探偵はあくまでもロジカルに、人の感情と寄り添っていけば良い


■オススメ度

 

ハードボイルド風の探偵物語が好きな人(★★★)

リーアム・ニーソンさんのファンの人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.7.6(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:Marlowe

情報:2022年、アメリカ&アイルランド&フランス、109分、PG12

ジャンル:訳あり女性の人探しを手伝うことになった私立探偵を描いたミステリー映画

 

監督:ニール・ジョーダン

脚本:ウィリアム・モナハン&ニール・ジョーダン

原作:ベンジャミン・ブラック/BenjaminBlack『The Black Eyes Blonde(黒い瞳のブロンド)』

 

キャスト:

リーアム・ニーソン/Liam Neeson(フィリップ・マーロウ/Philip Marlowe:ロサンゼルスの私立探偵、元刑事)

 

ダイアン・クルーガー/Diane Kruger(クレア・キャベンディッシュ:失踪した愛人を探す高貴な女性)

パトリック・マルドゥーン/Patrick Muldoon(リチャード・キャベンディッシュ:クレアの夫)

ジェシカ・ラング/Jessica Lange(ドロシー・クインキャノン:クレアの母、大女優)

Stella Stocker(ヒルダ:ドロシーのメイド)

 

アラン・カラング/Alan Cumming(ルー・ヘンドリックス:闇の実業家、麻薬王)

アドウェール・アキンヌオエ=アグバジュ/Adewale Akinnuoye-Agbaje(セドリック:ルーの運転手)

David Lifschitz(チャス:ルーの部下)

Anton Antoniadis(フレデリック:ルーの部下)

 

ダニー・ヒューストン/Danny Huston(フロイド・ハンソン:「コルバタ・クラブ」の支配人)

Stephan Wiks(コルバタ・クラブのガードマン)

 

ショーナ・カースレイク/Seána Kerslake(アマンダ・トクステス:ニコがエージェントをしている若手女優)

 

フランソワ・アルノー/François Arnaud(ニコ・ピーターソン:映画スタジオの小道具マスター、失踪したクレアの愛人)

ダニエラ・メルヒオール/Daniela Melchior(リン・ピーターソン:ニコの妹)

 

コルム・ミーニー/Colm Meaney(バーニー・オールズ:マーロウの元同僚、刑事)

イアン・ハート/Ian Hart(ジョー・グリーン:マーロウの友人、ベイ・シティ署の刑事)

Julius Cotter(検視官)

 

ミッチェル・マレン/Mitchell Mullen(ジョセフ・オライリー:スタジオのオーナー、駐イギリス大使)

Michael Srelow(オーティス:オライリーの部下)

 

Darrell D‘Silva(事故の証言をする老人)

Tony Corcillo(ガードナー:クレアの邸宅の庭師)

Michael Garvey(ファーガス:バーのオーナー、ジョーの友人)

Roberto Peralta(ゴメス:ニコを追うメキシコ人)

J.M.Macia(ロペス:ニコを追うメキシコ人)

Minnie Marx(カバナビーチの支配人)

 

Alan Moloney(映画会社の事務管理職)

Gary Anthony Stennette(スタジオの駐車場の塗装職人)

Mark Schardan(スタジオの映画監督)

Billy Jeffries(スタジオのカメラマン)

Keith Gallagher(映画会社の秘書)

Keith Gallagher(映画会社の事務員、クレアの部下)

 

Brenda Rawn(マーロウの秘書)

Kim Delonghi(タバコを蒸す金髪の美女)

Luke Manning(ドロシーにダメ出しされるレストランのウェイター)

 


■映画の舞台

 

1939年、

アメリカ:カリフォルニア州

ロサンゼルス&ティフアナ

 

ロケ地:

アメリカ:ロサンゼルス

 

スペイン:バルセロナ

https://maps.app.goo.gl/KWy8NWzDwydTqA2a6?g_st=ic

 

スペイン:ジェローナ

Hotel La Gavina

https://maps.app.goo.gl/SVuHyiYz8VHiMcL99?g_st=ic

 

アイルランド:ダブリン

https://maps.app.goo.gl/Wi9TbbxFrB5NgA4Y6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

元刑事の私立探偵マーロウは、ロサンゼルスのベイ・シティに居を構え、細々と依頼をこなしていた

ある日、彼の元に大女優ドロシー・クインキャノンの娘クレア・キャヴァンディシュが現れる

彼女は愛人のニコ・ピーターソンを探していて、彼は数日前から行方不明になっているという

 

そこでマーロウは旧友の刑事ジョーを巻き込むなどして、ニコの行方を追い始める

だが、ニコはひき逃げ事件で死んでいて、クレアの依頼が一気にきな臭く感じられた

マーロウはクレアに「ニコは既に死んでいる」と告げるものの、「彼は生きている」と譲らず、ティフアナの街で彼を目撃したというのである

 

そこでマーロウはクレアの言葉を信じてニコの捜索を始めるものの、次々に彼を探している人物と遭遇してしまう

謎のメキシコ人二人組を筆頭に、麻薬王ルー・ヘンドリックス、クレア&ドロシーなども加わってきて、彼の何を探しているのかはわからないままだった

 

テーマ:支配欲と演出

裏テーマ:鈴をつける効果的な方法

 


■ひとこと感想

 

静かな雰囲気の推理映画で、一緒に楽しむこともできますが、マーロウの推理力や関わる人々の展開を楽しむ映画となっています

主演のリーアム・ニーソンさんの100作目ということですが、意外なほどに地味で日本では小規模の公開となっていました

 

映画は、ある依頼者の探し物が既に死んでいる人ということになっていて、依頼者は「死を偽装している」と確信を持っています

少し離れた町で見かけたということになっていて、さらに「探す理由」を曖昧にしているという流れがありました

なので、察しの良い人は、このあたりで依頼人の怪しさに気付いたかもしれません

 

とは言え、クレアが怪しいと思っていても、基本的に全員が怪しく思えてくる内容で、誰が殺したのかが主軸として物語が動いていきました

推理力を試すこともできますが、提示されるヒントが少ないので完全に当てるのは難しい感じになっていますね

後半は、そんなことがどうでも良くなるほど激しく動きますが、ラストの仕返しは楽しめるものになっていました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

犯人はヤス!という感じではなく、どうしてニコを探すのか、というのがミステリーになっていました

なので、犯人探しをすると見誤る映画になっていて、マーロウがヒントを得ていく中で「ずっとわからないもの」というのが答えになっています

これがわかるかどうかというのは難しいところで、マーロウがニコを探し当てた後の犯人の行動というのは予測不能に思えます

 

設定や展開などは王道になっていて、マーロウが動かざるを得ないシーンで「年金もらえない奴が行け」というセリフは笑ってしまいます

ラストもその年金絡みになっていましたが、マーロウの機転はそれを上回るものになっていました

 

証拠との距離感というものが非常に大事になっていて、それをどのように手繰り寄せるかというところに経験値の高さが発揮されています

冷静に考えれば「それ」を他人に渡すことはあり得ないのですが、「それ」を可能にしているのがマーロウの胆力であるように思います

そして、「それ」を手元に置こうとするものの、「それ」が意外な人物の手に渡ってしまうところがおかしくもありました

 


『The Elements of Style 』By William Strunk Jr.について

 

映画内で登場する『The Elements of Style(英語文法ルールブック)』は、アメリカの文章を書くためのガイドブック、すなわち文法の本になります

この本が登場するのは、マーロウが文芸に長け、詩を嗜むというキャラクターだからでありますが、同時にロジカルシンキングに長けているという意味にもつながります

この本をこよなく読むということは、言葉や文節などの表現に際しておざなりにしないということになり、それは「相手のセリフの端端まで気を配って聞いている」ことにつながります

 

映画ではサラッと登場し、彼が読んでいたページを見たルー・ヘンドリックスが「セレーナ」というヒントを与えていました

ルー自身もニコを追っていて、その目的がセレーナだったのですが、この時点のマーロウはそれに気づけていませんでした

セレーナは人魚という意味で使われていましたが、その中身が重要だったわけですね

それは「セレーナ」という単語に囚われている、すなわち事件の上辺を追っているマーロウを揶揄しているように思えます

 

ルーはマーロウの人脈と能力を利用してニコを探させようとしていて、彼への接近もその一環だったと思います

そんな中、あの本を見つけて会話に組み込んだのは、マーロウがどのような論理で動いているかを見極める為でしょう

文法のルールブックをマーロウの年代で読み物としているというのは特殊なので、そこに何らかのヒントを感じ、何らかのヒント(単語)を与えることになったのではないでしょうか

 


モノを見つけるには、真の動機の解明が必要

 

本作では、依頼人クレアの依頼動機がミステリーになっていて、マーロウ自身も読み解けないモノでした

ニコを探させる動機というものは様々あって、ドロシーの場合は「クレアの所有物だから」だし、ルーの場合は「麻薬のありか」だし、ハンソンの場合は「裏取引帳簿」のようになっていました

そんな中、クレアは「自身が映画会社のトップになるため」という動機を隠し、秘匿の完全消滅を目論みます

でも、その過程において殺人を犯してしまい、それは会社が抱えていた闇以上のものになっています

 

ニコを探す動機として、愛人探しのように見せかける巧妙さがあって、他のハンターがわかりやすい物欲や権力欲に走っていたことと対比になっています

クレアは愛のためにニコを探していると、ドロシーですらそう思っているところがあって、全てをうまく煙に巻くことができたと言えます

マーロウ自身も本作では役に立っていなくて、ニコは自分で現れるし、クレアの真の目的を見抜けていません

この見誤りが起こったのは、ひとえに「クレアを女性として見た瞬間があったから」のように思えます

 

クレアの蜘蛛の巣にかかったマーロウは、思考の囚われに陥っていて、持ち合わせていた論理性を失ってしまいます

これを計算でやっているのがクレアという人物なのですが、マーロウも黙ってはいないという結末になっています

それゆえ、セドリックの投入は軽快なジャブでありながら、感知できないところから飛んでくるストレートにもなっているのが面白い構図になっていました

クレアとしては、自分と会社のボディガードとしてマーロウを懐柔しようと企んでいましたが、それをうまく逆手に取られていたように思えます

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作はトレンチコートの似合うハードボイルドで、女に靡かないマーロウが描かれていました

原作のイメージだと40歳前後なので、クレアほどの年齢だと色情に絆されてしまったかもしれません

でも、ふた回りぐらいの年の差になっていることで、その心配が消えてしまう配役になっていました

思えば、クレアの思惑はマーロウとの年の差によって初めから破綻しているとも言え、それが本作の仕掛けになっているのかもしれません

 

本作の場合は、ニコの生存がミステリーになっている前半がありますが、裏を返せば「クレアの根拠」を探す旅にもなっています

その観点で映画を見ると、最後まで隙を見せずにうまく隠し通したように思えました

クレア自身は権力を手に入れるためにマーロウを使い、ニコが隠しているものを探り入れます

それが会社ぐるみの麻薬の売買であることは彼女自身も知っていたのでしょう

クレアとしては、1から会社を興すよりは、既存の会社を受け継ぐ方がはるかに楽で、支配者となるための一番簡単な方法を選んだように思えます

 

クレアの真の目的は「自分の手を汚さずにニコから秘密を奪うこと」だったのですが、自分の手を汚さずにはいられない状況に追い込まれていきます

マーロウが一つずつ剥がしていくものは、クレアにとっては盾になるものでしたが、結果的にはクレアの盾を無力化することに成功します

彼女の感情的な部分を揺るがしたことによって、彼女自身が想定しない行動に駆り立てられているのですね

これが計算かはわかりませんが、マーロウがクレアの誘いに乗らなかったことで、彼女自身の感情を逆撫でし、彼女の計画に綻びを生み出す結果になっていました

 

本作は地味な作品になっているし、トリックは古典的なものではありますが、嘘の暴露の過程が面白く、意外とロジカルになっています

人の感情は決して画一的なものではありませんが、激情を引き出すということは、意外と論理的なのことかもしれませんね

それを研究していくのが心理学というカテゴリーなのかもしれません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/387365/review/031cf94c-f324-43ed-8c01-8c7d0cd1b025/

 

公式HP:

https://marlowe-movie.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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