■悪魔たちは申し合わせる、現世で結ばれぬ恋のために
Contents
■オススメ度
ゴシック・ホラーが好きな人(★★★)
エストニア映画に興味がある人(★★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.4(アップリンク京都)
■映画情報
原題:Rehepapp、英題:November
情報:2017年、ポーランド&オランダ&エストニア、115分、
ジャンル:
監督&脚本:ライナル・サルネット
原作:Andrus Kivirähk(『Rehepapp ehk November(2000年)』
キャスト:
レア・レスト/Rea Lest(リーナ:ハンスに恋をする村の若い女性)
ヨルゲン・リーク/Jörgen Liik(ハンス:リーナの想い人)
アルボ・クマクギ/Arvo Kukumägi(レイン:リーナの父)
Mari Abel(リーナの母、幽体)
Meelis Rämmeld(ラーク:レインの召使い)
Sepa Tom(エンデル:リーナと結婚したい大男)
Heino Kalm(サンダー:ハンスの父)
Aire Koop(ハンスの母、幽体)
ディーター・ラーザー/Dieter Laser(ドイツから来た男爵)
イェッテ・ローナ・エルマニス/Jette Loona Hermanis(ドイツ男爵の娘、ハンスの想い人)
(老齢期:Aksella Limets)
Katariina Unt(ルイーズ:領館のメイド)
Taavi Eelmaa(インツ:領館の召使い)
Jaan Tooming(ハンスが契約を交わす悪魔)
Klara Eighorn(ミンナ:リーナを手助けする魔女)
Ene Pappel(インビ:村の老夫婦)
Ernst Lillemets(エルニ:村の老夫婦)
Heino Paljak(牧師)
Tiina Keenman(ロザリー:年老いた教会のメイド)
Jonathan Peterson(ベネチアの運河を船で行く貴族)
Linda Kolde(ベネチアの貴族の婚約者、指輪の持ち主)
Linnar Primagi(クラットの声、雪だるま)
Margus Prangel(クラットの声、三本足)
■映画の舞台
19世紀
エストニア:ある寒村
11月1日「諸聖人の日(万霊節)」
ロケ地:
エストニア:
Saare/サーレ
https://maps.app.goo.gl/NC4ARjC4Y7RYfZG18?g_st=ic
Valga/バルガ
https://maps.app.goo.gl/JmXZCJLVEa3wdjuK8?g_st=ic
Tallinn/タリン
■簡単なあらすじ
19世紀のエストニア南部の山村では、寂れた領館の周りに数十人の村人たちが困窮に喘いでいた
そこではクラットと呼ばれる悪魔の使役を使って盗みを働く者もいて、往々にして悪魔を騙そうとする輩もいた
村に住む若い娘リーナは、父の友人サンダーの息子・ハンスに恋焦がれていたが、想いを打ち明けられずにいた
ある日、教会にてミサがあった日、村にドイツの男爵が訪れた
男爵は領館に泊まり、その世話をメイドのルイーズとインスが行っていたが、彼らは男爵らの私物を盗む癖があった
教会で男爵とその娘に会ったハンスは、一目で彼女に心を奪われる
そして、インスの力を借りて、彼女の寝室に忍び込む
だが、彼女は夢遊病を患っていて、深夜に領館の屋上に上がってしまう
男爵は娘を落下から防ぐものの、ハンスは身動きひとつ取れなかったのである
テーマ:純愛と醜愛
裏テーマ:死者に成ることで叶う恋
■ひとこと感想
映画のタイトルが「NOVEMBER」だったので、「11月とはなんぞや」と思っていましたが、いわゆる「死者の日」のことだったのですね
冒頭から「3本足の何か」が牛を盗んでヘリコプターのように飛んだりとぶっ飛んでいて、何が始まったのかと思いました
物語は村に住むリーナとハンスの恋物語で、わかりやすい三角関係を描いています
一風変わっているのが、リーナもハンスもクラットと呼ばれる悪魔の使役を利用して恋を叶えようとするところでしょうか
