■結局のところ、自分の身は自分で守るしかないという世の中になってきている


■オススメ度

 

スリリングなサスペンス映画を堪能したい人(★★★)

航空機ウイルステロを念頭に置いた危機管理を考えたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.1.6(イオンシネマ京都桂川)


■映画情報

 

原題:비상선언(緊急宣言)、英題:Emergency Declaration(緊急事態宣言)

情報:2021年、韓国、147分、G

ジャンル:航空機内で起きたバイオテロによって混乱する機内&機外&国外を描いたサスペンスドラマ

 

監督&脚本:ハン・ジェリム

 

キャスト:

ソン・ガンホ/송강호(ク・イノ:ソウル南部警察署強力チーム長、刑事)

ウ・ミファ/우미화(チョン・へユン:ク・インホの妻、スカイコリア501の乗客)

グォン・ハンソル/권한솔(ク・ミンジョン:ク・インホの娘、大学生)

 

イ・ビョンホン/이병헌(パク・ジェヒョク:娘の治療のためにハワイに向かうスカイコリア501の乗客、パク・スミンの父)

キム・ボミン/김보민(パク・スミン:パク・ジェヒョクの娘、アトピーを患う少女)

 

ヒョンボン/현봉식(パク・ユンチョル:ソウル南部警察署強力チームの刑事、ク・イノの相棒刑事)

 

チョン・ドヨン/전도연(キム・スッキ:国土交通省の大臣)

パク・ヘジュン/박해준(パク・テス:大統領府国家危機管理センター長)

ナム・ミョンヨル/남명렬(国民のために墜落を容認する大統領府安保室長)

キム・ホジョン/김호정(ペク:保健福祉部長官、保安室長に反対する役人)

キム・サンイル/김상일(国立科学捜査局の局長)

 

キム・ナムギル/김남길(チェ・ヒョンス:スカイコリア501の副機長、パクの知り合い)

イ・サンヒョン/이상현(チャン・ヨンソク:スカイコリア501便の機長)

イム・ヒョングク/임형국(ウォン・ドンヨン:スカイコリア501の操縦士)

 

キム・ソジン/김소진(キム・ヒジン:スカイコリア501のチーフパーサー、CAのまとめ役)

ソルイン/설인아(イム・テウン:スカイコリア501のCA)

イ・オレム/이열음(パク・シヨン:スカイコリア501のCA、感染&発症を起こす女性客室乗務員)

イ・シウォン/이시원(キム・インソン:スカイコリア501のCA)

 

イム・ソンジェ/임성재(ジュンス:パク・ジェヒョクの隣に座るSNSで機内情報を拡散する男)

チョン・ジョンヨル/정종열(ソク・ピルホ:最初の犠牲者)

 

キム・ハクソン/김학선(ユンソク:スカイコリア501便、アトピーを水疱と見做す正論を吐く乗客)

 

ムンスク/문숙(ハン医師:スカイコリア501の乗客)

イ・イルソプ/이일섭(ハン医師の夫)

 

キム・グクヒ/김국희(ミリヤン:友人と一緒に501便に乗る女性客)

 

ホン・ハナイム/홍하나임(男性客に因縁をつけられる女子高生、乗客)

シン・ソヨン/신수연(女子高生、乗客)

ファン・ガヒ/황가희(女子高生、乗客)

ユン・ソイ/윤서이(女子高生、乗客)

イ・ジユン/이지윤(女子高生、乗客)

 

イ・スミ/이수미(へユンの友人、乗客)

ジン・ミサ/진미사(へユンの友人、乗客)

カン・ジヒョン/강지현(へユンの友人、乗客)

 

イム・シワン/임시완(リュ・ジンソク:元製薬会社「ブルコム社」の微生物管理者、乗客)

ナム・スンファ/남승화(ジンソクの家の死体)

マイケル・デイビス(ブルコム社の社長)

イ・ヒョンギュン/이현균(オ・ソンフン:リュ・ジンソクの元同僚、ブルコム社の元研究員)

カン・マルグム/강말금(元研究員の生存者)

イ・ヘジン/이혜진(ブルコムの内部告発者)

 

ムン・ジョヨン/문주연(ジンソクに難癖つけられるチケットカウンターの女性職員)

 

パク・ユンヒ/박윤희(東京の管制センター、チーム長)

チェ・ジェフン/최재훈(仁川管制塔のメンバー)

 

ソン・ジンファン/손진환(公聴会のメンバー)

 


■映画の舞台

 

韓国・仁川〜ハワイ・ホノルル行きの航空機「スカイコリア501便」

機体のモデルはアメリカ製航空機「ボーイング777」

 

韓国:仁川国際空港

https://maps.app.goo.gl/5kzH5AVgooM7P45u9?g_st=ic

 

韓国:ソンム飛行場

https://maps.app.goo.gl/EXA68UQhMvSe3ERr7?g_st=ic

 

ロケ地:

韓国:仁川

 


■簡単なあらすじ

 

仁川空港でフライトを控えていた副操縦士のヒョンスは、見覚えのある人物に驚き、男が自分の機に乗ることに懸念を示していた

男はパク・ジェヒョクと言い、アトピーで悩む娘のためにアメリカに行こうと計画していたが、空港のレストルームで妙な男と遭遇する

男は執拗にジェヒョクと娘スミンに絡み、元々どの機でも良かったその男は後追いで、ジェヒョクたちの便に乗り込んだ

 

離陸後、機体が自動操縦モードになった頃、男はおもむろにトイレへと向かう

そこで脇の下に埋め込んでいたカプセルを取り出して、それを喘息の吸入器に装着する

程なくして、口元をハンカチで抑えながら、その謎の物質をトイレ内に撒き散らした男は、何食わぬ顔をして機内に戻った

トイレの前にはスミンがいて、トイレに入ろうとしたが、そこにメガネをかけた男が割り込んでしまう

その様子を見ていた男はスミンの耳元で何かを囁いた

 

一方その頃、地上ではネット上に拡散された「予告動画」によって、刑事のク・イノは発信者の家を訪れていた

ドアは開きっぱなしで、部屋からは異臭の匂いが立ち込めてくる

そして、イノはそこで袋詰めにされた血まみれの死体を発見してしまう

 

また、その部屋から大量の実験を記録したテープが見つかり、それは「ある物質がマウスを殺す実験」で、最近のテープは古いものよりも「発症が短縮していた」ことに気づく

事の重大性を鑑みて、クノは仁川空港の管制室に突撃する

空港はすぐさま管轄の国土交通省に一報を入れ、それを受けて国土交通省のキム・スッキ大臣が現場に姿を現した

 

テーマ:利他精神に至るまで

裏テーマ:拡大殺人のジレンマ

 


■ひとこと感想

 

飛行機内でウイルスが撒かれると言う閉鎖空間パニック・スリラーと言うド直球であるものの、コロナパンデミックによって、フィクションがリアルに寄ってくると言う奇妙な現象が起きつつあります

そんなコロナ禍で紡がれた物語は、横浜のクルーズ船を思わせるもので、唯一の違いは「飛行機内に誰も入れない」と言うところでしょう

 

対策チームはレーダーと衛星画像を頼りに動きますが、中の様子はわからず、通信手段が限定されていました

機内のウイルスを調べることもできないので、犯人と思わしき人物の周辺を探るしかありません

時間との勝負の割にはサクサクと証拠らしきものは見つかりますが、全ては「机上の空論」と「憶測」によるもので、各国もその情報では動けないと言う事態になっていました

 

もし本当に飛行機内でバイオテロが起きたら、と言う想定の映画ではありますが、その大まかな動きに関してはリアルっぽさと言うものがあります

もっとも、コロナ禍を経験した今でならと言う限定をすれば、ツッコミどころは満載のように思えてしまいますね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

謎のウイルス拡散関連のネタだと、「謎の会社で培養されていたウイルス兵器」と言うのがパターン化していて、本作もその王道パターンを地で行くような流れになっています

その動機も逆恨みとソシオパスを組み合わせると言うテンプレなので、展開とか設定には新しさはありません

それでもこの映画がヒットするのは、「コロナ禍を経験したから」と言う、これまでの映画の中の世界がグッと近づいてきた印象があるからだと思います

 

また、実際にコロナ禍を過ごしたことで、ウイルスが蔓延する世界ではどのような動きが起こるのかと言うヒントがそこらじゅうに落ちていて、それを拾ってうまくまとめ上げたように思えます

ガッツリとエンタメ路線に傾いていますが、リアルとファンタジーの境目を旋回飛行しているように思え、鑑賞中の緊張感だけは本物のように思えてしまいます

 

きっと日本では、自衛隊の扱いについて文句を言う人がいるのでしょうが、リアルはもっと残酷で、「答えを出さないままアメリカに追従する」と言うことになるのでしょうね

自衛隊機が威嚇のために民間機に発砲すると言うのはあり得ないと思うので、こう言う時は横須賀あたりから米軍機が出動するのかなと思ったりもしてしまいます

 

あるいは、今の日本なら何も考えずに成田に迎え入れて、その後はお察しと言う展開になるかもしれません

映画がそこに着地点を持ってこないのは、ひとえに「飛行機内と韓国国内のリンク」をまざまざと見せつけたいからだと思いました

 


実際にバイオテロが起こったら

 

「バイオテロ」とは、「ヒトに害を及ぼす病原体(ウイルス、細菌、真菌など)及びその畜生する毒素などを用いて、無差別に大量のヒトを殺傷する行為」のことを言います

これらが国家レベルで使用される場合は「生物兵器」という呼び方をしたりもします

病原体などをどのような媒体に載せてヒトを殺傷するかは、病原体の特徴によってエアゾール(映画で使用されたパターン)、食品、水、昆虫などがあります

近年の大規模なバイオテロと言えば、「9.11」後に起きた「炭疽菌事件」で、フロリダ、ワシントン、ニューヨークなどで使用されたとされています

 

「バイオテロに使用される病原体の種類」は、天然痘、炭疽菌、フィロウイルス、アレナウイルス、リフトバレー熱などがあります

他にも、ペスト、チフスなどの「リッチケア疾患」が使用される場合もあります

「リッチケア疾患」とは、細菌よりも小さく、動物の細胞内で増殖し、無細胞の人口培地では発育できない、という特徴があります

基本的には「発疹性の熱性疾患」を引き起こします

 

バイオテロによる感染は「接触感染」「飛沫感染」「空気感染」のいずれかで起こり、天然痘は「接触&空気」、ウイルス性出血熱は「接触&飛沫&空気」という感染経路があります

映画のウイルスは「飛沫&接触」という感じで描かれていて、ウイルスをばら撒く際に「ハンカチで口を覆えばOK」みたいな感じに描かれていました

実際には「バイロテロ」は目に見えないものなので、周りでバタバタ人が倒れる、急に体調を崩す人が増えるなどのような可視化されないと対応するのは難しいでしょう

コロナ禍でも「新型コロナが蔓延していること」を知っているから、マスク、手指消毒などを行いますが、知らなければ何もできません

 

あえて個人レベルで対策可能だと思われるのは、「マスクの携帯」「ハンカチ、布などの携帯」などのアイテム系よりも、「周囲の状況に意識を向ける」ということの方が重要でしょう

今では「スマホを見ながら行動」とか、「イヤホンで外部音を遮断」などの生活習慣があるので、視覚が閉ざされているなら「聴覚&嗅覚」を解放しなければならないし、その逆なら「視覚」を解放しなくてはなりません

わかりやすいくらいのバイロテロだと、「悲鳴が聞こえる」とか「周囲で人が倒れている」などをいち早く認知して、その対策を行えば、もしかしたら「巻き込まれずに済む」かもしれません

実際には映画のようにバタバタ死んでいくというよりは、潜伏してある日突然発症するというパターンなのかなと思います

 


非常宣言の有効性について

 

スカイコリア511便は韓国・仁川からアメリカ合衆国ハワイ州ホノルルに向かう国際便でした

バイオテロが認知されたのは離陸後間も無くのことで、正確な距離はわかりませんが、太平洋上であると推測されます

そこから511便は航行を続け、ハワイ諸島に近づいた際に最初の非常宣言を告げることになります

ここで応対したのがホノルルの空港を経由した「アメリカ連邦航空局(Federal Aviation Administration、通称:FAA)」でした

 

航空機の非情宣言は「Mayday」もしくは「Emergency Declarition」の宣言により、「空港の有線着陸権」を得ることになります

FAAの場合だと、「FAA Order JO 7110.65」の発動により、それを受諾する流れになります

そこで、FAAの管理の元、航空機は空港への着陸態勢に入り、待機している航空機は着陸を譲るという流れを汲みます

FAAはアメリカ合衆国連邦政府の直轄ですが、バイオテロが起きた機体ということで着陸拒否の指示が出されました

この判断は、FAAの上部組織、いわゆる「アメリカ合衆国連邦政府」なので、単純に考えれば大統領命令ということになります

 

その後、機は引き返しを余儀なくされ、燃料問題が浮上したため、成田への緊急着陸を宣言します

ここで日本側も着陸拒否をしますが、日本の場合は国土交通省管轄の航空局が対応部署になりますね

FAAと同じように非常宣言を受理しますが、その上部組織である「内閣」がアメリカと同じ理由で拒否をすることになりました

おそらくは閣議決定とかでモタモタするイメージはありますが、現実的にはアメリカの圧力があって、当時の首相がそれに従ったというのが普通の感覚でしょうか

 

そして、燃料が尽きる寸前にも関わらず、511便は韓国を目指します

ここで起こる燃料問題へのツッコミは置いておいて、韓国内では国土交通省が非常宣言を受諾するはずでした

これに待ったをかけたのが、大統領府国家危機管理センターであり、その上部組織にあたる「韓国政府」ということになります

劇中ではキム・スッキ国土交通大臣が危機管理センター及び韓国政府へ進言し、国土交通省の責任として、ソンム飛行場に着陸することになりました

 

非常宣言は航空機の主権ではありますが、その上の組織には逆らえないと言う感じなのでしょうか

非常宣言の効力の範囲が「空港を管轄する管制塔=航空局」と言うところでの最上級という意味合いのように描かれていましたね

ちなみに、色々ググって見ましたが、バイロテロが起きたら非常宣言を拒否できるという具体的な法令などは見つかりませんでした(おそらくは着陸機が地上に甚大な影響を及ぼす可能性があると拒否できる、みたいな条項があったように思えます)

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、コロナ禍の最中に作られ、日本ではコロナ禍後期に公開されることになりました

それゆえにコロナ禍前に観るのとでは、リアリティの捉え方が違うと思います

これまでの映画だと、「なぜ、日本は着陸させないのか!」みたいな感じになっていて、韓国国内の半日の火種になっていたでしょうし、着陸させたらさせたで文句を言われていたと思います

でも、コロナ・パンデミックを迎えた今日では、ダイヤモンド・プリンセス号がどこへも行けなかったのと同じように、あの無慈悲な現実がエンタメ内でも説得力を持たせるという結果になっていました

 

映画では、アメリカ拒否、日本拒否という流れになっていて、おそらく韓国国内の「半日に配慮するようなミスリード」を使っていたと思います

そうして感情の後に「韓国も拒否をする」という展開になってしまい、そう言った声も静かになったのかなと思います

この構成にしたのは、いかにしてスカイコリア511が危険なのかということを訴えたかったのでしょう

リアルではあり得ない自衛隊の威嚇射撃(ほとんど当てに行ってるように見えるけど)の後に「日本が威嚇射撃をするほど危険なのか(俺たち)」みたいなシーンに繋がっていました

 

結局は治療薬が効いたためにハッピーエンドみたいなことになっていますが、そこでもクノが廃人寸前であることを描いているところに一貫性がありました

この映画では、「バイオテロ」をより身近なものに感じるにはどうすれば良いかという警鐘があって、国際条約があっても助け合えないという現実を突きつけています

敵が多国籍企業となっているところも秀逸で、現在ではグローバル企業が自国の法から逃れるために、多国籍企業という微妙な立場を選んでいたりします

タックスヘイブンの少ない国に本社の席だけを移して、本来払うべき税金は一才払わないという企業もたくさんあります

 

国家よりも企業の力が強くなる時代において、これまで自分の身を守ってくれるはずだった国は無力化しているし、映画のように「個人が犠牲にならないと動かない」という事態に発展していきます

誰もが家族を愛していてもクノと同じことをできないように、この映画から虚構的な部分を除けば、スカイコリア511は太平洋のどこかに燃料が切れて墜落していたでしょう

映画では、クノの献身が身を結ぶ形になりましたが、リアリティラインだと「個体差があるから誰にでも効くかわからない」とか、「治療薬によって変異するかもしれない」みたいな声が出ると思います

ノイズになるだけなので登場しませんが、それらの外野の声も含めて、「自国民を助ける判断を下した大臣が辞めなければならない」という土壌があるのは、ひとえに国民の無知なる声の影響力が強まっているからだと思います

あの状況が本当に起きた時、「多くを守るための犠牲に賛同できるのか?」というところはしっかりと考えないとダメなんだと思います

賛同するということは、自分の愛する家族がその中にいても、同じことを言うということです

自分や自分の家族だとダメで、他人なら良いという考え方をしても、それは無差別テロ犯の思想とさほど変わりません

そして、そう言った声を集めるために扇動する人がいるのも事実です

 

映画では、数時間前に起こった出来事なのに、北京の飛行場などでは反対デモが集団化しています

用意が周到すぎてギャグのように思えますが、意外なほどに「用意された感情の発露」というものはあったりします

なので、そう言った声が人情的になればなるほどに活動的になる集団があるのですね

この暴力的な分断がスカイコリア511内でも起こっている、というところに、本作のテーマがあるのではないでしょうか

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385127/review/779e5d85-71ed-4bdb-b582-4b426979ddd0/

 

公式HP:

https://klockworx-asia.com/hijyosengen/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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