■限界を壊すという意味のBreakなのに、設定てんこ盛りで映画自体がBreakしてしまいましたね
Contents
■オススメ度
ブレイキンを扱った映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.17(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Breaking Point(限界突破点)
情報:2023年、イギリス、102分、G
ジャンル:ある事故によって不仲になった兄弟を描くブレイキン映画
監督:ダニア・パスクィーニ&マックス・ギワ
脚本:サリー・コレット&レイチェル・ヒロンズ
キャスト:
ケルビン・クラーク/Kelvin Clark(トレイ・マシューズ/Trey:事故を機に弟ベンジーと不仲になった青年)
(幼少期:Rocco Cheeham-Karcz)
カラム・シン/Karam Singh(ベンジー・マシューズ/Benji:トレイの弟、「ランペイジクルー」のメンバー)
(幼少期:Keyaan Faizy)
Gelina Sinden(ローラ・マシューズ/Laura:トレイとベンジーの母)
ルシアン・ムサマティ/Lucian Msamati(マーティン・マシューズ/Martin:トレイとベンジーの父)
Elliot Cowan(ロイ/Roy:ベンジーの叔父)
ハナ・ジョン=カーメン/Hannah John-Kamen(ケイト・ロビンソン/Kate Robinson:ブレイキンのイギリス代表のコーチ)
エミリー・キャリー/Emily Carey(アビー/Abbie:トレイの高校の友人)
ジルー・ラスール/Jilou(レイラ・ジョンストン:「ランペイジクルー」のメンバー、イギリス代表候補、ベンジーの親友)
Pearly Whirl(ソフ/Soph:「ランペイジクルー」のメンバー)
Nathaniel Williams(オリ/Oli:「ランペイジクルー」のメンバー)
Kajetan Tober(リルサム/Lil‘Sam:「ランペイジクルー」のメンバー)
Dminic Britton(高校の警備員)
Nadia Williams(ラバティ先生/Mrs. Laverty:ベンジーの担任)
DJ Target(クラブ「REVAULT」のDJ)
Rovanne Milliner(ナラ/Nala:イギリス代表候補)
Sunni Brummitt(モー/Mo:イギリス代表候補)
Jean Salazar Tavera(タランチュラ/Tarantula:イギリス代表候補)
Maxine Blieck(レッド/Red:イギリス代表候補)
Rico Coker(ライリー/Riely:回転ドアに驚くイギリス代表候補)
Will West(ノエル/Noel:反発するイギリス代表候補)
Grace Evans(キレる案内係/Rep)
Kamia “Princess K“ Hunte(アフロビートのダンサー)
Hazey(本人役、アフロビートのダンサー)
BBoy Lagaet/Gaëtan Alin(D ラックス/D-Lux:フランス代表のエース)
Alice Eve(デブス/Debs:フランス代表のコーチ、ケイトの旧友)
Charles Camrose(ピート/Pete:ダンス番組のホスト)
Jourdan Riane(カーラ/Karla:ダンス番組のホスト)
Jack Joseph(全国大会のMC)
【ノエルの友人ダンサー】
Tawfiq Amrani
Leelou Demierre
Virgil Dey
Jessy Kemper
Roy Overdijk
【ランペイジクルーのメンバー】
Aimee Armstrong
Nicey Belgrave
Khalifa Burton
Tendai Chitate
Aden Dzuda
Roxanne Hackwood
Keoni Hayles
Che Jones
Kofi Mensah
Shyam Morjaria
Ken Mguyen
Yohemy Prosper
Denzil Sampson
Mari Scene
Jackson Watson
【フランス代表のダンサー】
Timothee Adriamanantena
Stan Blake
Kid Columbia
Willy Hem
Anton Phung
Anna Pnomarenko
【日本チームのメンバー】
Ayumi Fukushima(AYUMI)
Rie Fukushima
Junichi Kinjo
Kazuki Kuwabara(KAZUKI ROCK)
Toa Matano(TOA)
Takashi Muto
Sota Omi(SOTA SKY)
■映画の舞台
イギリス:
ロンドン
リバプール
マンチェスター
ロケ地:
イギリス各地
■簡単なあらすじ
マンチェスターに住んでいるトレイとベンジーは、幼少期の交通事故が原因で仲違いしていた
その事故によって母親は亡くなってしまい、その後は父親が二人の面倒を見ていた
トレイは勉学に熱心で大学を目指していたが、ベンジーは問題行動ばかり起こしていた
彼はランペイジクルーというブレイキンのチームに所属していたが、ある夜に学校に無断で侵入し、壁に落書きをしたとのことで停学処分になっていた
ある日、ベンジーの基にケイトという女性から連絡が入る
彼女はイギリスの代表チームのコーチで、世界大会に向けてのチーム人選を任されていた
ベンジーとチームメイトのレイラはケイトに呼ばれ、クラブ「REVAUNT」を訪れる
だが、その日は父の誕生日で、家に一向に戻らないことに苛立つトレイは、ベンジーを呼び戻すためにクラブへと向かう
乱闘騒ぎになったものの、DJはダンスで決着をつけろとけしかける
そこでトレイはブレイキンを披露して、ベンジーを黙らせる
そんな様子をケイトは見ていて、彼女はトレイをチームへと呼び寄せることに決めたのである
テーマ:兄弟の思い違い
裏テーマ:ブレイクするための要素
■ひとこと感想
オリンピックにブレイキンが採用されたことで日本での公開になった作品ですが、同時期公開の『熱烈』に比べるとだいぶ落ちる内容になっていました
それぞれに良さがあるとは思うのですが、『熱烈』は誰が見てもわかるダンスで、『ザ・ブレイキン』はダンスに詳しくないと勝敗の決め手などがわかりにくいように思えます
物語も、兄弟の諍いの解消がメインになっていて、ダンスよりも比重が強すぎるように思います
ベンジーがいたランペイジクルーとのその後の関係がどうなったのかもわからない(応援はしていたみたい)し、トレイとベンジーのそれぞれのパートナーとの距離感もよくわからない感じになっていました
おそらくレイラは幼馴染みたいな感じで恋愛的な要素はなく、アビーに対するトレイの想いは不器用ながらもずっとあったということなのでしょう
映画は、世界大会だけど4チームのトーナメント戦で、その規模が小さすぎるのは気になってしまいます
コーチとして就任するケイトがどんな実力者かもわからず、デブスとの確執も言葉で説明するだけ
双方がナショナルチームのコーチになるほどということを考えると、ダンサーである彼らがその存在を知らないというのも微妙な設定のように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
本作は、ブレイキンを扱っていて、そこに青春を賭ける若者たちが描かれていました
ブレイキンで成功することと、学校に侵入して落書きをすることは全く意味が違うので、単に素行の悪い人たちが扱っているスポーツという風に描かれているのはどうかと思いました
アングラで発展してきたものではありますが、まだまだ発展途上のスポーツでもあり、喧嘩で殴り合う代わりにダンスで決着をつけているという印象を持たれてしまいます
実際には、そのようなバトルもあれば、純粋にスキルを磨いて、パフォーマーとして成功しようとする人たちもいるのですね
映画の感じだと、イメージが悪くなってしまわないか心配になってしまいます
映画では、ラストバトルのルール変更が唐突で、なんでもアリのようになっていました
無効になってもソロバトルでOKというのは無茶な流れで、普通に引き分けでソロで決着でも良かったと思います
とにかく最後まで兄弟喧嘩を延々と見せつけられるのですが、その諍いの原因に至る描写もかなりわかりにくいものになっていたと思います
■イギリスのブレイキン事情
ブレイキンそのものはニューヨークが発祥ですが、それがイギリスに渡ったのは1981年頃とされています
さらに「Second 2 None」というボーンマスを拠点とするグループによって、イギリス国内でも広がりを見せていくことになりました
「Second 2 None」は1985年に設立されたダンス・クルーで、当初は8人のメンバーで構成されていました
メンバーは、ニック・パーマー、ダレル・ハリング(アイス・キッド・ディー)、アダム・レンショー(サイコ)、ジョン・アイザックス(DJ ジャンク)、トニー・ペンフォールド(ザ・ペンシル)、ポール・スペンサー(D・ボ・ポール)、ネイサン・アボット、エイサ・ハリング(トリプル・ロック)で、イングランドの南海岸の「マディソン・ジョーンズ」というクラブで活動を始めています
彼らについては、ドキュメンタリーとして「The BBoy Mercenaries」が制作されています
監督&編集はチャーリー・マーブルズ&エル・ラピジート
一応、YoutubeでFULLで観られますが合法かどうかわからないのでリンクは貼りません(「The BBoy Mercenaries Documentary」でググると出てきます)
映画では、ライバルがフランスというふうに出てくるのですが、これはフランスのほうがブレイキンが盛んであるという現在進行形の歴史が背景にあります
フランスでは、1980年の初め頃に「パリ・シティ・ブレイカーズ」という「ニューヨーク・シティ・ブレイカーズ」をモデルにしたクルーが登場し、フランスで人気を博することになりました
