■息子が小説家になったら、父親よりも良い作品を生み出しそうな気がしますね


■オススメ度

 

こじれたロマンスが好きな人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2023.2.9(シネマート心斎橋)


■映画情報

 

原題:장르만 로맨스(ジャンルだけはロマンス)、英題:Perhaps Love(おそらく、愛)

情報:2021年、韓国、113分、G

ジャンル:書けなくなった元ベストセラー作家が学生と一緒に作品を作る様子を描いたラブロマンス映画

 

監督:チョ・ウンジ

脚本:キム・ナドゥル

 

キャスト:

リュ・スンリョン/ 류승룡(キム・ヒョン:7年間新作を書いていない小説家、元妻と不倫)

オ・ナラ/오나라(ミエ:ヒョンの元妻、スンモの恋人)

キム・ヒウォン/김희원(チョン・スンモ:ヒョンの友人、出版社「オープンマインド」の代表)

 

リュ・ヒョンギョン/류현경(ヘジン:ヒョンの現在の妻)

イ・ユヨン/이유영(ジョンウォン:ヒョンの隣人、自称女優)

パク・ヒョンス/박형수(スンミン:ジョンウォンの夫)

 

ソン・ユビン/성유빈(ソンギョン:ヒョンの息子、高校生)

チョン・スジ/정수지(イェスル:ソンギョンの元カノ)

 

ム・ジンソン/무진성(ユ・ジン:作家を目指す学生)

レオ/레오(サム:ユ・ジンの友人)

 

オ・ジョンセ /오정세(ナムジン:元親友のベストセラー作家)

チェ・ヒジン/최희진(ムン・エリ:ヒョンの後輩作家、ブッカー賞候補)

 

キム・ドヨン/김도(キム・ドンジュ:ヒョンの恩師、70歳)

 

ナム・テウ/남태우(出版社の投資家)

イム・ソンミ/임성미(出版社の会計士)

イ・カンニョン/이강녕(大学の助手)

キム・ハンナ/김한나(ハンカチを渡す列車の女性乗客)

 

ジュン・ヨンソプ/정영섭(ユ・ジンが出演するニュースのアナウンサー)

 


■映画の舞台

 

韓国:忠清南道洪城郡

広川

https://maps.app.goo.gl/CtXerC4o1Az5kHgs7?g_st=ic

 

江原道

 

ロケ地:

韓国各所

 


■簡単なあらすじ

 

7年前にベストセラー「空っぽの空間」を出版した作家のキム・ヒョンは、それ以来新作を書けずにいた

妻とは離婚し、息子ソンギュンの養育費もかかる中、大学の教授として生計を立てていた

 

ある日、先輩作家のナムジンの家を訪れたヒョンは、そこで学生のユ・ジンと出会った

ユ・ジンは彼の家に出向き、自分が書いた小説を読んで欲しいという

その小説はヒョンの友人の出版社の社長スンモの目に留まる

 

スンモはヒョンの元妻ミエと恋人関係になっていたが、ヒョンはミエに未練があって、現妻ヘジンに隠れて不倫関係になっていた

そんな中、恋人にフラれたソンギョンが引きこもりがちになり、問題を起こしてしまう

 

テーマ:恋愛と志向

裏テーマ:愛着の行く末

 


■ひとこと感想

 

小説を書けなくなった元ベストセラー作家が学生と出会う中で「共作」を作るという流れになるのですが、この共作相手が自分のファンのみならず、愛情を抱いている相手ということがわかります

妻はそんなことは露知らず、またヒョンは元妻と過ごす時間も多くて、良い雰囲気になることもしばしば

 

そんな中、元妻は自分の友人と恋仲だし、自分を好いてくる学生は性的志向が違うために戸惑いを見せていきます

愛されてはいるけど、それを受け止めることはできない

そんな中、作品を手伝うことで、愛に応えるという流れになっていきますが、それがスキャンダルにつながっていきます

 

愛情が交錯する様を描いていて、物語に登場するカップルはほぼ全てがうまくいかない問題を抱えています

個人的な感覚だと、一緒になる相手が間違っているのですが、それよりも個人の感情が優先されて、こんがらがっていましたね

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ほとんど情報がない状態で鑑賞に行きましたが、不倫だらけのどろどろなのにコミカルな感じに仕上がっていましたね

気の強い女性と、尻に敷かれる男性という構図が絡まっている感じに思えました

隠さなければいけない感情、関係の中で盛り上がるものの、恋の暴露で失うものが多い人間関係は、傍で見ている分には下世話で面白いものですね

 

メインはヒョンとユ・ジンの結ばれない関係ですが、ミエとスンモもうまく行かないし、ソンギョンと隣人ジョンウォンも関係は進みません

そんな中、ユ・ジンに捨てられたナムジンが復讐を企てますが、それを粉砕するユ・ジンの告白シーンは見ていて誇らしいものがありました

 

結ばれないことでわだかまる感情があって、それでも近くにいられることで多幸感がある

そんな関係性に中において、ユ・ジンが失うと同時に大きなものを得る物語になっていました

 


共作で紡ぐ二人の感情

 

ヒョンは元ベストセラー作家で、『空っぽの時間』という作品でブレイクした人でした

彼が契約を結んでいる友人の会社の名前が「オープンマインド」で、何かしらの縁があるのかなと思ってしまいます

そこから7年間、新作を出せずにいて、出版社に投資している投資家からクレームが来ていましたね

ヒョンがいる出版社だから儲かるかもと考えて投資したのに、アテが外れているという感じでしょうか

 

映画で登場する「ブッカー賞」はイギリスの文学賞で、世界的に権威のある賞として有名です

その年に出版された「最も優れた長編小説」に与えられ、選考対象は「英語で書かれた小説」となっています

賞金は50000ポンド(日本円で約800万円)

有名なところだと。映画『シンドラーのリスト』の原作にあたる『Schindler‘s Ark(トマス・キニーリー著、1982年)』『日の名残り(カズオ・イシグロ著、1989年)』などがあります

映画関連だと、「ブッカー国際賞(作家を選ぶ賞)」にて、2016年に韓国人作家の韓江さんが『菜食主義者(The Vegetarian)』にて受賞していますね

 

話が逸れてしまいましたが、ヒョンは国内でベストセラーを出すことができましたが、ブッカー賞に関しては後輩のムン・エリに先を越されてしまいます(そもそも英語で書いていないし)

一部の愛好家に受け入れられる作品ではあるものの、かなり自伝的な側面が強くて、内面の言語化に苦悩している様子が伺えました

そんなところに現れたユ・ジンという青年は、性的指向が違えども、自身の内面を言語化することに才能を見せていました

彼が元いたのはヒョンの先輩作家ナムジンの家で、そこで学んだことも多かったのかもしれません

 

映画では、7年間書けなかった事実と、投資家によって切られた期限によって、自分を言い聞かせながら、他人の作品を借りて出版することを考えます

これが盗作や名義貸しでなかったところがヒョンの人間性で、彼としても、ユ・ジンを作家に押し上げたいという欲があったのかなと思いました(教えている生徒というのも大きいかも)

自伝的な作品を輩出する作家は、それがいかにして困難であるかを知っています

ユ・ジンが書いた小説は「ほとんどラブレター」だとは思いますが、その想いに応えられないとわかっていても、それを世に出したいと思うのは、その小説に眠っている力の大きさだったと言えるのではないでしょうか

 


告白によって起こること

 

ヒョンはユ・ジンの小説『二人の男』を受け取り、当初はそれを読むことはしませんでした

ユ・ジンがゲイであることを知っていて、自分のことを好いていることを知っていたので、偏見なしで作品を読むことはできません

でも、その小説はスンモが勝手に持って帰って読んでしまい、その内容が「本物」であることを聞かされます

スンモはヒョンが書いたものだと思って読んでいましたが、文体の違いなどは感じていました

 

この小説は「告白」のようなもので、小説に登場する二人の男はヒョンとユ・ジンが投影されたものであることは疑いの余地がありません

それゆえに、好きでもない人から貰ったラブレターを読むような感覚に近く、しかも性的指向が違うので反応にも困ってしまいます

でも、スンモが読んで評価をしたことで、ヒョンは二兎を追う状態にユ・ジンを巻き込むことになりました

 

