■どんな人が集うかでその人の価値が決まるとは思わないが、最後までそばにいる人を見ると、その人の価値がわかると思います
Contents
■オススメ度
サルバドール・ダリに興味のある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.9.4(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Daliland
情報:2022年、アメリカ&フランス&イギリス、97分、PG12
ジャンル:ダリとガラの関係を第三者視点で描く自伝的映画
監督:メアリー・ハロン
脚本:ジョン・C・ウォルシュ
キャスト:
ベン・キングズレー/Ben Kingsley(サルバドール・ダリ/Salvador Dalí:世界的に認められた芸術家)
(若年期:エズラ・ミラー/Ezra Miller)
バルバラ・スコバ/Barbara Sukowa(ガラ・ダリ/Gala Dalí:ダリの妻、浪費家)
(若年期:Avital Lvova)
クリストファー・ブライニー/Christopher Briney(ジェームズ・リントン/James Linton:ダリの助手を務める青年、画廊の職員)
アレクサンダー・ベイヤー/Alexander Beyer(クリストフ:ジェームズの雇い主、画廊の経営者)
ルパート・グレイブス/Rupert Graves(キャプテン・ムーア:ダリのマネージャー)
Irina Leoncio(専属看護師)
Merce Ribot(ローザ:専属のメイド)
アンドレア・ペジック/Andreja Pejić(アマンダ・リア/Amanda Lear:ダリに集う人、のちにポップスターになる歌手)
スキ・ウォーターハウス/Suki Waterhouse(ジネスタ/ルーシー:ダリに集う女性、ジェームズと関係を持つ)
マーク・マッケンナ/Mark McKenna(アリス・クーパー/Alice Cooper:ダリに集う人、成功しているミュージシャン)
Joella Hinson-King(ドニャール・ルナ/Donyale Luna:ダリに集う人、モデル)
Jack Shalloo(デズモンド・カーター/Desmond Cartet:ダリに集う人、詩人、作詞家)
Zachary Nachbar-Seckel(ジェフ・フェンホルト/Jeff Fenholt:ガラが入れ込む売り出し中のミュージシャン、ジーザス役の俳優)
Paul Hilton(ミラノの美術商、カーター画廊)
Gavin Spokes(ギルバート・ハモン/Gilbert Hamon:グラフィック・ディーラー)
Matthew James Ovens(レナルド:ジネスタの彼氏)
Marcos D’Cruze(フラメンコのギタリスト)
Christopher Pavlou(エンリケ・サバテル/Enrique Sabater:画家)
Barbara Wilshere(トーマス夫人:ミラノでダリの絵を買う夫人)
■映画の舞台
アメリカ:ニューヨーク
スペイン:カタルーニャ
クレウス岬
https://maps.app.goo.gl/RNDVLbgU3FKLvHY6A?g_st=ic
ロケ地:
イギリス:
マージーサイド州:リヴァプール
イギリス:
マージーサイド州:リヴァプール
アデルフィ・ホテル/Adelphi Hotel
https://maps.app.goo.gl/9NDSKcQuxvArEqeZA?g_st=ic
スペイン:
カタローヌ州ポルトリガット
メイソン・デ・サルバドール・ダリ/Maison de Salvador Dali
https://maps.app.goo.gl/gAzDMXU2ET5EwXxS8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
世界的に著名な画家であるサルバドール・ダリは、ニューヨークのホテルの一室を借り切って、個展の準備に入っていた
彼の古典を仕切る画商のクリストフからダリの監視を言い渡されたジェームズは、ダリの助手となって、彼の作品作りに寄与していく
ダリの妻ガラは、彼にとっては全てだったが、浪費癖があって若きミュージシャンに入れ込んでいる
ダリも多くの愛人を囲っていたが、彼自身が行為に及ぶことはなかった
ジェームズはダリに集う中の一人、ジネスタと大人の関係になるが、それも一時のの余興に過ぎなかった
古典は無事に開かれるものの、美術評論家に嫌われているダリは相手にされず、絵も売れないことから故郷へと舞い戻る
ジェームズもダリについていくものの、ダリの名声を利用して商売を考える人々に翻弄されていく
テーマ:創作の原点
裏テーマ:大切にすべきこと
■ひとこと感想
サルバドール・ダリについては、名前と有名な絵を知っているくらいで、細かなエピソードは存じていませんでした
歪んだ時計の絵が有名で、本作でもそのインスピレーションに向かう様子は描かれていましたね
絵自体は権利の関係からほとんど登場しないのですが、それは仕方のないことかもしれません
映画には様々な著名人が登場し、特に芸術関連が華やかでしたね
アリス・クーパーとアマンダ・リアを知っていると、より一層楽しめる内容になっています
原題は「Daliland」ということで、前半のホテルの一室、後半のアトリエを意味しています
豪華絢爛、好き勝手していたNY時代と、原点回帰に至るクレマン岬時代が描かれていて、自伝的には晩年を描いていますが、ある程度彼の人生を紐解く流れになっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、おそらく架空とされるジェームズの目線でダリを描き、その特殊性へと言及していきます
キーとなるサイン集が実在するのかはわからないのですが、あの手帳には作品に向き合う姿が凝縮されていて、後半のグラフィック(複製)へのサインとの対比になっていました
ダリは唯一の人物で、その特殊性はサイン帳に凝縮されています
それは、同じものは二度と書けないというところに繋がっていて、芸術というものの一過性というものを表現していたと感じました
