■脳内で逆再生してみたら、意外なものが見えてきた「気がする」
Contents
■オススメ度
シニカルな逆転現象を楽しめる人(★★★)
悪趣味な映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.28(TOHOシネマズ二条)
■映画情報
原題:Triangle of Sadness(眉間の皺)
情報:2022年、スウェーデン&フランス&イギリス&イタリア、149分、G
ジャンル:あるうまく行っていないカップルが豪華クルーズに招待され、そこで意味のわからない出来事に遭遇する様子を描いたヒューマンコメディ
監督&脚本:リューベン・オストルンド
キャスト:
ハリス・ディキンソン/Harris Dickinson(カール:金に細かいイケメンモデル)
チャールビ・ディーン/Charlbi Dean(ヤヤ:カールの恋人、モデル、インフルエンサー)
ドリー・デ・レオン/Dolly De Leon(アビゲイル:豪華客船の掃除係)
ズラッコ・ブリッチ/Zlatko Buric(ディミトリー:ロシアの新興財閥「オルガルビ」の経営者、有機肥料)
サニーイー・ベルズ/Sunnyi Melles(ベラ:ディミトリの妻)
キャロライナ・ギリング/Carolina Gynning(リュドミラ:ディミトリの愛人)
イーリス・ベルバン/Iris Berben(テレーズ:脳卒中の後遺症で「雲の中」を連発する女性)
Ralph Schicha(ウリ:テレーズの夫)
Henrik Dorsin(ヤルモ:アプリコードを売って財を為した乗客)
アマンダ・ウォーカー/Amanda Walker(クレメンテン:わがままなロシア人の富豪)
オリヴァー・フォード・デイヴィーズ/Oliver Ford Davies(ウィンストン:クレメンテンの夫、武器商人)
ヴィッキ・ベルリン/Vicki Berlin(ポーラ:客室乗務員のリーダー)
ジャン=クリストフ・フォーリー/Jean-Christophe Folly(ネルソン:機関室の担当乗務員)
ウッディ・ハレルソン/Woody Harrelson(トーマス・スミス:飲んだくれのクルーズ船の船長)
Arvin Kananian(ダリウス:やる気のない一級航海士)
Alicia Eriksson(アリシア:クレメンテンのお気に入りの客室乗務員)
Stefan Gödicke(上半身裸のクルー)
Timoleon Gketsos(ハンサムなクルー)
Thobias Thorwid(ルイス:モデルにインタビューするレポーター)
Ann-Sofi Back(審査員)
Robert Rydberg(審査員)
Robert Nordberg(審査員)
Charlotte Bratin(審査員)
Mira Uszkureit(審査員)
Linnea Olsson(チェロ奏者)
■映画の舞台
ヨーロッパ某所&クルーズ&無人島
ロケ地:
ギリシャ
Chiliadou Beach、Euboea
https://maps.app.goo.gl/Ec9yquVuMBfvGbmj6?g_st=ic
スウェーデン
Trollhattan/トロルヘッタン
https://maps.app.goo.gl/cQq7U5pqKXYPYCu39?g_st=ic
Christina O(豪華ヨット)
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Christina_O
■簡単なあらすじ
モデルのカールとヤヤはレストランでの支払いで「意見交換」をするものの、その議論は感情的な軋轢を生むだけだった
インフルエンサーのヤヤは、カールの知名度を利用してフォロワーを増やしていたが、カールの収入を大きく上回るにも関わらず、レストランでの支払いをカールに誘導していたのである
その後、2人はヨットクルーズに招待され、ヨーロッパの武器商人、富豪夫婦などと乗り合わせることになる
クルーたちはチップのためならと少々のわがままは受け入れる方針だったが、船長のトーマスは昼間から飲んだくれていて、客の前に姿を現そうとしなかった
そんな折、ロシア人の富豪の命令でクルー全員が職場を放棄してバカンスを楽しむように言われてしまう
馬鹿騒ぎの30分が終わったあと、彼らにコース料理が提供されるが、30分の中断が食材を痛め、集団食中毒が発生する
また、天候が急に怪しくなって、ヨットはある無人島近くで転覆をしてしまうのである
数人が何とか無人島にたどり着くものの、食料らしきものはなく、サバイバル生活を強いられるようになるのであった
テーマ:ヒエラルキーの崩壊
