■移民問題とテロ問題を混同させてしまうことで、向かうべき未来が濁されてしまっている
Contents
■オススメ度
人種交流系のヒューマンドラマが好きな人(★★★)
移民問題について考えたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.10(T・JOY京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、121分、PG12
ジャンル:ブラジル移民と関わることになった陶芸家を描いたヒューマンドラマ
監督:成島出
脚本:いながききよたか
キャスト:
役所広司(神谷誠治:山里で暮らす陶芸家)
吉沢亮(神谷学:誠治の息子、アルジェリア出向のプラントエンジニア、「二葉プラントシステム」の社員)
アリまらい果/Malyka Ali(ナディア:学の妻、アルジェリア人)
サガエルカス/Lucas Sagae(マルコス:隣町に住む在日ブラジル人)
ワケドファジレ/Fadile Waked(エリカ:マルコスの恋人)
シマダアラン(ルイ:マルコスの親友)
スミダグスタボ/Gustavo Sumida(マエノル:マルコスの友人)
演者不明(ジャーナ:マエノルの妻)
演者不明(ユナ:マエノルの娘)
MIYAVI(榎本海斗:在日ブラジル人を目の敵にする半グレのリーダー)
髙橋里恩(海斗の手下、赤髪)
髙橋侃(海斗の手下、オールバック)
松重豊(青木:地元のヤクザ)
佐藤浩市(駒田隆:誠治の友人、刑事)
中原丈雄(金本哲也:誠治の亡き妻・晶子の兄)
室井滋(金本節子:哲也の妻)
井並テン(水野:アルジェリア出向時の学の同僚)
大空ゆうひ(テロ対策室の責任者)
菅勇毅(外務省の役人)
安藤彰則(外務省の役人)
沖原一生(?)
GREEN KIDS(ラップグループ、ルイとマルコスが所属するグループ)
■映画の舞台
愛知県の人里離れた場所&保丘団地(架空)
ロケ地:
愛知県:豊田市
県営保見団地23棟
https://maps.app.goo.gl/WvoRqwSpiMoc52K1A?g_st=ic
千葉県:茂原市
円蔵寺
https://maps.app.goo.gl/MZ22i1tTndLnXwJX8?g_st=ic
愛知県:瀬戸市
東京都:立川市
BABEL THE ROCK TOWER(ライヴ会場、内観)
https://maps.app.goo.gl/pRshDw1pW6VaZaga9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
愛知県の山奥で陶芸業を営んでいる誠治は、妻に先立たれ、息子・学はアルジェリアでプラント事業に勤しんでいた
ある日、妻ナディアを連れて帰国した学は、父に「ここで陶芸をやりたい」と言い出す
誠治は「陶芸では食べれない」と言い、「嫁さんのことを考えてやれ」と突き放した
一方その頃、ヤクザの金に手を出したとのことで在日ブラジル人たちが半グレと抗争状態に陥る
辛くも逃げ出せたマルコスは、誠治の工房に姿を現した
誠治の車で逃げようとしたマルコスは運転を誤って事故ってしまう
誠治たちはマルコスの手当てをしてあげたものの、彼は翌朝には姿をくらましてしまう
そんな折、マルコスの幼馴染のエリカが工房を訪れ、「手当てのお礼にパーティに招待したい」と言う
そこで誠治たちはエリカたちの家族と一緒にダンスを踊りながら、楽しいひと時を過ごしていく
だが、ブラジル人を目の敵にする半グレのリーダー榎本は、次なる仕掛けを施そうと考えていた
テーマ:家族とは何か
裏テーマ:ジャパニーズドリーム
■ひとこと感想
移民との交流を描き、擬似家族的なものになるのかなと思っていましたが、思った以上にスケールを大きくてびっくりしましたね
アルジェリアに赴任していると言う設定から嫌な予感はしていましたが、察しの通りの展開を迎えていきます
映画は「家族とは何か」を描いていて、後半の学のメッセージ動画が全てを物語っています
予告編の作り方が最悪なので、良いとこどりで興醒めしてしまいますが、やや詰め込みすぎたかなあと思ってしまいました
家族を失ったことのある人々の恨みの連鎖といえば聞こえは良いかもしれませんが、実際には単なる腹いせと八つ当たりなので、半グレ連中の言い分も通りようがありません
でも、理不尽に晒された人を止めることはできず、誠治なりに考えた結果、あのような顛末を迎えることになってしまいました
個人的には屋上のシーンが引っかかってしまって、ぶっちゃけ裸になる必要性を感じないのですね
なので、あのシーンによって、描きたいことと矛盾しているような違和感を感じてしまいました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画はジャパニーズドリームを信じて日本に来たブラジル人が、日本から排除されて行き場がなく、しかも半グレに因縁をつけられると言う絶望的な展開を迎えます
半グレのリーダーにも過去がありますが、この過去が正直言ってノイズでしかありません
誰にでも行動理念はあると思いますが、中途半端な設定をつけたために、物語の着地点としておかしなところに向かってしまった感は否めません
映画は「移民を受け入れられない地方」には目もくれず、そこで住んでいる人の悲哀が言葉だけで説明されてしまいます
愛知県なのでお察しと言う感じになっていますが、半グレからの逆恨みよりも描くべきことが多いような気がしてなりません
移民問題を扱う時、その成り行きが無視されてしまい、そのコミュニティが周囲とぶつかる様子を描くことが多いですね
でも、そこで「なぜぶつかるのか?」と言う深いところには行かないのですね
それが日本人の人種差別意識の根幹になりますが、その部分は「日本の恥」だと思っているのかボヤかされてしまっています
今回はブラジル人を痛めつける側にも理由があると言うテイストでいきますが、実際には「そんな因縁などなくても、暴力を振るう奴は振るう」ので、もっと勧善懲悪的なものにして、日本の闇をもって抉っても良かったのではないかと思いました
■ブラジル人移民情勢
パンフレットによれば、在日ブラジル人の数は「20万人超え」とのことで、2021年6月末の時点の出入国在留管理庁の調べでは「20万6365人」とのこと
在日外国人全体で282万人で、中国から約74万人、ベトナムから約45万人、韓国から41万人と言うのがトップ3になっています
ブラジル人は第5位と言う位置付けになっています
ブラジル人の居住地の多くは愛知県や静岡県などにあり、日本語指導が必要な公立学校の児童数は1万2千人とされています
彼らはバブル期に日本に出稼ぎに来た人が多く、1990年の出入国管理及び難民認定法の改正によって、多くの外国人が来るようになりました
その後、2008年のリーマンショックを機に雇用情勢が急激に悪化し、日本政府は帰国支援事業を行いますが、それで帰国できたのは2万人程度だったと言われています
2022年の6月末の統計では、20万7081人とやや微増傾向にあります
映画の舞台となった愛知県豊田市の保見団地では日本人住民との軋轢が生じたとされています
また、ブラジル人と日本人の国際結婚は少なく、日本人男性と結婚したブラジル人女性は579人、その逆のパターンは162人しかいないそうですね(2009年の厚生労働省の資料による)
2011年に起きた東日本大震災によって、約2万人が帰国し、その後2014年と2016年のワールドカップ景気によって17万人までに減少をしました
2012年に統計方法が変わり、短期滞在や公務者は除かれることになったとされています
現在、ブラジル人の保護に関しては各地にある総領事館や在日ブラジル人を対象としたNPO法人(ブラジル友の会、関西ブラジル人コミュニティ)が担っているとのことですね
個人的にはブラジル人に会ったことがなく、ドキュメンタリーや映画で描かれる世界しか知らないのですが、怖いと言う印象はそれほどないですね
母国語がポルトガル語なので全く理解できないと思いますが、今ではグーグル先生とか他のアプリがあるので、そこまで支障があるとは何とも言えません
コミュニケーションはその気になれば何とかなるもので、勤めている病院にも東南アジアからの研修生とか、患者さんにも多くの外国人が来られますが、大体スマホ同士を付き合わして診察をすると言うのが成り立っていたりします
■日本人は排他的?
私自身も日本人ですが、コミュニティが作る「排他的な結界」と言うものは常日頃から感じています
日本人の中でもこの郷土意識は強く、それがバラエティ番組になるぐらいですので、相当なものがありますね
特に京都に住んでいると、「京都人はいけず」と言う風潮をよく耳にしますが、それを直接言われたことはありません
でも、地域の特性や特質をそのまま個人に当てはめて、「京都人は全員いけず」とか、「大阪人は全員笑いに寛容」みたいなものが蔓延っているのは事実でしょう
また、京都の中でも洛中以外は京都とは言わないとか、色々ありますが、絶対数は洛外の方が多く、洛中に居る生粋の京都人と思っている人たちはほとんどマイノリティに近いイメージがあります
私が住んでいる地域は他府県からの流入が多い新興住宅街ですが、そこの地場的な住人たちの排他的な感情なども稀に感じることはあります
排他的な感じになる一番の要因は「恐怖」であると思います
また、それ以上に感情的な部分が多いように感じます
自分自身がこのような思考だと変えることはできますが、相手がその思考であることを変えることはできません
もし、根幹にある恐怖というものが取り除けるなら、そういった対象から外れていくものでしょう
日本人に限らず、初発から相手にオープンになる人はそうそういないので、その抵抗値というものが個人それぞれだと思うのですね
その「抵抗値が高い人が多いのが日本という国」なのかなと考えています
個人的にはどちらかと言えば「初発の抵抗値が高いけど、それをクリアするとオープンになる」という厄介な性格をしていますが、どこに行ってもすぐに打ち解ける方だと思います
ただし、それは浅い領域の話で、深いところになるとそこまでではありません
その浅さと深さは個人の感覚だと思いますが、間口が広い人ほど深淵は絶壁で、間口が狭い人ほど深淵はクリアという印象もあったりします
このあたりは個別の感覚ではありますが、絶壁に踏み込まれて嬉しい人はいないので、相手が話すまではその絶対領域には近づかないという鉄則が民族感としてあるような気がしないでもないですね
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画では、ブラジル人と日本人の交流が描かれ、過去に遺恨を持つ榎本がブラジル人を目の敵にしているという設定がありました
この設定は後付けのようで、ブラジル人を痛めつける理由が欲しいというMIYAVIさんの進言があったからとパンフレットには書かれていました
この設定があることで「遺恨があれば暴力は肯定される」というところに繋がっている感じがして、個人的にはなかった方が良かったのではないかと感じました
と言うのも、遺恨があって「その対象を民族全体に広げるという思想」自体が一般的ではないような気がします
榎本のように家族を誰かに殺された人がいても、それが例えば○○人だとして、○○人族全員を恨みの対象とする、という思想を持つ人の方が少ないのですね
国によっては、その思想を利用して国民の一致団結に使っている国もありますが、それが一般的とは思えません
飲酒運転による事故があって、それで人が死んだとしても、上級国民だから逮捕されないみたいな間違った声がネットで上がっても、上級国民全員を殺せみたいなことにはならないのですね
あくまでも、罰はその人が負うもので、民族全体で行った所業でない限り、そう言った方向には向かわないものだと思います
もし、映画で榎本がブラジル人を目の敵にすることを正当化するなら、「明確な意図を持ったブラジル人が榎本の家族を殺した場合」に限ると思います
その殺人犯が「日本人に恨みを持っていて、その対象として榎本の妻子が選ばれて無惨にも殺された」というところまで行きつけば、榎本の正当性というものが生まれるでしょう
でも、映画の中では「飲酒運転に巻き込まれた」というものなので、その恨みの対象は「飲酒運転者本人もしくはそれを許容した店」とか、本人と親しい人で榎本に対して誠意を見せなかったというところでしょう
なので、そこまで強烈なものがなく、単にブラジル人だからという理由で列島民族として扱っていくというのは、榎本本人の思想として特殊なものとしか見えません
物語は、日本人とブラジル人の中に遺恨を示しますが、ジャパニーズドリームを夢見て裏切られたブラジル人に対しての日本人の普通の感覚は「自己責任」というものでしょう
彼らが母国に帰れない理由を映画の中では描いていないので、かなり中途半端になっていて、母国に帰るよりも日本の中でコミュニティを作って暮らす方がマシと考えている人がそこにいるような感覚になってしまいます
実際には国の施策の一環として捻出されている予算などもあり、そう言ったものを跳ね除けているのか、そう言ったものが不十分なのかというところまで言及しません
他人種による家族というところがテーマになっていますが、学の死は擬似家族の誕生の是非には関係なく、単なるマルコスたちが誠治たちと深く絆を結ぶためのステップになっています
誠治自身がブラジル人に対して排他的でもないので、学が無事に帰国して、ブラジル人のみんなも参加して陶芸業を盛り上げるという物語にも展開できたと思います
異文化交流の先にある未来というのは、この映画の場合だと「働く場所がなくなった人たちをどう受け入れるか」という点に尽きると言えます
そう言った在日かつ不労という状況をどうするかという問題提起があるのなら、廃れていく日本の伝統工芸において、異文化交流を行い、そして国際的な学の視点が入ることによって、新しいものが生み出せたのではないでしょうか
映画では、死んだ学の代わりにマルコスとエリカが陶芸を関わることになりますが、誠治が息子を失った喪失感というものが他者で代用不可であることは、榎本の行動で示していたはずなのですね
なので、その分かり合えない苦しみというところを強調し、その報復の無意味さを説くという意味においても、中途半端な感動ドラマになっているという感覚は否めません
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384374/review/4423d343-c310-46d6-9165-ffaee67c9626/
公式HP:
https://familiar-movie.jp/mbvn