この風習がホラーのようなそうでないような微妙なテイストになっていたのは笑ってしまいました
テーマは「使役の代償」と言うことで、自分の力で叶えられない恋に価値はあるのか、みたいなことが描かれていましたね
また、「死者の日」と言う特別な日によって、ラストの意外な行動の意味がわかるようになっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
モノクロームのゴシックホラーと言うジャンルで、内容は汚くてエグいのですが、なぜか美しく見えると言う感じになっています
登場人物の人間関係がほとんど説明されないので意味が分かりませんが、どうやら「かつて栄えていた村」のようで、今では滅びゆくのを待つだけと言う感じに見えていました
そんな中で、若い美男美女のすれ違いが描かれているのですが、とにかくハンスの笑顔が怖すぎて直視できません
男爵の娘を見る目は狂っているようにしか見えず、なのに肝心な時には何もできないと言うチキンっぷりが際立っていました
映画の前半で「死者の日」が登場し、そこで「亡き母」と再会したりするのですが、この「死者の日」と言うのが最後のリーナの選択に繋がっていました
悪魔との契約によって殺されたハンスを追ってリーナが入水自殺をするのですが、この伏線として「ベネチアのカナル」が出てくるのは印象的だったと思います
■11月1日に何が行われるのか
11月1日と言えば「死者の日」が有名で、11月1日と2日に行われるメキシコの伝統文化のことですね
メキシコでは2500年〜3000年前にはあったとされていて、祖先の骸骨を飾る習慣がありました
アステカ族には冥府の女神ミクトランシワトルに捧げる祝祭があったり、メキシコ居住者の多いアメリカ(テキサス州、ニューメキシコ州、アリゾナ州)でも同じようなお祝いがあります
ヨーロッパでは、イタリアは11月2日を「諸魂の日」として認知され、アジアやオセアニアの国でも同じような儀式が行われます
映画で行われる儀式は「万霊節(諸聖人の日)」というもので、「死者の日」と同じ「11月1日」に行われるカトリック教会の祝日の一つです
映画が描かれている19世紀のエストニアはドイツからロシアへと統治が移動する時期で、非ドイツ化のために「ロシア正教への改宗運動」が行われていました
これに伴って、カトリックの祝日を執り行っていて、それが映画の前半で描かれる儀式になっています
映画では、リーナとハンスの母親が現れ、そこで生前の思い出などを語り合っていましたね
幻想的なシーンではありましたが、初見では意味が分からず、パンフを買ってようやく意味がなんとなくわかるという感じになっていました
この万霊節が後半に重要な役割を果たすのことになります
ハンスが悪魔との契約によって殺され、それを知ったリーナは入水自殺をして、死者としてハンスの元に旅立ちます
映画のラストでは、リーナの死体を見つけた村人が描かれ、コインなどを盗みますが、彼女のネックレスだけは手につけない様子が描かれていました
■エストニアのクラットとは何か
「クラット(Kratt)」とは、エストニアの古い神話に登場する魔法の生き物で、宝を持っている存在のことを言います
クラットは干し草や古い家庭用品から作られた生き物で、クラットの主人はクラットに命を吹き込むために「3滴の血を悪魔に与えなければならない」とされています
クラットは主人の命令を忠実に実行し、主人のために「色んなものを盗んでくる」ために使われていました
クラットの役目を終えるためには、主人は不可能なことをさせることになります
例えば、パンからハシゴを作らせるなどの不可能の作業をさせ、それによってクラットは混乱して、発火して粉々になると言われています
ちなみに現代のエストニアでは、クラットは人工知能と機能が類似しているために、その複雑さの暗喩として、「アルゴリズムの責任の法則=クラットの法則」などという形で使われているようです
「アルゴリズムの責任の法則」とは、人工知能のアルゴリズムによって、意図しない行動を起こした場合にその責任は誰が取るのか、ということですね
映画で例えると、クラットに何かをさせた時に「それが他者に対して有害だと主人の責任になります」が、クラットが自由意志を持った場合、その責任が主人にあるのかどうか、ということになります
クラットにAIが搭載されたとして、そこである命令に対して、予期せぬ行動を起こして、それが人に迷惑をかけた場合などのことで、AIの中にあるアルゴリズムの動きに対する責任の所在という感じの意味になると言えます
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画は意味のわからない展開を迎えているように思えますが、描かれている内容はとてもシンプルなものでした
レビューなどで意味が分からないという声が多くて驚きましたが、それはクラットとか万霊節などの物語を彩る要素に対する見識のなさが原因であると思います(日本の一般常識ではないので知っている方が不思議ですね)
物語は、村に住むリーナとハンス、ドイツ男爵の娘を加えた「三角関係」を描いていて、そこで悪魔と契約して望みを叶えようとするリーナとハンスの「交わらない想いの顛末」について展開していきます
いきなりクラットが出てきて、説明のないままに牛を盗んで、ある農家に飛んでいくのですが、このシーンはコミカルに思えて、とても重要な意味がありました
冒頭のクラットは「持ち主の許可なく奪う」という行為があって、それは「相手の気持ちを汲まずに自分の欲望を優先させる」という意味につながります
また、そこで「自分で行動する」のではなく、「使役の力を使う」という卑劣さがあって、しかも「悪魔を欺こうとするハンス」が描かれていました
ハンスの思惑は悪魔にバレてしまい、それによって命を落としますが、リーナは悪魔と契約せずに相談するのですね
そしてリーナは「男爵の娘を殺すしかない」と言われて、実際に自分で殺そうと思うのですが、「男爵の娘を殺すことでハンスが悲しむ」と考え、それをやめてしまいました
悪魔はリーナの心を汲んで、彼女にドレスとベールを与えます
このシーンはとても悲しくて、要はリーナだと認識せず、男爵の娘だと思い込んでいるハンスの愛を受け取ることになります
リーナは男爵の娘のふりをしてまでも、ハンスから発せられる愛の言葉を受けたかったのですが、それ自体に意味がないこと、より自分を苦しめることを知り、彼の元を去ることになりました
その後、ハンスは女性を追いかけるのですが、男爵の娘だと勘違いしたまま追ったのか、リーナだと気づいたのかはわかりません
でも、悪魔がハンスを殺したということは、おそらくはリーナであることに気づかなかったのだと解釈しています
と言うのも、これがいわゆる「クラットの法則」というもので、リーナと契約している悪魔の仕業のようにも思えるのですね
ハンスのクラットは雪だるまで、それが溶けてなくなると同時に彼は魂を奪われるのですが、映画の描写だと「首を捻って殺す」というものになっていました
悪魔はそれぞれの主人と使役を通じて契約をしているのだと思うのですが、悪魔同士のコミュニティというものがあってもおかしくないと考えます
それを考えると、ハンスが契約した悪魔とリーナに力を貸した悪魔の利害は一致するとも思えます
ハンスの悪魔は彼を殺す必要があり、リーナに力を貸した悪魔は「彼独自の判断」でリーナの願いを叶えます
おそらくは、ハンスを失ったことで、リーナが心中を図ることをわかっていたのではないでしょうか
悪魔の判断とは、二人は死者の世界でしか一緒になれないというもので、その利害はリーナの目の前でハンスを殺すという行動に移ります
それによって、リーナの悲しみというものが最高潮に達し、彼女から現世で生きる意味を奪うことになったのだと思います
そして、リーナは悪魔の思惑の通りに自殺を図り、そして来年の万霊節に再会することができるのかな、と思いました
ハッピーエンドのような解釈もできなくはありませんが、現世で結ばれない恋は、一般的に「悲恋」と表現されますね
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/383922/review/36ca3bfb-ef15-4a2d-af79-f6b68dbc3ceb/
公式HP: