■物理的距離が遠退くほど、心理的距離が近づく不思議もある


■オススメ度

 

終わらない友情の物語が好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2022.1.3(京都シネマ)


■映画情報

 

原題:Gil anni piu belli(最も美しい年)、英題:The Best Years

情報:2020年、イタリア、135分、PG12

ジャンル:腐れ縁の4人組がそれぞれの人生の果てに再会を果たすヒューマンドラマ

 

監督:ガブリエレ・ムッチーノ

脚本:ガブリエレ・ムッチーノ&パオロ・コスッテラ

 

キャスト:

ピエルフランチェスコ・ファビーノ/Pierfrancesco Favino(ジュリオ・レストゥッチャ:弁護士を目指す青年)

 (10代:フランシスコ・チェントラーメ/Francesco Centorame

Fabrizio Nardi(ジュリオの父、整備工)

Elisa Visari(スヴェーヴァ:ジュリオとマルゲリータの娘)

ニコレッタ・ロマノフ/Nicoletta Romanoff(マルゲリータ・アンジェルッテ:ジュリオの妻になる女性)

Francesco Acquaroli(セルジオ・アンジェルッテ:マルゲリータの父、ジュリオが無罪を勝ち取る政治家)

Mariano Rigillo(ノビリ:ジュリオが所属する法律事務所の弁護士)

 

ミカエラ・ラマゾッティ/Micaela Ramazzotti(ジェンマ:パオロと恋仲になる美少女、母の死によってナポリに行かされる)

 (16歳時:アルマ・ノース/Alma Noce

Titi Nuzzolese(イヴァナ:ジェンマの伯母)

Ilan Muccino(レオナルド:ジェンマの息子)

Gennaro Apicella(ヌンツォオ:ナポリ時代のジェンマの彼氏)

Andrea Pacelli(10代の頃のジェンマの彼氏)

 

クラウディオ・サンタマリア/Claudio Santamaria(リッカルド・モロッツィ/イキノビ:暴動で死にかける青年、小説家志望の若者)

 (10代:Matteo De Buono

Emma Marrone(アンナ:リッカルドの妻、女優を断念して主婦になる女性)

Matteo Zanotti(アルトゥーロ・モロッツィ:リッカルドとアンナの息子)

Antonella Valitutti(ルシアナ:アンナの母)

Federica Flavoni(ルシア:リッカルドの母)

 

キム・ロッシ・スチュアート/Kim Rossi Stuart(パオロ・インフロナート:ジェンマと恋仲になる青年、教師志望)

 (10代:Andrea Pittorino

Paola Sotgiu(パオロの母)

 


■映画の舞台

 

1982年〜2018年

イタリア:ローマ

 

イタリア:エミリア・ロマーニャ州

ピアチェンツァ

https://maps.app.goo.gl/hHvevB9yGfNEMrhM6?g_st=ic

 

ロケ地:

イタリア:チネチッタ

https://maps.app.goo.gl/PS1vxbz92qYjiorD9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

1982年、ローマに住んでいたジュリオ、リッカルド、パオロは、デモ騒動に巻き込まれてしまう

鎮圧部隊の射撃を受けたリッカルドは瀕死の重傷を負うものの、ジュリオとパオロの迅速な行動によって一命を取り留めていた

 

その騒動がきっかけで仲良くなった3人はともに行動する機会を増やしていく

そんな折、パオロは街角で出会ったジェンマに恋心を抱く

2人はうまく行くかと思われたものの、ジェンマの母の死によって、彼女は伯母の住むナポリへと行ってしまった

 

それから数年後、ジェンマと再会を果たしたパオロだったが、その隣には彼氏がいて結婚間近だと言う

失意のパオロは彼女の元を去り、そして教職に就くために臨時教員を目指すことになった

 

そんな折、リッカルドは女優志望のアンナと結婚し、ジュリオは弁護士として政治家アンジェルッテの無罪を勝ち取ったことで、その娘のマルゲリータと恋仲になっていくのである

 

テーマ:巡る友情と愛情

裏テーマ:変わりゆくものと変わらないもの

 


■ひとこと感想

 

学生時代に知り合った4人がつかず離れずを繰り返しながら交わっていく青春映画で、その後、彼らの人生の紆余曲折を描いていきました

パオロとジェンマの恋物語から始まって、ジェンマの母の死によって引き裂かれた2人の数奇な運命が描かれていますね

 

一貫してパオロはジェンマオンリーで、ジェンマはジュリオを含む色んな男性と関係を持っていきます

この恋愛観がイタリアっぽさでもあるのだと思いますが、淡白なセックスシーンがたくさん登場して、そのあたりはコミカルに描かれていましたね

 

変わらない友情がメインテーマで、それぞれの付き合いを大事にしながらも、最終的に「誰と一緒にいたいのか」と言うところに行き着くのは素敵だったなあと思います

 

ともかく登場人物がすこぶる多いのですが、そこまで混乱することはなかったですねえ

パンフレットには主要人物の相関図があるし、舞台の説明もあるので、迷っているなら「買い」でOKだと思います

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

テーマとしてはそれほど深くなく、誰と過ごせば人生は楽しいか、と言うような感じになると思います

パオロとジェンマの熱烈な恋愛に端を発した関係性、暴動に巻き込まれた中で芽生えた友情など、若年期の激情というものは、その後の人生に大きな意味をもたらします

 

映画は、この4人の半生を追っていくもので、同時にイタリア(と世界)の40年を紐解いていく流れになります

ベルリンの壁の崩壊から9.11まで、イタリア国外で起きたことにも言及し、彼らの生きた時代が、私たちと同じであることを示しています

 

イタリアの恋愛観はよくわからないところがありますが、告白至上主義の日本とは違うので面食らう場面も多かったですね

パオロとジェンマの初セックスに至っては「合体から秒で満足みたいな感じ」になっていて、それでいいんかいと思ってしまいました

 


付き合いが長くなる理由

 

映画では約40年もの間、親友関係を続けることになっていて、こういった関係性がどうして継続できるのかは不思議に思えます

個人的な話でも、40年続いている友人関係もないですし、コミュニティごとに交友関係がリセットされる傾向の方が強いのですね

なので、あれだけ衝突があったり、それぞれが独自のコミュニティに属していると、その継続というものは不思議に思えてきます

 

映画では政治的な暴動に巻き込まれた同じ高校の学生が絆を深めるという内容で、当初は面識がない中で第三者から「友達なんだね」という感じに言われていました

大怪我(警官に撃たれてた)を負ったリッカルドが「イキノビ」というニックネームで呼ばれるようになり、生死を潜り抜けた「強敵(と書いて「とも」と呼ぶ)」みたいな感じになっていました

このようなセンセーショナルな体験がベースにあると、結びつきは強まりやすいと思うのですが、それでも40年というのは思った以上に長いかなと思います

 

そんなコミュニティに入ることになったジェンマの存在は、当初はパオロとの相思相愛になっていたのが良かったのでしょう

リッカルドもジュリオも「パオロの彼女」という認識で見ていたので、いわゆる「恋愛対象としては見ていなかった」というのが功を奏したのだと思います

 

そんな彼らが別々の人生を歩み、そこでそれぞれがパートナーを見つけるのですが、一貫してパオロだけは誰とも恋仲にならないのですね(未遂みたいなのはありましたが)

それに対して、ジェンマはナポリで恋人を作ったりするし、夫婦関係が破綻したジュリオと関係を持ったりしていました

それでも、パオロは「生涯の愛」として、ジェンマを愛することをやめないし、ジュリオとも和解をしてしまいます

 

これらの関係性の歴史を紐解くと、パオロの中で優先されるのは「自分の信念」であり、ジェンマを愛する自分を愛しているということになります

なので、それが揺らがない限り、ジェンマのことも清濁合わせて呑み込むし、ジュリオのことも許せてしまうのではないでしょうか

ジェンマ自身もパオロの代わりを誰かにさせていますが、何度裏切ってもパオロの代わりになれる人がいないということを悟り、そして復縁するに至っています

 


激情は赦しの美学

 

パオロがなぜジェンマを許せるのかはわからないところが多いのですが、感覚的にはジェンマを愛しているというよりは、ジェンマを愛している自分を愛しているのかなと感じました

ジェンマがジュリオと関係を持った時も、パオロはジェンマではなく、ジュリオの方を攻撃します

ナポリの一件でもジェンマに対して怒るということもなく、ジェンマの行動の全てを赦しているようにすら感じます

 

パオロがジェンマを赦せる理由ははっきりとはわかりませんが、二人の出会いの瞬間が鮮烈すぎて、その印象を強く持っていたようにも思えます

また、二人の恋愛には幾度となく障壁があって、それ自体が「想い」を強固にしていったのでしょう

恋愛は障壁があればあるほど燃え上がり、二人の間に現れた障壁は色んな角度と質を持っていました

「物理的な距離」「時間と距離が生んだ裏切り」「ジュリオの弱さを受け入れるジェンマ」など、それらは鮮烈すぎた絶頂期を強固な思い出にしているように見えます

また、心のどこかで、ジェンマはいずれ自分の元に帰ってくるだろうという根拠のない確信を持っているのかなと思えました

 

映画は40年の時間を描いていて、冒頭の暴動に始まって、ベルリンの壁の崩壊、「9.11」を目の当たりにする4人を描きます

これらの歴史的な事件の背景には必ず犠牲者がいて、冒頭のリッカルドはその犠牲者になりかけた人物でもあります

その時、その場所に居ただけで犠牲者になる可能性があり、それは同時に「今の大切さ」を映し出していきます

そんな中で、「今ではなく恒久的な想いを持続させる」というパオロは異質に見え、その信念と根拠なき自信というのは特筆すべき事柄かもしれません

時代が移り変わって、相手の心が変わって、友人たちの価値観が変わっても、パオロの中にあるジェンマへの想いだけは変わらない

幾度となく押し寄せる障壁が、超えられる壁として、パオロのジェンマへの想いを強化させたのかもしれません

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作の登場人物は監督の人生や価値観が反映されていて、それぞれのキャラクターが監督の要素として人格化している印象があります

愛情や恋愛観はパオロ、思想信条や行動理念はリッカルド、向上心や行動力はジュリオに分けられているかのように思えます

人は個人の中にいくつもの自分がありますが、ある瞬間に対応するのは、その中の一人(一要素)なのですね

 

また、それぞれのキャラは成長の過程にも思え、パオロは幼少期から青春期、リッカルドは成人期初期、ジュリオは成人期後期という印象があります

そして、最終的に幼少期に戻ると言った感じになっていて、この6つに分かれるマトリックスのようになっています

青春期で優先される情熱や愛情から行動は即物的な様相を呈しますし、成人期初期では理想論が先立って行動が止まります

そして、成人期後期になると、精神的な成熟が起こり、ある種の達観へと向かいます

でも、達観に向かう前に様々な経験が必要で、その段階で「恋愛観を試す障壁=ジュリオ」が訪れるという流れになっていました

 

ジュリオをクリアするということは、友情と恋愛の究極の受容であり、それによってパオロは自分自身の揺らがないものに対する確信を持ったのでしょう

なので、紆余曲折を経てジェンマが戻ってくることは、パオロ自身を神様が肯定しているようにも思えます

 

映画の原題は「すばらしき時代」というようなニュアンスがあって、それが「40年にもわたる人生」というところに感慨深さを感じます

生きてきた時間の全てを肯定できるのは特殊なことのように思えますが、実際に長く生きていると、否定したくなる時間ですら意味があったことのように思えるか不思議です

映画でも、ジェンマの数々の裏切りとジュリオの裏切りがあったからこそ、パオロは自分の信念を肯定できるようになるし、ジェンマも自分自身を満たしてくれる相手へと辿り着きます

そう言った意味においては、本作は人生讃歌の映画であり、どのような道を歩んだとしても、落ち着くところに落ち着くのかなと思えてきますね

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/385474/review/a2218b92-d76e-43e2-8c7e-abdc74df6486/

 

公式HP:

https://gaga.ne.jp/thebestyears/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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