■誰かが押した「再生」ボタンに乗っかって、とりあえず止まるまで走ってみたら良いと思いますよ
Contents
■オススメ度
人生の再生を取り扱った映画が好きな人(★★★)
映画内で映画を作る映画に興味がある人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.12(イオンシネマ京都桂川)
■映画情報
情報:2022年、日本、99分、G
ジャンル:さすらう映画監督が寂れた映画館店主に救われる様子を描いたヒューマンドラマ
監督:城定秀夫
脚本:いまおかしんじ
キャスト:
小出恵介(近藤猛:住む場所を失ってさすらう元映画監督)
吹越満(梶原啓司:猛を雇う涙もろい映画館「スカラ座」の支配人)
藤田朋子(桐谷陽子:梶原の元カノ、麻雀仲間)
渡辺裕之(谷口章雄:「スカラ座」の映写技師)
藤原さくら(足立エリカ:「スカラ座」のアルバイト)
日高七海(大崎美久:「スカラ座」のアルバイト)
宇野祥平(佐藤伸夫:猛と関わりを持つホームレス、生活保護セミナーに参加)
中島歩(渡辺健介:売れない役者、「スカラ座」の常連)
黒田卓也(白川はじめ:売れないミュージシャン、「スカラ座」の常連)
木口健太(那須ヒロシ:仕事がない映画ライター、「スカラ座」)
小鷹狩八(川本守:「スカラ座」の常連の中学生)
小野莉奈(谷内由里子:「スカラ座」で作品を上映する新人映画監督)
守屋文雄(谷内の作品「監督残酷物語」の出演者、監督役)
平井亜門(高杉良太郎:猛と一緒に映画を撮っていた助監督)
片岡礼子(高杉弥生:良太郎の母親)
麻木隆仁(猛の作品「はらわた工場の夜」出演者、工場長役)
山本宗介(猛の作品「はらわた工場の夜」出演者、工場作業員役)
関町知弘(木村章:猛の友人)
谷田ラナ(二ノ宮ハル:一華の娘)
さとうほなみ(二ノ宮一果:元女優、猛の作品「はらわた工場の夜」出演者、逃げる事務員役))
アライジン(一果の今カノ)
浅田美代子(黒田新子:生活保護ブローカー)
加治将樹(桑名陽平:新子の手下)
■映画の舞台
銀平町(架空)
銀平スカラ座
ロケ地:
埼玉県:川越市
川越スカラ座
https://maps.app.goo.gl/Qwe69v3XiYQ6G8Bg8?g_st=ic
千葉県:木更津市
雀荘ボトム
https://maps.app.goo.gl/YFnfEzJyuCKuxPwv7?g_st=ic
喫茶 りんどん
https://maps.app.goo.gl/mFWeHDBKLWk63siv5?g_st=ic
■簡単なあらすじ
銀平町にたどり着いた元映画監督の近藤猛は、河辺にて途方に暮れていた
友人の木村と待ち合わせていた猛だったが、金の無心をしているうちにホームレスに鞄を置き引きされてしまう
追いかける猛は男を見失い、街頭で生活保護支援のNPOの存在を知る
猛はやむなく説明会に参加するものの、そこには鞄を奪った男と近所の映画館「銀平スカラ座」の支配人がいた
NPOが怪しいという話で盛り上がった流れで映画館に招かれた猛は、そこで少しの間泊まり込みでアルバイトをさせてもらうことになる
映画館は客足が遠退き、アルバイトも常連も途方に暮れている
そんな中、梶原の元に新人監督の谷内から一本の映画を観てほしいと依頼が入った
梶原は従業員を集めて映画を鑑賞し、その作品を映画館で上映するかを決めることになった
また、梶原は猛が元映画監督であることを知り、猛が露頭に迷ったのは「最愛の妻が死んだから」と勘違いするようになっていた
テーマ:映画に込められた愛
裏テーマ:銀幕の中に存在が残る意味
■ひとこと感想
映画内で映画を作る映画とは知らずに、レトロな雰囲気のポスターに惹かれて参戦
人情系の話なんだろうなあと思いながら、ほのぼのとした世界観を堪能して参りました
映画はほっこり系なのですが、猛は「マニアに人気のホラー映画監督」ということで、劇中で作られる(実際には編集のみ)映画はエッジが効いていたように思います
猛が映画館のみんなに受け入れられていく様子は彼の人柄というよりは背景で、支配人の梶原の勘違いと行動力がすべてを変えていきます
映画に携わった人たちの日常の空気感を堪能する映画ではありますが、基本何も起こらない系なので、退屈に感じる人がいるかもしれませんね
個人的には楽しめましたが、一般受けするのかは何とも言えません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
銀平町という、おそらくは関東近郊の地方都市が舞台で、そこにある老舗の映画館に集う人々が描かれていました
閑散とした雰囲気の町で、時間の流れがとてもゆっくりに感じられます
主人公は元映画監督で、かつて仲間だった助監督の死によって、人生を停滞させていて、妻子とは距離を置かれていました
おそらくは停滞期間が長すぎて、同じ映画で関わっていた妻は嫌気が差していたのでしょう
自分の生活もあるし、妻子に対して向き合わない夫というのは微妙だったのかもしれません
映画監督として何かを為すということはありませんが、再出発ができたということで救われているのかなと思いました
■映画に託すもの
創作物には人が宿るもので、それは「完成されたもの」には限りません
物書きを目指したことがある人や、何かしらのクリエイティヴなものを目指した人には、チリとなっても消えてくれない残骸が自分の周りにたくさんあると思います
本作でも、猛の「やりかけ」はPCの中に眠っていて、友人の死によって「一時停止した」ものでした
その素材が残骸になるか、日の目を見るかは彼次第であり、悩む時間というものがもたらされることになりました
映画では自殺の経緯であるとか、その時点の猛の状況はわからないのですが、猛にも良太郎にも「一時停止せざるを得ない何か」があったのかもしれません
そんな中で、「再生」をもう一度押して「一時停止」した猛と、「停止」を押して「取り出した」のが良太郎ということになります
取り出されたカセットは自力ではデッキの中に戻れず、その瞬間に「再再生」はできなくなってしまいます
今はDVD、ブルーレイを通り越して配信の時代になっていて、好きな位置から再生可能だったりします
でも、テープだった時代にも良さはあって、取り出した瞬間には何かしらのドラマがあったことを示唆してくれています
その時に何があったのかはわからなくても、一時停止させる理由があった
映画で描かれているのは、そう言った人生の帰路において、立ち止まざるを得なかった人が「どうやってもう一回再生ボタンを押せるか」という内容だったと思います
映画のチラシは古風な感じになっていて、技師の谷口がこぼす「フィルムでこそ上映する価値のある作品」というセリフにも通じるレトロ感というものがあります
本編では言及されませんが、この映画のチラシのような時代に人々が映画を見ていた媒体、すなわちビデオデッキのようなものの特性を物語に落とし込んでいるのではないかと感じました
個人的な勝手な想像ですが、ある日部屋を掃除していたら、古めかしいビデオテープが見つかって、それをデッキに入れたら「途中から再生された」みたいな感じですね
そこで、すぐに巻き戻すのではなく、「なぜ、このテープはここで一回再生をやめたのだろうか?」を考える、という感覚に近いのかなと思いました
■リスタートに必要なもの
リスタートと言えば「一からやり直す」というイメージがありますが、残念ながら人の人生は最初からやり直すことはできません
一時停止した後は、停止位置から再生されるだけで、その時点で抱えていた問題は一時停止しても消えません
もし、消えるとしたら、それは人生から降りたという意味になり、神様が停止ボタンと取り出しボタンを押したとも言い換えられるかもしれません
でも、稀に「死神がそのデッキの停止ボタンを押す」ということがあって、それが良太郎の人生だったのかなと勘繰ってしまいます
リスタートするには「もう一度再生ボタンを押す」という行動が必要で、自分が推す場合もあれば、他人が押してしまって、そのまま流されるということもあります
この映画における猛の人生のビデオテープは、銀平町で出会った梶原によって押されたもので、それを突き詰めると「縁」という言葉になるのでしょう
猛がその場所に招かれたのは必然であり、そうしたものの積み重ねで人生はできていると思います
人生は面白いもので、一時停止も再生もほとんど自分では押せません
生まれる瞬間も決められないし、進学、就職なども勝手に進んでいきます
その流れの中で生きていく私たちは、どうやったら自分の人生の波に呑まれずに済むかと苦心しているのですね
そうしたものから手を離してしまう人もいますが、どんなに傷ついてもしがみつく人生というのも往々にあります
人生の再生において何が必要かと言われれば、自分の人生から手を離さないという覚悟を持つことだと思います
それは起こってしまったこと、避けられなかったことなども受け入れて、それに意味を持たせるために生きていくことなのでしょう
生きていく中で、それらの意味は規定され、そして否定され、また規定されていく
その繰り返しの中で、人生はブラッシュアップしていき、人は人として生きていけるのではないでしょうか
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作はとても地味な作品で、ひょっとすると数日もすれば忘れてしまうかもしれません
でも、最後まで一時停止をせずに観た人は、99分の意味を後付けにして過ごしていくことになります
人生というのは得てしてそういうもので、瞬間に意味がわかることの方が少ないのですね
自分の人生の大問題だと思っていた青春を思い返すと、その意味がわかるのは随分と大人になってからなんだなと感じられるのではないでしょうか
個人的には「一時停止」をした記憶のない人生で、誰もが私の人生を立ち止めさせることはできませんでした
それらを振り切ったのかは分かりませんが、なるようにしかならないのが人生だから、と割り切っているからかもしれません
明日があるかどうかを考えるよりも、今を生きていくことに必死で、明日もし目が覚めたら、続きができるという感覚になっています
もし、睡眠が一時停止ボタンだとしたら、それを押しているのは神様でも他人でもなく、自分自身の精神か肉体なのでしょう
人から見れば私の人生はハードのようで、でも本人としてはそれほどハードだとは思っていません
当直業務なので1日15時間ぐらい拘束されますが、それは肉体であって精神ではなかったりします
また、持論として、睡眠は量ではなく質だと思っていて、それが必要ならば脳がブレーキをかけます
その瞬間に抗いさえしなければ、生命が止まることはありません
ブログ的には数年(途中でサーバーが死んで数百記事が成仏したけど)で、映画を観まくる人生はもう5年以上になります
観た映画は必ず2000文字のレビューを書くというのを続けてもうすぐ2000レビュー(Yahoo!映画)に達するのですが、数を重ねた結果、人から見れば特殊能力みたいなことになっています
それでも「苦ではない」のは、「これが仕事ではないから」ですね
もし、私が映画評論家か何かで、同じような文量のレビューを書いて金銭を得ていたら、おそらくはさっさと辞めているか、辞めさせられていると思います
人は好きなことをして生きていきたいものですが、好きなことを仕事にはしない方が良いと思います
そうやって生計を立てられるのは一部の天才だけで、永続的には続かないことの方が多いからです
なので、ドライな考えではあると思いますが、生活の糧は自分が永続できて、他人に求められるものに固定して、あとは余力で好き放題やるというのが精神的にも負担は少ないのではないでしょうか
そう言った視点に立てるのならば、私と同じことをできる人は無限にいるのではないかと思っています
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385345/review/cb72515c-979b-48eb-8302-186e20ef47bd/
公式HP:
https://www.g-scalaza.com/