになったのである
テーマ:運命が紡ぐ一瞬
裏テーマ:美しく散ると言うこと
■ひとこと感想
ボクシングシーンが話題の本作は、物語の筋はだいたいセオリー通りになっていて、ステータスをボクシングシーンに全振りしているような内容になっています
老いた天才ボクサーの元に若手の無鉄砲がくると言うテンプレートですが、家庭背景などもそこまで変わった設定にはなっていません
帰国した仁一も体を患っている設定で、いつ倒れるか? 今でしょ!と言う感じになっていました
人間関係の説明を悉く省いているので、時間が経つとともに深まる関係性というのは唐突感は否めません
特に、いつの間にか良い仲になった黒木と佳菜子の感情の変化はほぼスルーになっていて、気がつけば同棲しているみたいな感じになっていました
物語はあっさりとしていますが、ボクシングのシーンだけはコッテリと言う印象で、練習シーンを含めても本物感というものがありました
ボディダブルを使わずにガチでシーンを撮っているようで、死闘を演出する技術はすごいものがあったと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
予告編から察する物語が予定調和に見えていて、誰かの人生なのかと思っていました
実際にはフィクションということで、色んなボクサーの人生が入り混じっているような感じになっています
映画は去り行く老兵が向こう水の若年を指導するというもので、「この瞬間を生きると決めた二人」が、人生を賭けて試合に臨む様子が描かれていきます
「将来がある」「今しかない」論争というのは常に付き纏いますが、最終的には「ボクシングをしている悦び」によってトランス状態になっていて、ブレーキを踏まないという選択をしています
あそこまで来ればタオルを投げるということはあり得ない感じになっていて、最後の3分をどうか生き抜いてくれ、という感じに思えてきます
タイトルはダブルミーニングになっていますが、ほぼネタバレという感じになっていますね
ラスト付近はかなり蛇足感が強い感じになっていました
■ボクシング映画がヒットしない理由
国内外を問わずたくさんのボクシング映画がありますが、過去作で一番ヒットしたとされているのが『ロッキー4』の1億2787万ドルであると言われています
この『ロッキー』シリーズの他には『ミリオンダラー・ベイビー』1億49万ドル、『クリード チャンプを継ぐ男』1億976万ドルが1億越えをしている作品になっています
邦画のボクシング映画と言えば、『あゝ荒野』『ケイコ 目を澄ませて』『百円の恋』『BLUE/ブルー(3000万円)』『ラブファイト』『キッズ・リターン』『あしたのジョー(11億円)』『初恋(21万ドル)』などがあります
個人的には、ボクシング映画は大体観ている方ですが、ムーブメントを起こした作品というのはあまり記憶にありません
演技が凄くて賞レースでノミネートや受賞というものは見かけますが、全世界で大ヒット!みたいな『ロッキー』のような作品はなかったりします
唯一、それに近かったのが『あしたのジョー(2011年版)』だと思いますが、原作の力が強いように思えました
日本のエンタメでボクシングを扱っているものはたくさんあって、『あしたのジョー』を筆頭に『はじめの一歩』『がんばれ元気』『BB』『リングにかけろ』『リクドウ』『僕』『太郎』などがありますが、実写化されたのって『あしたのジョー』ぐらいだったりします
アニメ化はできても実写化にはハードルがあって、それは試合のシーンの難しさとリアリティの問題なんだと思います
最近の評価軸は「演者がボクサーに見えるか」というものがあって、それをクリアしている作品は多くなりました
それでもメガヒットに繋がらないのが不思議で、リアルのボクシング人気がないわけではありません
ボクシングシーンが完成されていても、ドラマ部分の難しさがあるのがスポーツ映画の難しいところで、結局のところ「強い奴無双」「弱い奴這い上がり」のどちらかしか選択肢がなかったりします
地下格闘技になってくると純粋なボクシング映画ではなくなってしまうし、『グラップラー刃牙』のような総合格闘技系の一部にボクシングが登場しても存在感が薄めになってしまいます
リアルの世界でも「無双」「成り上がり」というカテゴライズされたボクサーが人気になるのですが、映画になると「無双系」というのはあまり描かれないのですね
大体が敵が無双系というものが多く、主人公がそれを倒して王者になるというのがテンプレート化しています
この御涙頂戴系に属する成り上がりは、ボクサーの生命線である視力や怪我などを付随させ、ヒューマンドラマも「戦う理由」というものに固執しがちです
いじめられっ子が頑張る系、視力と引き換えに大きな大会に臨むなど、ボクシング=ハングリーというイメージが強すぎるのですね
でも、ボクシング映画で観たいのは「爽快なノックアウトシーン」だったりするので、それこそ「無双系」がもっと作られても良いのだと思います
天才ボクサー系も中にはありますが、家庭の事情、体が脆いというのがテンプレートになっているので、「強い者同士がガチで戦って打ち砕く」というスタイルもあっても良いと思います
卑怯な相手をも腕力でねじ伏せるという物語が生まれて、いろんなバリエーションが出てくれば、これまでのスタイルも輝いてくるのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
本作は、ノンフィクション作家の沢木耕太郎さんによる「フィクションドラマ」になっていて、エピソードの一つ一つにはモデルがあるのかなと推測されます
骨子となるのは「拳の伝承」であり、かつて理不尽な判定で負けた二人が師弟になっていく様子が描かれていきました
物語の始まりの段階では、「アメリカで実業家になった元ボクサー」が身体問題で帰国し、晩年を母国で過ごすという流れになっています
余生を静かに過ごすはずが、翔吾に見つかったことによって、再度ボクシングの世界に引き摺り込まれます
これは、積み残した荷物という意味合いがあり、それを下さなければボクサー人生は終わりを告げてくれないところに通じています
この「仁一に付随するボクサー人生を終わらせる」というのが第一義で、その範疇の変化を促すのが翔悟の存在になります
翔悟は、かつて仁一が成し得なかったことをやってのける役割があり、そのためには「仁一のラストマッチの再現」というののが必要になってきます
翔悟のタイトルマッチが、まるで仁一の戦いとダブることで、観客は「あの時のリベンジが成し得た」ということが理解できるのですね
でも、本作では「仁一のラストマッチは言葉で説明されるだけ」であり、理不尽な判定で負けたという曖昧なものでしかありません
仁一の物語なのに、彼の挫折を描かないので、翔吾がそれを果たしたとしても、運命的なものがわからないようになっています
映画は、仁一の人生という外堀を埋めたなら、内堀となる翔吾の物語を完成させなければなりません
翔吾の人生の前半は「若き頃の仁一」であり、後半になって「彼なりの工夫」というものが生まれてきます
翔吾は仁一のことを知っているようですが、どこまで知っているのかは謎なのですね
年齢差を考えると、翔吾は仁一の現役時代を知らないと思うのですが、そのあたりは曖昧な感じになっています
とりあえず「自分を倒したロートル」という域を出ておらず、それではリンクのしようがないと思います
翔吾の背景は父は蒸発、母はシングルマザーで新しい男とイチャイチャしているので家には居場所がありません
母の恋人・西田はチンピラ風ではありますが、家に居づらくなるほどの脅威にはなっていません
なので、特段必要なキャラではなく、母はボクシングに反対しているというだけでOKだと思います
西田を登場させるなら、もう少しきちんとした絡みが必要で、単に母親の不遇を演出するだけの小道具では意味がないのですね
翔吾の父がどんな男だったのかもわからず、母親を守るためにボクシングを始めたとしたならば、彼の父も同じくDV男だったという感じになると思います
となると、幼少期のエピソード(強くなりたいと願うきっかけになったもの)が必要になって来るのですが、その辺りもぼやけた感じになっていましたね
本作は、起点となる主人公たちのポジション設定が効果的ではなく、翔吾が世界王者になったとしてもカタルシスが生まれようがありません
中西の強さも劇中ではイメージ語りでしかなく、それならばジムの先輩の大塚がボッコボコにされるというような、間接的な強さの誇示というのは必要だったでしょう
中西のボクサー像というものが見えてこないので、乗り越える壁すらも曖昧な感じになっていたのは微妙だったと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画のタイトルは「春に散る」ということで、「散る=負のイメージ」になっています
翔吾が試合で負けるのも「散る」に属するし、仁一の命が尽きるのも「散る」に属します
映画では完全スルーではありますが、翔吾と佳菜子の男女関係の破綻も「散る」に加えることができたと思います
この「散る」に抗うのが映画の骨子になっていて、それは世界戦における勝敗に集約されていました
でも、実際には「目的を達成することができて、心置きなく死ねる(散ることができる)」というところに落ち着いていたので、映画の結末は「仁一が倒れているシーン」で終わってしかるべきだったでしょう
その後も、佳菜子と同棲らしきものを始めている翔吾であるとか、リクルートスーツに着替えて別の人生を歩んでいく様子が描かれていました
このあたりの締め方が実に蛇足感が強くて、仁一の人生の物語なのに翔吾のエピローグが必要なのかは微妙なのですね
彼がボクシングを辞めざるを得なくなったということがわかればいいので、それは「試合後に目が見えていない」というところをクローズアップすることで形になっていると思います
理想的なラストは、試合が終わりコーナーを間違える翔吾、その異変に気づく仁一、胸部絞扼感の出現によって死期を悟る仁一という流れのあと、会場を後にした仁一がそのまま夜桜に埋もれて亡くなるというものでしょう
仁一が消えて、どこにいるかわからないために翔吾が彼の名を叫び続けている
そうした先にある未来というのは、あえて映像にする必要なありません
仁一を探す翔吾を、佳菜子が後ろから抱きしめるだけでも伝わると思うので、映像の力を信じて、情報だけを提示することで、もう少し完成度が高くなるように思えました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://gaga.ne.jp/harunichiru/