■夫の死で失ったものを、彼女の成長で取り戻す物語になれば良かったと思う
Contents
■オススメ度
地獄に落ちるシングルマザーを応援したい人(★★★)
本格的なボクシング映画を見たい人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.27(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、121分、G
ジャンル:不幸続きのシングルマザーが拳一つで離れ離れになった娘を取り戻そうと奮闘するスポーツ映画
監督:雑賀俊朗
脚本:保木本真也&上杉京子
キャスト:
朝比奈彩(太田真名美/新庄真名美:夫を病気で失ったシングルマザー、プロボクサー)
(幼少期:松岡美那)
野田あかり(太田エミ:真名美の一人娘、幼稚園児)
市原隼人(谷川拓巳:真名美の所属するボクシングジムの会長&コーチ)
佐々木希(谷川由佳:真名美の友人の弁護士、拓巳の妹)
森崎ウィン(太田仁志:真名美の亡き夫)
松下由樹(太田葉子:仁志の母)
渡辺桜子(葉子の家の家政婦、ベビーシッター)
渡辺光(新庄卓也:真名美の父、プロボクサー)
観月ありさ(佐藤志穂:介護福祉施設「もやい聖友会」の介護士)
せんだみつお(畑信介:「もやい聖友会」の利用者)
小野木里奈(芹沢なつみ:世界王者)
鈴木ふみ奈(白鳥あや:連勝中のボクサー)
松浦慎一郎(大宮信行:丸ふじサニーサイドモールの惣菜屋の店長、真名美のアルバイト先)
松井沙知佳(惣菜屋の店員)
吉里瞳子(整形外科医)
松本昇馬(デリヘルのスカウト)
加賀屋隆介(中村順一:デリヘルの店長)
早咲(保育園の先生)
■映画の舞台
福岡県:北九州市
ロケ地:
福岡県:北九州市
折尾ボクシングジム
https://maps.app.goo.gl/tkptkse8FFtTuG6fA?g_st=ic
お惣菜・お弁当 丸ふじ
https://maps.app.goo.gl/viCpVa6LhDgFb5zq5?g_st=ic
銀杏庵 穴生倶楽部(もやい聖友会)
https://maps.app.goo.gl/dt6WKZVAbqrWZqgt6?g_st=ic
ミクニワールドスタジアム北九州
https://maps.app.goo.gl/jfEoj2w7UXqesonm6?g_st=ic
■簡単なあらすじ
夫を病気で亡くしたプロボクサーの真名美は、娘・エミを1人で育ててきた
だが、ボクサーの収入では生活が成り立たず、義母の葉子と親権争いに発展してしまう
調停には真名美の親友・由佳も同席していたが、栄養失調で倒れたことは向こうにもバレていた
その後、復帰戦を迎えるも感覚が掴めずに敗退
バイト先でも店長と口論になって一方的にクビになり、真名美は介護施設で働くことに決めた
だが、そこの利用者とトラブルになり、それが原因で収監されてしまう
葉子は裁判所の命令でエミを保護し、真名美は娘に会えなくなってしまう
エミを取り戻すには、ボクシングで勝って世界王者になるしかないと考えた真名美だったが、ジムの会長・拓巳からは「暴力事件を起こすような奴は置いておけない」と行く場所を失ってしまったのである
テーマ:母娘の絆
裏テーマ:不遇への挑戦
■ひとこと感想
シングルマザーが女子ボクシングで成り上がる系という情報だけを入れて参戦
北九州オールロケということで、そちらでは盛り上がっているようですが、肝心の映画は酷評が多い印象ですね
設定自体は特に問題ないと思うのですが、真名美をどういじめるかというところに歯止めがなさすぎましたね
ここまで落とされると、ボクシングどころではないと思うので、現実に即していない感じはしました
シングルマザーの不遇を描きたいのか、ボクシングで成り上がって行くところを見せたいのかがブレているので、どっちも取りに行った結果、どっちも中途半端になっている感じがしました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
タイトルのレッドシューズには色んな意味がありますが、劇中ではそれを完全に回収できていないのでモヤっとしてしまいました
最後はエミに渡すシーンで終わるのかと思っていたら、完全にスルーになっていましたね
あのアイテムを出すのなら、葉子宅に突撃して突き返されるか、玄関先に置いてきて、それを娘が発見するとか、色んな効果があったと思います
本作は一部では好評、全体的には不評になっていて、その要因が誰がどう見ても「脚本」に尽きると思います
演者さんが可哀想になるくらいキャラクター造形も中途半端だし、各方面の怒りを買いそうな薄い演出が多すぎて、どうなったらこれが採用されるのかは意味がわかりませんでした
配役を考えると、シングルマザー設定とか、どん底に落ちるとかは良くても、性格の面で疑問になるところが多かったですね
ボクシングで世界を目指すメンタルは感じられず、2戦目がいきなり「世界」というのも無茶だと思います
いっそのこと、アルバイトでの顛末などを切り捨てて、ボクサー一本で邁進する姿をエミが見て、母というものの強さを学ぶというシナリオの方がしっくりきます
画作りも良かったし、演技も頑張っていたと思うので、真名美の不幸が完全にノイズになってしまっていたのは残念でなりません
