■自分で決めて、寄り添い、同じ時間を過ごした先にあったものとは
Contents
■オススメ度
挑戦する人々を描く物語が好きな人(★★★)
競馬の映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.11.13(シネリーブル梅田)
■映画情報
原題:Dream Horse
情報:2020年、イギリス、113分、G
ジャンル:田舎町の農園が共同馬主を設立してレースに挑む様子を描いたヒュースマンドラマ
監督:ユーロス・リン
脚本:ニール・マッケイ
原案:競走馬「Dream Alliance号」
キャスト:
トニ・コレット/Toni Collette(ジャン/ジャネット・ヴォークス/Janet Vokes:スーパーとクラブを掛け持ちする主婦)
オーウェン・ティール/Owen Teal(デイジー/ブライアン・ヴォークス/Brian Vokes:ジャネットの夫)
Lynda Baron(エルシー:ジャンの母)
Alan David(バート:ジャンの父)
Bo Russel(ドリームアライアンス号/Dream Alliance)
ダミアン・ルイス/Damian Lewis(ハワード・デイヴィス/Howard Davies:馬主経験のある会計士)
ジョアンナ・ペイジ/Joanna Page(アンジェラ・デイヴィス/Angela Davies:ハワードの妻)
ニコラス・ファレル/Nicholas Farrell(フィリップ・ホッヴス/Philip Hobbs:ドリームアライアンス号を預かる調教師)
アレックス・ジョーダン/Alex Jordan(ジョンソン・ホワイト:ホッヴスの厩舎の調教助手)
シアン・フィリップス/Siân Phillips(モーリーン:チョコ大好きなおばあちゃん)
カール・ジョンソン/Karl Johnson(カービー:飲んだくれのおじいちゃん)
アンソニー・オドネル/Anthony O’Donnell(マルドウィン:口うるさいブライアンの友人)
ディ・ボッチャー/Di Botcher(ネリス:近所の肉屋の店主)
Asheq Akhtar(ピーター:ハワードの同僚)
Brian Dohcrty(ゴードン:ハワードの同僚)
Rhysap William(ケヴ/ケヴィン:ハワードの友人)
Darren Evans(グース:馬運車を運転する若者)
ステファン・ロードリ/SteffanRhodri(ガーウィン:ジャンが働くクラブのオーナー)
Benji Wild(ロブ・ロッシ:ガーウィンの店の店員)
ピーター・デイビソン/Peter Davison(エイヴァリー卿:裕福な馬主)
Max Hutchinson(ジェームズ・リングスフォード:ルーベルとビエンビエンを交配させる生産牧場)
Paul Boichat(獣医)
キャサリン・ジェンキンス/Katherine Jenkins(本人役:国歌斉唱をする歌手)
クレア・ボールディング/Clare Balding(本人役:表彰式のプレゼンター)
■映画の舞台
イギリス:ウェールズ
https://maps.app.goo.gl/dmmT6WneisKu7zv68?g_st=ic
ケアフィリ(ジャンの農園のある町)
https://maps.app.goo.gl/av5rrMu64FSHxJjE7?g_st=ic
ニューベリー・レースコース(初戦の競馬場)
https://maps.app.goo.gl/U41w6yEuBq85nE1j7?g_st=ic
チェプストウ競馬場/Chepstow(初勝利の競馬場&ウェルシュナショナルの行われる競馬場)
https://maps.app.goo.gl/JCcrRXgheHANX1YA6?g_st=ic
エイントリー・レースコース(怪我をする競馬場)
https://maps.app.goo.gl/GayJTYLmnxeQ2Rbp8?g_st=ic
ロケ地:
イギリス:ウェールズ&上記3競馬場
■簡単なあらすじ
ウェールズの谷あいの村「ブレナヴォン」で農園を営んでいるジャンとその夫ブライアンは、覇気のない生活を送っていた
ジャンはスーパーとクラブを掛け持ちした働いていて、ブライアンはテレビ三昧の日々を送っていた
ある日、クラブの客ハワードが競走馬を持っていた話を自慢げにしているのを聞いたジャンは、競走馬の育成に興味を持ち始める
そして、300ポンドでルーベルと言う名前の牝馬を購入し、アメリカの種牡馬ビエンビエンと配合させることを決めた
そして、共同馬主を設立し、友人たちに声をかけ始める
ハワードも共同馬主に名乗りを上げ、友人たちも含めて15人ほどの組合が出来上がる
そして、生まれた仔馬に「ドリームアライアンス」と言う名前をつけて、有名調教師のフィリップ・ホッブスの元を訪れた
ホッブスはドリームアライアンスに興味を示し預かることになり、ニューベリー競馬場にて初戦を迎えることになった
一同はバスで競馬場に乗り込み、渾身の声援を送り続け、愛馬は見せ場たっぷりの4着に入る
だが、レースの決定権などで意見が食い違うようになり、ジャンはそれを取りまとめるのに苦慮するのであった
テーマ:与えられる希望
裏テーマ:与える希望
■ひとこと感想
一口馬主を15年ほどしているので「見ないわけにはいかない」映画でしたが、スケジュールがなかなか合わずに、大阪まで出向くことになりました
評価が高いことは耳に入っていましたが、ベタな展開と結末なのに見入ってしまいましたね
実在の競走馬を取り扱っていて、ほぼ史実通りに描かれていました
レースシーンも迫力があって、わかっていても「歓喜の瞬間」は一緒に飛び上がりそうになってしまいます
競走馬に夢を託す人々は、応援することで人生に活気が出て、元気をもらえます
ドリームアライアンス号のように結果を残せて、余生を過ごせる馬はかなり稀ではありますが、走るために生まれてきた競走馬は走っている時が一番輝くと言えますね
イギリスの競馬に詳しくなくても大丈夫な内容ですが、日本の競馬とはかなり違うので、知っていると逆に戸惑ってしまうかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
人生にハリがなく、あとは死ぬだけのような人生を送っているジャン(すみません!)は、競走馬育成(とは言っても所有ですが)によって蘇っていきます
まるで我が子のように接して、優しく語りかける様子は胸を打つものがありますね
映画のテーマは「競走馬の所有は金のためなのか?」と言うテーマもありながら、共同馬主の難しさと言うものを描いています
実際に共同馬主(一口馬主ではない)の経験者及びその知識のある人ならわかると思いますが、初期衝動は賞金とともに揺らいでいくと言うのは理解できるでしょう
子育てを終えて、親の介護に明け暮れていると、人生の先が見えてしまうような気がしますが、それは本人の心の向き次第で何とでも変わっていくと思います
共同馬主をするほどのお金がなくても、今では「出資馬」と言う形で競馬の馬主気分を味わえますし、各雑誌などで行われているPOG(ペーパーオーナーゲーム)などでも雰囲気は味わえたりします
何かに向けて真剣に立ち向かう姿に勇気をもらえるのは、スポーツ全般の特徴であると思いますが、長くない馬生に寄り添う(長くても5年くらいが限度)と言うのは、他のスポーツにはない特性なのかもしれません
■実際のドリームアライアンス号について
映画に登場する競走馬「ドリームアライアンス号(Dream Alliance)」は実在の競走馬で、2001年生まれの牡馬でした(のちに騸馬になります)
父はビエンビエン(Bien Bien)、母はルーベル(Rewbell)、父ビエンビエンはノーザンダンサー系リファールを父にもつManila産駒で、母父(ドリームアライアンスからだと父母父)はリボー系Grausatackという血統構成になります
競馬に詳しい人なら、「ノーザンダンサー*リボー」というだけで何となく想像がつきますね
ルーベルは父Andy Rew(父の父はLea Jet)で日本では馴染みのない血統で、それ以上を調べるのはちょっと難しそうでした
ビエンビエン産駒はドリームアライアンスの他に、フランスでコンデ賞(1998年)を勝ったビエナマド(Bienamado)、アメリカでオークローンブリーダーズカップステークス(2003年)を勝ったビエン・ニコル(Bien Nicole)などがいます
ジャンとデイジーは350ポンド(当初は1000ポンドだった)でルーベルを購入し、年間の費用は15000ポンドかかるという試算の元、シンジゲートを組みます
シンジケートには23名が参加し、映画では12人ほどが登場していますね
費用の見込みは一人当たり週10ポンドというものでした
協同組合は「アライアンス・パートナーシップ」と呼ばれ、管理したのはフィリップ・ホッブスで、彼はドリームアライアンスを管理するまでに多くのレースを制した名門厩舎でした
イギリス&アイルランドを拠点としてレースに出走させています
厩舎に入ったのは資金が集まった3歳の時で、2004年11月10日の初戦にて4着、その後、4戦目で初勝利を上げています
初勝利は映画で描かれている通り、チェプストウ競馬場でのものでした
その後スランプに陥り、2007年にパース・コールド・カップで2勝目を上げます
その翌年のエイントリーで行われたグランドナショナルにて競走中止になり、安楽死から逃れるために騎手の素早い判断があったとされています
治療には幹細胞手術が適用され、15ヶ月のリハビリの末に復帰を飾っています(実際にはウェルシュナショナルは復帰2戦目でした)
そして、2009年のウェルシュナショナルにて、トム・オブライエンの騎乗によって4分の3馬身差で勝利を収めることになりました
その後、2010年のグランド・ナショナルに向けて調整され出走を果たすものの、肺の疾患の発覚によって競走中止となっています
その後、7戦を走りましたが、勝利することはなかったとされています
■イギリスのレース体系あれこれ
イギリスには平地競走と障害競走があり、障害競走は「ナショナル・ハント」と呼ばれ、平地競走のオフシーズンである「11月から2月の間」に開催されています
障害レースもいくつか種類があって、入門編的な立ち位置の「ハードル」、飛越が難しくなる「スティープル・チェイス」で、日本の障害競走はこの「スティープル・チェイス」に分類されます
障害を跳ばずに同じぐらいの距離を走る「ナショナルハント・フラットレース」というものもありますね
日本の障害未勝利戦にあたるのが「ノーヴィス」というレースで、出走経験が浅い馬限定のレースになります
ハードルからチェイスに転向した初戦はこのノーヴィスへの出走が可能になっています
スタートが日本とは違って、「一箇所に集められて、スターターの合図で紐が上げられてスタートする」のですが、これを「バリア式」と呼びます
日本は全てのサラブレッドのレースはゲート式で、ゲートボーイがいないのが海外と異なっていますね
平地からの転向も日本と同じようにありますが、2歳からハードルに出走する馬はほとんどいません
映画ではたくさんのレースが出てきますが、その最高峰にあたるのが「グランド・ナショナル」というレースで、これはエイントリーで行われているものを指します
映画ではドリームアライアンス号が競走中止をしたのがこの「グランドナショナル」でした
ちなみに、同馬が最後に制したのが、この「グランドナショナル」に倣って作られた「ウェールズの最高峰レース」で、「ウェルシュナショナル」というレース名になっています
ちなみにこの「グランドナショナル」は日本でも倣われていて、それが春に行われる「中山グランドジャンプ」と年末に行われる「中山大障害」というレースです
もしかしたら、オジュウチョウサンという馬の名前を聞いたことがあるかもしれませんね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、人生の晩年を迎えたジャンがハワードの自慢話をきっかけに競走馬の所有を考え、それを運用していく様子を描いています
日本でも馬主になるためのハードルは高くて、地方競馬でも一般人にはハードルが高いといえます
ジャンが考えたのは「競走馬のシンジケート」で、いわゆる共同馬主のようなものになっています
日本のJRAでも共同馬主はありますが、馬の保有の共同は最大10名までで、これには馬主の資格が必要になります
私も加入している「一口馬主」と呼ばれるのは「競走馬を金融商品として投資の対象にしている」ので共同馬主ではありません
日本の一口クラブ制度では、馬主資格をもつクラブ法人と会員が出資する先は別の法人になっていて、その法人間で所得税というものが発生します
私が入っている一口馬主のクラブでは「法人間所得税などを含む精算」は引退時に行われていますが、クラブによっては月ごとに精算するシステムのところもあるようですね
気になる方は、それぞれのクラブのホームページに行けば分かりやすく説明されていますよ
話は外れましたが、映画では「生活にハリを与えるため」という理由があって、これは体験上理解できる動機となります
何か対象を決めて、その対象を応援するという行為は、その対象の成績に一喜一憂することで、自分が体験し得ないことも疑似体験している気分になれます
プロ野球やJリーグのチームを応援したりするのも同じような効果があると思います
共同馬主がそれらの「応援」と違うのは、実際にお金がかかるというところでしょう
日本の一口馬主は共有馬主ではありませんが、出資金の捻出だけでなく、日常でかかる費用も負担することになります
中央競馬だと月60万円が相場というところでしょうか
ジャンたちの人数、23人だと月26000円、ドリームアライアンスの場合は月54ポンド(本日現在の相場だと8000円ほど)なので、映画の負担は日本の競走馬所有よりは安価であると言えますね
競走馬の保有にはかなりの費用が必要ですが、儲かることはほとんどありません
私の場合だと、15年で51頭に出資してきましたが、黒字になった馬は現時点で14頭しかいません
8000万の馬に出資して1走で引退という馬もいれば、2000万の馬で2億円稼いだという場合もあります
それを見越しても、レースにおける興奮は「単純に馬券を買うよりも比べようもないほどに高い」のですね
それは、出資した段階から、毎週のように送られてくるレポートに目を通したりという接してきた時間もありますが、自分で関わることを決めたという心根(責任感)というものが大きいように思えます
一口馬主はクラブによっては退会や放棄ということもあり得ますが、ジャンたちの共同馬主は競走馬を引退させること以外には放棄はできません
競走馬の引退というのは、字面以上の意味があり、ジャンたちのように農園をしていたら引き取ることもできますが、通常は莫大な費用がかかるので処分することになります
まさしく、競走馬の生殺与奪の権利を握っているという責任感が生まれるのですね
この自己決定とそれに付随する責任感というものが人生に影響を与えます
また、レースに向かうまでのトレーニングの経過であるとか、アクシデントの有無などもすべて負うことになるので、勝った時の喜びは最高潮にドーパミンが放出される瞬間になりますね
映画では、このドリームアライアンス号の誕生から出走までのすべてを見ていくので、ウェルシュナショナルでの興奮というのは、我が事のように感じられるのではないでしょうか
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384879/review/4524283b-8fd7-475e-9a56-a50a7e5acec6/
公式HP:
https://cinerack.jp/dream/