■戦争を我が事と思えるために、誰の血が流れる必要があるんだろうか
Contents
■オススメ度
戦場ジャーナリスト視点に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.10.4(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
原題:Civil War(内戦)
情報:2024年、アメリカ、109分、PG12
ジャンル:アメリカの内戦を取材するジャーナリスト視点で描く戦争映画
監督&脚本:アレックス・ガーランド
キャスト:(軍部の所属に関しては自信なし)
キルスティン・ダンスト/Kirsten Dunst(リー・スミス/Lee:コロラド州出身の戦場カメラマン)
ヴァグネル・モウラ/Wagner Moura(ジョエル/Joel:戦争ジャーナリスト、リーの相棒、ロイター通信の記者)
ケイリー・スピーニー/Cailee Spaeny(ジェシー・カレン/Jessie:リーを憧れる報道写真家、ミズーリ出身)
スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン/Stephen McKinley Henderson(サミー/Sammy:リーとジョエルの師匠、ニューヨークタイムズの記者)
Sonoya Mizuno(アーニャ/Anya:西部勢力に従軍するイギリス人ジャーナリスト)
ジェファーソン・ホワイト/Jefferson White(デイヴ/Dave:アーニャに同行するカメラマン)
ネルソン・リー/Nelson Lee(トニー/Tony:香港人の記者、リーとジョエルの親友)
Evan Lai(ボハイ/Bohai:外国人記者、トニーの同僚)
ニック・オファーマン/Nick Offerman(3期目に入るアメリカ合衆国大統領)
Juani Feliz(ジョイ・バトラー/Joy Butler:国防長官)
Greg Hill(ピート/Pete:ガソリンスタンドを占拠する男たち)
Edmund Donovan(エディ/Eddie:ガソリンスタンドを占拠する男たち)
Tim James(吊るされた捕虜)
ジェシー・プレモンス/Jesse Plemons(ジャーナリストを襲う人種差別主義者の過激派兵士)
【分離派】
Simeon Freeman(マイク:分離派の兵士)
James Yaegashi(分離派の伍長)
Dean Grimes(分離派の兵士)
【WF(西部勢力)】
Justin James Boykin(中東出身のアメリカ兵)
Jess Matney(検問所の兵士)
Karl Glusman(スポッター)
Jin Ha(狙撃兵)
Jojo T. Gibbs(ホワイトハウス襲撃軍の軍曹)
Jared Shaw(ホワイトハウス襲撃兵)
Justin Garza(ホワイトハウス襲撃兵)
Brian Philpot(ホワイトハウス襲撃兵)
Tywaun Tornes(ホワイトハウス襲撃兵)
【政府軍(正規軍)】
Jeff Bosley(ブラウン:一等軍曹)
Ryan Austin Bryant(海兵隊員)
Kevin Kedgley(海兵隊員)
Brent Moorer Gaskins(負傷した海兵隊員)
Lauren Marie Gordon(海兵隊員)
Peter Nguyen(海兵隊員)
Easy Ian Radcliffe(海兵隊員)
Daniel Patrick Shook(カラーガードの海兵隊)
Juan Szilagyi(海兵隊員)
Robert Tinsley(海兵隊員)
Vinnie Varone(海兵隊員)
Kevin Howell(陸軍兵士)
Timothy LaForce(陸軍兵士)
Randy S. Love(陸軍兵士)
Cody Marshall(陸軍兵士)
LePrix Robinson(女性陸軍兵士)
Ernest Scooby Rogers(陸軍兵士/機動隊)
Xavier Mills(米軍の医療従事者)
Evan Holtzman(シークレットサービスのエージェント)
【その他】
Vince Pisani(ホテルのコンシェルジェ)
Alexa Mansour(難民キャンプの活動家)
Martha B. Knighton(老女)
Melissa Saint-Amand(売店のアシスタント)
Joe Manuel Gallegos Jr.(客室乗務員)
Miles Johnson(ブルックリンの抗議者)
Anthony King-West(キャンプ難民)
Temper Lavigne(難民の子ども)
Ashley Lillig(負傷した暴徒)
Cora Maple Lindell(瀕死の難民)
Adam Rivette(沖合の装甲車兵)
Jaclyn White(戦争ジャーナリスト)
■映画の舞台
大統領率いる連邦政府「正規軍」VS離脱勢力「WF」が衝突するアメリカ
ニューヨーク→ピッツバーグ→シャーロットビル→ワシントンD.C.
ロケ地:
アメリカ:ジョージア州
アトランタ
Emory University Briarcliff Campus
https://maps.app.goo.gl/awrN8WN4xSQcpvbK8?g_st=ic
Jesse Hill Jr NE
https://maps.app.goo.gl/EnMoVUoz1jzmDfft8?g_st=ic
アメリカ:ペンシルバニア州
フィラデルフィア
アメリカ:ジョージア州
ハンプトン
イギリス:ロンドン
■簡単なあらすじ
合衆国連邦政府からテキサス州、カリフォルニア州が分離し、独立政府を作り出したアメリカでは、独立政府が管轄する「西部勢力=WF」と、大統領率いる「正規軍」の衝突が絶えなかった
さらにフロリダを中心として同盟も立ち上がり、アメリカの内戦は混沌としており、誰と誰が戦っているのかを把握するのも困難な情勢だった
そんな中、戦場カメラマンのリーとロイター通信の記者ジョエルは、ワシントンにいる大統領へのインタビューを敢行しようと考える
二人の指導者でもあるニューヨークタイムズのサミーは反対するものの、さらにリーを憧れる報道写真家ジェシーも同行することになった
彼らは、ニューヨークを起点として、ピッツバーグを経由し、ウエストバージニア、シャーロットビルからワシントンに入ろうと試みる
だが、その道中は凄惨なもので、行く先々で過酷な状況が待っていたのである
テーマ:分断と混沌
裏テーマ:報道の存在意義
■ひとこと感想
もし、アメリカで内戦が起こったらという「もしもの世界」にて、戦場ジャーナリストの視点ではどう映るのかを描いた作品になっていました
彼らがワシントンを目指すということで、西部勢力に同行しつつ、その突破の様子を見ていくという視点になっています
いわゆる、反政府側の視点となっていて、反対勢力を鎮圧するという物語ではないことがわかります
映画は、著名な戦争写真家と彼女に憧れる報道写真家の交流を描いていて、ジェシーの価値観が変化していく様子が描かれています
それと同時に、若さゆえの暴走に巻き込まれる怖さというものが描かれていきます
物語性はほとんどなく、ロードムービーっぽい感じになっていますが、ドンパチやっている戦場よりも、この状況を利用して好き放題している武装勢力の方が怖かったですね
ガソリンスタンドを死守する勢力とか、人種差別主義者が死体処理をしているところなど、かなり強烈なものが漂っていたように思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、大統領が演説の練習をするというところから始まり、状況に関しては、ジャーナリストの会話、時折流れてくる報道によって明かされるという感じになっています
視点が「反政府側」ということになっていて、大統領が処刑される様子を追っていくことになるのですね
ジョエルの「最後に一言」はコミカルなものがあると思いますが、映画のテイストとしては「暴走した政府に一撃をお見舞いする」というものになっていました
映画内の情報を整理すると、3期目に入った大統領はFBIを解体し、14ヶ月間報道の前に姿を現さないというものがありました
内戦のきっかけがホワイトハウスの暴走という感じになっていて、それに従えない州が結束して、西部勢力というものを作り結束しているという状況になっています
ジェシー・プレモンス演じる差別主義者のシークエンスが映画のピークで、そこでは「アメリカ人であるか否か」とか、「アメリカのどこの出身なのか」というのがクローズアップされていきます
「本物のアメリカを構成する州とはどこか」みたいな問いかけがあって、それによる無差別な殺戮が行われていたことが想像されてしまいます
アメリカをアメリカたらしめているものは何か
これを問うことになると思うのですが、連邦政府によって統一されているというのは幻想ということがよくわかるように思えます
また、大統領選挙のある年に大統領が暗殺されて終わる映画を公開するというのは、いろんな含みを持たせているのかな、と感じました
■アメリカを繋ぎ止めているもの
映画は、 民主党政権下の時期に作られていて、この映画の公開後に共和党政権に代わるという歴史的な転換点を迎えています
映画に登場するホワイトハウスがどっちの政党なのかははっきりとわからなかったのですが、ホワイトハウスVS州という構図になっていて、それが起こったきっかけというものがホワイトハウスの暴走という感じになっています
アメリカの大統領選直後にこの原稿を書いているのでリアルタイムな感じになっていますが、その制作時期の政権がモデルになっているというのはお約束のようにも思えます
アメリカの大統領の任期は2期8年と決まっていて、その知識がないと「法律歪めて3期目に入った暴挙」というのはわかりにくいのですが、リアルタイムで大統領選の報道を見ている人なら、なぜバイデンが今回の大統領選に出ないのか、というのは知っていると思います
バイデン政権は2期目を迎えていて、現行法律上ではバイデン大統領が大統領選に出ることはできません
なので、民主党政権を続けるためには、バイデンに代わる民主党の代表を選ぶ必要があって、それが紆余曲折を経て、副大統領だったカマラ・ハリスになったのですね
それはバイデン政権の政策を継続するという意味合いがあって、それが大統領選の有権者の判断に直結していました
多様性や人権を訴え、経済政策は継続するというハリス候補と、この8年で失ったものを取り戻すと訴えるトランプ候補という構図になっていて、アメリカは今後どうするのか、というのが選択肢になっていました
結果として、現政権にNOを突きつける格好になっているのですが、この選挙はアメリカの分断を加速させると言われています
では、アメリカにおける分断とは何かというのを今回の争点で考えると、選挙で問われたのは「経済的格差」だったのだと思います
その格差は州ごとによって違いがあり、より深刻な州だとその訴えが強くなります
逆に、そう言った問題を軽微であると考えている州は、それよりも人権だろ!という感じになっているのですね
なので、今回の圧勝は「貧富の格差がもたらしている悪影響」は州を超えて一致するアメリカが解決しなければならない問題である、と言えると思います
とは言え、映画ではそのような論点ではなく、単に暴走したホワイトハウスとどっちに着くのかみたいな感じになっているのですが、劇中で登場するジェシー・プレモンスが意味深なことを語っていましたね
彼は「外国人ジャーナリスト」をあっさりと殺した後に、アメリカ人ジャーナリストに銃を突きつけます
そこで「お前はどの種類のアメリカ人なんだ?」というのですね
聞かれた方は意味がわからず、「アメリカ人に種類なんてあるのか?」という感じですが、彼には明確なアメリカ人の種類に対する概念がありました
それが出身地となっていて、ジャーナリストが出身地を言うたびに判別をしていました(その州の持つ考えをどう思っているのかも重視していました)
アメリカはそもそも合衆国と言うように、州は独立したものになっていて、それを取りまとめているのが合衆国政府となっています
なので、政策といっても州ごとに違いがあって、その代表人をどれだけ獲得するのかと言うのが大統領選の意味になっています
州によって代表人の数が違い、代表人を多く獲得した方が勝ちますが、ねじれのように支持する州は少ないけど、代表人が多いので勝つと言うことも起こります
今回の選挙はトリプルレッドと言われるように、全ての選挙において共和党が圧勝したのでねじれは起きていないのですが、それぐらい州(どこの国の人?ぐらいの意味)と言うものは重い意味を持っています
それを考えると、アメリカの分断とは、合衆国を構成する州同士の対立のことを意味しますが、本作の場合は中央政権の暴走を描いていたので、分断を加速すると言うところには向かわないように思えました
■反政府軍に同行する意味
本作は、ジャーナリストの視点によって内線を描いているのですが、彼らは「反政府軍」の従軍ジャーナリストとして活動をしています
映画ではさらっとしか説明されていないのですが、彼らが政府軍側だとインタビューを受けてもらえない立場にはならないのですね
大統領は籠城していると言う感じで、報道機関とは距離を置いているのだと思いますが、大統領側の代弁者たるマスコミはあると思うので、彼らはそっち側ではないと言うことが状況からわかると思います
彼らが反政府軍と同行するのはホワイトハウスに行くためで、ジャーナリストたちの目的は「今のお気持ちを聞く」というものですが、反政府軍としては反逆者を始末する、と言う意味合いで行動しています
彼らが同行を許可するのは、決定的瞬間を映像に収めさせるためであり、明確に反政府軍がホワイトハウスを奪還した、と国民に知らせる必要があります
それは事後の声明でもできることですが、リアルな映像を撮らせることで、より正確な情報が国民に伝わるのではないかと考えたようにも思えます(それよりは殊勲を抹殺されないための担保=目撃者と言う意味合いの方が強いのですが)
彼らはジャーナリストですが、当初は「反政府軍の政権奪取を手伝う」というポジションではありませんでした
あくまでも沈黙を貫く大統領の声を届けようと考えていて、それが正規ルートでは叶わないと言う状況がありました
なので、正規軍を突破してホワイトハウスに辿り着く必要性があって、それが可能なのが「第一突入部隊に同行する」というものになっていました
ホワイトハウスに向かう軍について行けば辿り着けると言う考えなのですが、その選択ができると言うのは、政権転覆は時間の問題であると言う状況を認識していたからだと考えられます
ジャーナリスト目線では、色んな情報を精査した結果、大統領が行なっていることは単なる時間稼ぎの悪あがきで、いずれ反政府軍が革命を成し遂げると考えている
ある意味、勝負がつく前に勝ち馬に乗っている感じになっていて、彼らが収める決定的瞬間はそれを担保するものになっています
今後は、反政府軍を主導する州にとって暫定政府が立ち上がり、政府軍に加担した州を統治すると言う流れになるでしょう
その時にスポークスマン的な役割を果たすことになるのですが、わかりやすく言えばこれから先のプロパガンダを担うと言う立場になっていくのですね
なので、共犯者として、今後の国家運営に関わることになっていくのですが、そういった政治的な泥臭い話を傍に置いている、と言うのが本作のカラーだったように思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、アメリカの分断を描いていて、実際に内戦が起こったらと言うテイストで作られていました
ジャーナリストは反政府軍と同行し、国民の声を無視する大統領の元へと向かいます
そこで「お気持ち」を聞くことになりますが、大した言葉は出てこないのですね
それよりも、大統領を殺してヒャッハーしてしまう軍隊の方が頭おかしい感じに描かれていました
映画は、どうやってこの状態になったのかと言う原因の部分はスルーしていますが、州ごとに政府に対する姿勢を打ち出していることはわかります
テキサス州とカリフォルニア州が主導する「西部勢力」と言うものがあり、さらに「分離派」と呼ばれる勢力もあって、これらと「正規軍」が戦うと言う構図になっています
でも、田舎に行けば、この状況を利用して非人道的なことをしている人はいるし、内戦我関せずと言う一般人もいたりします
内戦は軍人同士がやるものと言う感じに突き放していて、田舎ではそんなことはどうでも良いとなっていたのは笑いどころなのかもしれません
彼らにとっては、どっちが勝とうが関係のない話で、新政府も旧政府も田舎の日常には影響があまりないのですね
今後は復興のために増税が起こったりするのかもしれませんが、所得税が上がろうが、消費税が上がろうが、自給自足している人からすればほとんど関係なかったりします
映画は、内戦がもたらすアメリカへの影響というものを描いていますが、それは現状とあまり変わり映えのないもののように思います
犠牲になる人は都市部にいた人たちぐらいで、デモをするくらいの余裕はあったりします
大統領の人気が3年目に入って何が変わるのかというところもわかりにくく、映画の時点では「政府の方針に意を唱えているけど、政府がどのような国づくりをしようとして反発しているのか」というものは分かりません
むしろ、そのあたりのことはどうでも良くて、ジャーナリストがジャーナリストでいられるかどうかの境界線を描いているようにも思えます
スミスは友人サミーの死によって、「ジャーナリストも簡単に死ぬ」という当たり前のことに気づくのですが、現場でアドレナリンが出まくっているジェシーは自分が戦場にいて、いつ死ぬかわからない危機感というものを忘れ去っていました
ジャーナリストは大義のもとに従軍し、軍隊に守られる存在ではあるものの、それは完璧な盾でもなんでもありません
ワシントンにおける一連の出来事は、スミスが若かりし頃の自分をジェシーを通じて見ているという構図になりますが、それが驕りであることを理解する瞬間だったのでしょう
死が戦争をリアルにするのではなく、身近な人の死が戦争をリアルにする
これが、郊外の無関心やヘイト活動を生んでいる概念とも言えるので、意外な視点で戦争を描いていたのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101614/review/04328840/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/a24/civilwar/