■偶然の一致を運命と思わせるには、その偶然性を必然に見せかける「神の力」が必要になると思います
Contents
■オススメ度
クライム&サスペンスが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.11(MOVIX京都)
■映画情報
情報:2023年、日本、94分、PG12
ジャンル:先のないタクシードライバーが目論む一攫千金を追うクライム映画
監督&脚本:牧賢治
キャスト:
窪塚洋介(高木慎司:不条理な理由で前職をクビになったタクシー運転手)
坂口涼太郎(番場ダイゴ:賭博狂の元自衛官のタクシー運転手)
葵揚(坂口恭:驚異の記憶力を持つ元数学教師のタクシー運転手)
田丸麻紀(サチコ:高木の元妻)
西川諄(タダシ:高木の息子)
風太郎(世良: 高木たちの先輩社員、整備士)
上本泰義(タクシー会社の事故担当者)
大橋逸生(同僚ドライバー)
鈴木康平(同僚ドライバー)
螢雪次朗(大谷:悪徳政治家)
森琴樺(政治事務所の秘書)
橋本マナミ(ユカ:大谷が入れ込むホステス)
和海(ユカの店のホステス)
佐渡山順久(斉藤宏:大谷とつるむ外資系会社の男)
若草(斉藤の会社の受付嬢)
鹿賀千鶴子(高級料亭の女将)
Jin Dogg(ヤス:高木たちの計画に加担する半グレ)
藤井誠士(チバ:闇ブローカー、ヤスの仲間)
般若(ヤスたちを狙う謎のヒットマン)
長田庄平(成田:高木と揉める警官)
徳弘大和(成田の後輩の警官)
冨士田伸明(事故時に高木が乗せていた客)
冨江栄博(一時停止違反時に高木が乗せていた客)
小林舞(男のグチで盛り上がる女性客)
山田あかね(男のグチで盛り上がる女性客)
中川比呂如(高木の元会社の上司)
成瀬遥(高木がトラブるTV局の女性社員)
佐野ひろゆき(高木がトラブるTV局の年輩社員)
江口直樹(高木がトラブる広告代理店の男)
■映画の舞台
関西エリアの都市部(ロケ地は神戸)
ロケ地:
兵庫県:神戸市
高田屋 京店
https://maps.app.goo.gl/aPxsuDYgMQr4F1CH7?g_st=ic
中華菜館 龍郷
https://maps.app.goo.gl/jkp5q7EuepYwxs4E6?g_st=ic
神戸ポートピアホテル
https://maps.app.goo.gl/sgUs85zvu3JBnSLu7?g_st=ic
神戸ポートターミナルホール
https://maps.app.goo.gl/MYgG6ELXw1KdEn1K8?g_st=ic
神戸おとぎの国
https://maps.app.goo.gl/YuABfr92JDbpdRni6?g_st=ic
日本芸術会館(JAPAN ART FORUM)
https://maps.app.goo.gl/T6gXMhopPtPi2b686?g_st=ic
■簡単なあらすじ
前職の営業職をクビになった高木は、妻とも離婚し、息子・タダシとは頻繁に会えない関係になっていた
会社のしがらみから抜け出すようにタクシー運転手に鞍替えしたものの、先輩の世良からは叱られまくる始末だった
ある日、ホステスと同伴する高齢男性を乗せた高木だったが、男は名刺ケースを車内に忘れて帰った
中を見ると、男は国会議員の大谷とわかり、世の中の裏側を見たような思いになる
高木が入った時期にはダイゴと坂口という若手のドライバーが入社していて、彼らは偶然にも誕生日が同じだった
ダイゴは人見知りだが記憶力に優れた元数学教師で、坂口は寮でも賭博を開く素行の悪い元自衛官だった
何気ない日常が積み重なるかと思った矢先、坂口に呼び止められた高木は、彼の主張する「偶然」の話を聞かされる
三人が出会ったのは必然で、「何かをやれ」と言われているようだと言う
話半分の高木だったが、坂口が主張する理屈にもっともらしさが乗り、政治家の所有する高級絵画を強奪することを目論み始める
そして、坂口は半グレの知り合いに話を持ち込み、絵画の見返りとして金を用意させることになったのである
テーマ:勘違いを生む奇跡の連鎖
裏テーマ:コツコツと行うべきこと
■ひとこと感想
同じ誕生日のタクシー運転手が集まって何かをやらかすと言う情報のみを入れて参戦
タイトルの意味もよくわからないまま突入しましたが、ご丁寧に映画が始まった瞬間に説明を入れてくれます
そこからスタイリッシュなオープニングが始まり、ヤバそうな会合でのヤバい出来事が続いていきます
その後、彼らが何者なのかが描かれていくのですが、前半は「タクシーあるある」のほのぼの劇場になっていましたね
坂口の存在が良い刺激になっていて、彼が高木に絡んでくるところから一気に物語が引き締まります
それは、裏を返せば、前半がややもっさりしていて、「事件が起こるのが遅い」と言う感じに仕上がっていましたね
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
『Sin Clock』の意味を知らずに鑑賞したため、初めは「シンク・ロック(Think Rock)をモジったものなのかなとか余計なことを考えていました
冒頭で「罪なる時計」と言う説明がありますが、この言葉はうまい具合に物語性を表現していたと思います
映画としては、洗練された画作りにセンスがあって、クラブのシーンでAwichが流れるなど、好みの仕上がりになっていましたね
でも、最後のネタバラシが中途半端すぎて、シナリオにもう少し練り込みが必要だったように思えます
また、冒頭でインパクトを与えるのは良いのですが、そのシーンに繋がるまでの時間が恐ろしく長かったですね
テンポが悪いと言うのではなく、構成として問題がある印象で、オープニングイメージとエンディングイメージがうまく絡み合っていないように思えました
■偶然の一致に意味を求める性
映画の中で、元自衛官の坂口は「同じ生年月日、同時期入社」などの偶然性に意味を感じ、「何かをするべきだ」と高木とダイゴを巻き込んでいきます
このような天の啓示みたいなひらめきは大体が思い込みで、それ自体には意味はありません
坂口は賭場を職場で開き、その参加者から金をむしることを生業としていて、いわゆる「金の亡者」だったと言えます
そんな彼には、「常に金に対するアンテナが張られている」ので、どのような情報でも「金に結びつけて考える」ようになっていました
自分に都合の良い情報だけを精査して、その計画が完璧のように感じる
これは「自分の発明に酔う」という状態で、この時点で客観的な視点というものは消えてなくなっています
この時点で消えている客観的視点とは、実行者3人と相手以外の無関係に思える人物への注意力の欠如であり、それによって足元を掬われる展開を迎えます
ギャンブルで自分の都合の良い情報だけをかき集めて安心したり、そこで閃いた攻略法が完璧に見える、というものに近いと言えるでしょう
坂口の計画は完璧でしたが、疑心暗鬼が生んだ死角というものが逆に足枷となっていて、トランクの金をいつ確認するかというのを怠っていましたね
尾行するとか、渡した後に狙われるなどの状況への配慮は完璧ですが、「本物の金を持ってくる」と信じて疑わないのは抜けているようにも思えてしまいます
これだと「絵と金を交換した段階で騙されていることもわからない」ので、半グレがその気になれば「スーツケースを偽札で埋めることも可能」だったりするのですね
多くのものを疑っているのに、肝心のものを疑わないのですが、これは「絵画」に関しても同じです
彼らが狙う絵は確かに議員が所有する絵ではありますが、実物を見ても真贋がわかりません
なので、金も介護もすり替えられる可能性はあり、それをどのように担保するか、という所を「他人に投げている」のですね
なので、思い通りに動かない敵対者の行動に運命を委ねているというのは愚か以外の何者でもありません
計画は初めから失敗しているのですが、これは坂口自身が自分を過信しているから、に尽きると言えます
■勝手にスクリプトドクター
本作は面白いことは面白いのですが、さすがにテンポも悪ければ「ネタバラシ」もスタイリッシュから縁遠い作風になっています
大まかな物語を変えず、犯人も変えないという前提で、「素人のさいつよ脚本」を少しばかり考えてみたいと思います
【オープニングイメージ】
ヤクザに囲まれる3人、不敵な笑みの坂口、ビビるダイゴ、平静を装う高木
高木、チラッとテーブルに転がっている眼球を見る
それに気づいて、グラスに入れるヤス、気持ち悪い笑み
【起】3人の日常
客を乗せる高木、坂口、ダイゴをフラッシュバックのように見せていく
客との会話はなく、客をミラー越しにチラチラ見る3人
休憩で社に戻り、世良との会話、昔話聞かされる
元はブン屋で、金回りの良かった時期(バブル)があった
坂口、世良が他の同僚と話しているのを盗み見している
それに気づく世良、気づかないふりをして目で追う
その視線に気づく高木、振り返る
【承】訳あり客との邂逅
高木、代議士とホステスを乗せ、会話の内容から「近々何らかの法案が通ること」を知る
ダイゴ、斉藤を乗せ、電話の会話の内容から「絵画について」知る
坂口、半グレを乗せ、タクシーの中でドラッグの受け渡しをしているのを見る
休憩所で少しだけ仲良くなった高木とダイゴが話す
それを見ている世良、「同僚にでも、秘密は漏らすな」と忠告
その様子を見る坂口、その視線に気づく高木、声をかける
夜、客を乗せて、一時停止違反で捕まる
警官と話し、今日が誕生日であることを知る
違反の話をダイゴとして、「今日、誕生日だって言われたわ」という話題で盛り上がる
ダイゴも「誕生日」だと言い、それに驚く坂口
二人を強引に巻き込んで、シンクロの話をする
【転】計画の下準備
高木、代議士の近辺で乗せるタイミングを図る
ダイゴ、斉藤の近辺を捜索し、坂口は半グレの事務所あたりでウロウロしてわざと絡まれる
坂口、半グレに代議士と外資の話を持ちかける
話に乗る半グレ、仲間を集める
世良、タクシーの整備中に坂口の車の車内から白い粉を見つける
3人、金蔓の半グレと会うものの、ダイゴは聞かされておらずにビビる
高木は何となく察していて驚かないが、平静を装う
計画の開始、実行、事はスムーズに運ぶ
金の受け渡しを終えた坂口、半グレのアジトに行き、白い粉のことで脅しをかける
ダイゴ、逃走中に空車にしたまま走っていたため、酔っ払いに絡まれて、待ち合わせ場所に行けない
高木だけが到着し、ホテル前で待つものの、どっちも来ずに焦る
そこにホテルから出てきたホステスと遭遇し、「乗せてくれないか?」と聞かれる
乗車拒否をしたくてもできず、場所も近場だったこともあって、やむを得ずホステスのマンションに向かう
ホステス、場所が違うと言い、代議士のマンションに連れて行けと言う
やむを得ず乗せる高木、ホステスに電話がかかってくる
耳をそばだてる高木、それに気づくホステス
【結】真犯人の思惑、つくられた偶然性に絶望する三人(もしくは一人)
坂口、半グレと喧嘩になるものの、乱闘の末に相手を殺してしまう
ダイゴ、酔っ払いにトランクを開けろと絡まれて、パニクって発進し、何人かを轢き飛ばして逃げる
巡回中のパトカーが気づき、追われてしまう
逃げるダイゴ、どこに行けば良いかわからないままパニクって事故る
警察に捕まってトランクを開けさせられるも、中には何も入っておらず唖然とする
高木と坂口が待ち合わせ場所に来るも、ダイゴは行方不明のまま、社に戻ってGPSから場所を特定する
急いで向かう二人、社から一台のタクシーが発進するも、気づかない
【エンディング・イメージ】事の顛末
ダイゴが事故ったことを知る
連行されるダイゴ、車を見にくる二人だったが、そこにトランクがないことに気づく
坂口、絶望から発狂し、半グレから奪った銃を取り出し、警官に即射殺される
高木、関連性を問われ、連行される
その現場を通り過ぎる一台のタクシー
助手席にホステス、運転席に世良の顔を確認して、呆然とする
こんな感じでしょうか
トリックに関しては変えませんが、最後にトランクを持っているのをダイゴに変更
坂口が欲をかいて単独行動から破滅へと向かう
真相に気づくのは高木のみ
一連の行動が筒抜けだったのは世良とホステスが通じてたから
このあたりの設定を加えるイメージでしょうか
坂口がシンクロを思いつくシーンを描くこと、彼らが世良にマークされる真っ当な理由とその裏にあった計画というものを描いていくことが肝要かと感じました
描くかどうかは別として、絵画のありか、斉藤とのつながり、絵画によるマネロンを知るホステスと、3人のそばにいて異変を感じる世良が裏で結託していたと言うのが筋書きになるでしょう
世良が3人を指導するシーンなどで、このあたりには「金目の客が多い」と説明し、議員や斉藤を乗せるあたりも偶然ではないと言うのもありだと思います
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は偶然の一致というものと、カーナビの時計の細工が肝なのですが、偶然の一致に傾倒しているのは坂口だけで、他の二人はその重要性を理解していません
できることなら、3人が偶然の一致に対して能動的になるようなエピソードが必要で、高木とダイゴの会話で誕生日が一緒で盛り上がるというのがわかりやすいと思います
半グレを狙う殺し屋は不要で、銃の扱いに慣れている坂口が暴走する方が疑問もなくしっくり来ます
高木は常に巻き込まれキャラですが、少しばかり社会を俯瞰している視点を持っていて、彼だけが観察眼が優れていて危機回避能力を有しています
映画では、その特性を世良に見抜かれて、利用される立場になる方が面白いように思えました
悪が悪を騙すというストーリーですが、事件が動くのが遅すぎる感じがするので、上の起承転結で並べるよりは、「会合までを回想録にする」という演出法もありかなと思います
前半は「なぜ、3人は半グレとつるんでいるのか」に特化するのですが、その会合の中で行われる会話の中で、それぞれが「ここに至る経緯としての客との関係性」を想起するという手段は有効かもしれません
映画のラストで描かれる「スペイン行きの飛行機は行方不明」というナレーションみたいなものはどう考えても不要でしょう
もし、事件の顛末を最後まで描くとしても、物語としては三人が奈落に堕ちたら終了でOKでしょう
そこからは蛇足でしかないので、「世良とホステスが一緒のタクシーに乗ってどこかに消えた」というものが分かれば問題はありません
物語の面白さとして、「偶然の一致に気づく3人が、それが運命だと同時に感じる」というところなので、本作では坂口だけの思い込みになっているのが残念だったと思います
世良を整備工にするのはアリですが、彼が三人の偶然性に気づくという理由として、彼ら3人を雇用する立場として、3人の履歴書を見て、同じ誕生日だと知っていたというシークエンスは必要でしょう
そうなると、整備工として働いているけど、実はタクシー会社の重役(規模は中小なので兼任でも違和感を感じないスケール感にする)というのもありでしょう
そして、ホステスの店に行って、その話で盛り上がり、世良がホステスから聞いた情報を持って、3人に偶然性を装わせて動かせるというのが真相になると思います
代議士を高木の車に乗せるのはホステスと結託していれば簡単で、斉藤に対する仕掛は映画通りでも違和感はないでしょう
彼らに偶然が必然だと誤認させ、あたかも神様になったかのような驕りを持たせる
坂口には暴走を、ダイゴには勇気を、そして高木にはチーム熱を冷やす冷静さを持たせることで、3人の微妙なバランスを取らせて行動を起こさせるというのがしっくり来るのかな、と思いました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/385396/review/04845ba3-12b8-4804-ad74-d05036fa4e6f/
公式HP:
https://sinclock.asmik-ace.co.jp/