■永遠に思える旋律を終わらせるのは、人間の手によってということかもしれません
Contents
■オススメ度
ラヴェルの楽曲「ボレロ」誕生秘話に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.9(京都シネマ)
■映画情報
原題:Boléro
情報:2024年、フランス、121分、G
ジャンル:作曲家ラヴェルが「ボレロ」を制作する過程を描いた伝記映画
監督:アンヌ・フォンテーヌ
脚本:アンヌ・フォンテーヌ&クレア・バー&ピエール・トリビディク&ジャック・フィエスキ&ジャン=ピエール・ロンジャ
原作:マルセル・マルナ/Marcel Marnat『Maurice Ravel(1986年)』
Amazon Link(原作:ペーパーバック)→ https://amzn.to/3MF54HO
キャスト:
ラファエル・ペルソナ/Raphaël Personnaz(モーリス・ラヴェル/Maurice Ravel:音楽家、指揮者)
(幼少期:Max Harter)
ドリア・ティリエ/Doria Tillier(ミシア・セート/Misia Sert:モーリスの想い人)
ジャンヌ・バリバール/Jeanne Balibar(イダ・ルビンシュタイン/Ida Rubinstein:バレエダンサー、振付師)
エマニュエル・ドゥボス/Emmanuelle Devos(マルグリット・ロン/Marguerite Long:ピアニスト、モーリスの友人)
バンサン・ペレーズ/Vincent Perez(シパ/Cipa Godebski:モーリスの親友、ミシアの弟、作家)
ソフィー・ギルマン/Sophie Guillemin(ルヴロ夫人/Mme Revelot:ラヴェル家のメイド)
Bruno Fleury(エドゥアール・ラヴェル/Edouard Ravel:モーリスの父)
Anne Alvaro(マリー・ラヴェル/Marie Ravel:モーリスの母)
Florence Ben Sadoun(マダム・マザー/La mère maquerelle:売春婦のオーナー)
Iris Wien(モーリスの相手をする売春婦の女の子/Fille maison close)
Mélodie Adda(踊る売春婦/La prostituée aux gants)
アレクサンドル・タロー/Alexandre Tharaud(ピエール・ラロ/Pierre Lalo:音楽評論家)
Katia Tchenko(ヴォルヴォデカヤ夫人/Mme Volvodekaya:透視能力者)
Serge Riaboukine(アルフレッド・エドガーズ/Alfred Edwards:ミシアの夫)
Constance Verluca(エレガントな女性/La femme élégante)
Joniece Jamison(ハーレムの歌手/La chanteuse Harlem)
Jelle De Beule(ニューヨークのジャーナリスト/Le journaliste New York)
Jean-Chrétien Sibertin-Blanc(ローマ賞の審査員/L’assesseur Prix de Rome)
Orianne Daudin(歌手/Chanteuse)
Guy Dierckx(ジャズクラブの観客/Spectateur jazz-club)
Elisa Doughty(イダ・ルービンシュタインの崇拝者/Une admiratrice d’Ida Rubinstein)
Raphaël Cohen(吊るされている負傷兵/Le soldat blessé)
Roméo Spadone(口笛を吹く労働者/L’ouvrier siffleur)
Marie Denarnaud(売春婦/La prostituée)
François Alu(イダの相手役のダンサー/Danseur étoile)
【バックダンサー/Danseuse premier plan】
Patricia Ardissone
Massimiliano Arnone
Linus Janser
Thi Mai Nguyen
Aurélien Oudot
Eléonore Pinet Bodin
【サポートダンサー/Danseuse second Plan】
Mária Branco
Evelyne De Weerdt
Nino Patunao
Max Stofkooper
Marco Torrice
Violette Wanty
【ダンサー/Danseuse】
Yamuna Huygen
Félix Rapela
Paul Vezin
Nicolas Vladyslav
【NYジャズオーケストラ/Orchestre jazz New York】
Irving Acao
Xavier Belin
Felipe Cabrera
Christian Dodu Mianok
■映画の舞台
フランス:パリ
ロケ地:
フランス:パリ
フランス:イヴリーヌ県
モンフォール・ラモーリー/Montfort-l’Amaury
https://maps.app.goo.gl/9zvWtsJTeRQ8KVER8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1928年、フランスのパリにて、作曲家のモーリス・ラヴェルは、コンサートの成功を重ねていた
ある日、友人のバレエダンサーのイダ・ルビンシュタインから「次のバレエの作曲をしてほしい」と依頼される
当初は、既にあった楽曲をアレンジする予定だったが、権利の関係で使用できず、1から新しい楽曲を作成することになった
ラヴェルには、恋心を抱くミシアと言う女性がいたが、彼女は既婚者で、夫は富豪の報道家アルフレッド・エドワーズだった
彼は友人のピアニスト・マルグリットや、作家のシパと交流を持っていたが、締め切りが迫ってもなお、楽曲のイメージは湧かなかった
イダには順調であると告げるものの、まったくの兆しを感じられないラヴェルだったが、ある日常に隠れた規則的な音が音楽であることに気づく
そして、同じメロディーとリズムを繰り返す「ボレロ」という楽曲の制作へと突き進むようになったのである
テーマ:日常のリズム
裏テーマ:愛と音の重積
■ひとこと感想
誰もが聴いたことがある楽曲というのはたくさんありますが、最初から最後までメロディを追える人は少ないと思います
でも、「ボレロ」はひたすら同じメロディーを繰り返して行くように聞こえる(実際には違うけど)ので、何となく知っている感があったりします
映画は、その「ボレロ」の誕生にまつわるお話なのですが、実際には「ラヴェルの叶わぬ恋」みたいなところが主軸になっていました
旦那は何も言ってきませんが、手を出したら最後ということは誰でもわかります
ミシアとは相思相愛ではありますが、この頃の結婚には色んな思惑があったことは容易に想像できてしまいます
そう言ったしがらみの中で、一線を越えることはなかったのですが、実際にはどうだったのでしょう
赤い手袋のエピソードを考えると、彼自身には特殊な感覚があったのかな、と感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
「ボレロ」を見てしまうとあのメロディーが延々と頭の中でリフレインしてしまうのですが、生活に困るほどに嫌な音楽じゃないというのは面白いなあと思います
最近のDTMで作られたループミュージックとは違った感覚になるのですが、それはオーケストレーションがうまく機能しているからなのかもしれません
映画では、「ボレロ」が実はバレエのために書き下ろされた楽曲で、その解釈が作曲者と振付師とで違うというものが描かれていました
ラヴェル自身は工場のような機械的なもので、イダは生命の中に息づく鼓動であると定義しています
その命の果てに官能があり、それこそが人間であると定義づけていました
ラヴェル自身は自然音と融合する機械音というイメージを膨らませていて、それは人間社会を豊かにしたけれど、精神を満たしたかどうかはわからないと考えていました
でも、そう言った根幹となるリズムは表層がどうであれ同じもので、ラヴェル自身がオーケストラで肉付けした部分は、人間で言えば「生活」だったと言えるのかもしれません
■「ボレロ」について
映画で登場する「ボレロ(Boléro)」は、フランスの作曲家、モーリス・ラヴェルが1928年に作曲したバレエ曲でした
同一のリズムが保たれている中で、2種類の旋律が繰り返される楽曲で、現在に至るまで広く演奏され、アレンジされています
ちなみに、2016年5月1日に、フランスにおける著作権が消滅しています
楽曲が生まれるまでの経緯はほぼ映画で語られていて、バレエ演者のイダ・ルビンシュタインの依頼によって、スペイン人役のためのバレエ曲として作曲されています
当時は、イサーク・アルベニスのピアノ曲集『イベリア』をオーケストラ編曲する予定でしたが、『イベリア』にはアルベニスの友人のエンリケ・フェルナンデス・アルボスの編曲がすでにありました
その権利を譲り受けるという話も出ましたが、結局はラヴェルが1から作曲をするという流れになっていきます
作曲活動は、彼の別荘であるサン=ジャン=ド=リュズにて、友人のギュスターヴ・サマズイユに初めて披露した、とされています
ちなみに「ボレロ」とは、スペインで18世紀頃にセギディーリャの一種として作り出された4分の3拍子の舞曲のことを言います
この楽曲が初めて演じられたのは、1928年11月22日のパリ・オペラ座で、イダ・ルビンシュタインのバレエ団によって行われています
オペラの内容は、セビリアのとある酒場が舞台で、一人の踊り子が舞台で足慣らしをしていると、やがて振りが大きくなって、お客さんも注目し始め、一緒に踊り出す、というものでした
楽曲の独占権は1年で、それが切れた翌年からは各地のオーケストラによって演奏されるようになりました
■ループミュージックの未来
映画に登場する「ボレロ」は現代風に言うとループミュージックの一種で、同じリズムで15分間スネアドラムが鳴っていると言う構成になっています
テンポは約96bpmで、ループトラックが徐々に変化すると言う内容になっていました
また、次のテーマに移る際に楽器が増えていくので、必然的にボリュームが上がっていくのですね
クライマックスに向かう中で高揚感が生まれ、それが曲全体のイメージとして色濃く残っているように思えました
ループミュージックは、基本的に同じフレーズを繰り返していく演奏方法で、歌謡曲のような「Aメロ、Bメロ、サビ」のような展開はほとんどありません
最近だと、エド・シーランがルーパーを使って、少しずつ音を録音したものを重ねていく手法で楽曲を演奏していますね
各トラックをその場で録音し、ON/OFFを切り替えることによって曲の構成を作っていき、最後にメロディーラインを乗せると言う感じになっています
ルーパーは楽器やボーカルのフレーズなどを録音してループ再生できるエフェクター&プレイヤー&プロセッサーで、その機能を搭載したシンセサイザーなどもあります
ずっと同じリズムやメロディーが鳴り続けて面白いのかと言われたら、「聞いてみたらわかるよ」という感じで、そこには様々な色付けがなされています
1人でも多くの音を重ねることができるし、その場で演奏しなくても、あらかじめ録音したり、サンプリングをしたものを乗せることもできます
ボイスパーカッションとかヒューマンビートボックスができちゃう人とか、ギターしかできなくても、ギターを叩くことでドラムっぽい音を出したりとかできますね
さらにコーラスを重ねたりすることもできるので、本当にいろんなことができるようになります
また、この過程を見せることで単調に思える楽曲でも構成の面白さがあるので、そう言った体験型の音楽として、今後も地位を確立していくのかな、と感じました
↓お気に入りのルーパー使った演奏「エド・シーラン Shape of You」
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作では、「ボレロ」に解釈の違いが描かれていて、ラヴェル自身は工場の機械音、イダはセクシャルな日常というふうに分かれていました
当初、ラヴェルは自分の楽曲がそのような解釈になったことに憤っていましたが、イダの舞台を見て、その考えを改めます
定期的なリズムと、そこに重なってくる旋律、徐々に高まって色づいていく展開
これらを何に見立てていたのか、ということになります
映画におけるラヴェルの解釈は、工場のリズミカルな機械音で、人間が作り出した一定のリズムの上に、自然音などが重なるというもので、背景に人間がいて表面に自然がいるという感覚になります
一方のイダは、リズムは心音、重なってくるのは人生であり、それをセクシャルなものと結びつけることになります
性的な欲求や感情は人間から切り離せないもので、その艶かしさと人生の起伏というものがそこに感じられる、という解釈になっているように思いました
ボレロは根底にあるリズムは同じで、そこに装飾が施されることによって色んな表情を見せるのですが、最終的には全ての楽器が重なっていく感じになっています
それゆえに最大の音量がピークとなるのですが、これはある意味、走馬灯のようにも感じられるのですね
人生は経験によって分厚くなるもので、そのピークが死の瞬間に訪れるというのは良い解釈のように思えます
映画は、ある楽曲の誕生譚を描いていますが、その根底にはラヴェルとミシアの叶わぬ恋がありました
恋愛に死があるとしたら、それはその終焉の時であり、楽曲の終わりとともに閉じていくもののように思います
初めから激情を伴うものもあれば、じっくりと重なっていくものもある
ラヴェルの恋は、おそらくは後者のタイプの恋愛で、その葛藤が行間から滲み出ていて、イダはそれを振り付けに込めていたのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101824/review/04228753/
公式HP: