■「Crowd」と「Cloud」の違いによって、観客目線の重要性が紐付けられるのかな、と感じました
Contents
■オススメ度
転売ヤーに訪れる悲劇を堪能したい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.9.27(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2024年、日本、123分、G
ジャンル:転売ヤーとして恨みを買う男の周囲で異変が起こるスリラー映画
監督&脚本:黒沢清
キャスト:
菅田将暉(吉井良介/ラーテル:転売ヤーの青年、工場兼務)
古川琴音(藤田秋子:吉井の恋人)
奥平大兼(佐野たけし:吉井に雇われる青年)
荒川良々(滝本一郎:吉井の勤務先の上司)
窪田正孝(村岡耕太:吉井の転売業の先輩)
岡山天音(三宅達也:転売に失敗するネカフェ難民)
赤堀雅秋(殿山宗一:医療機器メーカーの社長)
山田真歩(殿山千鶴:宗一の妻)
吉岡睦雄(矢部:ネット民を煽る男)
三河悠冴(井上:ゲームに参加する男)
矢柴俊博(北条:警察官)
森下能幸(室田:模型屋の店主)
千葉哲也(猟友会の猟師)
松重豊(売人)
足立智充(三宅に騙される男)
吉田亮(不動産者)
萩原護(石を投げ入れる若者)
田中爽一郎(工場の同僚)
斉藤友暁(群馬の配達業者)
佐々木陽平(東京の宅配業者)
■映画の舞台
東京のどこか
群馬県の山奥
ロケ地:
千葉県:市川市
ジェット模型
https://maps.app.goo.gl/wseQywFG7oeRoPU98?g_st=ic
群馬県:吾妻郡
東吾妻町役場
https://maps.app.goo.gl/dLtcHD6xt635WqrP6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
転売ヤーとして、アコギな商売をしている吉井は、倒産寸前の医療機器メーカーから二束三文で商品を譲り受けた
それを定価の半額でネットに流し、それで大金を手に入れることに成功する
吉井には転売業を仕込んでくれた先輩・村岡がいて、彼は新しく事業を始めようと考えていた
吉井にも出資を募るものの、お金がないと断り、村岡は一人でそのビジネスを始めてしまう
ある日、兼務していた工場の上司から中間管理職を打診された吉井はそれを固辞し、終いには一身上の都合で急に辞めてしまった
得た大金で心機一転を図ろうとする吉井は、恋人の秋子を連れて、群馬県の山奥の戸建てを借りることになった
事務所と倉庫を兼務し、地元の若者・佐野を雇って転売に励もうとするものの、ある事件が起きてしまう
それは、何者かによって石が投げ込まれたというもので、吉井はそのことを警察に相談することになった
だが、警察は吉井が偽ブランド品を扱っているというタレコミがあったと言い、彼は慌てて商品を始末することになった
地元の配送業者を信用できなくなった吉井は、佐野から車を借りて自分で東京まで運ぶことに決める
そして、その先で村岡と再開することになったのである
テーマ:雲を掴むような現実
裏テーマ:因果の裏にある快楽
■ひとこと感想
転売ヤーがヤバいことになる、ぐらいの情報しか仕入れずに鑑賞
予告編で「ゲームを楽しみましょう」というセリフがあって、転売集団が大掛かりなことをするのかな、と思っていましたが、まさかの展開で驚きました
映画は、転売の中でも恨みを買うパターンの転売を続けている吉井を描き、ある出来事から派生する疑心暗鬼によって、おかしな方向に誘導される様子が描かれていきます
冒頭から人を馬鹿にしたような態度を取っているのですが、これが無自覚というのがタチが悪いですね
人の怒りを増幅させているけど、本人にはその意識がなく、そう言った感情がネットの闇で繋がることでゲームへと繋がっていきました
結末に関しては賛否あるかと思いますが、前後半でトーンがまったく違うので、飽きずに観られるように思えました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
ヘイトを溜め込む転売ヤーが悲惨な目に遭うのですが、まさかの助っ人無双になっていて笑ってしまいました
廃工場の銃撃戦だけを考えると日本で起きているように思えませんが、アシスタントの闇が深すぎて笑ってしまいます
銃を扱ったことがない人たちが登場しますが、2発目にはヘッドショットを決められる世界なので、そこんとこはツッコんでも無駄のように思います
倒産寸前の工場から端金で高価な医療機器を購入し、それを数十倍の値段で売り捌くのですが、工場の社長が単なる無知のようにも見えてきます
さすがにフィギュアの買い占めはヘイトを溜め込むだろうなあと思っていましたが、あの客の中に復讐者がいたのかは分かりませんでしたね
闇サイトの悪ノリがそのまま実現するのですが、相手にはヤクザ顔負けのヤバい右腕がいた、という感じに締めくくられています
率直な感想だと、雲を掴むような話で、風によって姿を変えまくる物語でもありました
そのあたりを意識してのタイトルなのかは分かりませんが、実態のないものの暴走の果てに、世界が乱れるというのは言い得て妙な感じがしました
■転売は合法だけど
ぶっちゃけると、生産者から直接買う以外はぜんぶ「転売」にあたり、どこからか購入して、新たに値段をつけて販売すること全般を指すと言えます
自分が購入したけど使わなかったものを誰かに売る場合も転売と言いますが、この行為自体に違法性はありません
映画で描かれる転売屋は社会問題化していて、それは希少性のあるものを買い占めて高値で売るからであり、この行為を取り締まる法律というのが「基本的には」ありません
日本の場合は、チケットや乗車券に関してのダフ屋行為として「特定興行入場券の不正転売の禁止等による興行入場券の適正な流通の確保に関する法律(チケット不正販売禁止法)によって明確に規制されています
それでも、古物商の認可を受けている金券ショップについては問題ありません
転売というのはいろんなものがあって、例えば「今後値上がりが期待される商品」を正規で購入して寝かしてから高値で売る」とか、「株式や為替などの取引」「債権の売買」「正規リセラー」「せどり」などもあります
株式や為替などで、意図的に安くなる(高くなる)ための仕掛けをすると「仕手」と言われて、悪質な場合はインサイダー取引になる可能性もあります
映画で吉井が行っている行為は、ネットで安くなるものを見つけて、それを別のサイトなどで売るというところはOKで、潰れかけの工場から叩き値で買って売るというのもセーフでしょう
それでも、おもちゃ屋で販売前に買い占めるというのはグレーゾーンになっていて、映画のケースだと売る方もどうか、という問題が生じています
ちなにも偽のブランドバックに関しては論外なのは言うまでもありません
映画では、転売ヤーとして目をつけられた吉井が襲われると言うもので、法律による取り締まりができないことから私的制裁の方向に向かっています
さすがに私的制裁の方は違法なのでやってはいけませんが、これらの転売屋による悪質な社会問題化があれば、そのうちどこかで起こっても仕方がないように思えます
とは言え、販売するときに特別なアカウントを使い続けていると言う「現実ではあり得ない落ち度」があるので、映画として「制裁」を正当化できそうに見えるようなカラクリになっているだけだと言えます
転売の規制に関しては、それが個人間の商行為を超えると判断できるならば、事業主としての納税義務を課す方が早いと思います
すべての商行為は雑所得にあたり、それを管理し、申告する義務を生じさせる
無論、買った側に領収書などの商取引に関する書面の提示を求め、第三者による委託の場合はサイトなどへの登録の際に身分確認をすると言うことを求めていくことになります
雑所得に関しては「年間20万円以下は申告不要」となっているので、それを超えた雑所得の無申告はすべて脱税扱いにすれば良いだけなのですね
現在は、自己申告に頼らざるを得ませんが、仲介サイトが商取引報告書を作成して利用者に送付する義務が生じれば変わってくるのかな、と思いました
■タイトルに意味について
映画のタイトルは『Cloud』で、これは「雲」を意味する英語になります
クラウドと言う表記だけだと「Crowd」と一緒になってしまいますが、こちらは「群衆」を意味する英語になっています
わざわざ「英語のCloud」と規定しているのは「雲」と言う意味合いを強めていて、「クラウド」だけだと「群集心理」的な後半の展開に合致しているように思えます
なので、「Crowd」ではないと明記しているのには、それなりの意味があると考えられます
本作を鑑賞した上での「雲」っぽさと言うのは、その下にいると視野が悪くなる、と言うことかなと思います
霧も同じようなイメージを持ちますが、霧自体は晴れるタイミングが分からなくても、雲だとその動きが把握しやすいのですね
無論、形を変えていくこともあるのですが、雲の下にいる人は俯瞰で見えても、霧の中の人を捉えることは容易ではありません
それを踏まえると、第三者的には丸見えなんだけど、と言う状況で、その下に入っている人が単一的な視点しか持たなければ、何も見えなくなると言う状況になっていることを表しているのかな、と感じました
これは、自分自身を第三者的に捉えられるかどうかと言うところに繋がっていて、吉井の状況が悪化していくのは、自分の視点でしか捉えられていないことを意味しているように見えます
この視点の欠如が、いつの間にか雲の下に入っていると言う状況になり、それは自分自身ではどうにもならないものに見えてしまいます
でも、実際には吉井と俯瞰する佐野がいて、彼の尽力によって、吉井自身は雲から出ることができました
建物の中から外に場面を移したのは、雲から脱出し、自分自身の状況が見えるようになったことを表していたのかも知れません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、自覚しない他人のヘイトを描いていて、その暴力行為に晒される吉井がいました
法律的な側面だと、吉井は偽ブランドバック以外は問題なく、天誅を下す側の行為はすべてアウトだと言えます
でも、映画を観ている側からは「吉井の商行為に対するジャッジ」と言うものが生まれています
それは、裏を返せば、天誅やむなしになってしまう境界線とも言え、それが法律が及んでいないところになっていました
吉井の閉鎖工場の商品の書い叩きについては、相手の足元を見ている部分では非道になりますが、そうでもしないと回らないと言う相手の原因が不明なために吉井を断罪することはできません
むしろ、吉井の設定する値段で売れるものを二束三文でしか手放せなかった生産者に落ち度があるわけで、過酷なビジネス競争から脱落した無能と言わざるを得ません
その後、サイトで見つけたバッグを購入して売り捌きますが、これは「偽ブランドだとわかっている」と言う時点でアウトで、それでも無関係な人からすれば「怪しいネットで安価でブランドを買う方が悪い」と言う印象を持たれてしまいます
これも、買う側の落ち度が前面にあって、吉井はそのスキをうまく突いているように思えます
さらに吉井は、値段が高騰しそうな限定フィギュアを手に入れることになりますが、これは発売前のおもちゃ屋からまとめて仕入れることになりました
値段が高騰することがわかっていての購入で、これはおもちゃ屋が適正な価格を付けられていないとか、売れる見込みを予測できていないだけに過ぎません
また、目の前の現金に目を奪われていて、自分の店の顧客に対するリスペクトなどはありません
それゆえに、この段階でも吉井が絶対的な悪には見えていなかったりします
この流れの中で、商品を叩き買われた男と偽ブランドバックをつかまされた男が逆上し、ネットに晒されていた吉井に関する裏サイトに踏み込みます
これらのまとめサイト的なものは、ネット内で起こっているヘイトをうまく吸い上げたもので、それを目的としている者もいれば、そこに集う人々を操ってストレス発散をしようと考える人がいました
煽動者も祭りに参加している状態なのですが、彼らの誤算は吉井の背景に佐野がいたと言うもので、そもそも「潰れかけの工場に目をつけられるバイヤー」とか、「偽ブランド商品を独自のルートで仕入れているバイヤー」を普通の人だと思っていることの方がヤバいように思います
反社が組織的に行なっているかも知れないし、その筋から情報を仕入れているかも知れない
そう言ったものを蔑ろにして、煽動者として俯瞰するだけなら賢いと思いますが、実地に出向いて一緒にやられるのは無能の極みのように思えます
このケースにおける勝者がいるとしたら、この工場に無数のライブカメラを設置し、動画を無料公開しながら、アングルの良い映像とか画質によって有料化を行うことでしょう
それによって、小銭を稼ぎつつ、クレカなどの個人情報を引き抜くと言うもので、そう言ったライブ中継をSNSなどで配信して、終われば潰すと言うものになります
このようなリアルタイムで起こる惨劇を渇望する層はいて、その中毒性から再び顧客として取り込むことができます
映画には、そこまでの悪党はいないのですが、最もノーリスクでお金を得る手段としては、その技術があればできそうに思います
踊る阿呆を見る阿呆を安全地帯から観察しつつお金にする
これが現代的なショービジネスになっていますが、映画はそこまで深くは掘り下げていないので、あまり深みがないかなあと感じました
佐野の存在が謎のままになっていますが、おそらくは元組員か構成員のようなスペシャリストで、彼が吉井に肩入れする理由は分かりません
おそらくは、この地で「ビジネスに頭が回る人間を囲い込もう」と言うふうに考えていて、吉井はその中の一人なのでしょう
それ以上でも、それ以下でもないとは思いますが、結果的に吉井は佐野を助けることになり、さらに銃を撃つと言う反社的な行動に染まることになりました
なので、佐野としては、使い勝手の良い道具を手に入れることになって、さらに吉井的にも身の安全を守れる可能性が高まっているので、Win-Winの関係になっているのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101239/review/04299270/
公式HP: