■火と水が融合した個体は、新人類と呼べるものになっているのだろうか
Contents
■オススメ度
ディズニー映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
https://youtu.be/IcmRFGG6pac
鑑賞日:2023.8.9(イオンシネマ シアタス心斎橋)
■映画情報
原題:Elmental(元素の精霊たち)
情報:2023年、アメリカ、101分、G
ジャンル:属性の違うエレメンタルの恋愛を描いたラブロマンス映画
監督:ピーター・ソーン
脚本:ジョン・ホバーグ&キャット・リッケル&ブレンダ・シュエ
キャスト:
リア・ルイス/Leah Lewis(エンバー・ルーメン:ファイアタウンに住む炎のエレメンタル)
(幼少期:Clara Lin Ding)
(少女期:Reagan To)
Mamoudou Athie(ウェイド・リップル:エレメントシティの水道調査官、水のエレメンタル)
ロニー・デル・カルメン/Ronnie del Carmen(バーニー・ルーメン:エンバーの父、雑貨店経営者)
シーラ・オミ/Shila Ommi(シンダー・ルーメン:エンバーの母)
ウェンディ・マクレンドン=コヴィーゲイル/Wendi McLendon-Covey(ゲイル・キュミュラス:ウェイドの上司、空気のエレメンタル)
マット・キング/Matt Yang King(ルッツ:サイクロンスタジアムのオナーラ・ウィンドゥズの選手)
ジョー・ペラ/Joe Pera(ファーン・クラウチウッド:市庁舎の官僚、土のエレメンタル)
ベン・モリス/Ben Morris(ウッド:入国管理官、木のエレメンタル)
メイソン・ヴェルハイマー/Mason Wertheimer(クロッド:エンバーに恋する土のエレメンタル)
キャサリン・オハラ/Catherine O’Hara(ブルック・リップル:ウェイドの母、未亡人)
ロノビリ・ラヒリ/Ronobir Lahiri(ハロルド:ブルックの兄)
マット・キング/Matt Yang King(アラン・リップル:ウェイドとレイクの兄)
クリスタ・ゴンザレス/Krysta Gonzales(エディ・リップル:アランの妻、ウェイドとレイクの義理の妹)
イノセント・オナノヴィ・エカキティ/Innocent Onanovie Ekakitie(マルコ&ポロ:ウェイドの甥)
エヴァ・カイ・ハウザー/Ava Kai Hauser(レイク・リップル:ジブリの恋人、ウェイドの兄、アランの弟)
青木・マヤ・タトル/Maya Aoki Tuttle(ジブリ:レイクの恋人)
ウィルマ・ボネット/Wilma Bonet(フラリエッタ:暖炉の客)
ジョナサン・アダムス/Jonathan Adams(フラリー:暖炉の客)
ジェフ・ラパンセ/Jeff LaPensee(線香花火の客)
アレックス・キャップ/Alex Kapp(客&配達人&土のエレメンタルハウスの大家さん)
【日本語吹き替え版】
川口春奈(エンバー・ルーメン)
玉森裕太(ウェイド・リップル)
楠見尚己(バニー・ルーメン)
潮田明子(シンダー・ルーメン)
MEGUMI(ゲイル)
山像かおり(ブルック・リップル)
大谷育江(クロッド)
高木渉(ハロルド)
神田みか(フレリエッタ)
伊達みきお(ファーン)
安村直樹(土のエレメント)
間宮康弘(アラン・リップル)
吉野貴大(ラッツ)
濱口綾乃(レイク・リップル)
■映画の舞台
違うエレメントと関わってはいけないというルールがある「エレメント・シティ」
■簡単なあらすじ
新天地を求めてエレメント・シティに来た火のエレメンタルのバーニーとシンダーは、そこに住居を構え、雑貨店を開くことになった
程なくして、娘のエンバーが誕生し、彼女はスクスクと育っていった
バーニーはエンバーが一人前になったら店を譲ると決めていて、色んなことにチャレンジさせていたが、エンバーはすぐに癇癪を起こして爆発してしまう癖があった
ある日、セールの店番を任されたエンバーだったが、押し寄せる客を捌ききれずに、地下室に潜って癇癪を爆発させてしまう
だが、その衝撃で配管に異常をきたし、地下室は水浸しになってしまう
そして、そこに配管の調査をしていた水のエレメンタルのウェイドがまぎれ込んでしまった
ウェイドは店の配管の欠陥を指摘し、上司に報告する義務があった
大急ぎで市役所に戻るウェイドだったが、エンバーはそれを阻止すべく追いかけていく
だが、報告書を阻止することはできず、エンバーはウェイドの上司ゲイルに直談判をすることになった
ゲイルは町で起きている水漏れの原因を突き止めたら見逃しても良いと言い、エンバーはウェイドとともに、水漏れの原因を探すことになったのである
だが、水のエレメンタルを嫌っている両親にはそのことを打ち明けられず、店の水没も水のエレメンタルのせいだと、嘘をついてしまうのである
テーマ:自己実現
裏テーマ:利他的な愛の行方
■ひとこと感想
どうしても字幕版を観たいとのことで、わざわざ心斎橋まで出向くことになりました
地元でも可能だったのですが、観たい映画と被ってしまい、どちらも来週にはキツい感じになっていたので遠出をするハメになっています
映画は、予告編の段階でほとんど話の内容がわかるというもので、短編映画は『カールじいさんと空飛ぶ家』の後日談のような『カールとダグ』という作品が付加していました
本編は、映像的な素晴らしさはあるものの、色々と脚本が粗く、盛り上がりに欠ける感じになっていました
基本的にはエンバーとウェイドの属性の違う恋愛を描いているのですが、現代的なメタファーをそのままぶっ込んでいるところに工夫はさほどない感じになっていました
属性の違うエレメント同士が恋愛感情を持つというのが設定上に「普通にあること」ではなく、どうやら「かなり特異な感じ」に描かれていましたね
それぞれのエレメントの諍いというものも、相手が嫌いだからというよりは、共存できない特性があるからというものになっています
そんな中でもバーニーは人一倍水のエレメンタルを毛嫌いするのですが、その根幹となるものは明確ではありません
さらっと差別的なものであるとか、商売の邪魔だったりと色々とあるようですが、そもそも火のエレメンタルの沸点が低すぎるのも問題かなと思いました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
エンバーとウェイドの属性の違う二人の恋愛譚になっていましたが、根幹にあるのはエンバー自身のアイデンティティの確立だったように思えます
幼少期から父の店を継ぎたいと思ってきたエンバーでしたが、いつの間にかやりたいことが変わっているのですね
そのきっかけとなったのがウェイドとの出会いで、彼女は対面接客の仕事よりも、創造性の高い仕事に就きたいと考えるようになっていました
このあたりは適性というものがあって、彼女の性格ではわがまま放題の客を捌けないのですね
父も同じように沸点は低いものの、みんなとの団欒を楽しんでいたので、一人で集中して何かに打ち込むというエンバーとは特性が違うように思えます
エンバーにこの変化が訪れたのはウェイドとの出会いがあったからで、彼自身は適性のある仕事をしているわけではないので、そこから学んだわけではないのですね
エンバーがウェイドから何を学んだのかと言えば、それは自分の感情に素直になることだったと言えます
ウェイドはすぐに感情的になるし、それはエンバーの癇癪と同じように見えるけれど中身は違います
ウェイドはどちらかと言えばやりたくない仕事をしているけどストレスを感じていないのですが、それは小出しに感情を放出させることを厭わないし、それに抵抗を感じていないのですね
それがウェイドの特性でもある「流動する水のエレメンタル」というところがうまくできていると思いました
■エレメントは感情の特性を表すもの
邦題は「エレメント(=元素)」ですが、原題は「エレメンタル(=精霊)」ということで、少しばかり意味が違います
癇癪を起こしやすいエンバーたちが火属性で、穏やかなウェイドたちが水属性になっていました
そのまま、元素の持つイメージと感情が結びついている感じになっています
火の家族に距離があるけど、水の家族には距離がなく、ウェイドの家族にはLGBTQ+がいたりもします
火は常に感情の揺らぎがあって、それが特性として描かれていますが、映画内では移民のメタファーになっていて、彼らが他の種族、とりわけ土の種族にとっては天敵のように描かれています
冒頭の住処探しでバーニーを拒否するのが土の大家だったり、列車内で苦言を呈するのも土の種族だったりします
彼らは普段温厚ですが、火と接する時だけ攻撃的になるという特性を持ち合わせていました
この他に登場するのが空気の種族で、映画ではガスケットボールというスポーツのプレイヤーとして登場していました
ウェイドの雇い主(上司?)であるゲイルも空気の種族になっていて、彼らは「普段は温厚だけど、気分によって激変する」という特性があります
これは台風やハリケーンをイメージさせるものになっていて、気まぐれで掴みどころがないというふうに描かれていました
映画内のエレメンタルたちは、それぞれ人間の性格の部分を切り取っていて、種族ごとに同じ性格をしているという特徴がありました
エンバー、バーニーは同じように見え、それ故に衝突をします
母シンダーは普段はおとなしいのですが、おそらく怒らせたら手をつけられない性格をしていて、エンバーのような癇癪持ちだったと思います
それらは成長とともに制御できるようになっていて、それが成長の通過儀礼のように描かれていました
■異質のエレメンタルと融合できる理由
映画では、火のエンバーと水のウェイドが結ばれるという結末を迎え、その発端はウェイドのエンバーへの恋心となっていました
ウェイドはエンバーの拒絶を徐々に受け入れるようになっていて、でもウェイドとエンバーはふれあうことでお互いを傷つけるという属性を持っています
エンバーがウェイドにふれると沸騰して消えてしまうし、ウェイドがエンバーにふれると彼女を消してしまう可能性があります
二人が手をつなげるのは、恋の炎がエンバーを燃焼させ、ウェイドは周囲になる水の元素を取り込んで水の状態でいられる、というように描かれています
ウェイドがエンバーに恋をしたのは、エンバーの背景を知ったことによる同情が先で、その内にエンバー自身を魅力的に感じていたというようになっています
ウェイドを含む水の種族は寛容という性質があるのですが、それは水の属性の方が火の属性よりも強力であるという根本があるからだと思います
寛容であるということは、どの属性からにも脅かされないという自負があるのでしょう
それに対して、火が移民のメタファーであるように、火自体は自身で生まれることができず、何らかの原子などのぶつかりによって生まれるエネルギーになっています
火と水が融合するというのは、永続的に双方の原子活動のようなものが必要になっていて、その均衡が保たれている時に可能になります
どちらかが強くなれば相手を弱めることになるので、そのバランスを保つように、双方が意識し合わないとダメなのですね
でも、その均衡を保つために、相手のことを思いやり、自分をコントロールすることこそが「愛」であると映画は伝えています
なので、火と水の共生というのは、意識的な調整によってのみ可能である、と言えるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は子ども向けの映画ではありますが、元素の属性と感情のメタファーなどは分かりにくく、感覚で捉えられるかどうかによって、個別の理解度が変わる作品になっていました
とは言え、大人からすると、あまりにもテンプレートな感じに見えてしまい、直球すぎて退屈という感じになっています
物語としても、大敵というものがおらず、都市の欠陥によって火の種族の住処に問題が生じていて、その扱いが移民街だから、というふうに見えなくもありません
このあたりの問題になってくると、子どもが理解できるはずもなく、ハブられた種族に対する行政の放置という社会問題を説明するのは難しいことだと思います
バーニーとシンダーがエレメント・シティに来るまでに火の種族がいたのかはわかりませんが、映画を素直にみると、二人は開拓者のような感じに描かれていましたね
当初は言語も通じず、エレメント・シティの入国管理官が町で通用する名前を与えるという流れになっていました
その後、その名前は定着し、火の種族がエレメント・シティで通じる言語を学んでいく中で生活圏を作り出します
映画では、自分たちの言語を捨てて通用する言葉を使うことに抵抗がないように描かれていますが、実際には種族内だけは原語を使用し、他の種族と関わるときは共通語を話すという流れになると考えられます
このあたりはざっくりとしていてこだわっていませんが、その辺りを掘り下げてしまうと、当初の目的から逸れてしまうでしょう
あくまでも、属性の違う者たちの間で恋愛は成立するかという物語なので、細かなところを現実と照らし合わせてしまうと時間がなくなってしまいます
でも、サラッとふれるだけでも腑に落ちていけると思うので、冒頭の火の種族のコミュニティが拡大するあたりでふれても良かったのかなと感じました
映画は、大人に伝わる教訓というものはありませんが、子どもの質問に答えるためには、思慮深くならないといけないタイプの映画になっていますね
子どもが一番不思議に思うのは、エンバーとウェイドの子どもはどうなるの?というものですが、これは制作サイドも答えを出せなかった(あるいは出さなかった)という感じになっていますね
火と水を両立させる体のビジュアルは結構難しいもので、個人的に考えられるのは、外側が水で透過した中に火があるという感じになると思います
二人の愛がバランスを取り続けて、それによって生まれた個体ということになるので、内なる火を守りながら、表層は他の種族に対する悪影響のないもの、というイメージですね
それを映画で描くと考える余地がないので、それぞれが「どのような個体になると思うか?」を考えることで、相容れないと思えるものへの光というものが見えてくるのかもしれません
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
公式HP:
https://www.disney.co.jp/movie/my-element.html