■それぞれの心に残ることほど、至上の愛はないのかもしれません
Contents
■オススメ度
偏屈なラブロマンス映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.21&25(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:헤어질 결심(別れる決心)、英題:Decision to Leave(別れる決心)
情報:2022年、韓国、138分、G
ジャンル:容疑者と恋仲になって崩壊する生真面目な刑事を描いたラブロマンス映画
監督:パク・チャヌク
脚本:パク・チャヌク&チョン・ソギョン
キャスト:
パク・ヘイル/박해일(チャン・へジュン:事件を追う生真面目な刑事、釜山警察)
タン・ウェイ/湯唯(ソン・ソレ:夫殺しの容疑をかけられる妻、介護士)
チェ・ソンジャ/최선자(病弱なソレの母)
イ・ジョンヒョン/이정현(アン・ジョンアン:週末に1度だけ会うへジュンの妻、最年少で原発管理部の役職に就任)
ユ・テオ/유태오(イ主任:イポ原発管理部、ジョンアンの部下)
ユ・スンモク/유승목(キ・ドス:崖から転落死したソレの夫、出入国・外国人庁の元職員)
パク・ヨンウ/박용우(イム・ホシン:ソレの新しい恋人、株式アナリスト)
コ・ギョンピョ/고경표(オ・スワン:へジュンの部下、釜山警察の刑事)
チョン・イソ/정이서(ユ・ミジ:へジュンの部下、情報収集担当)
ユン・ソンファン/윤성원(ソジュンの上司、釜山警察)
キム・シニョン/김신영(ヨンス:へジュンの部下、イポ警察の刑事)
チョン・ヨンスク/정영숙(ヘドン:月曜日のおばあさん)
イ・ヨンニョ/이용녀(火曜日のおばあさん)
パク・ジョンミン/박정민( ホン・サンオ:西ゴクドン町事件の容疑者)
イ・ハクジュ/이학주(イ・ジグ:ホン・サンオの仲間、容疑者)
チョン・ハダム/정하담(オ・ガイン:ホン・サンオの元カノ、美容師)
ソ・ヒョヌ/서현우(サ・チョルソン:イム・ホシンの投資詐欺の被害者)
チェ・デフン/최대훈(イポの睡眠クリニックの医師)
チョン・ソリ/정소리(釜山「Oppa」のPCルームのアルバイト)
【劇中映画「白い花/흰꽃」】
コ・ミンシ/고민시(巫女)
チャ・ソウォン/차서원(キュ先生)
【劇中映画「赤色緊急/적색비상」】
クアク・ウンジン/곽은진(ジミン)
アン・ソンボン/안성봉(ゴビン)
■映画の舞台
韓国:釜山&イポ
ロケ地:
韓国:
松廣寺/Songgwangsa Temple
https://maps.app.goo.gl/DWB7Zw9HR4tC9TQr5?g_st=ic
ボムバウィ
https://maps.app.goo.gl/vM1H4N4vanDFLoX28?g_st=ic
ブナム・ビーチ
https://maps.app.goo.gl/Wj98s2z93SD2mrLv7?g_st=ic
■簡単なあらすじ
韓国の釜山にて、男が崖から転落するという事件が勃発する
その事件を担当することになった刑事のへジュンは、捜査を進める中で、妻ソレに容疑をかけていく
ソレは中国から来た妻で、韓国語はあまり上手ではなかった
また、ソレには夫の殺害時に仕事をしていたこともあって、アリバイは完璧に思えた
取り調べを進める中、へジュンの中にある変化が生まれ、ソレはそのことに気づいてしまう
やがて、亡くなった男は出入国の際に賄賂を貰っていたことが発覚し、事件は自殺と断定され、ソレは容疑から外れることになった
ある日、ソレの介護の対象者が危篤状態になり、へジュンはソレの代わりにその老婆の元にいくことになった
へジュンはそこで、老婆のスマホがソレのものと同じことに気づく
また、老婆は認知症を患っていて、曜日の感覚がなかったのである
テーマ:禁断の恋
裏テーマ:未解決であるが故に続く愛
■ひとこと感想
実は火曜日にも観に行ったのですが、極度の睡魔に襲われて、ほとんど内容を覚えていませんでした
あらすじなどを韓国ウィキで調べても何となく付合するのですが、キャスト欄を作り始めて、これは無理だなと思い、何とか週内に見直しをしました
映画は「最後どうなった?」系ではありますが、それよりも「内容がクドい」ので、かなりスローテンポに感じます
しかも、何度も「終わった感」がある流れで続くので、集中力を途切らさずに観るのはしんどかったですね
1回目に寝落ちした理由は何となくわかりました
物語は単純で、夫の死亡の容疑者になった妻とそれを調べる刑事が恋仲になるというもので、それによって捜査の方向を見誤っていく過程を描きます
でも、それだけで終わらずに、第2、第3の事件が起こっていくことで、二人の関係性というものが試されていきます
第3は事件とまではいきませんが、へジュンの中では事件のようになっている印象ですね
総じて、悪くはないけど一般ウケはしないというのが率直な感想で、ラストシーンの解釈はさほど考察が必要とは思えませんでした
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
基本的には恋愛映画というカテゴリーで、二人の間にある「障壁」は「容疑者と刑事」という社会的な立場であると言えます
でも、この立場が関係性を存続させるものになっていて、一般人と公務員という再会が許されない間柄になっていました
へジュンの「崩壊」はソレにとっては至上の告白であり、彼を崩壊状態に陥らせ続けることで恋愛は存続します
ラストでは「未解決事件」が二人を繋ぐものとしての暗喩になっていて、ソレ自体の失踪を「未解決事件」になろうとしていました
刑事であることを辞められないヘジュンと、彼が刑事だから執着を持たれると思っているソレの関係性は、別の出会いがあれば違った未来があったように思えます
でも、二人は「背徳」があるからこそ、相手に魅力を感じているのですね
このあたりの心理戦というものが本作の見どころなのだと思います
■背徳が強める執着
取り調べのシーンにて、ソレは孔子の言葉を引用していました
「지혜로운 자는 물을 좋아하고 인자한 자는 산을 좋아한다고 했습니다.(知者樂水、仁者樂山=知者は水を楽しみ、仁者は山を楽しむ)」という部分で、これは『論語』の雍也の一節にあたります
ちなみに、これは一部分で、全体は「子曰、知者樂水、仁者樂山、知者動、仁者静、知者樂、仁者壽」となり、「先生がおっしゃるには、知者は水を楽しみ(動くもの)、仁者は山を楽しむ(動かないもの)。知者は行動的で、仁者はゆったりと落ち着いている。知者は変化を楽しみ、仁者は人生を楽しむ」というものでした
ソレは中国人なので、論語の引用に長けていましたが、ヘジュンにはあまり意味が伝わっていないように思えます
彼女はこの時、「私は山が好きだ」と続けていましたね
変化のない人生を楽しむという意味になりますが、実際には「思いっきり動きまくる」人物で、ヘジュンに対して偽っていたことがわかります
また、この引用はヘジュンへのフックのようなもので、彼の知的水準を測っていたようにも思えます
その後は、自分の事件をどこまで追えるかを試しているような感じで、彼が追ってくるようにわざと隙を見せていたようにも思えました
ヘジュンははっきり言えば「一目惚れ」状態で、当初のソレは気づいていません
でも、彼の部屋に行った時、自分の写真が貼られていたことで、ヘジュンの気持ちに気づきます
この時は「太ももの傷を撮った写真」などがあり、事件に関して重要な写真が貼っていたのですが、一枚だけ異質の写真が貼ってありました
それは他の写真で隠されるように貼られていて、取調室の机に座っているところを真正面から捉えたもので、机が鏡のようになって、ソレが二人写っているように見えるものでした
実は、ヘジュンはこの時点で「崩壊に向かって」突き進んでいて、ソレがその気持ちに気づくシーンになっていました
その後、ヘジュンは「刑事としてあるまじき行為」として、証拠の残ったスマホを海に捨てろと言います
この時のセリフが「나는요… 완전히 붕괴됐어요.(私は…完全に崩壊しました)」でしたね
これが愛の言葉だったのかは、ソレとヘジュンで見解が分かれているという流れになっていました
■ラストシーンの解釈について
ラストシーンは「砂浜に穴を掘って中に入るソレ」をヘジュンがGPSの追跡機能で追いかけるというものでした
このシーンの直前には「ヘジュンの妻ジョンアンが職場のイ主任と去っていくシーン」で、この後にソレを探しに行く車の中では「指輪は外されていた」のですね
離婚を突きつけられたのかはわかりませんが、夫婦の関係が完全に消滅することが暴露されるシーンでした
ジョンアンがイ主任とできているのかどうかはわかりませんが、おそらくは「週一夫」では物足りないことは、セックスシーン他を見ても如実に現れていました