1984年には、シドニー・デュテイユが司会を務めたテレビ番組が全国放送され、これによってフランス中で多くのヒップホップダンス・クルーというものが生まれています
また、フランスには「シェル・バトル・プロ」という2001年に創設された大会があります
イギリスがフランスをライバル視するのはダンスだけではありませんが、映画では非常にわかりやすい構造を用いていました
ライバルとして登場するラックスDに歯が立たないという感じになっていますが、そこで負かしてしまうとファンタジー感が強くなってしまうのかもしれません
トレイとベンジーは才能あるダンサーではあるものの、発展途上のような存在なので、この敗戦を機に兄弟でさらに高みを目指していくことになるのだと思います
■ダンスバトルの見方
ダンスバトルは「サイファー」と呼ばれるブレイカーたちが作る「サークル」の中でダンスを披露する形で行われます
サイファーは場所を選ばないので、パーティ、クラブ、屋外など、さまざまなところでバトルをすることになります
サイファーのブレイカーたちは相手をコールアウトしてバトルを始めるのですが、勝ち負けよりも「スキルの披露」であるとか、それらを確認し合うという意味合いが強く、相手に対する暴言のようなものを吐いても、基本的にはリスペクトしあっていると思います
ダンスバトルは、DJが選んだ曲に合わせて「即興」で踊ることが多く、さらに相手のダンスに対するレスポンスもされる流れになっています
ジャッジは、ダンスの技術、独創性、音楽性などを評価し、彼らのみならず、観客の投票によって勝敗が決まる場合があります
どんな音楽が流れるかはわからないので、使用されるジャンルの楽曲の聞き込みも必要で、その音楽にとってどんなブレイカーがどんな技を披露したか、などの歴史というものも表現するようになります
そうした背景を踏まえつつ、自分自身のオリジナルを見せる必要があるので、単にダンスの技術だけが高くても評価はされません
映画では、チームによるダンス対決になっていますが、これはオリンピックを見据えてのものになっています
国代表チームを選出し、さらに個人戦に出る人材もその中から選ぶという流れになっているのですが、映画ではチーム戦の中に個人戦が挿入されるような構成になっていました
それでも、トラブルの後にいきなり個人戦で決着というルールも設定もねじ曲げたものが登場しているので、いくら即興性が必要と言っても、映画の流れを見出す意味はなかったように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、オリンピックにて「ブレイキン」が採用されたことによって作られた作品で、日本で公開されることになったのも、それが理由であると思います
ブレイキンを取り扱った映画はたくさんありますが、映画のワンシーンで踊るシーンがあるという過去があり、今では「ダンス対決を見せるテレビ番組」というものも放送されています
さらには、SNSのショート動画にて「踊ってみた」を披露する人が増え、曲の一部だけがバズったりするという現象も起きています
「踊ってみた」がこれほど市民権を得るようになったのは、学校の授業でもダンスが始まったからで、普通にダンスの基礎を学ぶ機会が増えたからだと思います
私の学生時代には「踊れる人はほとんどいない」という感じで、ある種の特殊技能のような感じでしたね
それが今や誰でも踊れる時代になってしまって、何かの間違いで振られても困惑してしまいます
現在の中高年の知るダンスと言えば、映画『ブレイクダンス』に始まり、マイケル・ジャクソンの作ったブームというものがありました
ちょうど小学生ぐらいの頃に「スリラー」が流行り、かなり衝撃を受けたのを思い出します
映画は、ブレイキンを見慣れていない人にもわかるように作られていますが、ドラマ部分に設定を詰め込みすぎていて、映画自体がブレイクしていたように思います
松葉杖で歩くコーチとか、そのコーチには因縁があって、それがフランス代表のコーチをしているとかがあるのですが、ぶっちゃけると「伝説のダンサーで今も踊れる人」だったほうが良かったと思います
勝負の前にハンデがあると冷めてしまうと思うのですが、それはダンスバトルそのものの在り方からこの映画が見せようとしているものが逸れてしまっているからなのですね
そのダンスバトルの根幹の部分を蔑ろにしているので、師匠越えをするとか、誰もが成し得なかった技に挑戦するなどの前向きなものが必要だったように思います
そう言った意味も含め、本作は根底からシナリオを練り直す必要があると思うので、あえて「勝手にスクリプトドクター」のコーナーを設置せずに、あれこれ書くことになりました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102005/review/04262963/
公式HP:
https://www.rakuten-ipcontent.com/thebreakin/