ロードムービーが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.2.27(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題Hytti Nro 6、英題:Compartment No. 6

情報2021年、フィンランド&ロシア&エストニア&ドイツ合作、107分、G

ジャンル:寝台列車で居合わせた訳あり男女の交流を描いた恋愛ドラマ

 

監督:ユホ・クオスマネン

脚本:アンドリス・フェルドマニス&リヴィア・ウルマン&ジュホ・クオスマネン

原作ロサ・リクソム/Rosa LiksomCompartment No. 6

 

キャスト:

セイディ・ハーラ/Seidi Haarla(ラウラ:単身でペトログリフを見るためにロシアに向かうフィンランドからの留学生)

ユーリー・ボリゾフ/Yuri Borisov(リョーハ:ラウラの寝台特急の同室の男、ロシア人労働者)

 

ディナーラ・ドルカーロワ/Dinara Drukarova(イリーナ:ラウラの恋人、教授)

ユリア・アウグ/Julia Aug(ナタリア:寝台車の車掌)

 

リディア・コスティナ/Lidia Kostina(リディア:リョーハの養母)

トミ・アラタロ/Tomi Alatalo(サーシャ:ギターを持ったフィンランド人の乗客)

 

Viktor Chuprov(列車のウェイター)

Sergey Agafonov(セルゲイ:食堂車の乗客)

Nadezhda Kulakova(ナディア:食堂車の乗客、セルゲイの連れの女性)

 

Denis Pyanov(電話ボックスで待たされて怒る男)

Polina Aug(ホテルの受付)

 

Galina Petrova(駅の切符販売員)

Eeli Kuosmanen(駅のバイオリニスト)

 

Jalo Kuosmanen(パンケーキ家族の少年)

Svetlana Golunova(パンケーキ家族の母)

Eva Golunova(パンケーキ家族の子ども)

Timofei Olkov(パンケーキ家族の子ども)

 

Anatoliy Lyutyi(ムスマンスクのガイド)

Natalya Karcha(ムスマンスクの通訳)

Vasif Mustafaev(ムスマンスクのタクシーの運転手)

Sergey Rybakov(ヴォルガまで行くタクシーの運転手)

Stanislav Sergeev(ペトログリフの近くまで行くタクシー運転手)

 


■映画の舞台

 

ロシア:

モスクワ→サンクト・ペテルブルグ→ペトロザボーツク

 

ムルマンスク

https://maps.app.goo.gl/ytrZ1Ej7ccqPMbFx7?g_st=ic

 

ロケ地:

ロシア:サンクト・ペテルブルグ

https://maps.app.goo.gl/1Ld3CMgPoTmJRPrT9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

フィンランドからモスクワに留学に来ているラウラは、教授のイリーナと恋人関係にあった

2人でムルマンスクにあるペトログリフを見に行く旅を計画していたが、直前になって仕事が入ったとのことで、ラウラは1人で向かうことになった

 

モスクワからサンクトペテルブルグを経由してムルマンスクに向かう旅は、寝台列車で何泊かしなければならない

そんな彼女の同室にはロシア人の男リョーハがいて、彼は酒飲みで素行が荒かった

 

微妙な空気が流れる中、ようやくお互いの目的地が同じであることを知り、ある事件を機に2人の仲は少しずつ変わっていく

そして、リョーハの養母の家に一緒に出向くことになった

 

再びムルマンスクを目指す旅が続く中、ある事件が勃発してしまう

それは、ラウラのモスクワでの思い出が詰まったビデオデッキが盗まれてしまったのである

失意の中、ラウラはリョーハにある想いを打ち明けることになった

 

テーマ:舐め合わない傷

裏テーマ:交わらない想い

 


■ひとこと感想

 

寝台車にて、粗暴な男と同室になってしまうレズビアンを描いた作品で、この情報以外はほとんど仕入れない状態で参戦

事前に調べている余裕もなく、旅の目的さえ知らないで観ていましたね

 

物語は、旅の相手がドタキャンで、どうやら温度差がある感じになっていて、旅行のキャンセルは意図的なもののように思えます

また、旅先で出会うリョーハも外見と内面の乖離が激しいタイプの人間で、心に傷を負っているという点では良く似た感じに思えます

 

映画は、ペトログリフを見に行く旅なのですが、ぶっちゃけ「ペトログリフがどんなものかを知らない」とラストシーンの意味がわからないんじゃないかなと思います

私もそれが何なのか知らずに見たので、調べるまでは「え? どうなったん?」状態になっていましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ロシアを縦断して、最北端の海岸線でペトログリフを見るという旅なのですが、冒頭の「名言なぞなぞ」にかなり大きな意味がありました

語感的に「マリリン・モンロー」の方の名言が頭に残る感じの演出になっていて、さらっと映画のテーマと方向性が挿入されていたように思います

 

要約すると、「その旅は場所が目的ではなく、逃避であることを知ることだ」という感じの名言で、ラウラの一人旅が「イリーナとの関係を終わらせる旅」であったことがわかります

なので、ペトログリフを見るという目的は仮初のもので、イリーナからどれだけ遠ざかれるかという命題があるのですね

 

彼女が旅を続けるには覚悟が必要なのですが、その覚悟を持てないまま列車に飛び乗っていて、そこで一緒になったリョーハが、彼女に旅の目的を教える役割になっていました

実際には、クドクドと教えたわけではなく、旅の完遂をさせることで、心に空いた穴の正体に気づかせるというものだったと言えます

 


冒頭の名言について

 

映画の冒頭では、イリーナとその友人のパーティが行われていて、そこに馴染めないラウラが描かれていました

酔っ払って踊るものがいる一方で、「名言当てクイズ」なるもので盛り上がっているグループもありました

イリーナがいたのはこのグループで、ラウラもそこに参加することになっていました

本作では、ここで出題された2つの質問がテーマになっていたので、少しばかり解説をしたいと思います

 

【Чтобы убежать, нужно твердо знать не куда бежишь, а откуда.(英語:To escape, you need to firmly know not where you are running, but from where.)】

意味は「逃げるためにしっかりと知る必要がある。 それは、どこへ逃げるかではなく、どこから逃げているか、だ」と言うものでした

これは『Chapayev and Void(チャパーエフと空虚)』と言う書籍の一節で、作者はヴィクトル・ペレーヴィンVictor Pelevin)が書いたものでした

前後の文章を含めると「если пытаешься убежать от других, то поневоле всю жизнь идешь по их зыбким путям. Уже хотя бы потому, что продолжаешь от них убегать. Для бегства нужно твердо знать не то, куда бежишь, а откуда. Поэтому необходимо постоянно иметь перед глазами свою тюрьму.」と言うもので、グーグル先生の翻訳だと「他人から逃げようとすると、無意識のうちに不安定な道を一生歩きます。あなたが彼らから逃げ続けているという理由だけで。逃げるには、どこへ逃げるかではなく、どこから逃げるかをしっかりと知る必要があります。したがって、目の前に常に牢獄を置いておく必要があります」と言う意味になります

これは、ラウラの旅の状況を表していて、イリーナが来ないのに彼女が無理に旅行をするのは、彼女から遠ざかりたかったからだ、と言う意味に通じています

自分自身がもうイリーナに愛されていないんじゃないかと薄々考えていて、それを確かめるために距離を置きますが、旅先でのイリーナとの電話の内容を考えると、その意味は察することができると思います

 

【Only the parts of us will ever touch only the parts of others】

直訳すると「私たちがふれることができるのは他人の一部だけ」みたいな意味になりますね

これは、マリリン・モンロー(Marilyn Monroe)の未公開の詩篇の一部ですね

これに関しては下記のURLを踏んでいただいた方が早いかと思います

↓The Marginalian URL

https://www.themarginalian.org/2012/07/27/marilyn-monroe-fragments-poems/

この詩篇におけるテーマ性は、「人は見た目で判断できない」と言うもので、ラウラが出会う人々を意味しています

粗暴なリョーハの繊細さであるとか、フィンランド人の泥棒であるとか、人種を超えた普遍的な意味がありました

無論、イリーナもその一人で、熱が冷めた恋愛はその人となりというものを映していくのですね

 

この2つは見逃しがちなので、補足がてら解説っぽものを書き留めておきました

 


ペトログリフとは何か?

 

ペトログリフPetroglyph)とは、「岩の上に描かれた絵」のことを言います

岩石や洞窟などに描かれたもので、ペトログリフは「彫刻」のことを指し、絵画の場合は「ペトログラフ(PetroGraph)」と区別されています

最も古いものは「ウクライナにあるカメンナヤ・モグチャ」にあるもので、旧石器時代(約1万年前)と言われています

その後、約7000年前くらいには「絵文字」「表意文字」と言うものが出現しています

 

