■歴史と人物を知ることで、作品の意図していた部分の理解に追いつくのだと思います
Contents
■オススメ度
中世の貴族に興味のある人(★★★)
シシー(エリザベート)の生涯に興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.8.31(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Corsage(コルセット)
情報:2022年、オーストリア&ルクセンブルク&ドイツ&フランス、114分、PG12
ジャンル:破天荒な皇后エリザベートの40歳になった瞬間を描いた伝記を基にしたヒューマンドラマ
監督&脚本:マリー・クロツイアー
キャスト:
ヴィッキー・クリープス/Vicky Krieps(エリザベート/Empress Elisabeth of Austria:オーストリア=ハンガリー帝国の皇妃)
フロリアン・タイヒトマイスター/Florian Teichtmeister(フランツ・ヨーゼフ/Emperor Franz Joseph I of Austria:オーストリア=ハンガリー帝国の皇帝)
カタリーナ・ローレンツ/Katharina Lorenz(マリー・フェシュテティッチ/Countess Marie Festetics:エリザベートの女官)
ジャンヌ・ウェルナー/Jeanne Werner(イーダ・フェレンツィ/Ida Ferenczy:エリザベートの女官)
アルマ・ハスーン/Alma Hasun(ファニー/フランツィスカ・フェイファリク/Fanny Feifalik:エリザベートの髪の毛の世話をする女官)
マヌエル・ルバイ/Manuel Rubey(ルートヴィヒ2世/King Ludwig II of Bavaria:バイエルン王、エリザベートのいとこ)
フィネガン・オールドフィールド/Finnegan Oldfield(ルイ・ル・プランス/Louis Le Prince:発明家)
アーロン・フリース/Aaron Friesz(ルドルフ/Rudolf:エリザベートの息子、長男)
ローザ・ハサージュ/Rosa Hajjaj(マリー・ヴァレリー/Valerie:エリザベートの娘、三女)
リリー・マリー・チェルトナー/Lilly Marie Tschörtner(マリー/両シチリア王妃/ Queen Maria Sophie of Two Sicilies:エリザベートの姉)
コリン・モーガン/Colin Morgan(ベイ・ミドルトン/ George “Bay” Middleton:馬術の先生、エリザベートの愛人)
アリス・プロセッサー/Alice Prosser (アンナ・ナホウスキー/Anna Nahowski:フランツの愛人)
Kajetan Dick(カエタン・フェルダー/Cajetan Felder:ウイーン市長)
Tamás Lengyel(ジュラ・アンドラーシ/Gyula Andrássy:ハンガリーの首相)
David Oberkogler(トゥルムブルク伯ラトゥール/Count Latour of Thurmburg:オーストリアの帝国陸軍大臣)
Regina Fritsch(フュルステンベルク伯爵夫人/Countess of Fürstenberg:ドイツの貴族)
Raphael Nicholas(スペンサー伯爵/Earl of Spencer:第5代スペンサー伯爵、イギリスの貴族)
May Garzon(スペンサー夫人)
Eva Spreitzhofer(マリー・メリタ/Princess Marie of Hohenlohe:ホーエンローエ公妃、ホーエンローエ=ランゲンブルク王女)
Ivana Urban(アンドラーシ夫人)
Norman Hacker(ライデスドルフ:主任医師)
Klaus Huhle(フォン・ヴィダーホーファー医師/Dr. von Widerhofer:オーストリア皇室の小児科医)
Marlene Hauser(フィニ:使えない侍女)
Johanna Mahaffy(ロッティ:侍女)
Resi Reiner(リシ:侍女)
Astrid Perz(ミニー:乳母)
Sonia Laszlo(フェンシングの先生)
Alexander Pschill(ゲオルグ・ラーブ/Georg Raab:宮廷画家)
Stefan Puntigam(オットー:執事)
Johannes Rhomberg(カール・フォン・ハーゼナウアー男爵/Carl Baron of Hasenauer:オーストリアの建築家)
Oliver Rosskopf(バレー・オイゲン:フランツの従者)
Raphael von Bargen(ホーエンローエ=シリングスフュルスト:巡査)
Didier Benini(マーケットの店主)
■映画の舞台
1877年、
オーストリア:ウィーン
イギリス:ノーサンプトンシャー
ドイツ:バイエルン
ロケ地:
オーストリア:
Vienna/ウィーン
https://maps.app.goo.gl/LaTqtyLNJmH8TtTx9?g_st=ic
オーストリア:ウィーン
Hiertzing/ヒーツィンク
https://maps.app.goo.gl/k2gji6hdZvRvUUTo8?g_st=ic
ルクセンブルク:
Schifflange/シフランジュ
https://maps.app.goo.gl/pJn3GCfvQszp8pmh9?g_st=ic
ベルギー:ヴィルトン
Château de Laclaireau – Rue de la 7ème
