■移民が生まれている起因を無視して、人道的な観点だけで問題を解決できるのだろうか
Contents
■オススメ度
ポーランド・ベラルーシ間の国境線の実情を知りたい人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.5.21(京都シネマ)
■映画情報
原題:Zielona Granica(緑の国境)、英題:Green Boader(緑の国境)
情報:2023年、ポーランド&フランス&チェコ&ベルギー、152分、G
ジャンル:ポーランド・ベラルーシ間の国境で起きているリアルを描く社会啓発映画
監督:アグニエシュカ・ホランド
脚本:マチェイ・ピスク&ガブリエラ・ワザルキェヴチ&アグニエシュカ・ホランド
キャスト:章立て部分はおおよその登場順
ジャラル・アルタウィル/Jalal Altawil(バシール:亡命する一家、父)
ベヒ・ジャナティ・アタイ/Behi Djanati Atai(レイラ/マダム:一家と一緒に亡命をするアフガニスタンの女性)
トマシュ・ブウォソク/Tomasz Wlosok(ヤン/ヤネク:若手の国境警備隊員)
Helena Ganjalyan(サラ:ヤネクの妻、妊婦)
Monika Frajczyk(マルタ:非政府活動家)
Al Rashi Mohamad(バシールの父)
ダリア・ナウス/Dalia Naous(アミーナ:バシールの妻)
Talia Ajjan(ガリア:バシールの娘)
Taim Ajjan(ヌール:バシールの息子)
Noah Meskina(ウェサム:バシールの弟)
マヤ・オスタシェフスカ/Maja Ostaszewska(ユリヤ:人権活動家)
Jasmina Polak(ジュク:ユリアの娘)
Michal Zielinski(サーシャ:ジュクの友人)
Marta Stalmierska(ウラ:サーシャの恋人)
Maciej Stuhr(ボグダン:反ファシストの活動家、マリアの患者、亡命者支援)
Magdalena Poplawska(ボグダンの妻)
Klementyna Lamort De Gail(ボグダンの娘)
Tomasz Jaskowski(ボグダンの娘)
Agata Kulesza(バシカ:ユリアの友人、SUV)
Aboubakr Bensaihi(アフマド:モロッコ移民)
【第1章:THE FAMILIY(家族)】
Joely Mbundu(ソマリアの女性)
Malwina Buss(カシア:飛行機の乗客?)
Piotr Stramowski(マエシク:飛行機の乗客?)
Sandra Korzeniak(病院の医師)
Sebabastian Svaton(マヒル:飛行機の乗客?)
Piotr Poltowicz(飛行機のパイロットの声)
Walentyna Sizonenko(ミンスク空港の職員)
Jan Aleksandrowicz-Krasko(空港で待つドライバー)
Dzianis Tarasenka(ベラルーシの国境警備隊)
Wojciech Kaluzynski(農夫)
Alan Al Murtatha(カリム:ガラスを飲まされる亡命者)
Parwar Tariq(ハッサン:亡命者)
Maciej Stepniak(ポーランドの国境警備隊)
Maciej Kosiacki(コサ:国境警備隊)
Davit Baroyan(トラックの難民)
Tinatin Jabanashvili(トラックの女)
Sebastian Królikowski(ポーランド兵)
Jan Salasinski(ポーランド兵)
Joecey Mbundu(アフリカ人)
Zuyee Helal(アフガニスタン人)
【第2章:THE BORDER(国境警備隊)
Bartosz Picher(ゴラル:国境警備隊)
Roman Skorovskiy(ベラルーシの国境警備隊)
Pavel Gorodnitskiy(ベラルーシの国境警備隊)
Elie Zeitouny(ジャマル:サラの友人)
Katarzyna Obidzinska(オラ:看護師)
Slawomir Holland(カルチェフスキ:サラの主治医)
Stanislaw Cywka(ジャック:国境警備隊)
Robert Czerwinski(クシジーク:国境警備隊)
Marta Zietkowska(パヴェレツ:精神科医)
Joanna Gonschorek(産婦人科医)
【第3章 THE ACTIVISTS(活動家たち)】
Miroslaw Kropielnicki(シェルウェスター:?)
Usman Sediqi(少年)
Jan Litvinovitch(WOTの戦士)
Dagmara Brodziak(雑貨店の女店員)
Anna Biernacik(ステフカ:買い物客)
Maria Zlonkiewicz(活動家)
Nadim Suleiman(活動家/通訳)
Szczepan Kajfasz(救命士)
Pawel Lukasiewicz(救命士)
Agnieszka Racka(救命士)
Mikolaj Laski(救命士)
Adel Boubir(難民)
【第4章 JULIA(ユリア)】
Marcin Osiadacz(ラジオ放送の声)
Hanna Turnau(ユリアを取り調べる女性警察官)
Tomasz Krzemieniecki(病院の国境警備隊)
Oleg Garbuz(ベラルーシの国境警備隊)
Ewa Wirtwein(路上の老女)
Mateusz Janicki(警察官)
Agnieszka Frankel(婦警)
Magdalena Duszak(新米警官)
Michal Wawrykiewicz(ユリアの弁護士)
Igor Korus(ユリアを逮捕する警察官)
Jonathan Louhoua(アフリカ人の若者、亡命者)
Georges-Anthony Van Keer(アフリカ人の若者、亡命者)
Gabriel Ossotchenho(アフリカ人の若者、亡命者)
James Cyiza(アフリカ人の若者、亡命者)
Ada Cyndler(母親)
Mikolaj Cyndler(少年)
Grzegorz Gromek(レッカー社のドライバー)
Grzegorz Grochowski(ズクを逮捕する警察官)
Milan Steindler(ジンドラ:亡命を手助けするドライバー)
【EPILOGE POLSH-UKRAMIAN BORDER(ベラルーシとウクライナの国境線)】
Oksana Cherkashyna(ウクライナ難民)
Olena Leonenko(ウクライナ難民)
Sergey Berezhko(ウクライナ難民)
Marii Berezhko(ウクライナ難民)
Veronika Berezhko(ウクライナ難民)
Kalina Siudek(ウクライナ国境の活動家)
Matylda Stuhr(ウクライナ国境の活動家)
Agata Kuspit(ウクライナ国境の活動家)
Julia Zagórska(ウクライナ国境の活動家)
Marianna Wierzchoslawska(ウクライナ国境の活動家)
■映画の舞台
ベラルーシとポーランドの国境付近
ロケ地:
ポーランド:
ポドラシェ/Podlaskie
https://maps.app.goo.gl/nkKsbCcMrSZ5P2Fn7?g_st=ic
Chojnowski Park Krajobrazowy
https://maps.app.goo.gl/nSa1rDYiXerRmfCa9?g_st=ic
■簡単なあらすじ
トルコからベラルーシに向かうシリア人一家は、EU圏を目指すために国境付近まで辿り着いていた
一家の主人バシールは、ポーランドにいる弟のウェサムを頼りにして、トルコからベラルーシ経由で密入国しようとしていた
彼らは「Green Border」と呼ばれる山林地帯に向かい、そこからフェンスを超えて入国する手筈だった
なんとかその場所に辿り着くものの、ポーランドの国境警備隊は彼らをトラックに詰め込んで、ベラルーシに送り返してしまった
国境警備隊に配属されたばかりのヤネクはその対処に戸惑い、自分の行動に疑念を抱くようになっていた
一方その頃、人権活動家のマリアは仲間たちとともに、「Green Border」に迷い込んだ人々の救出活動に明け暮れていた
テーマ:人間の盾とは何か
裏テーマ:支援に必要なもの
■ひとこと感想
実際にある「国境地帯」での出来事を描いた作品で、当初はドキュメンタリーなのかなと思っていました
EUを目指す近隣諸外国からの難民が押し寄せる場所になっていて、そこでは熾烈な押し付け合いが行われていたことがわかります
物語「国境をめぐる4つの視点」となっていて、「バシールの家族、彼らと同行することになったレイラ」「若き国境警備隊員ヤネク」「マルタたちを含む人権活動家」「のちにマルタと行動をともにするユリア」が描かれていきます
バシール一家がスウェーデンに辿り着く中で悲劇が起き、同じようにEU圏を目指したアフリカ系の若者たちがユリアを通じて彼の患者であるボクダン一家のところに辿り着くことになりました
協力者もいれば関わりを拒否する人もいるのですが、活動家とそれを阻む者の中にも温度差があるというは普通のことなのかもしれません
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
当初はドキュメンタリーだと思っていたのでスルーするつもりだったのですが、どうやら綿密な取材を通しての再現のような物語で、公開と同時にいろんな軋轢が生まれた作品でもありました
ざっくりとウィキを眺めても、映画の中の話よりも外の話の方が多い印象がありますね
物語はそこまで難しくないのですが、人物の識別に苦労する感じで、モブを含めても100人近くの人物が登場します
キャスト欄も主要人物はなんとかなりましたが、ワンシーンに登場するだけの「役名あり」の人を識別するのはほぼ不可能に近いように思います
冒頭のミンスク空港に降り立つ直前に主要な人物が描かれているようですが、会話なしで顔だけ映しているので、のちのシーンと連動させるのは至難の技のように思えます
とは言え、誰が出ていたかは重要ではなく、どのような過程を経て、助かる人と助からない人がいるのかを見届ける映画であるように思えました
