■史実ベースの自由な創作なら、もっとドラマティックに改変しても良かったように思えますね
Contents
■オススメ度
メロドラマが好きな人(★★★)
エッフェル塔について知りたい人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.3.7(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Eiffel
情報:2021年、フランス&ベルギー&ドイツ合作、108分、R15+
ジャンル:エッフェル塔にまつわる秘匿の恋を描いたラブロマンス映画
監督:マルタン・ブルブロン
脚本:トーマス・ビデガン&マルタン・ブルブロン&マーティン・ブロソレット
キャスト:
ロマン・デュリス/Romain Duris(ギュスターヴ・エッフェル/Gustave Eiffel:エッフェル塔を設計する建築家)
エマ・マッキー/Emma Mackey(アドリエンヌ・ブルジェス/Adrienne Bourgès:ギュスターヴの元カノ、アントワーヌの妻)
ピエール・ドゥランドンシャン/Pierre Deladonchamps(アントワーヌ・ド・レスラック/Antoine de Restac:ギュスターヴの友人、ジャーナリスト)
Jérémie Petrus(エドモンド:アドリエンヌの兄?)
アルマンド・ブーランジェ/Armande Boulanger(クレール・エッフェル/Claire Eiffel:ギュスターヴの娘、長女)
Andranic Manet(アドルフ・サレス/Adolphe Salles:クレールの婚約者、ギュスターヴの部下、新入り)
ブルーノ・ラファエリ/Bruno Raffaelli(ブルジェス氏:アドリエンヌの父)
Sophie Fougère(ブルジェス夫人:アドリエンヌの母)
アレクサンドル・ステイガー/Alexandre Steiger(ジョン・コンパニオン/Jean Compagnon:ギュスターブの同僚)
Jérémy Lopez(モーリス・ケクラン/Maurice Koechlin:エッフェル塔の原案作成者)
Damien Zanoly(エミール・ノギエ/Émile Nouguier:エッフェル塔の原案作成者)
Thierry Nenez(製図工)
David Sevier(製図工)
Philippe Hérisson(エドゥアール・ロックロイ/Édouard Lockroy:フランスの通商大臣)
Clémence Boué(ロックロイ夫人)
Dominique Pozzetto(通商大臣の部下、省の廷吏)
David Olivier Fischer(ジュール・グレヴィ/François Paul Jules Grévy:フランス第三共和政の大統領)
Stéphane Boucher(パウルウェルズ:建築家、ボルドーの橋梁の責任者)
Joseph Rezwin(R・ミリガン・マクレーン/R. Milligan McLane:アメリカのメリーランド州の知事、自由の女神像の功績を讃える)
Hervé Masquelier(銀行家)
Benoît de Gaulejac(銀行家)
Philippe Saïd(委員会のメンバー)
Philippe Richardin(委員会のメンバー)
Catherine Giron(ブルジェス家のパーティーのゲスト)
Stéphane Page(ブルジェス家のパーティーのゲスト)
Christian Loustau(就任式の役員)
Fabien de Chavanes(タワー建設作業員)
Denis Leluc(パリの廷吏評議会)
Vincent Combe(コンセイユの会員)
■映画の舞台
1889年、
フランス:パリ
ロケ地:
フランス:パリ
Château de Vaugien/ヴォージャン城(ブルジェス家)
https://maps.app.goo.gl/WpyR4XycyxWdPjVcA?g_st=ic
Rue de Bellechasse/ベルシャス通り
https://maps.app.goo.gl/hbqrpM6d1XQHY4vaA?g_st=ic
■簡単なあらすじ
1889年、アメリカにて「自由の女神像」の建立に寄与したギュスターヴ・エッフェルは、母国フランスに戻って、ボルドーにある橋梁の事業に従事していた
木材が足りずに足場が組めず、作業員の一人がガロンヌ川に投げ出されてしまう
ヴュスターヴは迷わず川に飛び込んで彼を助け、そして、木材の追加購入のためにブルジェス家を訪れることになった
ギュスターヴの訴えを受け入れたブルジェスは、邸宅で開催されるパーティーに参加しろと条件をつける
渋々パーティーに参加した彼だったが、そこでブルジェス家の令嬢アドリエンヌと出会い、恋に落ちてしまう
だが、その関係は許されざるものだった
それから数年後、ギュスターヴの知名度は上昇し、多くの建造物の設計に携わることになっていた
彼が夢中になっているのは地下鉄の建設だったが、彼の元に3年後に控えた万国博覧会のモニュメントの話が舞い込む
最初は意に介さなかった彼だったが、資金援助のための懇親会にて、友人で記者のアントワーヌの妻と出会うことになり、野心に火がつき始める
アントワーヌの妻は、かつて恋仲になったアドリエンヌで、ギュスターヴはその因縁について心を逸らせ、中途半端に終わった恋に身を焦がすことになったのである
テーマ:愛と執着
裏テーマ:信念を試す愛
■ひとこと感想
エッフェル塔の完成秘話という感じに思っていましたが、実際のところはラブロマンス映画になっっていましたね
ギュスターヴ・エッフェルがアドリエンヌと望まぬ再会をしたことで、友人との間に三角関係が出来上がる、というものでした
一応は、エッフェル塔の建設技術にもふれ、そのあたりは楽しめますが、第一展望台を作るところがピークになっていて、あとはダイジェストっぽくなっていたのは微妙だったかもしれません
なので、エッフェル塔を建てる映画だと思って観に行くと、とんでもないメロドラマを見せられるということになってしまいます
R15+指定なので、イケナイ関係が燃え上がることは想像できますが、アドリエンヌ目線で見ると、当時の抑圧されたものが蘇ります
でも、彼女の父との関係とその後の顛末がややダイジェスト気味だったので、少しばかり唐突感はありましたね
それでも、ギュスターヴ目線で見るメロドラマとしては、一定の水準にはあったかと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
予告編でほとんどネタバレになっていますが、ギュスターヴとアドリエンヌの禁断の恋が燃え上がり、そして選択が迫られるという展開を迎えます
スキャンダルになって、エッフェル塔を作れなくても良いのか?という難題があって、それはアントワーヌの脅しというよりは、ギュスターヴとアドリエンヌの軽率な行動が生み出す副産物のようなものでした
なので、アントワーヌの進言は、ある意味においてギュスターヴの未来を案じての友人としての発言のように思えます
引き離された二人が完成披露の場で再会するのですが、大人の選択に心が引き裂かれます
アントワーヌも自分を好きではない妻と過ごすことで幸せなのかは分かりませんが、彼自身のアドリエンヌへの執着も相当なものがあったのでしょう
映画の中では全てを手に入れているように見えるギュスターヴですが、その中で最も大事なものだけをアントワーヌが手に入れているように思えるところは何とも言えない感じになっています
映画はいわゆる不倫ものですが、ギュスターヴは妻に先立たれているので、そこまでのドロドロ感はありません
娘クレールに「大切な人ができた」と伝えるギュスターヴですが、その恋が破れるのを間近で感じているクレールの表情が、愛とは何かを考えさせてくれます
■ギュスターヴ・エッフェルについて
ギュスターヴ・エッフェル(Gustave Eiffel)は1932年生まれのフランス人建築家です
エコール・セントラル・パリにて工学を学び、フランスの鉄道網、高架橋などに着手しました
その後、彼は会社を興し、1889年のパリの万国博覧会にてエッフェル塔の建築に携わることになりました
冒頭でも綴られるように、ニューヨークの自由の女神像の骨格の設計をしたことでも知られています
ギュスターヴの父はフランス軍の管理者で、母方は木炭事業に従事していました
母親はその事業を拡大させ、石炭の流通事業を始めます
ビジネスは成功を収め、その会社は1843年に売却されています
ギュルターヴが修学を終えた後、義理の兄弟の鋳造所で働き始めます
そして、数ヶ月の後、鉄道技師のシャルル・ネヴーにコンタクトを取り、秘書として働くことになりました
ネヴーの会社は倒産してしまいますが、ギュルターヴはサンジェルマン鉄道の板鉄橋の設計に携わることになります
ネヴーの会社の一部は企業に売却され、彼はその研究部門の責任者に任命されます
そして、1857年にボルドー地域にてガロンヌ川に架かる鉄道橋の仕事に従事することになりました(冒頭の鉄橋工事のこと)
500mの鉄道橋には「圧縮空気ケーソンと水圧ラムの技術」が使われています
「圧縮空気ケーソン」とは、建設工事に用いられる基礎工法の一つで、「箱状の構造物を地盤に沈設する方法のことで、ざっくりと説明すると「橋脚を置く場所に四角い筒を作り、その内部を掘っていく」というイメージになります
そして、その筒を土壌で安定させて、その中に橋脚を立てていくという流れになります
「水圧ラム」は「水圧を利用したウォーターポンプ」のことで、これによって低地にある水を圧力によって高い位置に押し上げることができます
低い位置にある管に水を入れると、水はその圧力で動ける方向に動きます
その動く方向を調節して空気圧によって水流を高地の管に流入されるというイメージになります
映画では「排水弁」から水を抜くことで圧力を調整し、橋脚の角度調節をするというふうに描かれていました
この鉄道橋の成功の後、ギュスターヴは独立し、コンサルティング・エンジニアとして働き始めます
1866年にはエジプトの機関車33両の建設に携わっています
その後、リヨン・ボルドー間の鉄道線の鉄道橋の建設に寄与し、ペルーにあるサン・マルコ大聖堂などの諸外国でも活躍の場を広げていきます
1868年にテオフィロ・セイリグとパートナーシップを結び、エッフェル・エ・シエ社(Eiffel et Cie)を設立します
この会社では、ブダベストの駅とポルトガルのドロウ川に架かる橋の建設、1878年には万国博覧会にて展示用建造物の建設を担当します
1879年、セイリグとのパートナーシップを解消し、Compagnie des Etablissements Eiffelと社名を変更しました
この会社にチューリッヒ工科大学出身のモーリス・ケクリンと図面作成経験者のエミール・ヌーギエが入社することになりました
■エッフェル塔あるある
この二人はパリの万国博覧会に興味を示していて、エッフェル塔の原案となる図面を作成しています
当初はそれに興味を示さなかったギュスターヴですが、スティーヴン・ソーヴェルトル(Charles Léon Stephen Sauvestre)による建築装飾が追加され、それは装飾的なアーチ、ガラスのパビリオンなどがありました
このアイデアはギュスターヴの支持を得ることができ、彼は3人のデザインの特許権を購入します
このデザインが1884年の装飾美術展に出品され、プロジェクトに関する論文をギュスターヴが作成します
その後、1886年にジュール・グレヴィが大統領に再選し、エドゥアール・ロックロイが通商大臣に任命されると、博覧会が現実味を帯びてきます
そして、劇中でも開かれた公開コンペが開かれるようになり、ギュスターヴのデザインが採択され、シャン・ド・マルスに300mの金属製のタワーを建てることが決まり、委員会が発足します
基礎工事は1887年に始まり、セーヌ川に近い側の土台作りは難航を極めました
ケーソン(潜函)方式にて、半年後の6月11日に基礎が完成、翌年3月に1階の展望台が完成して4本の脚が繋がります
映画で描かれていたのはここまでで、8月14日に2階の展望台が完成します
その後、1889年2月24日に3階の展望台が完成(映画の冒頭で外を眺めているシーン)し、同年3月31日にピエール・ティラール首相を招いての竣工式が行われました
完成に2年2ヶ月5日という異例の速さで建設され、5300枚のデッサン、常時150〜300人が現場で作業をしていました
その後、エッフェル塔は「鉄の貴婦人(La Dame de fer)」と呼ばれるようになり、その外観から反発する者も多かったとのこと
反対派の中には作家のギ・ド・モーパッサンもいて、彼はエッフェル塔のレストランにはよく通っていたが、その理由は「ここならエッフェル塔を見なくて済むから」だったそうです
パリ万博は無事に開催されましたが、当時はエレベーターがなく、観光客の入場はできませんでした
でも来場者の不満が募り、結局は一般公開されることになったのですね
エレベーターの運行ができるまでの9日間で3万人が塔の階段1710段を歩いて昇ったとされています
その後、万博後も来場者はいましたが、さほど集客を見込めるものではなく、1900年に再度行われたパリの万博でも入場者は増えませんでした
解体になりそうになったのですが、1904年からフランス軍の無線電波をエッフェル塔を使って行われるという提案があり、以降もエッフェル塔の主要目的は軍事無線電波の送受信となっているのですね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は、これまでに書いたようながっつりとしたエッフェル塔建設の物語ではなく、カテゴライズでは「メロドラマ」という感じになっています
エッフェル塔の図面を作成したみたいな感じになっていますが、実際には社員が作ったものを実行したプロデューサー的な役割に近かったと言えます
後半になって資金繰りに困窮するシーンがあったり、アドリエンヌとの不倫の醜聞が取り沙汰されていましたが、塔の完成を優先して不倫関係を断ち切ったというのは脚色の部分に当たると思います
当時のギュスターヴには4人ほど求婚して失敗したという記録があり、その中の1人がアドリエンヌとされています
それらの史実をベースにしてドラマティックに仕上げたのが本作であると言えます
映画の冒頭では「事実を元に自由に創った」とされていて、エッフェル塔建設にまつわる事実ベースのドキュメンタリーになっていないのはこのような制作意図があったからでしょう
ギュスターヴとアドリエンヌの恋愛をベースにして、エッフェル塔の建設と天秤にかけるという脚色なのですが、個人的は「そりゃ、女性との関係を断ち切るでしょうねえ」としか思えません
国の威信、労働者の苦労、名声と天秤にかける意味はそこまでなくて、しかも友人の嫁さんと不倫関係というのはメロドラマの王道を行く感じのドロドロ感があります
アントワーヌが紳士的だったのが救いですが、あの状況のアドリエンヌが彼の元にいても、アントワーヌ自身が幸せなのかはわかりません
個人的な感覚だと、アドリエンヌは囚われのカゴの鳥のようなものでしょう
アントワーヌとしては、全てを手に入れたギュスターヴが最も欲しかったものを所有しているという感覚なのでしょうが、この関係が長続きするとは思えません
万博が終われば、二人の醜聞が決定機になることもないでしょう
集客を見込めなれば首が閉まるのはギュスターヴ本人ですし、万博の後にスキャンダルが起きても、それだけで何かが終わるとも思えません
歴史をベースにしたメロドラマとしては面白かったと思いますが、ここまで「自由に作る」のなら、万博の数年後に二人が再開して、心だけはずっと繋がっているという脚本にするか、いっそのことアドリエンヌがアントワーヌの元を去った、という一文で劇的に終わらせても良かったかもしれません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385535/review/6dd1d9f6-25cc-48f0-831e-4abbb99d6300/
公式HP: