■再び動き始める支援団体も、方法を変える必要に迫られているのではないでしょうか


■オススメ度

 

中絶の現場に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.3.28(MOVIX京都)


■映画情報

 

原題:Call Jane

情報:2022年、アメリカ、121分、PG12

ジャンル:中絶が違法だった時代に秘密裏に活躍した団体を描いた伝記映画

 

監督:フィリス・ナジー

脚本:ヘイリー・ショア&ロシャン・セティ

 

キャスト:

エリザベス・バンクス/Elizabeth Banks(ジョイ:鬱血性心不全で出産が困難になる女性)

 

シガニー・ウィーバー/Sigourney Weaver(バージニア:中絶支援活動を始めた団体の責任者、モデルはヘザー・ブース/Heather Booth)

 

クリス・メッシーナ/Chris Messina(ウィル:ジョイの夫、弁護士)

グレイス・エドワーズ/Grace Edwards(シャーロット:ジョイの娘、次女)

Bianca D’Ambrosio(エリン:ジョイの娘、長女)

 

ケイト・マーラ/Kate Mara(ラナ:ジョイの隣人)

 

コリー・マイケル・スミス/Cory Michael Smith(ディーン:「Jane」の専属の中絶医師)

ウンミ・モサク/Wunmi Mosaku(グウェン:「Jane」のメンバー)

Kristina Harrison(クレア:「Jane」のメンバー)

Rebecca Henderson(エディー:「Jane」のメンバー)

Aida Turturro(マイク:「Jane」のメンバー、修道女)

Alison Jaye(サンドラ:「Jane」のメンバー)

Nina Dicker(リズ:「Jane」のメンバー)

Cynthia Clancy(「Jane」のメンバー)

Abigail Vacca(「Jane」のメンバー)

 

Evangeline Young(マーヴ:「Jane」に助けを求める少女、ジョイの最初の患者)

 

John Magaro(チルマーク:ジョイを取り調べる刑事)

John Rothman(マクドナルド:刑事)

Bruce MacVittie(リチャードソン:刑事)

Mick Coleman(ウォーカー:刑事)

Brian Bradbury(巡査部長)

 

Geoffrey Cantor(フォーク:ジョイの主治医)

Beau Baxter(アーロンソン:中絶に反対する医師)

Chandler Hill(病院理事)

George J. Vezina(病院理事)

 

Joel Brady(キャンベル:精神科の医師)

Kim Blanck(キャンベル医院の受付係)

 

Maia Scalia(マリオン:「Jane」に助けを求める女性)

Eleanor Koski(イジー:「Jane」に助けを求める女性)

Kayla Foster(ヘレン:「Jane」に助けを求める女性)

Rachel Rosenbloom(ジュディス:「Jane」に助けを求める女性)

Heidi Garrow(中絶を受ける女性)

Tempest Morgan(中絶を受ける女性)

 

Neal Mayer(銀行の出納係)

Michelle Mason(身なりの良い銀行の顧客)

 

Linda Glisson Clarkson(パーティーの参加者)

Jadyn Coutte(パーティーの参加者)

Victoria Wall(パーティーの参加者)

Emily Creighton(PTOの女性)

 


■映画の舞台

 

1968年、

アメリカ:シカゴ

 

ロケ地:

アメリカ:コネチカット州

ウェスト・ハートフォード/West Hartford

https://maps.app.goo.gl/Sg46kqqJbBrFEUyXA?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1868年のアメリカのシカゴでは、弁護士の夫ウィルを持つジョイが3人目の出産を迎えていた

だが、ある日ジョイは失神して倒れてしまい、主治医のフォーク医師から虚血性心不全の診断が下されてしまう

出産は危険を伴うものの、当時のアメリカでは人工中絶は違法であり、ジョイは生死を賭けて産むしかなかった

 

その後ジョイは、たくさんの医者にかかり中絶できる方法を探し、闇医者へのお金を用意したものの、恐怖から後ずさってしまう

悲痛に暮れるジョイは、街角で見かけた「中絶支援窓口」のジェーンを訪ねることになった

 

ジェーンは目隠しをされて謎の場所に向かい、そこでディーンという若い医師の手術を受ける

そこには多くの女性スタッフが働いていて、みんながジェーンだという

そして、創設者のバージニアと会ったジョイは、この活動への参加を打診されるのである

 

テーマ:女性の権利

裏テーマ:組織の役割

 


■ひとこと感想

 

中学校ぐらいの頃に堕胎手術を見るという授業があり、そのビデオでは道具を奥に突っ込んで掻き出すシーンがありのままに映されていました

かなりショッキングな内容で、トラウマレベルで覚えてしまっていますね

ちょうど第二性徴期を迎える頃で、いわゆる性教育の一環なのですが、40年前の方法は今では想像できないものかも入れません

 

子ども心に妊娠は大変だと思い込むことになり、子どもを作るため以外のセックスはしてはいけないみたいな強迫観念が根付いたのですが、これぐらい暴力的でないと、若年期の性衝動を抑え込むのは難しいのかもしれません

 

映画は、中絶が違法だった頃のアメリカを舞台にして、生死を賭けて産むしかない状況に追い込まれた女性がすがるという内容になっています

病院の理事会では「死ぬかもしれんけど大丈夫でしょう」ぐらいのノリで、そのリスクは許容しろという圧がありました

母親がいないと父親が3人の面倒を見ることになるわけで、そう言った影響なども考えずに違法だからで済ましている感じに描かれています

 

そこから先にある「ジェーン」での貢献は半ば強引なものがありながらも、ある種の使命感を持って暴走していきましたね

それぐらい強烈な行動力がないと、あの時代を乗り越えられなかったのかな、と感じました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ジェーンが「とある組織」の名前で、それが地下組織的な活動をしていたというもので、「Jane  Collective」という名前で活動していました

創設者などはモデルの人がいますが、どこまでが事実なのかはぼやかされていますね

ウィキなどによれば、創設者にあたる人物(映画ではバージニア)が中絶すらも自分でやり始めたという感じに書かれていました

なので、映画では役割分担をしているということになります

 

あの時代のアメリカの空気感が伝わる作品で、様々な理由でジェーンに電話をかける女性たちがいました

後半になって「留守番電話」が登場し、これによって対象者が増えていったという流れになっています

そこに吹き込まれた声が娘の心を動かすのですが、その行動はやがて夫が弁護に入って、中絶を合法化するという流れに至っていたのは驚きでした

 

現代では、中絶反対の流れが生まれつつあるとのことで、今この内容を公開することの意味は多いと思います

中絶に至る原因は様々ではありますが、レイプだろうがなんだろうが妊娠したら命懸けで産めというのは無茶な話だと思うのですね

出産が100%安全になっても、出産後に起こる様々なことが子育てに影響していくことを無視はできないと思います

子育てが無理なら里子に出せば良い理論も無茶で、それこそ産むために存在していると言っているのに等しいように思えます

 


「Jane  Collective」について

 

映画で登場する「ジェーン(Jane)」は、「ジェーン・コレクティブ(Jane Collective)」と呼ばれる「女性の解放中絶相談サービス」として機能していた地下サービスでした

シカゴ女性解放同盟と提携していたサービスで、主にイリノイ州シカゴにて、1969年から1973年まで活動していました

当時のアメリカは、中絶が違法だったため、1965年にヘザー・ブース(Heather Booth)という女性が「友人の妹を安全に中絶させる」という行動が起点となっています

以降、望まない妊娠をした女性の間で口コミで広がり、ヘザー一人では対応できなくなって、シカゴ女性解放同盟のメンバーに助けを求めたとされています

 

この団体では、当初は男性医師を紹介してきましたが、数年後に「ある医師は医師免許を持っていないことが発覚」し、これによって団体内で内紛が起こります

でも、医師免許を持たない人でも安全に中絶ができるなら、自分たちでもできるんじゃないかと思い始めることになります

そして、彼女たちは「拡張法と掻爬法(Dolation and Curettage)」による「外科的中絶」を学んでいきます

その後、メンバーは推定1万1000件の中絶を行い、そのほとんどは「中絶が合法な場所に行けない低所得者、有色人種が対象だった」とされえいます

 

1972年、あるアパートが家宅捜索を受け、メンバー7人が逮捕される事態になります

それぞれが11件の中絶と中絶共謀の罪に問われ、最高懲役110年の刑が言い渡されます

だが、当時起こっていた「ローVSウェイド事件」と呼ばれる法廷論争があったため、担当した弁護士は法廷手続きを可能な限り伸ばし、その論争の判決を見守ることになります

そして、「ローVSウェイド事件の判決(ロー側の勝利)」によって、全米で「中絶規制の撤廃」がなされ、それによって彼女らの告訴は取り下げられることになりました

 

創設者はヘザー・ブースという女性で、友人の妹が望まない妊娠をして自殺寸前になったという経緯を救ったことに始まります

ヘザーは人権医療委員会に連絡を取り、公民権運動指導者で外科医のTRMハワードと連絡を取ります

ブースの知人はシカゴのフレンドシップ医療センターに送られ、そこで安全な中絶が行われたとされています

ハワードは1回500ドルで中絶を行なっていました

 

このメンバーの中に「ジェニー」という女性がいて、彼女はホジキンリンパ腫の診断直後に妊娠が発覚した女性でした

放射線治療による胎児の影響を懸念して中絶を求めたものの、病院の委員会で拒否されてしまいます

2人の精神科医に「中絶が許可されなければ自殺するつもりだ」と訴えたところ、彼女の要求は許可された、とされています

この女性のエピソードがジョイのキャラクターの元になっていると考えられます

 


「ロー対ウェイド事件」について

 

映画ではほぼふれられていませんが、彼女らの活動を終わらせたのは「ロー対ウェイド事件Roe v. Wade)」という最高裁で行われた裁判でした

1969年、3人目の子どもを妊娠したノーマ・マコーヴィー(Norma McCorvey)によって起こされ、彼女は法的偽名として「ジェーン・ロー(Jane Roe)」という名前を使用していました

彼女は「母親の救命以外の中絶は違法」というテキサス州に住んでいて、彼女は弁護士をつけて「テキサス州の中絶法は違憲である」という主張を展開することになりました

彼女の弁護についたのがサラ・ウェンリントン(Sarah Weddington)とリンダ・コーヒー(Linda Coffee)で、彼女に代わって「地元の地方検事ヘンリーウェイド(Henry Wade)」を相手にして、米国連邦裁判所に訴訟を起こしました

 

テキサス州では彼女に有利な判決を下しますが、最高裁判所に上告されることになります

1973年、最高裁判所はマコーヴィーに有利な判決を出し、合衆国憲法修正第14条の適正手続き条項は妊娠中の女性の中絶の権利を保護する基本的なプライバシーの権利を規定している、と結論づけることになります

さらに、中絶の権利は絶対的なものではなく、女性の健康と出生前生命を保護する政府の利益とのバランスを取らなければならないと主張しました

また、裁判所は「中絶の権利を基本的権利に分類」し、基準に基づいて異議申し立ての中絶法を評価するように求めることになりました

 

この法律は、2022年の「ドブスVSジャクソン女性保健団体(Dobbs v. Jackson Women’s Health Organisation)」にて、破棄されることになります

この判決によって、中絶のあらゆる側面を規制するというものがなくなり、州ごとに「中絶の基準」というものが生まれています

中絶の権利を支持する州もあれば、制限した州もあり、特に南部の17の州では中絶禁止となっています

本作は、再び「女性の権利である中絶禁止の流れになっているアメリカ」にてえ、中絶禁止の本来の意義を問う映画になっているのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、史実系の映画で、かつてアメリカのシカゴで実際に起きた事件を取り扱っています

中絶が禁止だった時代のアメリカということですが、「ローVSウェイド」が覆った今となっては、情勢はあの頃と同じであると言えます

南部の中絶禁止の州で「今、どこかで行われている可能性がある」というもので、合法の州に移動できない低所得者層や、意図しない妊娠を抱えた動けない人にとっての最後の砦のように思えます

 

現在では、避妊などの方法が格段に増え、安全なものもあるので、かつてのような混沌にはないと考えられます

それでも、根深いマインドはそのままなので、中絶禁止の方向に動いているのでしょう

中絶に関する裁判は数多くありますが、思想が違うので平行線というイメージがあります

宗教的な観点、社会的な観点、人権意識、合衆国憲法など、様々な論点が存在し、裁判所が何を優先するかで判決が変わってくるという流れを汲んでいます

 

普通に考えれば、合衆国憲法が最上位で、そこに書かれていることを宗教観などでは覆せないと思うのですが、宗教の方が絶対という意見もあります

これらの見解も、宗教のどの側面を切り取って解釈するかという部分があるので、永遠に決着しないように思います

ここまで拗れると、合法区と非合法区を完全分離して、住む場所を選択するしかないでしょう

その移住費用をどう見積もるかというところに行き着きますが、それを行政では支えきれないので、非営利団体などが動く形になるでしょう

 

根本的に考え方の違う場所で住むリスクは、その後の人生に影響を残してしまうので、中絶禁止の理由をどこに置いているかを明確にすることで、国民の選択はわかりやすいものになります

宗教的教義において、いかなる中絶も禁止するという場所と、事情によっては考慮するという場所と、女性の人権を最大限尊重して合法化している場所というのは、根幹にある人権意識が全く違うのですね

なので、自分の意思と合う場所に移動する以外には、健やかに生きていけるとは思えないのが現状でしょう

運動によって変えることもできますが、その困難な歴史も周知の上で、再び過去に戻っているという流れをもっと深く受け止めた方が良いと思います

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/96459/review/03654700/

 

公式HP:

https://call-jane.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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