告白は、その後の動きを発生させる起点となり、今回の場合は媒体が小説だったために、出版の方に舵を切ることになります

ユ・ジンはナムジンの部屋を出て、ヒョンはユ・ジンの家に籠ることになります

そこからは「共作ですが、作家とアシスタント(時に入れ替わる関係)」という関係になり、作家として生きていくことの難しさを体感させていきます

ヒョンはユ・ジンの作品にインスピレーションを受けて、そこにサスペンス要素を取り込むことを提案し、元々短編だったものをボリュームアップさせることに成功していました

 

このように、ユ・ジンの告白は多くの人を動かし、それによって彼の環境も変化します

その変化は「自分好みのものではないことの方が多い」のですが、ユ・ジンとしては「ヒョンと一緒にいられる時間が増えること」が至福になっていました

ヒョンとナムジンはともにユ・ジンの憧れでしたが、二人の性格は真逆のように思えます

ナムジンは嫉妬深くて独占欲が強く、ヒョンは人肌が恋しくて、元妻と不倫をするという混沌とした生活を送っていました

 

ヒョンの息子ソンギョンもユ・ジンと同じような恋愛体質を持っていて、元カノの告白によって地獄に転落し、隣人ジョンウォンとの出会いによって、人生が再び明るくなっていきました

彼も同じようにジョンウォンに告白をするのですが、スマホを使ってデコレート字幕を流して、手でハートマークを作るという「ドン引き度100%」の告白をしていましたね

この告白を受けて、ジョンウォンは彼を拒絶してしまうのですが、それはソンギョンを受け入れられないというよりは、社会的な問題の方が多かったですね

高校生と人妻という、どう考えても無理な組み合わせでしたが、ジョンウォンの夫スンミンへの態度を見ていると、この夫婦間にはDV的な問題があり、彼女の心の中にも多くな空洞があったことは読み取れるように描かれていました

なので、時が解決する問題なのかな、とも思わないでもないですね

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

映画は、この熱烈な二人の告白を描いていて、どちらも成立困難な事例だったと思います

でも、告白する側の関係性に対する理解度は違っていて、ソンギョンはワンチャンあるように勘違いしていました

自分で「おばさん」呼びをする女性に対して、熱烈な想いを抱え、その玉砕も見事なものです

おそらくは元カノにフラれた時よりもショックが大きく、それだけ想いの強さがあったのだと考えられます

 

映画の主人公はヒョンのはずなのですが、物語の中ではユ・ジンとソンギョンという二人の熱に隠れてしまっている感じがしましたね

でも、その主体性のなさが現妻のへジンに追い出されるという結末になっていて、せっかく可愛い娘がいるのに、明るい未来は全て消えてしまったように思えてしまいます

ヒョンの元妻ミエはスンモと付き合っていますが、そのわがままぶりも相当なもので、ヒョンと合わなかった理由がなんとなく見えてきます

この元夫婦は夫婦になるよりは恋人関係のままだった方が良かったタイプでしょう

 

ヒョンは本当に背景になっているタイプの主人公で、別れた理由も再婚した理由も描かれないというのは苦笑するしかありません

ミエにも戻れないし、ヘジンにも愛想を尽かされて、養育費はダブルで発生

これを解消するには、ソンギョンを引き取って、ヘジンに養育費を渡すという方向性しかないでしょう

ミエがスンモとの関係を続けるかはわかりませんが、この物語の流れだと、「表立って言えないスンモとの関係は消滅」「ヒョンはヘジンと離婚」までは確定事項なので、ひょっとしたら「ミエとの復縁」というのは微レ存のような気がしないでもないですね

一応、それがしっくりくるまとまり方ですが、さらにソンギョンが荒れる可能性も否定できません

多感すぎる時期に「実親の再婚(しかも不倫関係目撃あり)」というのは「まともに育つわけないだろ」と言われてもやむを得ないと思いました

 


■関連リンク

Yahoo!映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://movies.yahoo.co.jp/movie/386171/review/ab0fc03e-aeea-4420-9577-46852d08ba02/

 

公式HP:

https://klovecome.com/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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