この時点で、ソレはヘジュンが妻と別れたことを知らずに海に向かいます
ヘジュンが彼女を追ったのは、ソレとの関係が壊れたからであり、その想いは100%ソレに向かっている状況であると言えます
なので、これまでは「容疑者と刑事」の後にあった「妻帯者と未亡人」という関係性があったのですが、この時点の二人の関係は「バツイチと未亡人」という関係性で、一緒になることが可能な関係性になっていました
ヘジュンは「ソレの言葉(「愛の言葉を連呼した)」の意味がわからず、何度も「僕はいつ愛していると言ったか?」と聞いていましたね
ソレは「僕は完全に崩壊しました」を「愛している」と解釈していて、翻訳アプリで調べたり、スマートウォッチに自分で吹き込んだりもしていました
ヘジュンにとっては、「超えてはいけない一線を超えた」「僕は警察官失格です」という意味なのですが、ソレにとっては「僕はあなたに心を砕かれてしまいました」というニュアンスの愛していますという意味に変換されています
ヘジュンがこの言葉の意味の違いに気づいたのが、ソレのスマートウォッチに記録されていた音声を印字したものを見た瞬間であり、彼の頭の中で「自分のセリフがソレの言葉で再生された」のですね
自分が語った言葉は「ソレのニュアンスが含まれた優しい言い方」に変わっていて、そのセリフを以て、ヘジュンはソレの本当の気持ちに気づくことになりました
そして、ソレの心を知り、そして結婚という枷がなくなったヘジュンは、自分の思い通りに生きようとします
でも、その想いは届くことはなく、二度と彼女に会うことは許されなくなってしまいました
映画は「未解決事件」であれば、ヘジュンの気を引き続けることができると悟ったソレが、自らが未解決事件になるという結末を迎えます
絶対に彼が見つけられない場所に行って、そこで証拠のスマホと一緒に眠る
これがラストシーンにおける、ソレの行動であると思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作はラブロマンス映画で、刑事と容疑者という禁断の恋を描いていました
一つ目の事件は、おそらくは財産目当てのもので、山を好む彼女は、その生活を維持するためのお金を手に入れることになります
自殺に見せかけたけど、ヘジュンによって事件は解決され、本来ならば夫殺しの罪で刑務所に行くはずでした
でも、ヘジュンが崩壊したことによって、彼女は罪に問われなくなります
ソレはヘジュンの心を知り、そして彼女自身もヘジュンへの想いを募らせていきます
ヘジュンは彼女の心が自分に傾くわけがないと思っていて、それゆえに「別れる決心」を持ち、ソレも同じ想いを抱えることになります
ソレはイポに行って、新しい夫を得ますが、おそらくはキ・ドスから受け継いだ遺産の運用の相談をする関係だったのでしょう
でも、ヘジュンも釜山を離れて、妻のいるイポに来てしまったことで、運命が再び二人を引き寄せてしまいます
そこでソレは「ヘジュンとの関わりを再度持つために」事件を起こし、夫を殺した容疑者になります
そして、捨てろと言われたスマホをまだ持っていたことが知られてしまいます
二人はそれぞれ、新天地にて「山の生活」をするはずでしたが、運命はそれを許しません
結局のところ、二人は「海の生活」しかできない性質を持っていて、それゆえにラストシーンは荒波に飲まれる二人を描くことになりました
最後にヘジュンが死んだのかどうかまでは描かれていませんが、おそらくは波に飲まれて死んだものだと思います
ヘジュンの不可解な失踪と溺死、もしかしたら同じ場所で見つかるかもしれないソレの死体
スマホは水没してしまったので、釜山の事件もイポの事件も迷宮入り(自殺で終了)になりますが、二人が死んだ理由は未解決事件として残ることになります
未解決であるがゆえに繋がっている絆というものは、それぞれが未解決事件になることで結ばれる
奇妙な恋愛観ではありますが、その方がしっくり来ると思いますし、背徳の恋愛の顛末としては相応しいのかな、と感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385856/review/cd2bc69e-04a4-43c3-9ead-e381c860e3f2/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/wakare-movie/