■不遇と不幸の違い
本作はシングルマザーの不遇を描き、それでもメゲずに頑張っていく姿を描いていきます
そのテーマ自体は良いのですが、彼女に共感できるかと言われればなかなか難しいと思います
そもそもシングルマザーが娘を育てながら生きていく、という物語があったとして、そこで格闘技を選ぶというのがレアケースなのですね
なので、境遇は理解できても、選択が理解できないというのは普通の感覚であると思います
ボクシングで世界チャンピオンになれば金銭的に裕福になれるとは思いますが、復帰から2戦(1勝1敗)でタイトルマッチに辿り着く流れが「競技としてハードルが低いのか?」と思えてしまうのですね
実際にはそんなに簡単な世界ではないし、才能があってもステップというものはきちんと描かないといけません
復帰戦ということで、それ以前は日本王者ぐらいのポジションだったとすればギリセーフの案件ですが、復帰後の練習風景とか奥の手などを見ていると、とても日本王者に上り詰めたような才覚は感じません
映画では、不遇=不幸という描かれ方をしていましたが、真名美の中での幸福の基準はエミといることなので、その方向から遠ざかる選択ばかりしている彼女の行動は共感性からほど遠いところにいます
それを覆すだけの物語性とか、納得性があれば良いのですが、そこまでのシナリオ力はなかったと思います
不幸というものが「自分の思い通りにはならない」という流れの中で、それを変えていける力とは何か
そこまで踏み込んでこそ、この物語には意味が宿るのではないでしょうか
■勝手にスクリプトドクター
本作の設定は「シングルマザー」「ボクシング」という組み合わせで、「周囲の反対を押し切ってチャンピオンを目指す」というストーリーラインがあります
そして、物語の始まりの段階の真名美の状況は、「出産と子育てでキャリアを中断」「夫の病死」というものがあり、「義母と親権を争う」という感じになっています
ボクサーだった真名美に惚れ込んで結婚、その後出産のためにキャリアを断念までは通じますし、その後ボクサーとして再帰しようとしているところまでは意味は通じます
問題は、その状況で「親権争いに発展している」ということで、この理由が「ボクサーだけの収入では成り立たない」というものではないところでしょう
映画の冒頭で復帰戦が描かれ、夫の死から幾許かの期間を経て、元の職業に戻ろうと考えたのは理解できます
でも、ボクサーに復帰するまでに生活が困窮するという状況になるということは、「夫の治療に莫大な費用がかかった」とか、「預貯金は全くなく、生命保険金なども得られなかった」という状況から「ボクサー人生を再始動させようとしている」ということになります
職を転々とするのは「ボクシングとの両立」「エミの面倒を見てもらえる環境(幼稚園など)」などがブレーキをかける可能性はありますが、彼女の場合は「職場とトラブルが多い」というものがありました
これに対して、生活の支援は全くしないけど、孫の養育権だけは主張するというのが義母ということになりますが、そこまで鬼のような人物には描かれていません
なので、経済的な問題による親権争いよりは、教育という面で「母親が殴り合いを職業としている」という職業に対する無理解を描いた方が良かったと思います
復帰に際しても、リングは彼女を歓迎するけど、義母だけはそれを認めない(あるいは理解できない)というもので、復帰は「夫との約束だった」という方がしっくり来ます
問題は、この映画でボクサー真名美をどのように再帰させたいかであり、また「何から再帰させたいのか」というところに行き着きます
個人的にこのキャストと設定で観たかったなと思えるのは、「父との約束」「夫との約束」「ボクシングに対する敬意」という根底に支えられる真名美と、その姿を見ていたいエミの存在でしょう
そして、この二人を阻害するものとして、ボクシングとシングルマザーに偏見を持っている義母という障壁を作ることです
この役回りはかなり嫌な役回りになりますが、その憎悪感が増せば増すほど「真名美を応援したくなる」のですね
本作の内容だと「真名美を応援したくなる要素」がほとんどなく、「義母の言うことはごもっとも」となってしまっているのが最大の問題であると思います
これらを踏まえた「素人のさいつよシナリオ」を懲りずに展開したいと思います
【オープニングイメージ】死のイメージ
夫の病床、鳴り止まないアラーム、慌ただしく駆け回る病院関係者
【起】復帰
数ヶ月後、リングに上がる真名美、何もできずに敗戦
それを見守るエミと友人の由佳、遠くから見ていた義母、背を向けて去る
ジムにて反省会、わずかなファイトマネー、通帳を見る真名美、落胆する
義母からの電話「この先、どうするのか?」
「時間が欲しい」と真名美がいうものの、義母は冷たく突き放し、「ボクシングを続けるのなら、エミは私が育てます」と言われる
エミ、真名美の過去の試合のテープを見る
そこには日本王者に挑戦する真名美が記録されていて、そのテープを撮っていたのは父だったことがわかる
試合は判定負け、泣きじゃくる真名美の姿が映像に残っていた
【承】迷い
両立を悩む中で、中途半端になって会長から叱責される
ファイトマネーでは食べていけずにアルバイトを始めようとするも、ボクシングとの両立で仕事が決まらない
なんとかスーパーのバイトに駆け込むも、ボクシングしかしてこなかったことで仕事をうまくこなせない日々が続く
エミを迎えにいく時間が遅れたり、由佳に迷惑をかけ始めて、会長も怒り出し、「エミがもう少し成長するまでは子育てに専念しろ」と言われてしまう
途方に暮れる中、夫からのメッセージビデオを見る日々が続く
心配するエミ、義母のところに行く
義母は喜んで迎え入れるが、真名美がエミを追って義母のところに行く
衝突と約束、父と夫との約束であることを告げる
義母、条件を提示するも、かなり難しい難題だった(日本タイトルを獲れ)
【転】変心
会長と相談をし、決意を固め練習に励む
キャリアを取り戻すために試合を急ぐものの、シングルマザーとの両立が美談になって、キレる対戦相手などが登場
反則スレスレの試合展開になって、理不尽な敗戦などが募り荒れる
会長は宥め、「もっと強くなればこんなことにはならない」と励まし、会長と父とのエピソードを聞かせる
心を入れ替える真名美、週に1度許されたエミとの時間も返上し、義母を驚かせる
【結】勝利
泥臭い試合で勝ち上がり、日本王者のタイトル戦にこぎつける
相手は恋愛などの青春を犠牲にして勝ち上がってきた
また、真名美がチヤホヤされていた復帰前に一度対戦したことがある相手(その時は真名美が勝利した)
ボクシングに向かう姿勢を認めていない相手だが、真名美には勝つための理由があり、その想いが優ってタイトル戦への切符を手にする(以前の対戦時よりも強くなっていることを相手が思い知る)
【エンディングイメージ】未来
試合が終わり、リングに駆け寄るエミ
義母も彼女の元に来て、拍手を送り「尽きるまで戦いなさい」と励ます
真名美、エミに自分が履いていたレッドシューズを渡す
意味がわからないエミだったが、「このシューズは夫(エミの父)が私に買ってくれたもの」と告げる
真名美が戦い続ける限り、一緒に戦っている父の姿を感じるエミ
エミ、レッドシューズをギュッと抱きしめて、真名美もエミを抱きしめる
会長「さあ、次が本番だ」
こんな感じでしょうか
大きな改変は「レッドシューズを変える」「バイトが続かない理由を変える」「親権争いはしない」「テーマをボクシングへの無理解にする」というものですね
そして、目標設定も無理と思われるところではなく、かつての水準(タイトル戦に手が届くレベル)に落ち着かせることです
そこから先のことはわからなくても、真名美の本気が義母に伝わって、「会場で彼女を待っている人々を見ることで考えを改める」というのがわかりやすいシナリオなのかなと思いました
まあ、全くの別物なので、設定をお借りした二次創作のような感じに仕上がってしまいましたね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は演者の力量、その本気度が伝わる内容で、なんとか真名美を全力で応援したくなるシナリオはないかと考えてしまいました
でも、映画はノイズが多くて、真名美の状況は普通に考えるとボクシングには向かうはずもありません
また、病死した夫の情報がほとんどわからず、結婚時の経済状況が不透明で、彼女たちの困窮がどこから起因しているのかわかりません
出会いの感じだとサラリーマンが試合に来て惚れ込んだという感じで、母親は金持ちなのに絶縁状態になっているのが理解できません
せめて、母親の家庭は普通で、夫と死別していて孤独というものがあれば、エミを育てることにも意味を見出せるでしょう
家庭環境などを全面に出すと、ボクシング映画である意味がなくなります
やはり、ボクシングで成り上がっていく姿を娘に見せるというのが骨子だと思うので、それを「応援できる環境と障壁」を描いた方が良かったと思います
主演が朝日奈彩さんだったので、悪態をついて相手を威喝するようなキャラ(劇中だと小野木里奈さんのキャラ)にするのは無理があります
なので、ボクシングに賭ける情熱で凌駕するというのと、子どものために戦うママの強さは強調していくことになります
映画には「敵対者」という相手が必要になりますが、この設定がサプライズになることがあります
本作でそれを考えるにあたって、単純なものは「義母の無理解」ですが、本質的なところに向かうとなると、「真名美が倒さなければならない本当の敵対者は自分自身」になると言えるでしょう
それが「迷い」「心の弱さ」になっていて、それをクリアするために必要な導きは義母(実は贈与者だった)の反対であり、世間のバッシングであり、対戦相手の怒りだったりします
なので、これをクリアするに至る過程というものを綿密に作り上げ、映画の最初と最後では真名美の表情が変わっているというシナリオになった方が活きてくると思います
前述のプロットにて「オープニングイメージ」を夫の死にしたのは、「死から生へ向かう物語」という意味合いを込めています
そして、真名美にとっての「生」とは何かを考えた時、そこに必要なのは「未来」なので、会長の一声で終えるというふうに設定することにしました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385663/review/20805fa3-0302-4a22-9c1e-3a66a42f8900/
公式HP:
http://surf-entertainment.com/redshoes.html