それらの意味は研究中ですが、天文図、地図などの自然の印ではないかと言うのが有力な見方ですね

また、インドにあるものは「儀式の副産物」とされていて、「ロックゴング」と言う楽器であることがわかっています

これらは日本にも存在していて、北海道の手宮洞窟、フゴッペ遺跡、岐阜県の笠置山、広島県の宮島などにもあります

映画の舞台であるロシアだと「ペトロザヴォーツク(ムルマンスクから南に1000km)」にあるもの、「トムスカヤ・ピサニツァ(ロシア中南部)」「ケメロヴォ(ロシア東南部)」などにもありますね

 

映画では、ラストシーン間際の波打ち際のシーンでちょこっと出てきたような気がしますが、それをじっくりと眺めると言うシーンはありませんでした

実際の旅の目的はペトログリフではなく、イリーナとの旅行だったわけで、それを一人で見ても感動はありません

でも、リョーハは彼女の旅の目的がそれでないと感じつつも、危険を冒してそこに連れて行きました

これは、ある種の儀式のようなものでしたね

ちなみに、ロシアを縦断する旅としては最も最北端にムルマンスクがあったりします

また、ムルマンスクは彼女の母国であるフィンランドからも近いので、そのままロシアを離れることもできるところまで来ていることになりますね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

個人的には旅行嫌いなので、寝台車で見知らぬ人と数時間も一緒というのは耐えらないと思います

コロナ禍以前から、隣に誰かがいるのが嫌で、席は「誰も来ないところ」を選ぶのですが、稀にいろんなところが空いているのに隣を選ぶ人がいて困惑しますね

列車でも「30分以内なら余程のことがない限り立つ」のですが、この映画のように丸2日となるとそうも言えません

でも、近くに来られるのが嫌なだけで、同室の人と会話できないかと言われればそんなことはないのですね

一定の距離感を取りながら、初対面でも普通に話せますが、ある一定のラインよりは奥にはいかないかなと思います

 

映画でも、ラウラは傷を抱えてはいるものの、どちらかと言えば社交性のある方なので、リョーハとも対話ができますし、彼の養母とも普通のコミュニケーションを取ることができました

でも、冒頭のパーティーシーンではイリーナ以外の人と話している様子はなく、何かしらの要素で苦手意識があることが伺えます

それが相手がロシア人だからかまでは分かりませんが、あまり自分が良く思われていないこともわかっているようでした

パーティーの中の誰かのセリフで「あの子は誰?」「イリーナの同居人」「ああ」というやりとりがあって、同性愛者であることがバレていることで疎外感を感じているのかもしれません

 

映画の後半では、ラウラはレズビアンであることをリョーハに告白しますが、一方で性的な関係を結ぼうとするシーンもありました

リョーハはそれを拒み、それによってラウラは再び孤独になってしまいます

でも、最北の地で頼る人がいなくて、彼の働いている工場に向かうことになりました

 

リョーハがラウラを抱かない理由は色々とありますが、彼自身が女性の弱みにつけ込むような真似をしたくないのと、その行為によって、もっとラウラが傷つくことと感じていたのだと思います

これは、リョーハ自身の語られない過去に起因していて、心に傷を負った状態の自暴自棄というものの経験があるからだと推測されます

彼は養母によって育てられ、複雑な家庭環境であったことは想像に難くありません

でも、養母のところに行くのは苦ではなく、その関係性も良好でした

 

彼がラウラを連れてきたのは、養母のためではなく、ラウラの為だったのかなと思います

彼はお酒が入って、さっさと寝てしまい、初対面の養母とラウラを残して、別室へと行きました

その場で横になるのではなく、部屋を変えたということは、俺に話せないことを話してみたらどうか、という意味合いになります

そこでリディアは抽象的だけど、ラウラに響く言葉を紡いでいきます

リョーハはリディアの性格を知っていて、瞬時に彼がラウラを連れてきた理由について察することができる人であると信頼しているのですね

そう言った関係性を紐解くと、養母との関係は良好で、母親思いの優しい人物であること言えるのではないでしょうか

 

旅は色んな可能性を秘めていて、一期一会で溢れている世界があります

リョーハは期間限定の友人で、ラウラと連絡先を交わすことを拒んでいます

それは、彼自身が「ラウラの旅における存在理由」というものをわかっているからでしょう

ラウラがこの後モスクワに戻るのか、フィンランドを目指すのかは分かりませんが、ムルマンスクには彼女の孤独を癒すものはありません

そう言った意味において、後腐れのないような関係で終わることをリョーハは重んじたのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385631/review/8569b21a-f21c-47ac-a398-8e117edad51d/

 

公式HP:

https://comp6film.com/

 

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投稿者 Hiroshi_Takata

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