■憧れとは、存在そのものに対する信仰である
Contents
■オススメ度
複雑な恋愛劇が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.1.10(T・JOY京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、98分、G
ジャンル:今カノと元カノが共闘して、彼氏の秘密を探る恋愛コメディ映画
監督:城定秀夫
脚本:澤井香織&城定秀夫
原作:パン・ホーチョン作『ビヨンド・アワ・ケン(2004年、原題:公主復仇記/Beyond Our Ken)
キャスト:
松本穂香(富田桃:図書館勤務、健太朗の元カノ、24歳)
玉城ティナ(真島莉子:健太朗の今カノ、ダンサー)
渡邊圭祐(湯川健太朗:桃の元カレ、莉子の今カレ、写真家)
白石和子(トキ:光ものを集める健太朗の祖母)
中島歩(武藤:桃の元カレ)
吉田ウーロン太(阿部:莉子の元カレ)
片岡礼子(景子:莉子の母)
阪田マサノブ(篤史:景子の再婚相手、莉子の義父)
今泉雄士哉(裕太:篤史の連れ子)
吉岡睦雄(中島:モデル撮影のセクハラ・クライアント)
平井亜門(健太朗のアシスタント)
北向珠夕(チホ:健太朗の撮影相手のモデル)
不破万作(鍵屋)
■映画の舞台
日本のどこかの地方都市
ロケ地:
埼玉県:吉川市
吉川市立図書館(桃の職場)
https://maps.app.goo.gl/sTsRmBXf1xsQ6267A?g_st=ic
東京都:渋谷区
SPACE BANKSIA(莉子の練習場所)
https://maps.app.goo.gl/kT1ZfStp2braBwqJA?g_st=ic
東京都:港区
party on TOKYO box disco(莉子のバイト先)
https://maps.app.goo.gl/xJWjF65aNg9vWJ1e9?g_st=ic
東京都:板橋区
ホビーストア「フジヤ」
https://maps.app.goo.gl/DtcE8G8ChMdJTwLD8?g_st=ic
東京都:杉並区
東京荻窪天然温泉 なごみの湯
https://maps.app.goo.gl/TkBKBom5vGpcfVaY7?g_st=ic
千葉県:船橋市
ふなばしアンデルセン公園
https://maps.app.goo.gl/htqfh2uPNFAZE2ob9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
図書館勤務の桃は、カメラマンの恋人・健太朗にフラれたばっかりで、目がうつろなまま、棚に直すはずの「眠り姫」の絵本に見入っていた
知らぬ間に声に出して読み上げていたが、それにも気づかぬ程に心は上の空だった
一方その頃、元カレ・健太朗はダンサーの莉子と関係を持っていて、桃とはタイプが違う洗練された女性だった
莉子はダンサーとしては芽が出ていなかったが、バーの仕事とダンスレッスンを繰り返す毎日は充実していた
ある日、バスで帰ろうとした莉子の隣に、いきなり桃が座り、彼女をじっと見てきた
莉子は「なんか用?」と切り出すものの、桃の要件は意味不明で、深く聞けば「元カレの健太朗との間で撮った猥褻写真を削除したい」というものだった
そして、「あなたにもあるんじゃないですか?」と言い、乗り気ではない莉子に連絡先だけを渡して去って言った
莉子は健太朗が寝起きの写真を撮っていたことを思い出し、他にも何かあるのではないかと疑い始める
そして、彼が大事にしている写真集の中から、ある写真が出てきてしまう
莉子は桃に連絡を取り、二人は「健太朗のパソコンの中に保管されている写真を削除するために」共闘することになったのである
テーマ:与えられるものと手に入れるもの
裏テーマ:充実した人生と愛の正体
■ひとこと感想
絵本の「眠り姫」がモチーフになっていますが、実は中国映画のリメイクだったのですね
映画のエンドロールの中にそれらしき文言があって、どの部分がリメイクされて、どの部分がオリジナルなのかに興味を持ちました
IMDBのストーリーラインによれば、「元カレのPCから恥ずかしい写真を奪う」というプロットと、「二人の女性が共闘する」というところは同じようですね
機会があれば、原作を鑑賞してみたいと思います
映画は、地味な女子と派手な女子が「同じ男性の元カノと今カノ」という設定になっていて、この時点で「何かあるな」という感じは漂っています
それでも、結構斜め上の展開に行くところとか、ミッションへの障壁が細かく設定されていたので面白かったですね
ネタバレなしの方が楽しめますし、全く関係ないと思いきや、という伏線の繋ぎ方が上手いと思いました
一点、その設定いる?というものがありましが、それが無くてもクオリティの高さから観て損はない映画だと思います
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
絵本の伏線回収と、おばあちゃんの拾い物の回収がうまくて、全部が繋がるところは爽快感すらありますね
また、健太朗への仕返しもしてやったりで、うまくまとめられていたと思います
眠り姫自体を全く知らないと意味がわからない部分がありますが、一応後追いでは説明されます
この絵本自体が壮大なネタバレに近いので、ググった方が良いのかは微妙なところでしょうか
女性同士の共闘の中に潜む、微妙なポジション争いがツボで、桃も莉子も譲らないところがあって良かったと思います
最終的に健太朗がダシに使われているところもおかしくて、同姓でもザマアミロと思ってしまえちゃうのが不思議なところかなあと思いました
■「眠り姫」とはどんな物語?
映画で登場する「眠り姫」は、一般的には「眠れる森の美女(La Belle au bois dormant)」として有名な古典の童話になります
ペロー童話集、グリム童話集などにも掲載されてきました
タイトルに関して、「眠れる森にいる美女」なのか、「森の中にいる美女が眠っている」のか分かりにくいのですが、これは原題もそのようなダブルミーニングに読めるそうです
文法的には「眠っているのは森の中にいる姫(美女)」ということでOKだと思われます
物語のあらすじは、子どもに恵まれなかった王と王妃がいて、ある時、王妃の前にカエルが現れて、「1年以内に女の子を産む」と予言されるところから始まります
その予言通りに女の子が生まれ、それを祝福するために国内の魔法使い13人を招待することになるのですが、もてなすための皿は12枚しかありませんでした
祝宴に招待された「12人の魔女」は、それぞれ「徳」「美」「富」などの魔法を用いた贈り物を王女に届けますが、13人目が現れ「15歳になると紡ぎ車の錘が指に刺さって死ぬ」という呪いをかけてしまいます
そこで、まだ贈り物を届けていなかった12人目の魔女が「呪いの効力を薄めるために100年間眠らせる」という呪いに変えることができました
王女を心配した王は国中の紡ぎ車を焼き払い、そして王女は15歳になります
そこで塔の上で老婆に出会い、彼女が使っていた紡ぎ車の錘によって、王女は深い眠りにつくことになりました
その呪いは城を全て眠らせて、その周囲を茨が囲うようになり、誰もが近づけなくなりました
それから長い年月が過ぎ、近くの国の王子が城を見つけます
王子は近くに住む老人に「あの城には何があるのか」と尋ねると、老人は「城の中には美しい王女様が眠っていると、幼い頃に聞いたことがある」と答えました
王子はなんとかしてそこに入りたいと茨に近づくと、ちょうど100年目になって呪いが解けて、茨がひとりでに道を開けました
王子は無事に城の中に入り、王女を見つけてキスをすると、王女を含めたみんなが目覚める、という結末を迎えます
映画では、この物語に解釈を加え、王女が目覚めた後に全てを手に入れている、というふうに紡ぎます
でも、それが王女が本当に欲しかったものかはわからず、与えられたものとして捉えていました
時が王女の幸せに寄与したのかは何とも言えませんが、しかるべきタイミングというものが王女と王子を引き寄せたとも取れます
また、王子の前にあった茨は自然と消え去りますが、本作では「茨の除去に苦労する」というテイストが内包されているように思えましたね
■憧れの先にある好意の正体
桃が莉子に近づいたのは、リベンジポルノの回収のためではなく、彼女自身を手に入れたいという願望がありました
その理由の一つとして、健太朗に選ばれなかった自分と莉子を比較していき、彼女のようになれればという考えに及んでいきます
敵対する立場に見える莉子に対して憧れを持っていたのは、彼女自身が健太朗の眼中になかったこともありますが、純粋なものと不純なものが混じっているように思えます
それが、莉子に対してキスをする、という行動に結びついていました
憧れの対象を持つことで、その模倣を突き詰めていく段階に移行します
女性の化粧のテクニックなどもこの段階移行がよく見られる印象があって、ある日突然垢抜けたかのような変身を遂げる人がいます
誰から教わったんだろうと勘ぐったりもしますが、今ではメイク動画を見たりと教材には事欠かず、その中で自分にあったものをチョイスして模倣していくのでしょう
そして、ある転換点において、メイクのコツなどがわかり、「突然のある日」が起こるのだと思います
映画の桃は莉子を対象として見ていますが、彼女のファッションを真似たり、メイクを寄せたり、髪型を似せたりしません
いわゆる模倣がない憧れになっているのですが、これはおそらくは「かけ離れすぎているので模倣しようがないと諦めている」という状態なのかもしれません
推測されるのは、芸能人などの模倣(髪型を揃えるとか)は一部であって、桃の莉子に対する憧憬というのは「雰囲気全体」であるとか、「部分模倣に価値を感じない」かのどちらかだと思われます
部分修正は模倣でできても、全体模倣はハードルが高いとも言えますし、そもそも桃は莉子を手に入れたいという願望があるので、全てを自分の中に取り入れるという考えになって、模倣という考えに行かなかったのかな、と思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画の全体的な雰囲気は童話そのもので、桃という魔女が莉子に真実を伝えにきたように思えます
いわゆる健太朗にかけられた恋の呪いを解くというスタンスでしょう
でも、その目的は莉子を手に入れることになるので、桃は魔女という立ち位置から動くことはありません
桃はいわゆる13番目の魔女で、表舞台から弾かれた存在でした
桃と「眠り姫」の新解釈を莉子に見せ、それは彼女の人生をも動かしていきます
13番目の魔女が見せたものは、健太朗との生活に幸福はあるか、という事実に過ぎません
健太朗は女性を手中に収めるための能力に長けていますが、それはそのまま女性の幸せとは結びつきません
「健太朗はそんなことをしない」と莉子が言っても、彼の行動の中に不安を増幅させるものがあって、自分で言いながら健太朗を全く信用できなくなっていました
見たくない現実を見せられた先にあったのは、莉子の幸せがどこからくるのかと言った本質論なのでしょう
桃からすれば、健太朗に振り回されている莉子は本物ではなく、彼女自身が関係性をリードしていくイメージを持っています
なので、桃は当てつけに健太朗を誘惑した莉子を見て涙を流すのですが、その理由は莉子自身が外的要因のもとで行動を起こしているから、であるように思えます
そして、桃は「莉子はそんなことをしない」という言葉を発していました
桃が莉子に惹かれたのは、まさに「自分で幸せを掴み取ろうとする性質」であり、健太朗と出会ったことによって、莉子のそれが失われつつあるように感じたのでしょう
そして、もう一度、桃の理想としての莉子を取り戻すことを夢見たのだと思います
絵本が改変され、幸福論について莉子に話す桃を見ていると、桃自身の幸福は「莉子が幸福であること」が前提条件のように思えました
そして、そんな桃の思いを受け取った莉子は、自分の言葉で健太朗に別れを告げることになったのだと受け止めました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/384807/review/0cdba5f2-a1a5-4381-b58f-15995b2f65e3/
公式HP: