■Shchedrykのシーンが圧巻も、ラストに歌唱がないのはちと不満


■オススメ度

 

ナチス系映画に興味がある人(★★★)

ウクライナ民謡に興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.7.11(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題Щедрик/Shchedryk(優しい)、英題:Carol of the Bells(クリスマスを祝う讃美歌)

情報:2021年、ウクライナ&ポーランド、122分、G

ジャンル:第二次世界大戦末期に子どもを救うために奮闘したウクライナ人一家を描いたヒューマンドラマ

 

監督:オレシア・モルグレッツ=イサイェンコ

脚本:クセニア・ザスタフスカ

 

キャスト:

アンドリー・モストレーンコ/Andrey Mostrenko(ミハイロ・イヴァニューク:ウクライナ一家の父、反政府内通者、ギターアーティスト)

ヤナ・コロリョーバ/Yana Koroliova(ソフィア・イヴァニューク:ウクライナ一家の母、ピアノの先生)

ポリナ・グロモバ/Polina Gromova(ヤロスラワ・イヴァニューク:ミハイロとソフィアの娘)

   (成人期:Anastasia Mateshko

 

ミロスワフ・ハニシェフスキ/Miroslaw Haniszewski(ヴァツワフ・カリノフスカ:ポーランド一家の父)

ヨアンナ・オポズダ/Joanna Opozda(ワンダ・カリノフスカ:ポーランド一家の母)

フルィスティーナ・ウシーツカ/Khrystyna Ushytska(テレサ・カリノフスカ:ヴァツワフとワンダの娘)

   (成人期:Oksana Mukha

 

トマシュ・ソブチャク/Tomasz Sobczak(イサク・ハーシュコウィッツ:ユダヤ一家の父)

アラ・ビニェイエバ/Alla Bineeva(ベルタ・ハーシュコウィッツ:ユダヤ一家の母)

エウゲニア・ソロドブニク/Evgeniya Solodovnil(ディナ・ハーシュコウィッツ:ユダヤ一家の娘)

   (成人期:Tatyana Krulikovskaya

Milana Haladiuk(タリヤ・ハーシュコウィッツ:ユダヤ一家の娘、ディナの妹)

   (少女期:Daryna Haladiuk

 

Svitlana Shtanko(マリア:イヴァニューク家のメイド)

 

Andrey Isaenk(NKVD/ソ連の将校)

Aleksandr Polpvets(ナチスの将校)

 

Jakob Walser(ウォルター・クランプ:ドイツ将校)

Janina Rudenska(イルマ・クランプ:ヘインリヒの母、ウォルターの妻)

Timofey Dmitrienko(へインリヒ・クランプ:ドイツ将校の息子)

 

Iryna Lazer(孤児院の施設長)

Volodymyr Kravchuk(反政府のウクライナ人、ミハイロの盟友)

 


■映画の舞台

 

1939年〜1943年

ポーランド、スタニスワヴフ(現在のウクライナ、イヴァーノ=フランキーウシク)

https://maps.app.goo.gl/8gJ9tYhVvr1gUjd67?g_st=ic

 

1973年、

アメリカ:ニューヨーク

 

ロケ地:

不明

 


■簡単なあらすじ

 

1939年、ポーランドのスタニスワグフに住むウクライナ人一家のアパートに、ポーランド人一家とユダヤ人一家が引っ越してきた

ウクライナ人一家の母・ソフィアは音楽の教師で、ポーランド人一家の娘テレサ、ユダヤ人一家の娘・ディナは、彼女に歌を教わることになった

 

ソフィアの娘ヤロスラワと仲良くなり、ディナの妹タリヤも大きくなった1943年頃、彼女たちの運命は大きく動き出してしまう

それは、ナチスのポーランド侵攻を機に拡大した戦線が飛び火し、ポーランド人夫妻、ユダヤ人夫妻に魔の手が伸びてしまう

そこで、母親たちは子どもだけは助けようと、ソフィアに預けることになった

テレサの出生届を預かり、ディナとタリヤは時計付きの家具の裏側に隠れてやり過ごすことになった

 

ナチスの親衛隊などの巡回も強化される中、ウクライナ一家の父ミハイロは屈辱的なショーをさせられ、反政府組織から物資を受け取っていく

そんな生活が続く中、外に出たがったタリヤは、予期せぬ事態に遭遇してしまうのである

 

テーマ:民謡の伝承

裏テーマ:生きる希望

 


■ひとこと感想

 

3つの家族がひとつ屋根の下で暮らし、ポーランド侵攻をきっかけに行き場を失っていく様子が描かれていきます

映画内では時代背景の説明は一切なく、民謡の説明もほとんどありません

なので、ある程度予備知識が必要な映画になっています

 

時代背景はそこまで難しくないのですが、ポーランド人が連れて行かれる顛末とか、ユダヤ人が捕まる流れの意味を知らずに見ると、事の重大さがわからないでしょう

また、第二次世界大戦が終わったのにも関わらず、ウクライナ人たちの迫害が起こっていくことも背景を知らないと意味不明かもしれません

このあたりは、現在進行形の問題の基礎にもなっているので、一般教養レベルで勉強しておいた方が良いかもしれません

 

映画は、音楽がつなぐ再会を描いていきますが、思った以上にざっくりしているので、面食らう感じになっていますね

ピークは「Shchedryk」をヤロスラワがある場所で歌うところですが、これまた背景と歌詞の内容がわからないと無理ゲーになっていましたねえ

なんとか字幕で理解はできますが、本当になんとなくわかるという感じになっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

音楽が家族を救う系かと思ったら、時代背景そのままに無慈悲に退場していく様子が描かれていました

ポーランド侵攻が始まって逃げてきた家族を匿ったけど、彼らの居場所もどんどん侵攻されていきます

ポーランド人の娘テレサを姪などに仕立て上げることはできても、ユダヤ人はどうにもならない

そこで棚に隠れることになりますが、動いていない時計に疑問を感じて迫られる場面は緊張感がありました

 

映画は「Shchedryk」というウクライナ民謡が伝承されていく流れを描きますが、あまりメインにはなっていません

あくまでもナチスから逃げる緊張感と、大戦が終わったのに続く迫害について描かれていました

 

構成として、1973年のニューヨークでの再会が描かれていて、これがある種のネタバレになっているのですが、誰が誰だかわからなかったりします

歌手になれたのはどうやらテレサのようで、才能があっても環境が許さなかったという歴史が描かれていましたね

 


時代背景あれこれ

 

時は1939年、この年にポーランドで何が起きたかを知らないと意味不明の展開になっていると思います

この年の9月1日にドイツ国および同盟を組んでいたスロバキア共和国、同年9月17日にソビエト連邦がポーランドに侵攻を行っています

その後、9月3日にポーランドと同盟国であったイギリスとフランスがドイツに対して宣戦布告をし、第二次世界大戦が始まりました

 

主人公たちが住むポーランドのスタニスワグフは「西ウクライナ」に位置し、ドイツの侵攻を真っ先に受けた場所になります

ポーランド人がウクライナ人の元にやってきて、同時にユダヤ人も同時に到着していました

わかりやすく国旗の掲揚が変わり、当時のポーランドからハーケンクロイツ、最後にはソビエトの国旗へと変わっていきます

当時は亡命政府や地下政府が交戦していましたが、戦後のその名残は残っていたとされています

ちなみに、後半のどこかで「ウクライナの民謡」に対して、ソ連兵が「ウクライナには民謡などない」と言っていましたが、これはポーランド侵攻が始まったと同時に、「ソ連がポーランドを国として認識しない」という宣言を行ったことに由来すると思われます

 

映画では、この歴史の説明に関しては完全にスルーしていますが、ウクライナ&ポーランド制作の映画なら「一般常識レベル」なので説明する意味がありません

諸外国を含めたマーケット展開を考えても説明の意味はないので、当たり前のことだと思います

現在の日本の史実でも字幕でたくさん説明する邦画のことを考えれば、いかに歴史認識に対する教育がしっかりしているのかを物語っているのかもしれません

 


キャロル・オブ・ザ・ベル(シェドリック/Shchedryk)について

 

「Shchedryk」は英語では「The Little Swallow」と呼ばれている楽曲で、1916年にミコラ・レオントヴィチによって作られた曲のことを言います

のちにアレクサンダー・コシェッツ率いるウクライナ国立合唱団の演奏の際に、ピーター・J・ウィルハウスキーによって、「Carol of the Bells」という名前に改変されています

ウィルハウスキーは新しい歌詞を発表し、それはウクライナ語の元の歌詞には基づいていないのですね

その後、アメリカやカナダでクリスマスの曲として定着するようになりました

 

ちなみに言語の歌詞は、

Щедрик, щедрик, щедрівочка,(寛大なる、寛大なる、寛大なる)
Прилетіла ластівочка,(ツバメが飛んできました)
Стала собі щебетати,(ひとりごとを言い始めた)
Господаря викликати.(主人に教えてあげて)
Вийди, вийди, господарю,(ご主人様、出てきてください)
Подивися на кошару.(小屋を見てください)
Там овечки покотились,(そこに羊が寝転がっている)
А ягнички народились.(そして、子羊たちが生まれました)
В тебе товар весь хороший,(あなたの財産は素晴らしい)
Будеш мати мірку грошей,(あなたは裕福です)
Хоч не гроші, то полова, (モミガラはお金ではない)
В тебе жінка чорноброва.(あなたには濃い眉をした美しい妻がいる)
Хоч не гроші, то полова,(モミガラはお金ではない)
В тебе жінка чорноброва.(あなたには濃い眉をした美しい妻がいる)

以上、グーグル翻訳と想像力を駆使した筆者の意訳となっています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、歴史を背景にして、子どもの頃ために命懸けで戦ったウクライナ一家を描いています

ようやく戦争が終わっても、ソ連による統治が始まり、ウクライナの人々はシベリアに送られたりしていました

子どもを守り切ったソフィアはシベリアで死んでしまい、生き残った3人の子どもが成人して、ニューヨークのコンサートで再会することになっています

 

映画の随所で、1973年のニューヨークが描かれ、誰かわからないけど歌手として成功している女性が描かれます

この女性が当初はヤナスロワだと思っていたのですが、成人キャストのOksana Mukhaさんをググってみると、テレサ役(ポーランド人の娘)であることがわかります

テレサとディナは孤児院にそのままいられましたが、ヤロスロワだけはソ連兵たちの前で「ウクライナ民謡であるShchedryk」を歌ったことで反感を買っていましたね

おそらくは、そのままどこかの施設に送られた可能性が高いのだと思われます

 

テレサは孤児院を出た後にアメリカに渡り、ディナとヤロスロワが彼女を訪れるというシーンになっていて、最後にコンサートがないのは微妙だなあと思いました

ソフィアに教わった三人が歴史的な荒波を乗り越えて再会を果たしたのですから、劇的な感じに仕上げるなら、コンサートで「ウクライナ語でShchedryk」を歌うことでしょう

さすがにそれが政治色が濃いというのならば、テレサの楽屋などで3人で歌うシーンなどがあって、そのままエンドロールに突入しても良かったと思います

ラストショットは子どもに戻った3人が抱き合うシーンで良かったとは思いますが、あっさりと終わってしまったなあと感じました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/388892/review/38a103a9-7761-41e1-aeee-0c9ce4c359a8/

 

公式HP:

https://carolofthebells.ayapro.ne.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

「【映画感想】キャロル・オブ・ザ・ベル/家族の絆を奏でる詩【後半:ネタバレあり】」に2件のコメントがあります
  1. 遅ればせですが、「キャロル・オブ・ザ・ベル」を見ました。歴史的背景がわからず、映画を見た後、いろいろブログを見て、こちらにぶつかり、とても分かりやすく理解できました。ただ映画でひとつまだ不明な箇所があります。ソ連軍?の前で尋問を受け、二人の娘は育てていいと言われ、乱暴を受けていた女性は、ウクライナ人のソフィアなのか、ポーランド人の母親なのか、女優の顔が似ていて分かりませんでした。教えていただけると嬉しいです。

    1. 2週間くらい前に観たので正確には覚えていないのですが、時系列順だと1939年のソ連軍介入でポーランド人(ヴァッワフ+ワンダ)がシベリア抑留、その2年後にユダヤ人(イサク+ベルタ)が強制収容所送りになっています
      ワンダがベッドの下に出生証明書を隠して連行され、その後、ソフィアがワンダに「サインの入った紙を知らない」と言って探していました
      その後、ソ連兵が来た際のことなので、ポーランド人のワンダはその場にいませんでした
      その時点でその場にいたのはウクライナ人のソフィア、ユダヤ人のベルタのどちらかになると思います
      この段階ではまだユダヤ人の迫害は始まっておらず、自分の娘とテレサを「自分の娘」と言っていたのはソフィアなので、おそらく殴られたのはソフィアの方だと思います
      その後、ドイツ軍の占領によってユダヤ人迫害が始まり、ユダヤ人夫婦が退場、ディナを時計家具に隠していたシーンに繋がっていたように記憶しています

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