■数十年後に全てが明かされた時、映画がどのように再評価されるのかが気になってしまいますね
Contents
■オススメ度
実話ベースの映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.10(T・JOY京都)
■映画情報
原題:비공식작전(非公式捜査)、英題:Ransomed(身代金)
情報:2023年、韓国、133分、G
ジャンル:1980年代に実際に起こった外務省書記官誘拐事件を描いた伝記系アクション映画
監督:キム・ソンフン
脚本:キム・ジョンミン&ヨ・ジョンミ
キャスト:
ハ・ジョンウ/하정우(イ・ミンジョン:非公式作戦を行う外交官、外務省中東課)
チュ・ジフン/주지훈(キム・パンス:ミンジョンに同行するレバノンのタクシー運転手)
【韓国サイドの要職】
キム・ウンス/김응수(アン:KCIAの局長、モデルはアン・ムヒョク/안무혁)
キム・ジョンス/김종수(チェ・ガンソク:外務大臣)
ユ・スンモク/유승목(イ・サンオク:外務副次官)
ハン・スヒョン/한수현(キム・ソンホ:KCIAの長官)
キム・ギテ/김기태(参謀長)
チョン・シンファン/전신환(キム・チヨン:副部長)
ソ・ヨンサム/서영삼(外交安全保障担当官)
ナム・ウーリー/이남우(外務省の官僚)
パク・シーファン/박시환(外務省の官僚)
【安全企画課】
チェ・ジョンウ/최정우(参謀総長/部長、モデルはキム・ユンファン/김윤환)
アン・ソンボン/안성봉(運転手)
ホン・ジソク/홍지석(チームリーダー)
チョン・ジェヒョン/정재현(エージェント)
ソ・イルヒョン/서일형(エージェント)
キョン・ジュンパク/백경준(エージェント)
【外務省中東課】
パク・ヒョクグォン/박혁권(パク・スンホ:ミンジョンの上司、課長)
イム・ヒョングク/임형국(オ・ジェソク:誘拐された外交官、モデルはド・ジェスン)
【外務省中東課の職員】
イ・サンウォン/이상원
チェリン・リー/이채린
ヤン・ジス/양지수
カン・ガンヨン/강도연
ハン・ソンス/한성수
キム・ミンファン/김민환
チョン・ジェヒョン/전재형
チョン・チュンイェル/전충열
ハン・ミニ/한민희
ハン・ジホ/한지호
ナ・ヨンソン/나영선
パク・スンジョン/박순정
ペク・スンウォン/백승원
チョン・アヒ/전아희
ユン・サンドン/윤상돈
チェ・スミン/최세민
【海外の協力者】
バーン・ゴーマン/Burn Gorman(リチャード・カーター:元CIAの情報通、モデルはリチャード・ローレス)
マルシン・ドロシンスキー/Marcin Dorocinski(ヘイズ・シャイト:スイスの仲裁人、美術商、モデルはビクター・シャイト)
アントニオ・サヴァテリ/Antonio Zavatteri(ヘイズの秘書)
フェフド・ベンチェムシ/Fehd Benchemsi(カリム:レバノンの武装勢力の協力者)
Poster Budden(カリムの仲間)
Simon Langarangi Walsh(カリムの仲間)
Trevor Mcewan(カリムの仲間)
Gambhir Man Shrestha(カリムの仲間)
Antonio Bompart(カリムの仲間)
Muhammad Wasim(カリムの仲間)
Alfonso Novas Cavallo(カリムの仲間)
Al Eshimalay Zakarya(カリムの仲間)
【レバノンのギャング】
アナス・エル・バズ/Anas El Baz(ナジ:身代金を狙うギャングのボス)
ハリル・オウバカ/Khalil Oubaaqa(ギャングのメンバー)
ダニエル・C・ケネディ/Daniel C Kennedy(ギャングのメンバー)
ヒシャム・ベラウディ/Hicham Belaoudi(ギャングのメンバー)
アブデラフマネ・オビヘム/Abderrahmane Oubihem(捕まるギャング)
【交友関係】
ニスリン・アダム/Nisrine Adam(ライラ:パンスの恋人)
クォン・ウンソン/장소연(オ・コヨン:オ・ジェソクの妻)
キム・スンユル/김선율(オ・ウンヒ:オ・ジェソクの娘)
ジン・ジェヒ/진재희(オ・ユグォン:オ・ジェソクの息子)
クォン・ウンソン/권은성(オ・ユヨン:オ・ジェソクの息子)
【その他】
フォスター・バーデン/Foster Burden(レバノンの空港警備隊)
ワリド・サム/Walid Sam(法務省の職員)
ナダ・エル・ベスカスミ/Nada El Belkasmi(難民キャンプのボランティア)
ザイナム・アルジ/Zaynab Alji(難民キャンプのボランティア)
デレク・シュイナード/Derek Chouinard(空港の利用者)
ムハンマド・シャミール・ムビン(テレビを見ている子ども)
ナ・ジョンギン/나경진(IOCの役員)
シン・スンヨン/신승용(金浦空港のタクシーの運転手)
チュ・ビョンジュン/추병준(播州のガソリンスタンドの店員)
リュ・ヨンジェ/류영재(検問所のアジア人旅行客)
チョン・ハチョル/정하철(検問所のアジア人旅行客)
ハン・ミニ/한민희(検問所のアジア人旅行客)
キム・ユンベ/김윤배(空港の記者)
チョン・ボラム/정보람(空港の記者)
ヨム・ジュミ/염주미(空港の記者)
ヨ・イーセー/여이슬(空港の記者)
クォン・グナム/권구남(空港の記者)
ファン・ジェウン/황재운(空港の記者)
ペク・ボムソク/백범석(空港の記者)
イ・スンミン/이승민(空港の記者)
キム・ヨンジョ/김영조(空港の記者)
シン・チヨン/신치영(空港の記者)
■映画の舞台
1987年、
レバノン:ベイルート
韓国:ソウル
スイス:ジュネーブ
ロケ地:
韓国:ソウル
モロッコ
■簡単なあらすじ
韓国の外務省の外交官であるイ・ミンジョンは、後輩が先に栄転してことを受けてやぐされていた
彼の夢はアメリカの担当になることだが、学歴が幅を効かせる職場は彼にとって不遇だけを与えていた
ある日、帰宅直前に一本の電話を受けたミンジョンは、その相手が2年近く前に失踪した外交書記官のオ・ジェソクだと確信する
課長や高級官僚に打診するものの、外務省の管轄ではなく、情報の信憑性も薄い
さらに安全企画部もその情報を聞きつけて、横槍を入れて来る始末だった
そこでミンジョンは外務省職員の規定を読み上げ、電話を受けたその者は、その案件に対処する必要があると宣言する
KCIAもその言葉に折れるものの、その道は容易なものではない
ミンジョンは課長のツテで元CIAの中東情勢に詳しいリチャード・カーターを訪ねるように命令を下す
カーターはスイスのジュネーブにいる知人を介して身代金を送る算段をしていて、ミンジョンはスイスにて「訳あり絵画」を身代金と交換してレバノンに持ち込むことになった
なんとかレバノンに到着したものの、空港警備隊に気づかれてしまい逃亡するハメになってしまう
指定されたタクシーに乗ることはできず、近くのタクシーに乗ったものの、そのタクシーは韓国から不正入国をしてきたキム・パンスの運転する車だったのである
テーマ:100年先まで持ち込む秘密
裏テーマ:約束とプライド
■ひとこと感想
実在の事件をベースにした作品で、それぞれにモデルになる人物がいるとのこと
隠すつもりがないほどに名前が似通っていますが、この件で消えたお金が流れた先までは追ってはいかないようでした
映画は、拉致された外交官を助けるという内容で、偶然にも通訳ができそうな韓国人が不法入国していた、という流れになっています
どこまでが本当かはわからないのですが、概ね、これらの流れという大枠はそのままなのかなと感じました
外交官が捕まるということで、外交官の特権などが通用しない地域になっていました
身代金のことなどもギャングに情報が流れている状況で、誰も信じられない世界となっています
ここまで治安が悪いのかはわかりませんが、状況が良くなる要素が皆無の国のように思えてなりません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ネタバレというものがあるのかはわかりませんが、史実通りにジェソクは生きて韓国の地に帰ることになりました
その代わりにミンジョンが残るという展開になっていて、これは何となく読めてしまうものになっていました
しつこい空港警備隊はギャングよりも厄介ですが、最後の一撃はなかなか気の利いたセリフでしたね
映画は、タクシーのカーチェイスがメインのように思えますが、実際には「支払われなかった250万ドル」が涙と汗の結晶になっていたのはよかったと思います
現実では、250万ドルが時の政権に流れたというふうになっていて、部長がお金を流せないのは政治のパワーバランスということになっていました
なんとなく『ソウルの春』の続きを見ているようにも思えてしまいます
物語はわかりやすいもので、身代わりになったことで不法入国をしていたパンスが恋人とともに韓国に戻れたことが示唆されます
空港での記者を巻き込んでの認知作戦は成功したようで、不当な拘束が2年も続いているというのは無茶苦茶な世界のように思えます
でも、レバノンの情勢はもっと悪化しているとも言え、中東に春が来るのかは永遠にわからない情勢なのかもしれません
■元ネタの事件について
映画の元ネタになっているのは、1986年1月31日に実際に起きた「レバノン韓国外交官拉致事件」で、当時のレバノン駐在韓国大使館の1等書記官のド・ジェスン(当時44歳)がイスラムの過激武装集団に拉致されたものでした
拉致から8ヶ月間、ド・ジェスンの生死すら把握できず、同年9月にイスラム団体から交渉の電話が入り、1年1ヶ月の交渉の末に、1987年10月に解放されるという流れになっていました
その後、ジェスンは外務部に復帰し、2000年に退任しています
映画制作にあたって、キム・ソンフン監督からの本人への打診がありましたが、「拉致の苦しみはその時だけで、それを忘れたい」という本人の希望のもと、「同意」だけを得て、それ以外のことは干渉しない、という流れになっていました
映画は、ほぼ創作に近いのですが、パイプ役を務めたヘイズ・シャイト、リチャード・カーターにはモデルになる人物がいて、映画に寄与したなんて話も出てきたりしています
1987年当時は、ジェスン書記官がどのように戻ったかは具体的に明らかにされておらず、10年後の1998年に「シン・ドンアなる匿名の情報提供」が報道され始めました
このシン・ドンアという人物は、非公式救出作戦を主導した人物をアメリカの情報機関出身であると言いますが、その詳細は不明のままでした
その後、2013年になって、シン・ドンアは「非公式救出作戦に参加したアメリカ人はリチャード・ローレス(Richard Lawless)、アメリカ国防長官顧問」であると明かしました
ローレスは1970年代に中韓米大使館で重工業、原子力、防衛産業を担当したCIA所属の人物で、1987年に紅色を退いてからは、経営コンサルタントの会社を経営していました
その彼の会社に、サムスン重工業の顧問だったチョン・モという人物が訪ねてきて、ジェスン書記官の救出を依頼した、とされています
チョンの紹介でローレスに会うことになった韓国外務次官たちは、ジェスンの引き渡しに1000万ドルの身代金が必要」と言われたと言います
その後、ローリスは友人のビクター・シャイトを通じてジェスン書記官の生存を確認し、500万ドルの身代金が必要であるとし、生存確認で250万ドル、引き合わせた時に残りを渡すという約束をすることになりました
ローレスはスイスのジュネーブに行き、ポラロイドカメラと「TIME」紙を渡して、24時間以内に撮影したものを持ってくれば250万ドルを渡すという約束をします
その後、ロレスはベイルート空港にて書記官を解放すると約束をするものの、当時の韓国大統領府はお金を出すことを渋ります
それでも、シャイト自身が残りのお金を用立てることになり、書記官をヨルダンのアンマン空港に連れてくることに成功しました
最終的に韓国政府はシャイトへの250万ドルを払わず、そのお金はどこかに消えたと言われています
これらの経緯についての詳しい記事は下記のURLを参考にしていただければ良いかと思います
↓아이엠피터NEWS『영화 ‘비공식작전’의 숨겨진 이야기… 몸값 절반 떼먹은 전두환 정권(映画「ランサム 非公式作戦」に隠された秘密』URL(全文韓国語です)
http://www.impeternews.com/news/articleView.html?idxno=61135
■レバノンの情勢について
日本の外務省の海外安全ホームページによれば、現在のレバノンは「全域危険地域」となっていて、「レベル4 退避勧告」が発令されています
その理由として、「2023年10月8日以降、イスラエル軍とヒズボッラーなどとの間で攻撃の応酬が生じている」として、「レバノンへの渡航はやめてください」とまで書かれています
