■悪魔の食べ物はいつしか、世界で奪い合う天国の実になってしまった
Contents
■オススメ度
フランス革命前夜に興味のある人(★★)
料理映画が好きな人(★★★)
スカッとする物語が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2022.9.7(京都シネマ)
■映画情報
原題:Delicieux、英題:Delicious
情報:2020年、フランス&ベルギー、112分、G
ジャンル:宮廷を追われた料理人が訳あり女性とともに世界初の外食店舗を作るヒューマンドラマ
監督:エリック・ベナール
脚本:エリック・ベナール&ニコラ・ブークリエフ
キャスト:
グレゴリー・ガドゥボウ/Grégory Gadebois(ピエール・マンスロン:宮廷を追い出された料理人)
イザベル・カレ/Isabelle Carré(ルイーズ/マルキーズ・ド・ラ・ヴァレンヌ:ピエールの元に来る修道女)
バンジャンマン・ラベルネ/Benjamin Lavernhe(シャンフォール公爵:ピエールを雇う公爵、閣下)
Marie-Julie Baup(サン・ジュネ侯爵夫人:シャンフォールの愛人)
ギヨーム・ドゥ・トンゲデック/Guillaume de Tonquédec(イアサント:ピエールから税金を取るシャンフォール公爵の役人)
Christian Bouillette(ジェイコブ:マンスロンの故郷の友人)
Lorenzo Lefèbvre(バンジャマン・マンスロン:ピエールの息子)
Laurent Bateau(ディモルティエ:宮廷から訪ねてくるバンジャマンの友人)
Manon Combes(フランシーヌ:ピエールを気に入っている女料理人)
Félix Fournier(シナモンを入れる料理人)
François De Brauer(フルゴリ侯爵)
Jérémy Lopez(フルヴィエール侯爵)
Antoine Gouy(ル・クロワジック侯爵)
Benjamin Lhommas(エッセイの侯爵)
Chloé Astor(シャンフォール公爵の愛人)
Louise Rossignon(シャンフォールの第一公爵夫人、正妻)
Gilles Privat(ピエールの料理を酷評する司教)
Elizabeth Saint Blancat(鈴を鳴らしまくる修道院の母)
■映画の舞台
フランス革命前夜
フランス:パリ郊外
ロケ地:
フランス:ブルゾン
https://maps.app.goo.gl/8VGzTyJEBxFPE18j8?g_st=ic
■簡単なあらすじ
シャンフォール公爵の宮廷料理人のピエール・マンスロンは、ある日注文されていないスイーツをメニューに組み込んだことで解雇されてしまう
ピエールを父のように慕うバンジャマンと実家に戻ったピエールは、友人のジェイコブらと一緒に慎ましやかな生活を送ることになった
ある日、彼らの元にルイーズという名の女性が訪れる
彼女は宮廷で給仕をしていたというが、ピエールは彼女の所作から貴族か娼婦だろうと訝しがった
ルイーズは住み込みで働き弟子にしてほしいというものの、ピエールは料理をする気はさらさらなかった
だが、ルイーズの熱意と献身にほだされて、ピエールは少しづつ料理を教え始める
ルイーズはここを食事の提供できる場所にしようと言い出し、テラスを含んだ食堂を手がけ始める
ピエールも乗り気になって、庶民が宮廷の料理を食べられるように創意工夫をし始めるのである
店は評判になり、侯爵の耳にも届くようになる
そして、パリに出向いた帰りにシャンフォールが店に立ち寄るという話が舞い込んだ
準備に追われる彼らだったが、そこで事故が起きてしまい、約束の日に料理が間に合うかわからなくなってしまうのであった
テーマ:料理とは何か
裏テーマ:外食産業の誕生
■ひとこと感想
フランスで初めてできたレストランという触れ込みでしたが、実際にどうかは置いといて、当時の食事事情がわからないと何が凄いのか分かりにくかったですね
宮廷料理人が作る料理は芸術で、それを理解している貴族以外はダメよという世界
個人個人にお皿を配ってそこに料理を盛るという方法が画期的だったということでした
物語のメインは「料理で一旗あげたるで!」的なものではなく、怨嗟に塗れたドロドロの世界にピエールが巻き込まれるかたちになっていました
わかりやすい小瓶が出てきたり、「ここで盛っちゃう?」みたいなスリリングな展開はありましたが、スカッと系のエンディングになっていると思います
料理はどれも美味しそうで、空腹で観たら「ぎゅるる」、でも満腹で観たら前半のスローすぎる展開に眠気が襲うかもしれません
デリシュに挑戦したくなりますが、作るのは意外と難しそうだなあと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
デリシュがなんなのかわからずに鑑賞していましたが、いきなり登場したスイーツだったり、のちにオープンする店の名前の由来になったりと大活躍でしたね
ピエールとルイーズの復讐にも一役買ったデリシュでしたが、トリュフ薄切りという時点で料理素人は詰んじゃいますよねえ
料理もたくさん出てきて美味しそうだし、悪役を一手に引き受けたシャンフォール公爵のキャラも際立っていました
この手の映画を見慣れていないと「全員カツラで区別がつかない問題」に遭遇してしまい、キャスト欄でそこそこ上に表示されているのに「誰だっけ?」という人が多かったですね
特に公爵の周りにいる侯爵(爵位が一つ低い身分)一人一人を識別するのは諦めました
物語はルイーズの真の目的とピエールの失地回復がメインになっていて、ピエールを巻き込みたくないルイーズが衝動を抑えるために再び修道院に身を潜めるという流れになっていました
でも、そこにピエールが登場し、「まあ、そうなるよね」展開だったのですが、ここで鈴を鳴らしまくる修道女の母がMVPかなと思いました
スッキリと終わる展開になっていますが、歴史の背景は完全に劇中ではスルーなので、ある程度知識を入れておいた方が、最後どうなったかがわかりやすいと思います
(本作はフィクションなので、物語のネタバレにはならんでしょう)
■ざっくり背景説明
映画の背景は「フランス革命前夜」ということで、年代で言えば「1789年よりも少し前」ということになります
映画のラストにて「3年後にバスティーユが陥落した」と字幕が入りますが、バスティーユの襲撃は1789年の7月14日に始まっています
これがフランス革命の始まりとされていて、映画のラストはこの3年前ということになりますので、1786年であると推測されます
当時のフランスはルイ16世の時代で、1780年には大幅な財政赤字(45億リーブル=約54兆円)を抱えていました
宮廷は万策尽き、国王は改革派を蔵相に任命せざるを得なくなり、彼らは宮廷貴族などの特権階級への課税を推し進めます
でも、宮廷貴族は宮廷の官職や、軍隊の上層部などの行政権を握っていて、改革派大臣は追放され、改革は失敗に終わってしまいます
その後、1787年に財政はエティエンヌ・シャルル・ド・ブリエンヌ・ロメニー・ド・ブリエンヌ伯爵に任され、彼は土地税の代わりに印紙税を導入します
これに反対したのがパリ高等法院でしたが、ブリエンヌは国家の破産に直面して、4億2000万リーブルの公債を増発します
この動きに反発したのがオルレアン公でしたが、彼は国王から追放処分を受けます
オルレアン公の追放に対して、パリ高等法院は抗議行動を起こしますが、王権側は法服貴族から司法権を取り上げて、全権裁判所を新設します
この措置は全国的に波及し、オルレアン公を支持する自由主義貴族の反対運動はブルジョワジーや下層市民を吸収していきます
結果的に、全国的に反対運動が起こり、公債の購入が滞って、増税は失敗に終わります
その後、ブリエンヌは国庫証券での支払いしか認めないとか、紙幣の強制流通などを命じ、これによってパリでは紙幣と金貨の交換の取り付け騒ぎが起こります
この騒動によってブリエンヌは解任、平民の銀行家ジャック・ネッケルが財務総督に就任します(再登板)
ネッケルは各身分の代表から構成される「三部会」の召集を条件として、課税の是非を問うことになります
第一身分である僧侶(300人)、第二身分(270人)である貴族、そして第三身分である平民(600人)の代表が選出され、平民の多くはブルジョワジーだったと言われています
その後、第三身分は自らを「国民議会」と称し、国民議会の権限についての議論を重ね、国王に対して「国民議会の決定に拒否権を認めない」「国民会議を否定する行政権力の失効」「国民議会未承認の租税徴収は不法」という決定事項を突きつけます
この動きに第一身分が国民会議に合流、第二身分VS第一身分&第三身分という構図になっていきます
その後、「テニスコートの誓い」と呼ばれる「国民議会は憲法が制定され、それが堅固な土台を確立するまで決して解散しないことを誓う」という決議が採択されます
これに対して、宮廷貴族は国民会議と対立し、宮廷貴族の三部会解散などの行動を起こし、この解散が「国民議会の権力の否定」と見做されていきます
これらの動きが対立構造の機運を高め、国王は外出と集会の禁止令を出します
それでも、オルレアン公の私邸であるパレ・ロワイヤルにて命令を無視して大群衆が集結、この動きに対して国王は鎮圧のために軍隊を派遣します
群衆と軍隊の衝突が起こり、その最中に軍隊から武器を奪った群衆がバスティーユの監獄に突撃します
群衆はバスティーユを占領し、これを機に各方面で軍隊が反乱を鎮圧できなくなってしまいました
その後、国王は譲歩を決意して国民議会に出席、和解を宣言します
軍事行動を支持した宮廷貴族は処刑され、他の宮廷貴族は逃亡、国王は捕虜同然の身としてフランスに留まることになりました
この勝利によって、ブルジョワジーが実権を握ることになり、兵士を金で買収して軍隊を仕上げていくことになりました
■レストランの歴史
映画は「フランス(世界だったかな?)で初めてのレストラン」ということで、宮廷料理人だったピエールが、ルイーズとバンジャマンの助けを借りて「店舗にて外食を提供する」というビジネスを始める様子を描いていきます
レストランの歴史は諸説あり、ギリシャ・ローマ時代からその名残があるとされています
中世ヨーロッパは「ギルド制(商工業者の組合のこと)」などで飲食店区分が25ほどありました
ロスティエールではロースト料理のみ、ドレトゥールでは日替わり料理を提供できるといった具合になっていて、この頃のヨーロッパでは「大皿を囲んで食べる」というスタイルが一般的だったと言われています
映画内でも、「大皿から小皿に分けてコース料理のように順番に出す」という手法が採択され、それが画期的なアイデアとなっていました
食べる順番決めることで、厨房をコントロールしつつ、顧客の自由なタイミングで食事を提供することができます
これによって、効率化を図り、かつ食事ロスも大幅に減らすことができます
その分、手間が増えますが、料理人としては「自分の料理を最適なタイミングで味わってもらえる」というメリットの方が大きく、メニューに創意工夫が加えられるのは魅力的だと言えます
レストランの語源はフランス語の「Restaurer」で、「修復される」というところから転じて、「顧客の体調の修復」から「食事による修復」へと至り、「食事を提供する」というふうに意味が派生していったと言われています
世界的に見ると、中国では「宋の前期(900年代後半)」に「歓待」という文化があって、それによって「開封(現在の河南省開封市)」などでレストラン文化というものがありました
映画の舞台である中世ヨーロッパでは、宿が旅行客に対して提供するという施設があり、一般の地域住民が集まって食事をするという文化はなかったそうです
18世紀になって、イギリスのロンドンで「ルイーズ」が開店、スペインのマドリードに「ボテイン(ギネスで最古)」が営業を始めます
フランスでは、前述のフランス革命によって「料理ギルド」が解体され、料理人が貴族から離れたことで各地でレストラン文化が広まっていきます
実際にフランスでレストラン文化が定着したのが19世紀の中頃で、あまり流行はしなかったと言われています
以上、ウィキペディアを中心にまとめてみました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では訳あり美女が訳あり料理人の元を訪れるという内容で、レストランの開店秘話もさることながら、時代性も相まって「貴族の蛮行に対して復讐をする」というストーリーがありました
ルイーズの歩き方を見て、「その歩き方は娼婦か貴族だ」とピエールが言い、ミスリード的な意味合いで「娼婦崩れが嘘を言って取り込もうとした」という感じに描かれていきます
ピエールも実際にそう思っていたように「住まわせてやる代わりにヤラせろ」的な行動に出て、ルイーズから拒絶されるという一幕がありました
実際にはシャンフォールとのビジネスで夫が騙され、その復讐を果たそうと「シャンフォールのもとで働いていたピエールが追放されたことを聞いた」ということで接近しています
冒頭の食事会で「デリシュ」を嘲笑する司祭がいますが、司祭が修道院と繋がっていて、その修道院に身を寄せていたのがルイーズという設定になっていました
ルイーズの台詞にも、「修道院であなたがシャンフォールから解雇されたことを聞いた」というものがあり、その言葉を辿ってピエールはルイーズの元を訪れています
映画のラストでは「一般市民に混じって貴族が食事をさせられる」という仕返しがあり、これは当時の情勢を知っているとより楽しめる仕返しになっています
上記のフランス革命の背景を知っていると、「一般市民が貴族に対して抱いていたもの」というものがわかるので、映画内でもなんとなく分かるように描かれていますが、「取り囲んで怒りを見せて迫る」という一般市民(第三身分)の心情というものがより理解できるのではないでしょうか
ルイーズがピエールの方策で安堵の表情を浮かべるのは、シャンフォールからすれば死以上の屈辱になります
それを鑑みて、手を汚さずとも鬱積は晴れるということをやってのけたピエールに絶大の信頼を持つことになっていましたね
ピエールもルイーズの器量の良さのみならず、女性的にも魅力を感じていましたので、二人が料理の提供を忘れてハグ&キスに明け暮れていたのは微笑ましく思えました
ちなみにデリシュにはジャガイモとトリュフが使われていて、当時のヨーロッパでは「根菜」は悪魔の食べ物とされていました
その根底にあるのが「天に近いところにあるものほど聖なるもの」という考え方があって、鳩をはじめとした鳥類が最上級というふうに捉えられていたと言われています
牛などの家畜も地面にいるために、それほど高貴なものとは扱われたいなかったのですね
じゃがいもは栄養価が高く、それが社会に浸透したのはアントワーヌ=オーギュスタン・パルマンティエの功績であると言われています
彼はフランスの薬剤師、農学者、栄養学者として活躍した人物で、フランスやヨーロッパでのジャガイモの食用推進のみならず、種痘接種(天然痘の予防接種)の普及に尽力した人物でした
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/379836/review/2263950f-45dc-4e6a-842b-95a8f0bdabe9/
公式HP:
https://delicieux.ayapro.ne.jp/