裏テーマ:男女の役割
■ひとこと感想
ヨットが難破して、社会構造が逆転するという情報だけを仕入れて参戦
いきなり、男女のレストランの食事代どっちが払うねんバトルが始まり、何の映画だったのか、と思ってしまいました
映画は3幕構成になっていて、「ヤヤとカールのジェンダー問題」「豪華クルーズの喜劇」「無人島のサバイバル」という順に物語は進んでいきます
物語としては単純ですが、その描写が結構エグめで、いわゆる笑えないシニカルさというもので突き進んでいきます
富豪たちの中で居心地の悪い時間を過ごしつつも、無茶振りを喰らうのが大体女性という内容になっていましたね
物語の本編がどこなのか掴みづらく、一応は無人島にて、クルーズまで存在した社会構造が一気に崩壊するところになるのかなと思います
映画としての面白さは微妙な感じになっていて、社会風刺が全面に押し出されていましたね
安全な場所にいたはずの人間が、自分たちの富を支えてきた武器によって崩壊していき、最終的には何を支配しているかで社会構造が構築される、という顛末を描いていたように思えます
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
どこまでがネタバレなのかわからないのですが、予告編では「無人島でヒエラルキー崩壊」まで見せているので、そこにたどり着くまでが長い印象がありました
冒頭のレストランの件は何を見せられているのかわかりにくく、男女のモデルのパワーゲームをコミカルに描いていたのかなと思います
ヨットクルーズでは、経済の縮図が構成されますが、金持ちが札束で殴っていく中で、その傲慢さが原因で崩壊する様を描いていました
金があっても使い道のないクルーズ船での悲劇は、個人を蔑ろにして、金銭の奴隷にした結果の顛末だったと言えます
ラストの無人島では、生きるための能力によってヒエラルキーが再構築され、そこではは何が武器になるのかという根元を描いていきます
そんな中でも元からあった社会構造への回帰は構築された社会を壊す力があり、視野を広げることで、その盲目さを思い知るという内容になっていました
■社会構造の原点
本作は社会構造が逆転する映画で、人類の根源欲求に基づいた構造改革のようなものが起こっています
本格的に動き出すのは「ヨット」によって社会の縮図が描かれた瞬間のように見えますが、実際には「カールとヤヤ」でもその兆候が見えていました
人類は男性と女性で構成されていて、かつての狩猟民族だった時代から「男が食糧を獲得し、女が家庭を守る」という習慣がありました
それが20世紀ぐらいから変化を見せ始め、社会への女性進出が本格的になります
女王が統治していた時代もありましたが、女王は食糧を獲得する側ではなく、あくまでも国を内側から守る存在でした
そう言った性差による役割というものが個人主義に変わる中で変化し、今では「男女平等」という概念に行き着きます
そして、それが逆転したのが「カールとヤヤ」で、賃金は女性の方が多く、それでも彼女は処世術として、カールに支払いをさせようとしていました
男女の賃金が逆転する業界はほとんどなく、雇用の均等や同一賃金が叫ばれてもなかなかそうはなりません
ヤヤとカールが属するモデル業界は特殊で、一般化には程遠い未来のように感じます
この二人がヨットクルーズに招待されるのですが、この招待元はいわゆる富裕層であり、彼らを雇う側の人間であることがわかります
あの船は富裕層がわがままを通す空間で、ヨットクルーはそれにぶら下がることを良しとしています
そうした中にいるヤヤとカールは特殊な存在で、本来あのヨットにはいない階層の住人でした
この二人は「惨劇に巻き込まれない」のですが、それは二人の役割が、「島」で発揮されるから、であると言えます
「島」ではサバイバル能力が優先され、食糧を管理するアビゲイルの慰み者になることでカールはヤヤに食糧を与えることができます
ここで逆転現象が起こっているのですが、アビゲイルを人と考えなければ、カールは旧石器時代の狩猟者のような存在に見えてきます
女性に食糧を持ってくる存在として、それは古の人間界にあった構造のように思えてきます
そこにあるのは「男女」という起点で、「カールとヤヤ」が現在軸(あるいは未来)ならば、「島」は過去になっているのですね
なので、視点を変えれば、逆転しているのは「時間」ということになるのかもしれません
■構造の変容
本作は、ヒエラルキーが逆転したように見える物語ですが、実は「逆転していない」ようにも見えます
それは「男女の相互支配が交互に入れ替わっている」ように思えたからです
物語を分解すると、
「男女の立場が逆転(女性支配=誘導)」
「富裕層の支配(男性支配=安定)」
「富裕層の暴走(女性支配=混乱)」
「外的暴力(男性支配=暴力)」
「支配の迎合(女性支配=従属)」
「支配の拒絶(男性支配=自由)」
という順番に物語は進んでいきます
これを逆転させると、「自由」「従属」「暴力」「混乱」「安定」「誘導」という順番になっていて、もともとヒエラルキーというものがなかった社会に、それが生まれて、そして成長していく過程のようにも見えてきます
起点も終着点も「男女関係」で、現在では「支配構造を維持しているように勘違いさせたまま、最大の利益を得る」という関係性に変化しています
それに対して「待った」をかけるのがカールの役割で、これが本作におけるテーマ性なのかなと感じました
今は、男性社会から平等社会への移行に向かっていますが、実際にはそれはうまく進みません
でも、これからは、利益が優先されるならば、支配構造は変えないまま、個々を誘導することによって、個人が最大の利益を得るという時代に向かいつつあるのかもしれません
ラストシーンは「島がリゾートの一部だった」というような感じになっていて、そこにあったのは「男性支配」であるように思います
アビゲイルは自分の世界が壊れることを恐れてヤヤを殺そうとするのですが、これが実行されたかどうかはわかりません
ヤヤの危険を感じたカールが彼女の元に向かっているように思えますが、これは「男性が女性を悪魔から守る」という「男女関係の起点」なのかなと思いました
カールがヤヤを救うことで起こる物語は、悪魔を宥めながら生命を維持し、悪魔を飼い慣らした頃に閉じ込めることに成功します
そして、人間社会が暴力の連鎖の果てに構造が定まり、それが混乱期を迎えて安定期に入ります
現在はその安定が壊れつつある世界ですが、完全に壊してしまうよりは、それを維持しつつ優位に立ち回るという動きがあります
なので、今のこの狡猾な表層的支配構造が生まれた所以というものが、この映画では描かれているのかなと「勝手に深読み」してしまいました
暴力的かつ肉体的なものから、非暴力の精神的なものへと移り変わっていて、今は「戦うことなく利益を得る」という時代なのかもしれません
でも、それがおかしいのではないか?と問題提起をしているようにも思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作の面白いところは、構造が傾く様子を映像で見せていた点だと思います
特に顕著だったのが「船内の混沌」で、船が傾いているのか、画面が傾いているのかわからなくなってくるような映像がありました
画面自体を傾けて、その中にある船が逆方向に傾くと、それは均衡が取れたように見えます
いわゆる、画面が左に45度傾いて、映像内の船が右に45度傾くと、傾いていないように見えるという錯覚ですね
本作では、その角度を微調節して、徐々に傾きが急角度になる、という感じで映像が作られていたように思います
この映像効果がとても面白くて、傾いているのと逆方向に、体を傾けてしまいたくなるのですね
映画を観ながら、何度か首を傾けてしまっていたので、後の観客は「この人、何してるんやろ」みたいに思われていたかもしれません
船の角度が仮に10度傾いたとして、それを同じ方向に10度傾けたら、20度傾いているように見えます
逆方向に10度傾ければ、傾いていないように見えるのですが、この平衡感覚で遊んでいる映画だったのかなと思いました
映画は単純に見れば、「肉体的な価値を最大限の対価に変えたカール」を描いていて、「サバイバル能力を最大限の対価に変えたアビゲイル」を描いています
ラストの「島」は、それぞれが持つ能力が正当に評価されている世界なのですが、それが「ヨット」「カールとヤヤ」へと逆行するごとに「能力が正当に評価されない社会構造」の方へと向かっていきます
現代は評価主義でありながら、正当な評価の軸というものはどこにもなかったりします
そんな中で生き残っていくためには、相手のルールの中に生きながら自分に有利なルールに誘導していくことなのかもしれません
それが暴露されたのがレストランでの喧嘩になっていて、ある意味、今のおかしさに警鐘を鳴らしているのかもしれません
そして、その解決策として、かつてはそうだったというふうに誘導するのですが、それすらも否定するというところに、本作最大のシニカルさというものがあるのかなと感じました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386097/review/cbaa78aa-1200-49ed-b158-6b7a1952e040/
公式HP: