■犯罪心理学的に、犯罪成果に対する強烈な変化というものは起こり得るものなのだろうか?


■オススメ度

 

事件に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.9.11(京都シネマ)


■映画情報

 

英題:Mommy

情報:2024年、日本、119分、G

ジャンル:和歌山毒物カレー事件の冤罪の可能性を追ったドキュメンタリー映画

 

監督:二村真弘

 

キャスト:

林浩次(仮名:林真須美の息子)

林健治(林真須美の夫)

杉谷安生(被害者遺族)

片岡健(ジャーナリスト)

石塚伸一(弁護士)

中井泉(東京理科大学教授)

河合潤(京都大学の教授)

生田暉雄(弁護士)

 

あおぞらの会の方々

 


■映画の舞台

 

和歌山県:和歌山市

園部

https://maps.app.goo.gl/TwYr3ZX5rvj6qo5B8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1998年7月25日の夕方、和歌山県和歌山市園部にて、夏祭りで提供されたカレーを食べた67人が倒れ、うち4人が亡くなるという事件が発生した

警察はカレーに混入された亜ヒ酸が原因と特定し、林眞須美を逮捕するに至る

事件の裁判は2009年の死刑確定まで続いたが、冤罪の可能性が指摘されていて、2024年2月の時点で再審請求が和歌山地裁いて受理されている

 

事件から25年を経過した現在、眞須美の息子の催しに足を運んだ映画監督の二村真弘は、「冤罪」の可能性を検証するために、取材を行っていく

本作は、その過程をまとめたドキュメンタリーであり、視点は「冤罪の可能性をもつ視点」として描かれていく

 

テーマ:死刑に至る確証

裏テーマ:事件を見る角度

 


■ひとこと感想

 

事件については関西在住ということもあり、いつまで報道しているのというぐらいに連日マスコミが騒いでいたことを思い出します

近しい人が犠牲になったとか、隣町で起きたとかではないので、警察と司法が脆弱な証拠を盾に判決を強行したという印象はあまりありませんでした

ともかく、眞須美被告(当時)はこんなに酷い人間で、過去にも色々と悪いことをやっていたというのを、刑も確定していない段階で決めつけた報道を行っていた記憶がありました

 

映画は、これまではそう思っていたんだけど、という監督が眞須美の息子の話を聞いて疑問に思ったというのが起点になっていて、従来なら認められるようなものの閲覧すらさせてもらえないという状況になっていました

そんな中で色々と調べていくうちに、判決に無理がないか?という疑問が湧いてきます

そして、生き残りの家族などから話を聞く中で、これまでに報道されなかったものと紐解いていく、という流れになっていました

 

知らないことの方が多く、夫があっけらかんと詐欺について話していたのはびっくりしましたね

保険金詐欺をずっと行ってきて、それで裕福な生活をしていた人間が突然テロを行うという論理は結構飛躍している部分があるように思えます

動機が不明のまま死刑確定というのもすごい話ではありますが、別の人物が犯人である可能性が完全に排除された捜査だったのかは気になってしまいますね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

事件の捜査の様子であるとか、その状況を一般人が知る由もなく、裁判になって初めて、どのような視点で捜査が行われたとか、事件のどの部分にフォーカスを当てているかというものがわかります

本作は、その過程を後追いしていく中で杜撰すぎやしませんかという視点を加えていくもので、それが観客にどのような感情を植え付けるかはわかりません

 

司法や警察が機能していたと思われていた頃と、政治家の裏金問題で捜査も起訴もしない今の段階だと、その構造の腐敗はいつから起こっていたのかと思わされてしまいます

実際に林眞須美が殺したのかどうかという点は微妙に思えるのですが、これは彼女を擁護する視点で映画が作られているからだと思います

通りすがりの和歌山市民代表みたいな人と討論している場面もありましたが、結局のところ「終わった事件」と思われているので誰も聞く耳を持たないのが現状のように思えます

 

この事件を我がごとだと思えるのは被疑者の家族と被害者の家族ぐらいで、被害を受けなかった夏祭りの参加者ですら、終わったことと思っているかもしれません

でも、もし冤罪だとしたらという世界線は結構怖いものがあり、特に無差別に見える犯行ゆえに今後も繰り返される可能性があります

事件の概要をわかる範囲で調べても、無差別の意味が変わってしまうように思えます

それは、犯行の目的が無差別に見えるように仕組んだという概念が拭えないからなのですね

当時の捜査が結論ありきで進んでいたら、その可能性は眼中にないわけで、それが放置されることの方が恐ろしくも思えてしまいます

 


事件の経緯について

 

映画は、1998年に実際に起きた「和歌山毒物カレー事件」を取り扱っていて、この裁判が冤罪だったら?という視点で描かれているドキュメンタリーでした

2009年に死刑が確定していますが、2024年2月に再審請求がようやく受理されるという事態になっています

事件は、眞須美が所属する自治体が開催する夏祭りにて起こっていて、自治会長宅で行われた「役員班長会議」にてカレーやおでんを提供する、カレーなどは自治会の役員や班長方の女性が中心となって、当日の8時30分から「夏祭り会場の隣の住民宅のガレージ内で調理をする」こと、調理後は「夏祭りが始まる18時まで、1〜5班の班長が1時間ずつ交代で見張をする」ということが決まっていました

眞須美は当時1班の班長をしていて、12〜13時の見張りに行くことになっていました

彼女は午前6時30分〜8時30分の間に「入院先の病院で精密検査を受けていた」とされ、調理には参加していなかったと言います

調理が終わったのが昼の12時頃で、現場には6名の主婦がいて、そこに眞須美がやってきました

その後、氷の作り置きができているかがわからず、眞須美が各家庭を訪問し、その間に「住民A」だけがその場に残り、眞須美が戻ってきてから住民Aはその場を離れることになりました

そして、その後の約1時間の間に、青い紙コップに半分以上入った「亜ヒ酸」を東側にあったカレー鍋に混入させた、とされています

 

被害状況としては、合計67人が病院に搬送され、うち4人が亡くなっています

被害者は自治会長、副会長、10歳の児童、16歳の女子高生で、会場で食べた人、家に持ち帰った人など、様々な場所で被害者が出ることになりました

和歌山県警は「集団食中毒」だと考えていたものの、青酸化合物の反応が見られたところから「無差別殺人事件」へと捜査が切り替わっていきます

しかし、この青酸反応に関しては、被害者の吐瀉物に含まれていたチオシアン(玉ねぎに含まれるもの)を前処理により除去しなかったために反応したと判明しています

 

その後、被害者の体内、残されたカレーなどから「ヒ素」が検出され、「混入されたヒ素は、亜ヒ酸またはその化合物」と発表され、「青酸中毒からヒ素中毒」へと死因が変更されています

これによって、急性ヒ素中毒に対する有効な治療が遅れたとの指摘があります

ヒ素中毒による致死量は300mgとされていて、混入濃度が6mg/gだったことから、50gのカレールーを口にしただけで致死量に達するというものでした

重症者で200mg、軽傷者で20〜30mgの摂取が確認されています

 

12月9日、別の保険金詐欺で逮捕されていた眞須美は、カレー鍋に亜ヒ酸を混入した殺人及び殺人未遂にて再逮捕されることになります

当局は「カレーに混入されたものと組成上の特徴を同じくする亜ヒ酸が、眞須美の自宅等から発見された」「眞須美の当初からも高濃度の亜ヒ酸が検出され、その付着状況から亜ヒ酸等を取り扱っていたと推認できる」「夏祭り当日、眞須美のみが上記カレーの入った鍋に亜ヒ酸を密かに混入する機会を有しており、その際、眞須美が調理済みのカレーの入った鍋のふたを開けるなどの不審な挙動をしていたことが目撃されている」「カレー毒物混入事件に先立って、何度もヒ素や睡眠薬を用いた殺害行為を実行していた」として、犯人として断定をしています

この事件に至るまでに「ヒ素中毒を利用した保険金詐欺が4回あった」というもので、この経緯によって「犯罪性向は根深いもの」と断定するに至っています

 

それでも、結局のところ、ヒ素を混入したところの目撃もなければ、動機も不明のままになっていて、鍋のふたを開けていた人物の特徴が眞須美ではなく、彼女の娘だったとか、その目撃者の目撃場所が後に変更になる(当初の供述では目視不能だった場所)などの経緯がありました

また、蓋を開けた鍋は混入がなかった方だったというものもあります

この他の件については、映画でも詳しく描かれているので割愛しますが、本件は2024年2月の段階で和歌山地裁で再審請求が受理されている状況にあります

今後、司法がどのように動くかは分かりませんが、この映画で主張されていることもその理由に含まれているので、何かが動けば大きく報道されるのではないでしょうか

 


俯瞰した先に見えるもの

 

事件の概要を色々と調べていくとわかるのは、自白なし、目撃証言あやふやという状況証拠だけで死刑まで突っ走った異様さでしょうか

事件の悪質性などから「死刑求刑」までは理解できても、眞須美が犯人であると断定できるものがかなり少なく、かなり無理矢理な結論になっているように見えます

これまでに保険金詐欺をヒ素を使ってやってきたことはわかりますが、そのヒ素を使って、自分が全く得しないことをする、というところに違和感が募ります

また、自治会長と副会長をピンポイントに狙ってませんか?という感じがして、無差別というのもちょっと違うように思えてしまいます

 