https://maps.app.goo.gl/xeBJ96dN4DeNMdxSA?g_st=ic
Ethe/エトー
https://maps.app.goo.gl/SytuSpC2favUfHRS9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
オーストリア=ハンガリー帝国の皇后であるエリザベートは、40歳を迎えて情緒不安定になっていた
メイクのノリも悪く、コルセットもキツくなり、体型を維持することも難しい
夫のフランツ・ヨーゼフ皇帝は自分に振り向くこともなく、若い女と関係を持っていると噂されていた
エリザベートはウイーンにいるのが苦痛で、しばしば出かけては馬術教師のベイと過ごしたり、実家に戻っていとこのルートヴィッヒ2世と過ごしている
フランツは特段気にかけていなかったが、それによって関係は悪化の一途をたどり、とうとう夜の時間も無くなってしまう
娘のマリー・ヴァレリーからも軽蔑されているエリザベートは、彼女に風邪を引かせたことをきっかけに、さらに夫婦仲が悪くなってしまった
そこでエリザベートは旅行に行くことを決め、息子のルドルフと共にイングランドのノースハンプシャーへ向かうことになったのである
テーマ:束縛からの解放
裏テーマ:自由とわがまま
■ひとこと感想
エリザベートの事はそこまで詳しくなく、むしろ「知らない人が観たらどんな感じになるのか」を試す意味で、事前予習をせずに鑑賞することになりました
ヴィッキー・クリープス扮するエリザベートが中指立てているポスターが秀逸で、40歳になった彼女の鬱憤というものが散りばめられていました
史実を知っている方が楽しめると思いますが、そこまで詳しくなくてもギリついていけるレベルでしょうか
我がまなな王女の行き場のない葛藤は、まるでコルセットに締め付けられているように描かれていて、観ているこちら側も苦しく感じてしまいます
人間関係に関しての説明はほとんどないので、エリザベート自身よりは、当時のオーストリア=ハンガリー、そしてパプスブルグ家などの貴族の背景と関係性の方が鑑賞には重要な内容でしたね
パンフレットにはきちんと女官(侍女)まで人物相関図がありますので、これで予習すればネタバレなく理解できるのではないでしょうか
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、歴史を知っていることを前提に話が進み、背景の説明は「1877年、12月、ウィーン」ぐらいしか描かれません
場所はオーストリアのウィーンとイングランドのノースハンプシャーしか出てこないので、今の住処と実家を行き来しているぐらいのノリで問題ないと思います
人間関係はちょっと複雑ですが、実際の家族関係よりもかなり端折って選別しているので、イメージ以上には多くありません
エリザベートの姉、エリザベートの息子と娘ぐらいが家族で、長女は回想的な意味合いで登場するくらいです
交友関係もそこまで広くないのですが、食事やパーティーシーンではたくさんの人が登場します
その辺りも「偉いさん=夫の友人」「嫌味っぽい貴婦人=貴族」ぐらいなもので、彼女のプライベートに登場するのは3人の女官と3人の侍女になっています
wikiなどには詳しく載っていますが、それを理解するためにさらにヨーロッパ史を紐解いていかねばなりません
そんなことよりも、男性社会の中の生きづらさを体感できれば、それでOKの映画になっていると思いました
■エリザベートあれこれ
エリザーベート(Empress Elisabeth of Austria)は、1837年にオーストリアのバイエルン州で生まれた女性で、愛称は「シシー」と呼ばれています
1854年に皇帝フランツ・ヨーゼフ1世と結婚し、オーストリア皇妃およびハンガリー女王となりました
ちなみに彼女は、1898年(映画の20年後)に暗殺されて死んでいます
彼女が結婚したのが16歳の時で、出自はバイエルン王家ヴィッテルスバッハ家でした
結婚した後は、ハプスブルグ家の宮廷生活を送ることになり、ヨーゼフの母ソフィー大皇妃を対立することになります
ソフィーはエリザベートが子どもを産んだのちに勝手に取り上げ、その内の一人に自分と同じ名前のソフィーを名付けます
このソフィーが幼児期に亡くなっていて、それが遺恨の決定的な原因ともされています
その後、長男のルドルフが生まれ、ハプスブルグ家の中での地位も向上しましたが、同時にエリザベート自身の健康問題が浮上します
彼女は療養を兼ねてハンガリーに出向くことが多くなり、そこでハンガリーとの二重君主制に貢献することになっていました
映画では、この二重君主制に否定的な声がエリザベートに集中しているように描かれていましたね
ちなみに、映画の10年後にルドルフは愛人のメアリー・ヴェッセラとともに狩猟小屋で自殺をしています
これは「マイヤーリング事件(Mayerling Incident)」と呼ばれています
本編の後の出来事なので割愛しますが、気になる方はググって見てください
エリザベートの身長は173cmあったとされていて、当時としては異様に背が高かったとされています
それでも体重50キロを維持するために、乗馬や運動、断食などを行なっていました
また、スタイルを維持するためにコルセットを使用し、これを強く締めるという行動に出ています
ウエストを40センチにすることにこだわりを持っていました
当時のコルセットはフロントをホックで止めるものが主流でしたが、エリザベートは革のしっかりしたものを使用し、紐で縛り上げるスタイルを取っていました
この作業には1時間近くかかることもあったとされています
彼女のウエストに関しては、「ほぼ非人間的なほど細い」と評されたり、ヴィクトリア女王はその細さに恐怖を感じたという逸話があるくらいです
映画では、後半に長い髪を切るというシークエンスがあり、女官のファニーがショックを受けるというシーンがありました
彼女の髪はとても長くて重く、手入れに3時間ぐらいかかっていたとされています
美容師のファニー(フランツィスカ・フェイファリック)はウィーンのブルク劇場の舞台美容師でしたが、エリザベートの髪を整えるために同行するようになりました
ファニーは指輪の着用を禁じられ、白い手袋の着用を義務付けられていたとされています
■エリザベートの予後について
映画では、1878年に40歳になったエリザベートが、長い髪を切り、侍女に自分の身代わりをさせ、夫には愛人のアンナと会う許可を与えていました
そして、豪華客船から海に身投げをするというシーンがあり、彼女が自由になったという演出がなされていました
公人としては影武者を用意していたのですが、それで一般人になるのかと思ったらダイブ(おそらく自殺)というのは驚いてしまいます
彼女が途中で入れ替わったかどうかはわかりませんが、史実としては、映画の20年後に暗殺されるという出来事があり、彼女の生涯は意外な決着になっていました
60歳になったエリザベートは暗殺未遂の可能性がある警告を無視して、お忍びでスイスのジュネーブを訪れることになりました
1898年9月10日の午後1時35分、エリザベートと侍女のイルマ・スタライ(映画では登場しません)ともに、ジュネーブ行きの蒸気船に乗るために、レマン湖畔のホテルを出発しました
彼女は行列を嫌っていたため、彼女の護衛はほとんどいなかったとされています
そこに25歳のイタリア人アナキストのルイージ・ルケーニ(Luigi Lucheni)が現れ、エリザベートの日傘の下に潜りこむという行為を行います
その際に、長さ4cmの針やすりにて彼女を刺したのですね
当初はオルレアン公を殺害する計画を立てていたルケーニですが、ジュネーブの新聞がエリザベートがこの地にいると暴露し、それが彼の目に留まったとされています
刺された後、蒸気船に乗り込んだエリザベートは、そこで怪我に気づかれ、同行した看護師の手当を受けることになります
船はジュネーブへと戻り、ホテルに戻ることになりますが、その時点で死亡していたとされています
死因は胸部に凶器が85mm貫通し、肋骨を折った後、肺と心臓を貫通していたことでした
エリザベートはきついコルセットを装着していたため、その圧力で心臓は動き続け、殺害現場から船に乗ることができたとされています
凶器が取り除かれたために出血が起きたとされていて、それがそのままだったら彼女はもう少し長く生きていたかもしれないとされています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画がこの史実を改変した理由は明白で、男性社会における女性の不自由さというものを描いていたからだと言えます
タイトルでもあるコルセットは、当時の女性に求められていた生きづらさの象徴でもあり、それを男尊女卑に特化させています
実際には、貴族意識であるとか、ハプスブルグ家の慣習、義母との関係性なども悩みの種だったと思いますが、映画では見事にスルーされていました
改変がもたらすインパクトを優先していたと考えられるので、テーマありきだと不要のエピソードになってしまいます
映画では、影武者を立てたエリザベートが豪華客船から飛び降りるのですが、この豪華客船が当時のものとは思えない異質さがありました
一応は、19世紀に入ってから蒸気機関が発展し、1807年頃にクラーモント、カティサークなどの船が登場しています
クラーモントは1806年にアメリカで作られ、カティサークは19世紀にイギリスで作られたものでした
映画の時期にあたる1877年頃にカティサークはロンドンからシドニーに向けて出発できるほどの性能になっていたので、このような船に乗っていたとしても不思議ではないと思います
とは言え、これら一連のシーンは「虚実混合」のイメージが強く、あえて虚構に寄せているように見えました
なので、イメージショットとしての意味合いが強いのかなと感じました
ちなみに彼女がこの時に向かったのはイタリアのアンコーナなのですが、当時のアンコーナはイタリア王国の領土でしたね
色々ググって見ましたが、彼女がその地を訪れる意味というのは分かりませんでしたが、目的が土地ではなくダイブだったので、目的地に深い意味はないのかもしれません
映画は、史実を改変している内容で、原題の意味を知らないとポカーンとなってしまう映画でもあります
コサージュ(Corsage)と言えば、ドレスなどにつける花飾りの意味として現代では浸透していますが、フランス語では「ガードル=胴着」を意味する言葉になります
エリザベートの歴史を知らなくても、映画の中で強調されまくるので誤認はしないと思いますが、今では英語のコサージュの方が浸透しているので、そのイメージが強いのは仕方ないことだと思います
コサージュは求愛の贈り物としての歴史があり、ドレスにピンで止める時代もありました
その後、手首につけるのが主流となり、今のスタイルにつながっています
女性の体に巻き付けるという意味合いは同じなので、活動家の人たちがネタにしそうではありますが、ファッションの意味合いの方が強いので難癖に思えてきますね
主義主張のために解釈を加えるのが活動という人もいるので、そう言った目線の人には本作の改変と同様に連動させてしまうのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://transformer.co.jp/m/corsage/