サインはいつも違うのに、いつも同じようなスタイル(身なり)にこだわっているところが特徴的で、生み出されるものの普遍性と、変わりゆく自分への拒否反応というものが如実に現れていましたね
ガラも同じように「老い」に抵抗を見せていくのですが、ありのままを愛せるかどうかというのは、人生最大の命題なのかもしれません
■サルバドール・ダリについて
サルバドール・ダリは1904年生まれのスペイン人で、シュールレアリスムを主体とした芸術家でした
生まれはスペインのカタルーニャ地方にあるフィゲラスで、84歳にて生まれた場所で亡くなっています
芸術に関してはマドリードで学び、印象派とルネサンスに影響を受け、キュビズムと前衛的な流れに惹かれるようになっていきます
キュビズム(Cubism)とは、20世紀初頭に起こった「前衛的な芸術運動」のことで、ヨーロッパにおける絵画と彫刻に革命をもたらしたとされています
1929年にシュールレアリスムのグループに属するようになったダリは、1931年に「記憶の持続」という歪んだ時計の作品を完成させます
この時期はスペインの内戦の時期でもあり、ダリはフランスに居を構えていました
その後、1940年に渡米し、そこで商業的な成功を収めます
映画が描いているのは、このニューヨークの絶頂期に翳りが見え始めた頃になります
ダリは様々な手法で芸術を発表し、絵画、グラフィックアート、映画、彫刻、写真などがありました
他の芸術家とコラボレーションすることもあり、映画内でもグラフィックアートのコラボが個展内で展示されていました
ダリとガラの関係は1929年からで、1934年に正式な結婚へと至ります
ガラはダリの作品へのインスピレーションを与えたとされていて、ビジネスマネージャーとしても有能な存在でした
1948年、ダリとガラは映画でも描かれる家に戻ることになります
彼が死ぬまでの30年間はほとんどそこで過ごし、冬になるとパリやニューヨークで過ごしたとされています
1968年、ダリはガラのためにプボルに城を購入しました
1971年頃から、彼女はそこに隠れるようになり、ダリ自身も許可なく訪問することは許されなかったと言います
1982年にガラが亡くなると、ダリはプボルの城に移ります
そして、1988年の11月、ダリは心不全で入院し、翌年の1月23日に84歳で亡くなりました
■サイン帳に込められた魂
映画には、ダリのアシスタントを務めるジェームズ・リントンという人物が登場しますが、どうやら架空の存在のようですね
ダリの個展を主催することになった画廊に働いていた青年で、個展の準備の偵察のために派遣されていました
ジェームズ自身がダリの信奉者というポジションになっていて、彼が見る世界は「一般的なダリ信者の目線」に重ねていると言えます
彼が潜入する世界が、いわゆる原題にあたる「ダリランド」なのですね
ダリランドには様々な著名人が介していて、ロックスターのアリス・クーパー、ドラァグクイーンのアマンダ・リア、モデルのドニャール・ルナなどが登場していました
ちなみにガラが入れ込んでいたジーザス役の役者ことジェフ・フェンホルトも実在の人物で、ブロードウェイのミュージカルの劇場版の主演を務めていました
フェンホルトはジーザス役の後にアルコールと薬物依存に陥り、その後キリスト教に改宗しています
彼には妻モーリーンがいて、彼のWikiにはガラが支援したということは書かれていません
他のサイトなどでは、1973年から交際を始めたと書かれていましたね
ダリはカンダウリズム(Candaulism)の実践者だったために、ガラの婚外関係を奨励していたとされています
ちなみにこのカンダウリズムというのは「自分の妻の裸体を第三者に晒すことによって興奮する性的嗜好のこと」を意味します
俗に言うと「寝取られ」ということになりますが、その趣向は愛人にまで及んでいて、映画内ではジネスタとジェームズの関係において表現されていましたね
話は逸れてしまいましたが、映画内で登場するジェームズのサイン帳は、全てのサインが違うという特徴があり、それはダリ自身のこだわりのように思えます
作品に対して、その時のインスピレーションや感情などを名前に込めていて、ダリ自身がサインを見れば「なんの絵にサインをしたのか」というのはわかるのだと思います
ジェームズは、ダリの瞬間性というものに気づき、普遍的に思えるものが絶えず進化していったことに気づいていたように思えました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、ダリの晩年を描き、妻ガラへの執着というものを強調していきます
ダリ本人もガラの存在が芸術家としての地位を作ったと公言していて、彼女の肖像画を描いたりもしています
出会いは妻子ある状態に求婚というパワフルなもので、その情熱に負けた、みたいな感じになっていましたね
ダリ自身はインスピレーションの塊のようなもので、作品が生み出される過程でも、それは強調されていました
個人的には、「記憶の持続」の制作シーンで、この手の伝記映画の好きなところに「作品の生まれる瞬間が描かれるから」というものがあります
アーティストがアーティストとなる瞬間が描かれていて、それがない作品は残念な作品だと思ってしまいます
これらの「ダリたる所以」は、構想、苦悩、ひらめきを緻密に描くことで、その作品が生まれたその現場に居合わせた気分になります
権利関係で絵がほとんど登場しなかったのは残念ではありますが、それを見せなくても何を描いているかわかるというのも、ダリの凄さなのかもしれません
映画としては、ダリ自身を知っているかどうかよりも、登場する著名人をどれだけ知っているかの方が楽しみに繋がっています
アリス・クーパーが出てきた時に「おお!」と思える人と、「誰それ?」みたいに思う人だと、ジェフが出て来た時の比較はわからないですし、アマンダ・リアがどんな人か知らないと後半でジェームズを慰める役になっている理由がわからなかったりします
このあたりはパンフレットでも説明されていましたが、英語版Wikiなどの各著名人のリンクを辿って翻訳するのが良いのかなと思います
可能な限りではありますが、キャスト欄のところにリンクを貼っているので、気になる人は調べてみても良いのではないでしょうか
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP: