■誰かの光となって輝き続けることは、もしかしたら残酷なことなのかも知れません


■オススメ度

 

引用が多い映画が好きな人(★★★)

考察が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.2.24(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:Empire of Light

情報:2022年、アメリカ&イギリス、113分、G

ジャンル:寂れた映画館で働く女性が若い新入社員と恋仲になる様子を描いたラブロマンス映画

 

監督&脚本:サム・メンデス

 

キャスト:

オリヴィア・コールマン/Olivia Colman(ヒラリー・スモール:「エンパイア劇場」のマネージャー)

マイケル・ウォード/Micheal Ward(スティーヴン・マレー:「エンパイア劇場」の新入社員)

 

コリン・ファース/Colin Firth(ドナルド・エリス:ヒラリーの上司、「エンパイア劇場」の支配人)

Sara Stewart(ブレンダ・エリス:ドナルドの妻)

 

トビー・ジョーンズ/Toby Jones(ノーマン:映写技師)

トム・ブルック/Tom Brooke(ニール:ヒラリーの同僚)

Hannah Onslow(ジャニーン:スティーヴンを気にいるフロア係)

Roman Hayeck-Grenn(フランキー:ヒラリーの同僚)

Brain Fletcher(ブライアン:ヒラリーの同僚)

Dougie Boyall(フィン:ヒラリーの同僚)

Asheleigh Reynolds(トレバー:ヒラリーの同僚)

 

ターニャ・ムーディ/Tanya Moodie(デリア・マレー:スティーヴンの母、看護師)

クリスタル・クラーク/Crystal Clarke(ルビー:スティーヴンの初恋の相手)

 

William Chubb(ライアード医師:ヒラリーの主治医の精神科医)

Monica Dolan(ローズマリー・ベイツ:ソーシャルワーカー)

Mark Field(ブラマー:ヒラリーのドアをこじ開ける警官)

 

Ron Cook(クーパー:スティーヴンに激怒するレイシストの客)

D.J. Bailey(ポッド:スティーヴンがモノマネをする老人客)

Eliza Glork(ブランディ:ポップコーンを買うカップル)

Geroge Greenland(ライアン:ブランディの彼氏)

 

Justin Edwards(ジム・ボース:市長の秘書)

Rod Arthur(市長)

 

Jacob Avery(コリン:スティーヴンに暴力を振るうレイシストの若者)

Spike Leighton(ミッキー:スティーヴンに暴力を振るうレイシストの若者)

Jamie Whitelaw(シーン:スティーヴンに暴力を振るうレイシストの若者)

Dylan Boore(ポゴ:スティーヴンに暴力を振るうレイシストの若者)

 

Mark Goldthorp(社交ダンスのインストラクター)

Adrian McLoughlin(ビル:ヒラリーの社交ダンスの相手の老人)

 


■映画の舞台

 

1980年、

イギリス:マーゲイト

エンパイア劇場

 

ロケ地:

イングランド:ケント州

DreamLand Margate/ドリームランド・マーゲイト

https://maps.app.goo.gl/RWXFdCFHxXGhxGKY7?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1980年、イギリスのケント州マーゲイトにある映画館「エンパイア劇場」は、かつての栄華も虚しい営業を続けていた

マネージャーのヒラリーは支配人のエリスから性的な嫌がらせを受けていたが、スタッフはそれを黙認している

 

そんな彼らの元に、黒人男性のスティーヴンがスタッフとして新しく加わった

彼の聴く音楽は若者向けで、ジャニーン以外は話も合わない

スティーヴンとジャニーンが関係を深めつつある中、ヒラリーは嫉妬のような感情を露わにしていく

そして、年越しカウントダウンを劇場の屋上で過ごしたヒラリーは雰囲気に任せてスティーヴンにキスをしてしまう

二人はそれから大人の関係になり、それは秘密の関係だった

 

映画館は「炎のランナー」のプレミア上映が決まり、ボロボロの劇場に少しづつ手入れを入れることになった

プレミアには市長も来るとのことで、スタッフは気を引き締めるものの、そのプレミアの会場でヒラリーは挨拶と称していきなり詩の朗読を初めてしまう

ヒラリーの人生は順調に見えたが、彼女の内面はボロボロで、さらに町を巻き込んだ騒動が勃発してしまうのである

 

テーマ:孤独の癒し方

裏テーマ:映画館を満たす光の正体

 


■ひとこと感想

 

ある海辺の映画館で働く人々を切り取った作品で、映画の引用、詩の引用などが多く盛り込まれた詩的な作品だったと思います

オリヴィア・コールマンさんの演技が絶賛されている映画で、迷うことなく参戦を決めました

 

映画は個人的には好きなタイプの映画で、パーソナルな内面を描きつつ、スティーヴンに対して何ができるかで悩むヒラリーが描かれていました

彼女が読んでいる本や、スピーチで引用する詩、ラストでスティーヴンに渡す本などは、彼女の自分では表現できない感情の言語化を手助けしていました

 

時代はイギリスの1980年ということで、サッチャリズムにて失業率が爆上がりした不況期になっています

それによって、様々な不満が爆発し、それらは人種差別へと行き着いていきます

レイシストの青年たちがみんなスキンヘッドにしていたのが特徴的で、当時の流行りだったスキンズ、パンクロックの影響の中で、労働者階級に染み込んでいきました

 

その一方で、スティーヴンは「ザ・スペシャルズ」を好んでいて、彼がレコードジャケットを見て「黒人と白人の若者が一緒にいるのは普通のことだ」と言っていたのは印象的でしたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

映画館のロビーの天井に彫られている「Find Where Light In Darkness Lies(暗闇の中に光を見出す)」とか、プレミアでの詩の朗読(アルフレッド・テニスン『打ち出せ、荒ぶる魂よ』)、ラストにスティーヴンに渡す書籍(フィリップ・ラーキン『高窓』所収「樹々」)などのように随所に引用が多い作品でしたね

このあたりはパンフレットにも書いてあるので、映画の理解を深めたい人は「必読書」であるように思えます

英語力に自信のある人は、英語ウィキの旅に出るのもありかも知れません

 

ヒラリーは自分の内面の言語化に引用を使うタイプの人で、日々の読書習慣がそれを可能にしています

それなのに映画を見たことがないという生活をしていて、そんな彼女にノーマンが見せる映画が『チャンス』であることにも意味があります

 

ヒラリーはかつて事件を起こした人物で、スタッフはそれを知っているからか優しく見守っています

行き場のないヒラリーを性の捌け口にしているエリスは最低の人間ですが、それを知りながら何も言えない現状が閉塞感を生み出しています

 

劇場はかつて社交の場で、ダンスフロアなどもありました

ヒラリーはその時代を知っている人物でしたが、社交ダンスで組まされるペアは老人だったりと、自分の老いに対してかなりの抵抗心があったことが読み取れます

鏡の中にかつての自分はいない

そんな中で出会った夢を見失った青年

ラストのスティーヴンの母との会話は、ヒラリーがスティーヴンにとってどんな存在なのかを如実に表していて、それを考えると切なくなってしまいます

 


引用についてのあれこれ

 

【Find Where Light In Darknes Lies】

エンパイヤ劇場の天井に書かれている文字で、出自はシェイクスピアの戯曲『Love‘s Labor‘s Lost恋の骨折り損)』の一節で、その引用部分は、「Light seeking light doth light of light beguile: So, ere you find where light in darkness lies, Your light grows dark by losing of your eyes.」となっています

ざっくりとした意味は、「光を追いかけすぎても見えなくなる」というニュアンスの言葉になりますね

 

アルフレッド・テニソン/Alfred Tennyson『(Ring out, Wild Bells)打ち出せ、荒ぶる魂よ』】

ヒラリーがカウントダウンの花火の時に口ずさむ詩

年明けに口ずさむ詩としては異様な印象がありますね

 

Ring out, wild bells, to the wild sky.(鳴り響け、荒ぶる鐘よ)

The flying cloud, the frosty light:(飛翔する雲、凍てつく光)

The year is dying in the night;(夜の中で死にゆく年)

Ring out, wild bells, and let him die.(荒ぶる鐘の音よ、葬り去れ)

 

【With Deep Affection . X】

ヒラリーが読んでいた本のタイトルです

「深い愛情を込めて」の10巻の事だと思いますが、ググっても情報はありませんでした

 

W・H オーデン/W.H. Auden『Death’s Echo(死のこだま)』】

『炎のランナー』のプレミア上映の前に、ヒラリーが壇上に上がって読む詩篇です

 

The desires of the heart are as crooked as corkscrews, Not to be born is the best for man; The second best is a formal order, The dance’s pattern; dance while yo can.

(心の欲望は、栓抜きのように歪んでいる。生まれぬことが最善、次に善いのは正式な命令、ダンスのパターン。踊れるうちに踊れ)

Dance, dance, for the figure is easy, The tune is catching and will not stop; dance  till the stars come down from the rafters; Dance, dance, dance till you drop.

(踊れ、踊れ、簡単な動きだから。妙なる調べがやむことはない。星が降りてくるまで踊れ。踊れ、踊れ、倒れるまで踊れ)

 

フィリップ・ラーキン/Philip Larkin『高窓/High Window』】

ヒラリーが旅立つスティーヴンに渡す本

その本の栞が挟まれていたところには「樹々」という詩が所収されていました

 

The trees are coming into leaf(樹々に芽が吹き始める)

Like something almost being said;(言いよどむ言葉のように)

 

The recent buds relax and spread,(新芽はゆったりと広がる)

Their greenness is a kind of grief.(その緑は、なぜか悲しげ)

 

Is it that they are born again(樹々は再生する)

And we grow old? No, they die too.(人は老いるから? いや、樹々も朽ちる)

 

Their yearly trick of looking new(毎年、新しい顔をしても)

Is written down in rings of grain.(その秘密は年輪に書かれている)

 

Yet still the unresting castles thresh(そして、城は休むことなく)

In full grown thickness every May.(5月になると、溢れる緑を誇る)

 

Last year is dead, they seem to say,(去年はもう、死に絶えたのだから)

Begin afresh, afresh, afresh.(新たに始まるのだ。新たに、新たに)

 

【チャンス/Being There(1979年の映画)】

1979年にアメリカで公開された映画で、監督はハル・アシュピー

原作は『庭師 ただそこにいるだけの人(Being There)』で、作者のジョージ・コジンスキーが脚本も務めている作品です

チャンスは知的障害を持っていて、ずっと宮殿の中で庭師として生きてきましたが、ある日外に出てしまうのですね

そこで、いろんな人に誤解されながら、気がつけば大統領候補になっていた、というコメディです

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エンパイアの光とは何か

 

映画のタイトルは「Empire of Light」ということで、直訳すると「光の帝国」という意味になります

また、エンパイアは劇場の名前でもあるので、「光の劇場」とも読み取れます

映画館が誰にとっての光だったかと言えば、スティーヴンであり、ヒラリーであり、そこで働くすべての人の光でもあったと言えます

 

時はマーガレット・サッチャーの時代で、その政策によって失業率が急上昇した年になります

かつての華やかさはなく、映画館もフロアーを絞って営業していて、連日満員という感じではありません

それでも、働く場があるということは、時代性を考慮しても希望だったと思えます

 

また、スティーヴンにとっての光はヒラリーであり、彼女の導きによって、建築家の夢を掴むことになります

あのまま映画館の1スタッフとして一生を終えることもあったかも知れず、ノーマンの引退に合わせて映写技師をしていた可能性は高かったでしょう

黒人を含めた差別運動が激化していた年でもあり、客の中にもレイシストがいました

支配人としてはトラブルは避けたいでしょうから、裏方に回される可能性もあったでしょう

映画館のスタッフに偏見がなくても、客を選べませんので、不条理なことは起こりえます

 

ヒラリーとしても、スティーヴンの登場は「女を思い起こさせる」という意味では光でしょう

彼女は双極性障害を患っていて、これは彼女の投薬の内容でわかります

あの時、医師が処方したのは「リチウム」で、これは双極性障害の気分安定剤として処方されるものでした

 

双極性障害とは、躁鬱を繰り返す病気で、神経伝達物のバランスが崩れるとされています

ストレスによって引き起こされると言われていて、それを薬物でコントロールするという対処療法になっています

その薬はスティーヴンとの関係性が発展するごとに必要となくなり、彼女のストレスの一因に「老い」があるとは明白でしょう

彼女が鏡を見て自分を見つめるシーンが多く、身なりに気を遣っていることがよくわかります

ちなみに、パンフレットのオリヴィア・コールマンさんのインタビューによれば「鏡に18歳の自分が映っていない」と彼女の母親が言っていたことを思い出したそうです

あの時のヒラリーには、スティーヴンと同じくらいの年齢の自分がいるように思えていたのかも知れません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、ヒラリーは恋人と思っていたけど、スティーヴンはそうではなかったというような感じになって、区切りというものがついてしまうエンディングになっていました

二人の間に性的な関係があったとしても、そこには温度差があったのだと思います

スティーヴンの母も、ヒラリーと息子の関係に困惑していましたが、「息子を幸せにする」と言って、二人の関係を断ち切ろうとしていました

この時のニュアンスは、母親がするべきことをヒラリーが代わりにしたというような感じでしたね

「Look…Hilary. I don’t know what’s gone on between you two, and I don’t really want to, but you should know that he was asking after you. He likes you. You cheer him up. So…thank you.(ヒラリー、私は二人の間に何があったのかは知りません。そして知りたくもないけど、息子があなたを求めていたことを知らなければならない。息子はあなたのことが好きね。あなたは息子を元気づけてくれる。だから、ありがとう)」

訳は筆者による拙い訳で申し訳ないですが、「So」という言葉が母親の葛藤を表していたように思います

その後に続く「ありがとう」は、感謝の意ではあるものの、この関係性は終わりにしてね、というニュアンスを含んでいたように感じました

 

その後、スティーヴンは建築家になるための勉強が身を結んで大学に進学することになりました

ヒラリーが勇気づけてくれたことが実を結び、そして旅立ちの時を迎えます

最後の別れのシーンは永遠に会えないような印象を持ちますが、再会を果たしても、同じような関係には戻らないでしょう

 

映画は「回復と再生」を描いていて、二人の情事は孤独を埋めるためのものだったようにも思いますし、傷ついた心を舐め合うようにも思えます

ジャニーンではなく、ヒラリーを選んだのは、そこに自分と同じ傷があると感じたからでしょう

ジャニーンには彼らのような孤独は抱えておらず、その後のスティーヴンとの距離感も深まることはありませんでした

彼女がスティーヴンに固執していたら、もっとドロドロとしたものが展開されたと思いますが、その関係性と知るのはニールとノーマンだけだったようですね

ニールは普通に忠告し、ノーマンは『チャンス』を見せることで、ヒラリーにメッセージを送っていました

 

本作では、回復のために必要なのは、自分が誰かの光になることだ、ということを描いているのだと思います

ヒラリーはスティーヴンの光になることで、孤独から解き放たれました

スティーヴンもまた、誰かの光になると思いますが、ヒラリーの光ではなかった(瞬間的にはそうだったけど)ところが切なくもあります

でも、鏡が示すように、二人の関係性は一過性で勘違いにも似たものでしたので、正常バイアスがかかるのは時間の問題だったと思います

なので、引き際を教えてくれたスティーヴンの母、ニール、ノーマンはヒラリーにとっての光だったのかも知れません

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/384526/review/fa5e88ce-d394-4a93-93ff-8cf7ec867852/

 

公式HP:

https://www.searchlightpictures.jp/movies/empireoflight

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投稿者 Hiroshi_Takata

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