■自分自身を語る時、幽霊が切り離せなくなるのは何故なのだろうか?


■オススメ度

 

青春のボーイ・ミーツ・ガールが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日2023.8.31(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:Falcon Lake

情報2022年、カナダ&フランス、100分、PG12

ジャンル:避暑地で出会った年上の少女に恋をする少年を描いた青春映画

 

監督シャルロット・ルボン

脚本シャルロット・ルボン&フランソワ・ショケ

原作バスティアン・ビベス/ Bastien Vivès『Une sœur(2017年=邦題:年上のひと)』

 

キャスト:

ジョセフ・アンジェル/Joseph Engel(バスティアン:避暑地を訪れる14歳の少年)

サラ・モンプチ/Sara Montpetit(クロエ:バスティアンの想い人、16歳)

 

モニア・ショクリ/Monia Chokri(ヴァイオレット:バスティアンの母)

アルトゥール・イグアル/Arthur Igual(ローマン:ヴァイオレットの夫もしくは恋人)

トマ・ラペリエール/Thomas Laperriere(ティティ:バスティアンの弟)

 

カリン・ゴンティエ=ヒンドマン/Karine Gonthier-Hyndman(ルイーズ:ヴァイオレットの友人)

ジェフ・ループ/Jeff Roop(ブライアン:ルイーズの恋人)

 

ピエール=リュック・ラフォンティーヌ/Pierre-Luc Lafontaine(スタン:クロエの友人)

レビ・ドレ/Lévi Doré(ポール:クロエの友人)

アンソニー・テリエン/Anthony Therrien(オリヴァー:クロエの友人、ローマンの息子)

Jacob Whiteduck-Lavoie(ジャクソン:クロエの元カレ)

 


■映画の舞台

 

カナダの田舎町の湖畔

ケベック州

 

ロケ地:

カナダ:ケベック州

Laurentides/ローランテッド

https://maps.app.goo.gl/b17ENQ8iBk2fecJa6?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

母ヴァイオレットの友人ルイーズの住むケベック州の湖畔を訪れたバスティアンは、周囲と距離を置いて、自分の世界に引きこもりがちだった

ルイーズの家には3歳年上のクロエがいて、バスティアンは彼女の部屋を間借りする形で避暑地暮らしをすることになった

 

クロエは家の前に広がる湖には幽霊が出ると信じていて、それはある痛ましい事件をきっかけに起こった伝承のようなものだった

だが、誰も幽霊を見たことがなく、クロエの作り話を間に受ける者はいなかった

 

クロエは恋人ジャクソンと別れたばかりで情緒不安定になっていて、またバスティアンを男性として見ていないために大胆な行動を繰り返していく

そんな折、クロエの友人たちが開催しているパーティーに誘われる

飲めないビールを飲み、吸ったことのないタバコを吸うバスティアンは、少しだけ大人になれた気がしたが、クロエとの距離が縮まる気配はなかったのである

 

テーマ:青春の崇拝

裏テーマ:湖の精霊は何を見せるか

 


■ひとこと感想

 

カナダの避暑地で起こる数日間のボーイ・ミーツ・ガールは、幼い少年を性的に大人にしてしまう瞬間でもありました

事前情報はほとんど入れず、ポスタービジュアルのみで鑑賞しましたが、そこまで難しい話でもありません

とは言え、ラストシークエンスをどう捉えるかで、映画の評価が分かれてしまうような気がします

 

物語は、避暑地に来た少年が「大人になった少女」と再会するというもので、3歳差とは思えないほどの精神的な乖離が描かれていました

クロエはちょうど元カレと別れた直後で、行き場のない感情をどうしようか悩んでいる時期になります

彼女は、自分のイメージと相手に抱かれているイメージとのギャップに悩んでいて、同世代の男性が考えることの餌食になっているようにも思えます

 

クロエもバスティアンも軽い嘘をついて自分の心を隠してしまうのですが、それによってできた穴というものは想像以上に二人を引き裂いてしまいました

幽霊云々に関する考察は後ほどじっくりと取り組みたいと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

幽霊話を信じるクロエですが、この世から消えたい願望を要所要所にのぞかせていましたね

冒頭は水に浮かぶ水死体の真似のシーンになっていて、死というものへの執着というものが見え隠れしていました

これは、彼女の精神状態を表していて、元カレとの関係性が情緒不安定にさせていることに繋がっていると考えられます

 

クロエは何かにしがみついていないとダメなタイプで、常に誰かのそばにいないと不安で仕方ないのだと思います

ジャクソンと別れて、次の男が見つかるまでの間に彼女が選んだのが、たまたまそばにいたバスティアンという感じになっていました

 

いわゆる恋愛依存のような側面があって、体の成長と心の成長のバランスが崩れているのだと考えられます

そんな不安定さに寄り添われてしまったバスティアンは大きな勘違いをしていくのですが、これは無理のない感じになっていますね

彼としては、勇気を出して大人になる覚悟さえできれば、違った未来が訪れたように思えました

 


幽霊のお話

 

日本では「幽霊」と言いますが、西洋諸国では「Ghost」「Phantom」と言います

概念としては幽霊と同じで、死者の魂が現世に未練や遺恨を残していると言うもので、生前の姿で可視できるとされています

基本的には、死んだ時の姿をしていると言われていて、殺されたり死んだ場所、墓地などのゆかりのある場所に出現するとされています

 

歴史としては、古代ローマの時代に遡り、住居の下に死者の霊が住んでいると考えられていました

そのための住居を作ったり、塞いでいたものを祭りの日だけ開ける、なんて風習もあったりします

幽霊が一般的になったのは、18世紀後半の物語で、草分けとして知られるのはホレス・ウォルポールHorace Walpole)の『オトラント城奇譚(The Castle of Otranto)』とされています

その後もたくさんの物語が登場し、人々は架空のものではなく、実在していると言う認識で作品に向き合っていたと言われています

 

映画では、ラストに登場するバスティアンが幽霊であると仄めかされていて、事故現場の湖に現れていました

振り返ったクロエに彼が見えたのかはわかりませんが、幽霊話を信じている彼女ならば、可能性はゼロではありません

彼女は物語の冒頭から「死」を意識していたので、その世界に繋がりたい理由があったのだと思います

それが何かはわかりませんが、誰かがそこにいると言うよりは、自分が行きたい世界なのかなと感じてしまいますね

 


タイトルの意味

 

映画のタイトルは、おそらくは湖の名前なのですが、ロケ地のケベック州ローランテッドではなく、マニトバ州の方に「Falcon Lake」と言う湖があります

1800年代に起きたメティ族の紛争時に、毛皮防疫の覇権争いがあって、その時に勝利の歌を作ったのがピエール・ファルコンと言う人物でした

その湖はピエールの名前にちなんでつけられましたが、本作との関連はないように思えます

 

バスティアンたちはフランスから避暑地に来たのですが、カナダのメティ族は先住民と植民地自体の欧州人との混血が発展した民族で、ケベック州にもたくさんの人がいます

母の友人であるルイーズはこの地の出身のようで(母も?)、メティスの血を引いているのかもしれません(明確な描写はなかったと思います)

このあたりが設定に入っているのかは確認できませんでしたが、現地にある湖の名前を使わずに、わざわざファルコン・レイクを使用して言うのは意味があると思います

 

メティ族のコミュニティには独自のストーリーを伝える方法を持っていて、口頭伝承によって、世界観や歴史を残してきた一族でした

文化的な教えであったり、ユーモアを通じて善悪の基準を教えたりしてきました

現代でもその伝統は引き継がれていて、全てのメティ人は「自分自身の生きた経験について語るべき物語」と言うものを持っているそうです

クロエがメティスなのかは明確ではありませんが、物語の設定を考えた時、「幽霊の話」と言うのは「彼女自身を語る物語」なのかな、と思いました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

クロエは「湖で事故で死んだ人の幽霊が出る」と語っていて、同じことを語る人は周りにはいないと言う感じになっていました

映画の冒頭でも、クロエは水死体の真似をしていて、死に対する執着というものが強いキャラとして描かれています

これらの幽霊物語が彼女の先祖からの伝承なのかはわかりませんが、彼女の人生を語る上で切っても切れないものなのだと推測できます

 

死に対する執着というのは、死後の世界の存在と密接に関係しています

メティ族を含む多くの先住民にとっての死は「循環」を意味するとされていて、クロエの中にも「死=循環」という感覚があるのかもしれません

彼女の歳で循環を考えるとは不思議に思えますが、人は8歳くらいで死というものを理解し始めるので、多感な時期に差し掛かると、色々と考えてしまうと思います

 

彼女が水死体になりきっていたとき、「死体の真似は難しい」とバスティアンに語っていました

生きている人が死体の演技をすることがあっても、真似をすることはできません

クロエは体が止まった状態に興味を持っていますが、彼女がそれを考えるきっかけと言うのは描かれていないのですね

男性関係の失敗という背景は描かれていても、それ以上の情報はないに等しく、物語との結びつきを考えるのは難しいと思います

 

ひとつだけ感じてしまうのは、バスティアンはクロエができなかったことをした、と言う点だけなのですね

彼は真似ではなく実際に死んでしまっていて、おそらくクロエもバスティアンの死体というものを見ることになったのだと思います

彼女がそれを見てどのような反応をしたのかは分かりませんが、バスティアンの死はクロエの物語を証明する方向に動かしているようにも思えます

ラストでクロエの元を訪れたバスティアンは、もしかしたらクロエが感知できる唯一の幽霊なのかもしれません

 

これでクロエの物語は現実味を帯びるように思えるのですが、おそらく状況はこれまでとは変わらないでしょう

家族や仲間にバスティアンの幽霊がこの湖にいると言っても、不謹慎だし、誰にも見えないので信じてはもらえません

クロエの中でだけ確信になった事実があって、それは彼女をコミュニティから遠ざける要因にもなり得ると考えられます

 

そういった影響を加味して彼女は語るのか?

それとも、彼女の心の中にだけ残る物語になるのか?

おそらくは、誰にも理解されないことはわかっていると思うので、自分の中でそれを大事にする方向に向かうのではないかと感じました

色々と書いてみましたが、映画からの裏付けは一切ないので、個人の妄想(=クロエの幽霊話)だと思って、割り切っていただいた方が良いと思います

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

Yahoo!検索の映画レビューはこちらをクリック

 

公式HP:

https://sundae-films.com/falcon-lake/#modal

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投稿者 Hiroshi_Takata

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