■炎上の初期消火活動も大事だけど、燃えやすいかどうかを客観視することも大事だと思う


■オススメ度

 

ルッキズムなどの生きづらさを描いた作品に興味がある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.8.17(シネリーブル梅田)


■映画情報

 

情報:2022年、日本、42分、G

ジャンル:世間に疑問を投げかける二人組が噂の「炎上する男」を探し出すコメディ映画

 

監督&脚本:ふくだももこ

原作:西加奈子『炎上する君(2012年、KADOKAWA)』

 

キャスト:

うらじぬの(梨田:炎上する世間に興味を持つ女子)

ファーストサマーウイカ(浜中:梨田の親友)

 

齊藤広大(炎上する男)

 

中井友望(トモ:バンドのボーカリスト)

大下ヒロト(加計:偏見の強いトモのバンドメンバー)

中山求一郎(フリ:トモのバンドメンバー)

當山美智子(める:トモのバンドメンバー)

 

南久松真奈(墨:銭湯の常連客)

 

大中喜裕(ゾゾ:写真ブローカー、料理店の客)

千綿勇平(マク:料理店の客)

桜井鉄也(スタジアム:料理店の客)

(ハリ:料理店の客)

定森安南(メッセ:料理店の客)

山本彩実(海:料理店の客)

 

国海伸彦(ドアのぶ太郎:ピン芸人)

影山徹(トリケラ恐竜・佐々木:芸人)

宗綱弟(トリケラ恐竜・だい:芸人)

あやかんぬ(月野うさこ:ピン芸人)

清水てっぺい(タピオカ平安京・てっぺい:芸人)

山田果歩(タピオカ平安京・山田:芸人)

 

林周雅(バイオリニストSHUGA:路上パフォーマー)

服部大成(テッシュ配り)

坂口彩夏(居酒屋店員)

岡田優(炎上しているズボンを履く男)

 

財田ありさ(?)

野田佳代(?)

湊さやか(?)

 


■映画の舞台

 

東京都:杉並区

高円寺

銭湯「なみのゆ」

https://maps.app.goo.gl/AiF5kuRpD4t7uuFh9?g_st=ic

 

ロケ地:

東京都:杉並区

韓国料理店 母の味 オムニマツ

https://maps.app.goo.gl/Xv5mZYyjtVvU8h667?g_st=ic

 

東京都:中野区

八幡神社

https://maps.app.goo.gl/UwLZjUzL7sxwKbLm8?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

世間で炎上していることに興味を持つ梨田と浜中は、行きつけの銭湯「なみのゆ」で雑多な話で盛り上がっていた

常連の墨さんが軽やかな感想を言っては、2人は世間の炎上案件に耳を傾けていた

 

ある日、お笑いライブには「恋人がいないこと」をステージでいじられた芸人・佐々木を見て、梨田は妙な気持ちになってしまった

胸につっかえていたものの正体がわからないまま、商店街を彷徨いていると、路上パフォーマーの音楽に体が動いてしまう

コンテンポラリーとも言えないダンスを披露した二人

佐々木は二人を見て、少しばかり心が軽くなった気がしていた

 

その後、二人は脇毛を露出したダンスを披露し、それなりの固定客がついてきたものの、ある夜の居酒屋にて、再び心許ない会話に遭遇する

居た堪れなくなったバンドボーカルのトモは店を飛び出し、梨田は追いかけるように外に出て、「君は全然悪くない」と叫んだ

 

テーマ:悪気を隠匿する感情

裏テーマ:常識という名の非常識

 


■ひとこと感想

 

わずか42分の短編で通常料金というものも驚きですが、きちんとパンフも作られているし、限定グッズもあるし、と気合の入った作品になっていました

元々短編小説が原作なので、このボリュームになるのは致し方ない感じではありますが、いっそのことオムニバスにして3作品ほどを公開しても良かったかもしれません

 

物語は、世間の炎上案件に物申す系ではありますが、梨田と浜中が救えるのは、彼女たちが認知できた狭い世界だけだったりします

でも、実際にはこの等身大で問題に首を突っ込むということはとても難しくて、感応力というものが問われていくのだと感じます

 

映画は、ショートフィルムなので割高く思えますが、無理に引き伸ばした時間稼ぎの心象風景映像が流れるよりはマシだったと思います

個人的にはファーストサマーウイカさんの演技が気になって鑑賞しましたが、うらじぬのさんも含めて、「ああ、これブレイクする奴やん(すでにという声もあるけれど)」という印象を持ちました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

この尺でネタバレがあるのかはわかりませんが、個性的なキャラが登場し、炎上とは何かというものを描いていきます

世間で起こった問題が瞬間的に問題視されることを炎上と言いますが、ある種の鬱憤晴らしの場でしかなく、ガソリン投下がなければ意外と早く消火されてしまうものだったりします

 

社会問題をセリフの端々に挿入しているので、あるある系になっていますが、それらを解決する力は彼女たちにはありません

でも、身近なところで同じ問題が起こった時、それを見過ごせないのが梨田という人物だったといえます

 

彼女は、会話の端々に滲み出る悪意というものに敏感で、予防線を張りながら踏み込む常識人を忌み嫌っています

演出上、かなりの悪人のように描かれていますが、当事者からすれば「社会のしがらみがなければ」殴り倒してしまう案件だったように思えます

 

人の感情をわかった気になって、自説の優位性を説くのが炎上の正体ではありますが、これ以上の無責任というのは現代ではほとんど無いように思えてきますね

 


炎上が起こる理由

 

炎上とは、ウェブ上の特定の対象に対する批判の殺到を意味し、いわゆる個人攻撃、誹謗中傷、バッシングなどが収まらない状況のことを言います

ヤフーのコメ欄が炎上とか、Twitter発言で芸能人が炎上とか、とあるニュースの被害者&加害者に対する炎上など、様々なものがあります

炎上に関しては、その批判(と思っている発言)を正義であると捉えていて、匿名性が拍車を掛けて強い言葉が連発する状態になっています

実際には匿名でもなんでもなくて、IPアドレスであっさりとバレるし、不用意な発言を「待ってました」とばかりに煽って賠償問題に発展させる人もいたりします

 

個人的には炎上に巻き込まれたことも、炎上に参加したこともないのですが、メッセージは受け手が決めるという原則があるので、なるべく注意するようにはしています

でも、受け手側の状態を把握することができないし、解釈がどのように行われるかはわからないので、全てにおいて対処することは不可能だと思います

炎上の多くは、それまでに持っていたイメージと乖離する事件や発言などがあったときに暴徒化する傾向があって、芸能人の炎上がこのカテゴリーに属します

政治家などへの炎上案件は少し違っていて、良くならない生活という状況がベースにあって、反映されない政治活動などに批判の矢が集まるという状況を生み出しています

 

芸能人の場合は「イメージが商材」なので、その売り方と乖離すればするほどに炎上しがちだし、その後の対応によっては延焼を起こしているケースが散見されます

政治家の場合は、マスコミの煽り方などもありますが、実際に経済の低迷を放置しているという現実があるので、自分よりも高給な人間が立場を利用した悪事などを起こしたり、責任を取らない(あるいは軽微である)という場合に炎上していますね

炎上によって、マスコミが「ネットの声」として取り上げることがあり、それによって行動を改めるという人もいたりするので、炎上に正義感が付随している状況というものが続いています

 

ネット以前にも炎上らしきものはありましたが、SNSが普及した今では、それが気軽に行われるという背景が存在します

肯定的な意見が多いと「バズる」と言い、批判的な意見が多いと「炎上」というのですが、それは心理拡散と共感渇望というものが根底にあると思われます

良いものをシェアしたい、自分の意見の共感の求めたいなどがあると思いますが、稀に「わざと炎上させて話題性を作る」というマーケティングに遭遇することがあります

これを「非実在型炎上」と呼んだりもします

 

炎上の歴史として有力なのは、野球の試合で投手が打たれまくる状況を「炎上」と呼んでいたもので、2ちゃんねるの野球板で用いられたものとされています

その後、ブログブームが到来し、ブログが炎上するという事例が頻発するようになります

SNSの普及が起こると、拡散(シェア)機能によって拡がりを見せ、記事のタイトルだけで反射シェアするという事態も起こったり、拡大解釈で批判に持っていくというものまで、様々なものがあります

なので、自分が炎上の的になった場合は「自分の行為に非があったかどうか」をまずは考えることになります

その上で、誠意ある謝罪をすることが必要になっていて、その際には「言い訳はしない」ことが重要であると考えられます

 

このブログでも(サーバー乗っ取りで記事は消えましたが)炎上しかけたことはあって、ある映画の記事に対して「憶測だけで書くな」という批判が映画監督からリプライが起こるというものがありました

この時は「やりすぎた」と思っていたので謝罪し、記事を書き直すことになりましたが、その際も「該当する部分は消さずに残し、訂正文を入れる」という手法を取りました

それで納得されたのかはわかりませんが、それ以上の延焼が起こることはなかったので、そこまで間違った対応ではなかったのかなと考えています

 


炎上が続く理由

 

炎上は一度起こると大体は2週間くらいは続くとされています

長いと半年くらい続いていますが、延焼材料を投下したり、炎上が劇場化してエンタメ化しない限りは、気がつけば終息しているという場合が多いと思います

それでも、インパクトのある炎上案件はいつまでも引き合いに出されることになり、「囁きおかみ」などのようなビジュアルも鮮明なものは残り続けることになります

 

炎上はいわば「怒り」が顕在化したもので、言語化されることによって、さらに認知度が上がってしまいます

顕在化されたものを肯定する働きが起こり、そこに共感が混じって連鎖反応を起こしていて、誰かが自分の感情を言語化したことによって、同調意識が拡散されていきます

最初の発信者が炎上目的で言語化を投下することはないのですが、その言葉の共感力が強いと炎上に発展することが多いように思います

裏を返せば、誰もが同じ感情を同じ言葉で言語化できる案件ほど炎上しやすいということになり、事件はわかりやすい勧善懲悪的な構図になっていることが多いように思われます

 

個人的には炎上案件にはほとんど興味がなく、そこで展開されていく顕在化というものは、そこまで深みがあるとは考えていません

そのルーツである事件をたどり、その対応などを冷静に見ると「炎上ポイント」というものは明確になっていて、その場合は「事態の正確な認識ができていない」「保守的に逃げ道を探している」というものが多いように思えます

これらのような「対象者が反応できる案件」は炎上が長く続く傾向があり、事件などに対する批判殺到などはレスポンスがない場合は瞬間的であるように見受けられます

いずれにしても、炎上に燃料を投下できるのは対象者のみであることが多いのですが、稀に部外者が余計な擁護をすることで、その矛先が変わって延焼するというのを見かけますね

なので、そういったケースが増えていることから、炎上中にはふれないという行動に移ることが多いのですが、「これに対するコメントはよ」みたいな感じで、静観している状態で炎上するということもしばしば起こっています

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は「42分」という短編で、オムニバスにすることなく、本作品だけで勝負している稀有な映画であると思います

パンフレットもシナリオ付きで、いろんなノベルティグッズまであったりするので、普通の映画よりも力の入りようが凄いと思います

個人的にはファーストサマーウイカさんが好きなので遠方まで足を運ぶことになったのですが、42分の映画を観るために往復2時間以上を費やすことになりました

映画代も他の長編映画と変わらず、コスパだけを考えれば非常に悪いことになりますが、私個人のネジは壊れているので、ほとんど気にすることはありませんでした

 

42分の作品で、シナリオの文字数以上の感想を書くという訳のわからない展開になっているのですが、これはさほど難しいことではありません(実際にはシナリオの方が文字数多いと思います)

私は国文学の出身で論文を書いた経験があるのですが、あるテーマに対して掘り下げるということは日常的に行ってきた背景があります

大学の時は坂口安吾について論文を書き、『桜の森の満開の下』という作品について、「彼はなぜ、この作品を書くに至ったのか」というテーマで論文を書きました

20年以上も前のことなのでうろ覚えですが、この時は坂口安吾自身の著作を読み込むことだけではなく、学者の論説なども全部読み込んだり、彼がインタビューなどで答えたものも全て読み込むことになりました

そこから、時代背景や家族構成、思想などを抽出し、彼の発言と専門家の論説、そして自説を展開して反証をしつつ結論をまとめるということを行った記憶があります

 

本作においても、炎上がテーマになっていて、炎上している男の不遇が吐露され、ただそこにいるだけなのに被害者になるという実態が描かれています

このような作品で記事を書くとしたら、「炎上そのものの現象論」「炎上加害者の心理」「炎上被害者の心理」などにフォーカスを当てていくことになります

それらのテーマを深掘りしていくのですが、その際に「現実で広く認知されていること」を引用し、「作品との関係性」を提示し、個人的な見解を述べるという手法を使っています

映画感想は論文ではないので、個人的に思ったことを書き綴るのでもOKだと思います

その時に必要なのが「筆者の知力の提示」であると考えていて、「この人は何を根拠にそう思うのか?」というものに意味があるのだと考えています

 

映画ブログに必要なのが「情報」なのか、「解説」なのか、「感想」なのかは読む人の期待値だと思いますが、それら全てに応えられるブログというのは存在しないと思います

それに応えるためにブログを作ることは義務感につながって継続することは難しいと考えるので、私の場合は「映画を観て率直にわからなかったこと」を抽出し、それを調べる中で「自分が映画を理解していく過程」というものを言語化するという手法を取っています

なので、同じ疑問を持った人が読めば価値があるかもしれないし、「そんなこともわからなかったの?」という人には価値がないのかもしれません

とは言え、映画を観た後の時間潰しになれば幸いだと思うので、気に入った人はブックマークなどして、時間がある時に覗きに来ていただければ良いと思います

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

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公式HP:

https://enjyo.lespros.co.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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