■社会的な抹殺を目論んだ方が、ほんのわずかな共感性を得られたかもしれません
Contents
■オススメ度
グレン・パウエルの七変化が見たい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.17(MOVIX京都)
■映画情報
原題:Hit Man(殺し屋)
情報:2023年、アメリカ、115分、PG12
ジャンル:依頼人女性と恋に落ちる殺し屋を描いたコメディ映画
監督:リチャード・リンクレーター
脚本:リチャード・リンクレーター&グレン・パウエル
原作:スキップ・ホランズワース/Skip Hollandsworth『Hit Man(2001年)』
→(原案の記事:英語版) https://www.texasmonthly.com/true-crime/hit-man-2/
キャスト:
グレン・パウエル/Glen Powell(ゲイリー・ジョンソン/Gary Johnson:ニューオーリンズ大学の心理学&哲学の教授、潜入捜査官)
アドリア・アルホナ/Adria Arjona(マディソン・フィゲロア・マスターズ/Madison Figueroa Masters:夫殺しを依頼する女性)
オースティン・アメリオ/Austin Amelio(ジャスパー/Jasper:ゲイリーの前任の潜入捜査官)
レタ/Retta(クローデット/Claudette:ゲイリーの同僚)
サンジャイ・ラオ/Sanjay Rao(フィル/Phil:ゲイリーの同僚)
グレラン・ブライアント・バンクス/Gralen Bryant Banks(ハンク巡査部長/Sergeant Hank:ゲイリーたちの上司)
モーリー・バーナード/Molly Bernard(アリシア/Alicia:ゲイリーの元妻)
Beth Bartley(ジル/Jill:マディソンの奉仕活動の仲間)
エヴァン・ホルツマン/Evan Holtzman(レイ/Ray:マディソンの夫)
Jordan Salloum(レイの友人)
Mike Markoff(クレイグ/Craig:厄介な依頼人)
Bryant Carroll(ウォルト・ウィリアムズ/Walt:依頼人)
Kate Adair(リタ/Rita:依頼人)
Martin Bats Bradford(アイザック/Isaac:依頼人)
Morgana Shaw(タミー/Tammy:夫殺しを依頼するボートの女)
Duffy Austin(タミーの夫/Tammy’s Husband)
Ritchie Montgomery(マーカス/Marcus:依頼人)
Richard Robichaux(ジョー/Joe:依頼人)
Jo-Ann Robinson(社交界の貴婦人/Society Lady:依頼人)
Jonas Lerway(モンテ/Monte:依頼人の少年)
Kim Baptiste(クレイグの弁護士)
Sara Osi Scot(陪審長)
Anthony Michael Frederick(陪審長)
John Raley(タミーの弁護士)
Tre Styles(検察官)
Donna Duplantier(裁判官)
Jordan Joseph(シルヴィア/Sylvia:ゲイリーのゼミの生徒)
Garrison Allen(ブルース/Bruce:ゲイリーのゼミの生徒)
Michele Jang(メラニー/Melanie:ゲイリーのゼミの生徒)
Stephanie Hong(ミンディ/Mindy:ゲイリーのゼミの生徒)
Joel Griffin(ピーター/Peter:ゲイリーのゼミの生徒)
KC Simms(ジェレン/Jerren:ゲイリーのゼミの生徒)
Murphee Bloom(グウェン/Gwen:ゲイリーのゼミの生徒)
Elijah Evans(学生)
Julia Holt(学生)
Laura Eden Kilmer(学生)
Nola Marlin(女学生)
Enrique Bush(卑劣な男/Sleazy Guy:バーレスクの客)
Bri Myles(バーレスクのダンサー/Burlesque Dancer)
Roxy Rivera(PTAの母親)
Edwin Compass(警官)
Carl Thibodeaux(警官)
David Storm(狙撃手)
Eleanor T. Threatt(大学の教師)
■映画の舞台
1980年〜1990年代、
アメリカ:ルイジアナ州
ニューオーリンズ
ロケ地:
アメリカ:ルイジアナ州
ニューオーリンズ
■簡単なあらすじ
ニューオーリンズ大学で教鞭を取っているゲイリー・ジョンソンは、警察の「殺人依頼のおとり捜査」を手伝っていたが、ある日、潜入捜査官のジャスパーが事件を起こしてことで、彼の代わりを務めることになった
ゲイリーは殺人の依頼人と会って「お金と自白」をさせるのが目的で、その依頼人を逮捕することで、殺人事件を未然に防ぐ仕事をしていた
順調に仕事をこなしていたゲイリーだったが、ある依頼を機に彼の人生は狂い始める
マディソンという名の依頼人は、自分を縛り付ける夫レイとの生活に嫌気を指していて、それを止めるには殺すしかないと考えていた
だが、ゲイリーは彼女の行動が突発的であると感じ、犯行を思い止まらせる方向へと会話を誘導することになった
ゲイリーは同僚たちに「パニックになって動転した」と報告するものの、それから二人は奇妙な関係を持つことになった
ゲイリーは殺し屋ロイとして彼女と関係を持ち始める
だがある日、街角のオープンカフェにて、二人でいるところを謹慎中のジャスパーに見られてしまう
ジャスパーはゲイリーが不祥事を起こせば復帰できると考えていたが、ゲイリーはマディソンにバレないように事態を回避させようと考えていた
それから数日後、ゲイリーに激震が走る
それは、マディソンの夫が何者かに殺されたというものだった
テーマ:変化のために必要なこと
裏テーマ:洞察力
■ひとこと感想
グレン・パウエルが殺し屋になり済ますというもので、彼のいろんな姿を愛でる作品になっています
依頼人を調べ尽くして、相手の「好みの殺し屋になりきる」というもので、心理学&哲学を実践していく立場になっていました
そんな中、依頼人であるマディソンと恋愛関係に至るのですが、そこからさらに1段階深みに入っていく様子が描かれます
冴えない大学教授を演じているのですが、マディソンと付き合い始めてからは、隠せない色気というものが出てきて、それが女生徒に伝わっているのは面白かったですね
彼の講義の内容も徐々に実践的なものに変わっていって、元妻との会話もキーワードになっていました
1980年代~90年代にかけて実際にいた人物がモデルとなっていて、エンドロールでは本人の写真などが登場します
そこで「○○はフィクションです」と但し書きが入ったのは笑ってしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ゲイリー・ジャクソンは実在の人物で、映画は2001年にスキップ・ホランズワースが書いた記事(テキサスマンスリー誌)を基に構成されています
高級ボートで支払おうとした女性とか、ゲーム機で何とかしようと思った少年などのエピソードは本当のようで、ゲイリー自身はベトナム帰還兵だったと言います
詳しくは下記の記事を参考にしていただければ、より詳細がわかると思います
テキサスマンスリー(2001年10月:「Hit Man」原案の記事
https://www.texasmonthly.com/true-crime/hit-man-2/
↓は事実と脚本を照らし合わせた考察記事
GQ URL「The real story behind Glen Powell’s fake hitoman in ‘Hit Man」
https://www.gq.com.au/culture/entertainment/hit-man-movie/image-gallery/fef9732509e323ceca78baba734d76f5
人柄やエピソードはかなり忠実に作っているようで、ラストのジャスパーの始末がフィクションのようですね
ゲイリー自身は一度も殺人は犯していないし、加担もしていないのですが、映画は劇的なラブコメにするために変更を加えたのだと思います
効果的であるかは何とも言えませんが、このラストは賛否を呼んでしまいそうに思えました
■殺人依頼は罪?
映画では、殺人を依頼する人を事前に捕まえて殺人事件を防ぐ様子が描かれていました
アメリカの法律では、殺人を請け負うことはもちろんのこと、殺人教唆、犯罪の勧誘もアウトとなっています
殺人教唆を起こすと、殺人が実際に起こったかどうかに関わらず、20年までの懲役、罰金、もしくはその両方という罰則があります
殺し屋を雇うということだけではなく、「他人を殺人行為に巻き込む意図」があるだけで「勧誘」とみなされます
基本的には、金銭の取引は関係ないのですが、映画では「それを決定的な証拠として採択」するのですが、そのために「おとり捜査」にて「相手から勧誘を引き出す」ということをやっていました
この「勧誘への誘導」というものも問題視されるもので、それゆえに「殺人の勧誘を仄めかされた」とのことで裁判が起こったりもしていました
ゲイリーたちは、本人が決めたという風に持っていくことを狙っていて、相手に「殺人勧誘の意図があるかどうか」というものを追っていくことになります
そんな中で、マディソンの時だけは「一過性の感情によるもの」と考え、ゲイリーは考え方を改めるように促すことになります
チームはこのゲイリーの行為を問題視しますが、「殺人の意図」を消すことができれば、殺人を未然に防ぐことになります
なので、ゲイリーのこの方法も目的からは大きくは逸れていないのですね
それでも、手柄を取りたいチームは、彼の行為を裏切りだと捉えています
それは、人はそう簡単に考えを変えないというものが念頭にあって、その考え方が共有されているからなのかな、と感じました
■変化に必要な要素
本作におけるゲイリーは、いわゆる変装名人というもので、正体を探られないように様々な役を演じていました
対するマディソンも、夫に虐げられる哀れな妻を演じ、ゲイリーを誘惑するために変身を遂げます
どのゲイリーが素で、どのマディソンが素なのかは本人以外わかりませんが、このようなことは誰にでも起こることだと思います
誰しもが多面性を持ち、社会的な表情、家庭的な表情を持っています
役割に応じて、理想とする自分を演じることになっていて、その時に必要なのはイメージなのですね
なので、理想的な父親、理想的な職場の人、理想的な恋人などを作り上げることになります
こんな時にリアルなイメージをどのようにして作り上げるかですが、多くの場合は身近にいる尊敬すべき人、もしくは何らかの媒体を通じて知り得た理想像ということになります
尊敬すべき人が近くにいたとしても、真似するべき部分は表層、すなわち真似したい人が見たい部分になっていて、媒体を通じる場合は装飾されているので、見たい部分を見られるような感じになっています
そうしたものを引用することと、自分の中にある理想を肥大化させることによって「変身」というものが起こります
この際に「このキャラならば」というキャラの定義付けや設定を細かく決めていくことで、「このような対応をするだろう」という想像が膨らんできます
でも、実際には「キャラ付けだけではダメな部分」というものがあります
それは、自分の中に流れている価値観や哲学というものなのですね
結局のところ、キャラの動きは根底にあるものに規定されるので、より完璧に演じるならば、対象の内面を細かく分析する必要があります
理想とする者がどうしてそのような行動を取るのか
そこに到達できた時、はじめて人は完璧な何者かになれるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、実際の事件をベースに作られたフィクションで、依頼人の多くにはモデルがいるとされています
フィクションの部分は同僚殺しの部分で、恐喝とも取れる反応があったために、殺すしかないという流れになっていました
この行為が身勝手に思えるとこから、主人公カップルへの共感というものが下がっていると思います
咄嗟に起きた事故のようなものだと不幸だなで終わるのですが、今回の場合は明らかに殺意を持って殺しつつ、それが事故だったように見せかけようとしています
この行為が悪質すぎて、恐喝警官のおぞましさを遥かに凌駕してしまっているのですね
自分を守るためにはやむを得ないとは言うものの、それで良かったのかと言う疑問は燻り続けます
それでも、自分たちの平穏を守るためには、彼と距離を置かざるを得ないので、二人でどこか新天地を目指すと方が理想的に見えるかもしれません
彼らがそれを行わなかったのは、今ある地位を捨てると言うことに躊躇いがあるからだと思います
マディソンの場合は死んだ夫の遺産を手放すのか、と言うことになるし、ゲイリーは大学教授、潜入捜査官のキャリアというものがあります
これらを侵されつつも、それを捨てたくはないという欲求があって、それゆえに今回の行動に出ていました
自分たちは泥を被らずというセーフティへ逃げようとした精神性が「それで良いのか」というものを生み出していたので、本作がフィクションならば「逃避行」の方向で描いても良かったかもしれません
逃避行は全てを捨てる行為に思えますが、必要なものを持っていけばマディソンは遺産を捨てることにはならないでしょう
ジャスパーがどれだけ彼らに固執するかはわかりませんが、彼の望みは現場復帰なので、ゲイリーがいなくなれば彼の望みは叶えられます
彼の資質を考えれば、そのうち何かしらの事件を起こす可能性が高いでしょうし、勝手に転落する人物のようにも思います
そういった時間が解決するものを利用することで回復の機会も伺えると思うので、ストーリー的には「逃避行と見せかけておとり捜査のおとりを仕掛ける」というものでも面白かったかもしれません
そうなると事実ベースから大きく逸脱してしまうので、虚構性とどこまで容認するかという判断は難しいかもしれません
それでも、もしゲイリーがこの捜査方法に疑問を持っているのならば、ジャスパーにおとりを仕掛けることで、この捜査方法の違法性を突きつけて、法的に抹殺できるのではないか、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101181/review/04262959/
公式HP: