■自分が動くことで起こる空気の流れは、いずれ自分の元に風となって流れ着いてくるもの
Contents
■オススメ度
ドタバタ風恋愛コメディが好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2023.2.9(シネマート心斎橋)
■映画情報
原題:바람 바람 바람(風、風、風)、英題:What a Man Wants(男が求めるもの)
情報:2018年、韓国、100分、G
ジャンル:真面目な料理人が不真面目な義兄の影響を受けて嘘の人生に塗れる様子を描いた恋愛コメディ映画
監督:イ・ビョンホン
脚本:チャン・ギュソン&イ・ビョンホン
キャスト:
イ・ソンミン/이성민(ソックン:女たらしのミヨンの兄、タクシードライバー)
チャン・ヨンナム/장영남(ダムドク:カバンが大好きなソグンの妻)
シン・ハギュン/신하균(ボンス:流行らない料理店のオーナー、ミヨンの夫)
ソン・ジヒョ/송지효(ミヨン:口の悪いボンスの妻、ソグンの妹)
リエル/이엘(ジェニー:ボンスが惹かれる女性、ヨガ教室のインストラクター)
ゴ・ジュン/고준(ヒョボン:モンゴルから来たボンスの店の雇われ料理人)
ヤン・ヒョンミン/양현민(ブンソ:ダムドクの盲目の弟)
キム・ミョンジュン/김명준(ビリヤード場の客)
イ・ハヌイ/이하늬(20代のビリヤード場の客)
ユ・アルム/유아름(ソグンが乗せる40代の女、夫を尾行する妻)
イ・ビョンチャン/이범찬(40代女の夫)
ユン・ソル/윤설(夫の不倫相手)
ハン・ウンソン/한은선(料理教室でボンスの隣にいる30代の女)
イ・ヘス/이혜수(産婦人科医、ミヨンの主治医)
チョン・ソイン/정서인(ダムドクが立ち寄る海産物店の店員)
キム・ヨンヒョン/김영현(ホテルのレストランのマネージャー)
キム・ゴシ/김건(ホテルでイタズラする子ども)
ファン・ミソン/황미영(一瞬で帰るボンスの店の客)
チェ・チャムケラン/최참사랑(一瞬で帰るボンスの店の客)
キム・ミソン/김미성(シニアマラソンの主催者)
■映画の舞台
韓国:済州島
https://maps.app.goo.gl/Kbcjj6aBXMKqNMMw8?g_st=ic
ロケ地:
韓国のどこか
■簡単なあらすじ
済州島でイタリアンレストランを営んでいるボンスは、真面目で嘘のつけない男だった
妻のミヨンはお金にうるさく、稼ぎの悪いボンスを見下しているものの、子どもは欲しくて不妊治療をしていた
ミヨンの兄ソックンはタクシードライバーをしていたが、女を口説くことに人生を賭けていて、妻ダムドクはそれを見ないふりをしていた
ある日、ビリヤードに行く約束をしたボンスは、そこでジェニーという大人の色気を撒き散らす女性と出会う
ジェニーはソックンの遊び相手だったが、ジェニーは堅物のボンスに興味を持ち始める
だが、そんな矢先、ソックンの妻ダムドクが事故死してしまう
失意に暮れる3人だったが、彼らの重苦しい空気を壊すかのように、ジェニーが店に現れるのである
そして、事もあろうか、ジェニーはウェイター募集の告知を見て応募してくる
ミヨンは若くてなんでもできそうなジェニーを受け入れ、そして家族の輪の中にジェニーが入ってくるのである
テーマ:隠せば隠すほど深くなる愛
裏テーマ:陽気の裏にある秘密
■ひとこと感想
実直な料理人とナンパなタクシードライバーと、それぞれの妻の絡み方がややこしく、嘘に巻き込まれたボンスが変化していく様子が描かれていました
夫婦の営みは過激ですが、描写に関しては控えめで面白かったですね
過ぎたるは及ばざるが如しという感じで、前半におけるあるキャラクターの退場に驚きましたが、ボンスの元にジェニーが入ってくる下地としては仕方ないのかなと思います
濡れたパンティを下ろして髪を止めるジェニーと、そこにジャケットを掛けるボンス
大人の掛け合いになっていて、前に進むために一歩引くジェニーの所作は勉強になりますね
映画のタイトルは日本語に訳すと「風、風、風」という意味ですが、「風」が吹く演出は少しばかり滑っているかなあと思いました
また、不倫がメインになっていて、ちょっと下品なシーンも多くなっていましたが、ジェニーの背景もきちんと描いていて、思った以上に深みのある物語になっていました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
うだつが上がらないと思っていたボンスが、ジェニーと関わることになって生気を取り戻していく過程は彼の中にある子どもっぽさを醸していて良かったと思います
ジェニーがこれまでに会わなかった人物のようで、軽い関係から執着を示していくところは女の怖さを感じてしまいます
本作の女性は誰もが一癖も二癖もあって、それぞれが欲望の捌け口を持っているところが狡猾でもありました
夫婦関係からトキメキが消えて、それを補う何かがあれば燃えることができるという男性の理屈が、後半になって「妻も同じだった」というところが巧妙でもありましたね
そんな中で、ジェニーだけがまっすぐな愛に生きようとしていて、少しずつボンスを攻略していく過程は見事でした
フィールドに入った瞬間に見事な嘘をついて、それを相手の中で育てさせる
そして、仕掛けを施して、関係性を探りながら一気に懐に入る
そう言った大人のラブゲーム的な面白さがあって、その裏側に「同性同士でしか共有されない秘密」がありました
■ボンスに吹いた風
本作のタイトルを日本語に直すと「風、風、風」になっていて、主要キャラ5人(+料理人)の中の「3人」に風が吹いたという解釈になると思います
その一人が「ボンズ」で、彼は「ジェニーという名の風」に晒されることによって、人生が大きく動いていきました
彼に吹いたものは「日常を変えるスパイス」のようなもので、「刺激」というものを連れてきました
ジェニーはソックンの遊び相手として登場しますが、どこか暗いものが漂う女性で、でもその理由は映画内では示されません
住んでいるところすら登場せず、家族関係も不明瞭です
いわゆるミステリアスな一面を見せるのですが、近くにいればいるほど、何を考えているかわからないというキャラに見えていました
後半の店のアルバイトに来るなどの行動は積極的ではあるものの、どことなく「怖さ」をはらんでいます
側から見ていると滑稽に見える部分もありますが、当事者としては背筋が凍りっぱなしで、それが随所に現れていました
最終的にジェニーはボンスとの関係性を解消することになりますが、彼女にとってのボンスという存在も「風」だったように思えました
人間関係の変化というものは、能動的なものもあれば受動的なものもあります
ボンスは受け身に見えますが、ソックン以上に能動的で、少しばかり「抜けた性格」を演出している節があります
これは妻ミヨンとの関係性の中で生まれたもので、彼女の夫としては最適解に近いような性格をしていました
ミヨンはとても疑り深いのですが、それは兄ソックンのいい加減さに巻き込まれてきた過去というものがあるのでしょう
ミヨンは目的のために手段を選ばないタイプの人間ではありますが、兄の存在が彼女の恋愛にかなりの影響を与えてきたのかなというのは何となく描かれていました
■ジェニーに吹いた風
ジェニーはボンスに吹いてきた風ですが、彼女自身にも風は吹いています
その一つはソックンとの遊びで、身なりだけを見ると魔性系に見えます
でも、実際には家庭的な側面を欲していて、安定的な関係を望んでいるように描かれています
家事全般はこなすし、男の扱いに長けているし、自分の魅力がわかっている女性
最終的には「委ねる」のですが、その成り行きを楽しんで要るというよりは、そこに悲壮感というものが漂っていました
映画では彼女の背景は一切描かれず、どのような出自があるかなどは明言されません
自分でヨガ教室を開いて生計を立てていますが、その顧客の多くは自分よりも年上の年配の方が多かったですね
彼女の美貌に憧れている若者であるとか、ワンチャン考えて下心丸出しという客もいるとは思いますが、彼女自身は「高嶺」をセルフプロデュースすることによって、様々な諸問題から距離を置くということに成功していました
彼女がボンスに執着を見せるのは、彼女のこれまでの恋愛体験に依るところが多く、ソックンをはじめとした「自分を性的道具に見ている男性」を軽蔑しています
当初のボンスがジェニーを口説く方向に行かなかったのはミヨンを愛しているからで、ジェニーは自分に靡いて来ないボンスに対して執着を見せていきます
そこでミヨンと出会ったジェニーは、ミヨンからボンスを奪うという感覚とは違ったアプローチをしていきます
相手の懐に深く入り込んで、相手の反応によって、自分がどう転ぶかを楽しんでいるのですね
そこには、「自分に対する不安感」であるとか、酷い仕打ちを受けても構わないという思考が滲み出ていたように思えました
そんな彼女はソックンと関係性を続ける方向で落ち着きますが、そこでソックンは「恋愛関係ではない」ということを強調します
ソックンは妻の死亡によって、これまでの人生を見つめ直していて、ジェニーを妹とボンスから遠ざけるのではなく、自分との関係性を繋ぐことで彼女の暴走を抑えていきます
これまでは、その暴走を楽しんでいたソックンではありますが、ジェニーの中に自虐性というものを見ていて、それゆえに包括的な愛情をかけるという行動に出ます
彼がそれを行うのは、妻の死によって自虐的になった部分が多いのですが、間接的に妹の幸せのために人肌脱いでいるのかなと思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は二組の夫婦の中に入ってくるジェニーを描いていて、一見すると二組の家庭を乱す存在のように思えます
でも、実際には「ジェニーの望む家庭像はどちらなのか」を吟味しているようにも思えました
妻との関係を刺激によって持続するソックン
妻との関係を守るために刺激を封印するボンス
この二人のスタンスは真逆ですが、夫婦関係を守るという目的は同じように思えました
そんな中で、ジェニーはボンスとのラブゲームを楽しむフリをしながら、ボンスと関係性を持つ女性はどんな人なのかを見ていきます
近づくことで何かがわかると思っていたジェニーでしたが、その行為はジェニー自身がソックンに対して感じてきた下世話なものに過ぎません
ジェニーは最後の対決に向かう中で「成り行き」を重視していて、それは「何が自分を助け、何が自分を傷つけるのか」を見極めようとしていました
でも、彼女がそこで見たのは、自分を直視しないボンスと、そんな男のために嘘をつくソックンという人間でした
これまでにジェニーが持っていたソックンとボンスへの感覚はここで一気に壊れます
それゆえに茫然自失になり、自分が成り行きに任せていたことを悔いているようにも思えます
そんな彼女を察してなのかは分かりませんが、この時のソックンは「ジェニーが一番望んでいた男性像」に近かったのかもしれません
エンディングでは、ミヨンにもジェニーにも子どもがいて、4人+2人が楽しく過ごしていく様子が描かれていました
これまでは子どものいない夫婦がずっと描かれていましたが、最後にはともに授かっているところがほっこりしましたね
はっきりとは見えませんでしたが、ジェニーの表情はとても穏やかで、そこには本当のジェニーがいたように思えました
■関連リンク
Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://movies.yahoo.co.jp/movie/386169/review/aaece18e-d59e-4325-9e9b-4feae948748a/
公式HP:
https://klovecome.com/