ちなみに、この情報に関しては下記のURLにて詳細が書かれています
https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pchazardspecificinfo_2024T068.html#ad-image-0(外務省のHP)
レバノンには足を踏み入れてはいけない地域というものがあり、「トリポリ市内の一部地域」「ベカー高原のシリア国境地帯」「ヘルメル県の一部地域」は特に危険であると言われています
トリポリ市内では、スンニ派とアラウィ派の対立が激化している地域で、治安当局による取り締まりが難しいエリアとなっています
ベカー高原もレバノン軍とイスラム過激派の衝突が起きている地域で、シリアの国境地帯にあたるヘルメルケンには過激派組織の拠点があるとされています
この地域は、2014年にISが侵攻し、その後も断絶的に衝突が発生している地域になっています
書記官が誘拐された場所ははっきりとはわかりませんが、映画では高原地帯の見晴らしの良い場所にも関わらず、待ち伏せをされて、あっという間に拉致されていました
富裕層の誘拐事件だけでなく、連日のように各種犯罪が起こっていて、この背景にあるのが「レバノン国内の経済・財政危機の深刻化」であり、燃料不足、停電、食糧不足、医療品不足が深刻化しています
また、過去の内戦の影響で銃器が市井に出回っているために、強盗や傷害事件では銃器を使用するケースが多く見られています
これによって、死傷者を伴う銃撃事件なども起きているので、本当に危険な状況が現在進行形で続いている国と言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、史実を基にしたフィクションで、この件に関する「公開」はかなり先のことになっています
なので、それが起こるまでは虚構部分をいくら増やしても、リアル寄りにしてもOKの状態になっています
そのためか、外交官と現地訳ありタクシー運転手がバディを組むというエンタメに振り切った内容になっていました
事実ベースですよと言われても「本当ですか?」というぐらいにエンタメ度を爆アゲしている設定だったと思います
地味な外交官が橋渡し役を担っても、そのキャラに魅力がなければエピソードが映えません
今回は、そのキャラ付けとして「どうしてこのミッションを達成させたいか」という本人の動機をわかりやすく付けていたように思います
ミンジョンは「学歴社会によって不本意に出世が送らされた男」であり、「アメリカで仕事をしたいというビジョンを持った外交官」でした
このキャラクターが「不本意ながらも中東を担当する」というマイナスのスタートがあるのですが、ある時を境に心を入れ替えて「自分ごと」のように問題に取り組んでいきます
このキャラクターの変化が物語を面白くしていて、この変化を誘発するのがパンスというキャラクターでした
彼は「韓国を捨てた人間」で、「金優先主義」の側面がありました
このキャラが身代金を盗むという手段にまで出て、ミンジョンを苦しめるのですが、このエピソードによってミンジョンの義務感がいつの間にか責任感に変わっていることが示されます
彼の心の中では「出世のため」というものがあっても、それを忘れるくらい「自分が生き残ることの意味」を再確認していくことになっていました
この水と油のような関係の2人が共闘することで、どこまで行ってもうまくいかないのではないかと思わされるのですね
もし、パンスが韓国大好きの旅行客だったら、あっさりと協力体制になってしまって面白みを感じません
また、パンスが韓国を捨てた韓国人ではなく、現地の韓国になんの思い入れもないタクシー運転手だったら、根底の部分で共闘が起きる説得力というものを欠いてしまうのですね
なので、訳ありながらも、どこかで韓国人のためにという思いを持ちつつも、現状では反発し合わないとダメな関係性が必要だったように思いました
本作は、その点がうまく機能していたのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101013/review/04234966/
公式HP:
https://klockworx-asia.com/ransom/