実際に誰がどのような目的で行なったかというのはわからないままで、とりあえず一番怪しい人を捕まえて、状況的に犯人っぽいよねという感じで司法を素通りしたところも凄いなあと思ってしまいます

目的が犯人を死刑にすることなのか、事件の本質を見極めることなのかは立場によるのかも知れませんが、犯人でなかった場合を想定はしないと思うのですね

なので、ある意味、犯人とされている人物というものが別にいて、でもその人は捕まえようがないので、スケープゴートを見つけたというようにも思えてきます

この場合、わかりやすいシナリオを描きやすいということで、彼女の背景を利用した、という解釈もできなくはありません

 

殺人事件など、多くの事件には「事件によって得をする人」というものがいます

この毒物カレーでも「得をする人」というのがいて、それが目的の人を殺せたのか、単に快楽を満たしたのかはわかりませんが、この行為の見返りを得ている人物がどこかにいると思うのですね

なので、眞須美が犯人であるならば、普段から自治会長とかを嫌っていて、いつか殺したいと思っていたなどのしがらみがあると思うし、何なら地域住民全員が敵で、もっと殺したかったというものがあるのかも知れません

犯行の規模というものも密接に関係していて、この規模の被害で犯人は満足しているのかとか、ターゲット以外を殺しすぎたなどの成果に対する反応というものもポイントになってきます

このあたりが全部わからないまま終わっているのが、この事件の闇のように思えてきます

 

複数犯という可能性もあるし、実行者はそれが犯行であると気づいていない、という可能性もあったりします

このあたりは全ての調書を読み込んだ訳でもなく、全ての裁判を傍聴した訳でもないので、単なる想像にはなりますが、映画を通じて感じたのは、別の得する犯人がいる説と、眞須美はモノを用意したけど入れたのは別人説というものを感じましたね

それぞれに思うところはありますが、さすがにそれに言及するのは辞めておきます

でも、もし自分がこの犯行を行うとしたらという犯人目線で考えると、この状況を最大限に利用できると思えるぐらいに都合よく物事が噛み合っているようにも見えてきます

今後の再審請求の動向によって何が出てくるのかはわかりませんが、意外な決着を見せるんじゃないかな、と感じました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

つい、先日のこと、袴田事件の最新公判が終わり、静岡地方裁判所は袴田に対して「無罪」を言い渡すことになりました

この件に関して、2024年10月10日までに控訴をしなければ無罪が確定するという流れになっていて、これまでの判例に基づけば、検察側の控訴はないと考えられています(執筆時点は2024年10月9日なので、アップロードの翌日が無罪確定日となります)

この件に関して、検察側は「控訴をしない方針」をすでに打ち出しているものの、記者会見における検事総長談話では納得していないという感じになっていましたね

その中身の詳細については言及しませんが、検察側は犯人だと思って捜査をしていて、「5点の衣類」に対する捏造と断じられたことには憤りを感じている様子でした

 

この件に関わらず、事件には様々な角度があって、その見方によっては同じものが違うように見えるというのは多々あることだと思います

警察や検察が「事件をどのように終わらせたいのか」という観点において、稀に「早く片付けたがっているように見える事件」というのがあって、それが不可思議な判決に結びついている場合もあるように思えます

事件には必ず加害者と被害者がいて、間違えて別人を逮捕すれば、加害者は野放しになっているのですね

裁判に入った段階で「別の犯人の可能性を捨てずに捜査を継続している」なんていうことはあり得ず、捕まえる側は「この人が犯人で間違いない」というスタンスで臨んでいるはずだと思います

 

この場合、再捜査は裁判が完全に決着するまで行われることはなく、再捜査で浮上するものなどは、ミステリー小説や推理小説で展開される虚構でも難しいもののように思います

逃亡の準備期間を与えることになり、さらに目撃証言などの記憶も曖昧になり、当時調べたものの矛盾を見つける以外に何も得られないように思います

起訴に踏み切った段階で、これ以上のものは調べようがなく、この人物が犯人として断定できるというレベルまで来ているので、その過程を経つつ、有罪となった事件が覆るというのは相当なことが起きていることになります

この事件が袴田事件のようになるのかはわかりませんが、再審請求受理というのは大きく前進した証のように思えますね

どうなるかはわかりませんが、どこをどのように突くかで、いろんなものが覆るような予感がしてなりません

これからも注目しつつ、ニュースを追っていけたら、と考えています

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101742/review/04237381/

 

公式HP:

https://mommy-movie.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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