■「Belarus-European Union border crisis」について
本作は、2021年に起きた「ベラルーシ・欧州連合国境危機」を題材にしています
これは、主に中東および北アフリカからの不法移民の組織的な不法入国に関するもので、多くはポーランド、リトアニア、ラトビアに流入しています
2020年のベラルーシ大統領選挙があり、その後に起きた「ライアンエア4978便問題」と、その後のベラルーシに対する制裁、東京オリンピックにおける「短距離ランナーのクリスティーナ・ツィマノウスカヤ選手の強制送還」などが起因とされています
これによってベラルーシとEU連合の関係が悪化し、ベラルーシによって人為的に引き起こされた問題として始まることになります
ベラルーシを支援しているのがロシアとクルド人マフィアで、これらの動きに対して、ポーランドから15000人、その他の諸国も各国100名以上の軍人が対応にあたることになりました
これらの中で、約50人の移民が死亡する事態に至っています
2021年7月7日にベラルーシの独裁者アレクサンドル・ルカシェンコは、EUに対して「麻薬と移民」で氾濫させると脅し、ベラルーシ当局と国営旅行代理店は、中東で運用する一部の航空会社と協力して、ベラルーシへのツアーを宣伝し、EUへの安易な入国として、人々を集めました
集まった人々に対して、どのように国境を越えるかを説明し、国境警備隊に何を伝えるかまでの指示を出していました
これらの動きをポーランド・リトアニア・ラトビアは「ベラルーシがEUに仕掛けた人身売買を利用した戦争」であると表現しています
そして、非常事態を宣言し、国境に壁を設置する意向を発表することになりました
ちなみに、「ライアンエア4978便問題」とは、2021年5月に起きた出来事で、ベラルーシ当局が民間航空機を拿捕し、野党の活動家でジャーナリストのロマン・プロタセビッチ氏と恋人のソフィア・サペガを逮捕した事件のことを言います
この事件によって、アメリカ、EU、イギリス、カナダはベラルーシ政府関係者およびベラルーシ国営企業に対して追加制裁を行うことになります
この制裁には「政府関係者の個人渡航禁止」「資産凍結」「ベラルーシの航空機のEU領空への飛行禁止」などが盛り込まれていました
映画では、ベラルーシ側の国境警備隊のセリフの中で「人間兵器」であると表現されていたのですが、まさにこの状況をベラルーシ側から捉えた状況となっています
そして、ポーランドに無事に着いた人たちを保護するために、人権活動家たちが動いている様子が描かれていました
■現在の状況
これらの越境に関して、ベラルーシ政府の関与が疑われ始めていて、ルカチェンコ大統領は自らが認めることになりました
ベラルーシの国境警備隊が不法移民を見逃し、リトアニア国境警備隊との連絡を断つようにという命令まで下されていました
動画サイトなどで、「ベラルーシ国境警備隊が支援し、戻ってくるのを阻止する映像」というものが上がり、これらを前線の勝手な判断ではないということが判明するに至っています
移民を運ぶ密輸業者の一部はベラルーシから報酬をもらっていた、とまで知れ渡るようになったとされています
2021年11月11日現在で、ポーランドへの越境を阻止した件数は3万2000件だったとの発表があり、今でも国境付近で3〜4000人の移民が待機していると推定されています
これらの状況に対して、欧州人権裁判所(ECHR)は、ポーランドとラトビアに対して、移民たちに3週間の食糧、水、適切な医療、可能であれば一時的な避難所を提供するように命じていますが、移民の国境通過に関する許可は出ていません
2021年9月にはポーランド軍が派遣され、国境警備にあたることになりました
そして、国境周辺に非常事態宣言を発令し、移民の自由、集会の自由を制限し始めます
ポーランドではこれらの政府の行動に対して支持が多く、それは過半数を越えています
また、未回答の割合が徐々に増えていて、今後どうなるかは予測がつきません
ちなみに、ロシアのウクライナ侵攻の影響がこの場所にも出ていて、それは侵攻を受けてポーランド軍の予算が大幅に増額されるというニュースが出てからのことでした
もともと両国間はそこまで友好的な間柄ではなかったのですが、ベラルーシはポーランドの軍拡を受けて、「帝国主義的な野心を持ち、アメリカの支援を受けて、欧州での地位を確立している」と指摘するに至っています
そして、ベラルーシ内にあったポーランドの国家的な記念碑などが破壊される事件が起こってしまいます
2020年にポーランド政府は「ベラルーシからの出国勧告」の通達を開始
また、2023年にはベラルーシのヘリコプターがポーランド領土の上空を3キロ以上飛行したと報じられ、これの余波によって、ポーランドは国境への部隊派遣を増やすと表明するに至っています
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、これらの両国間の動きの中で、それでもポーランドに入国した人々を支援する様子を描いていきます
第2章で描かれていたのはポーランドにあるポドラシェ付近の国境警備隊で、そこに所属したのがヤネクという若者でした
彼はベラルーシに追い返す役目を担い、バシールたちを追い返すことになります
中盤あたりで自分のやっていることに疑問を感じ、最終的にはバシールを見逃すことになっていました
彼の変化というものが、映画では一番大きいのですが、基本的に群像劇になっているので、彼を認識して追っていくのは結構難しいように思います
映画では、丁寧に字幕で場所が表示されますが、土地勘がないと行ったり来たりするので追い切れない部分がありましたね
今どっちにいるんだろうというのがわからないシーンも多く、モノクロ映像なので、どっちの警備隊なのかを色で識別することができないのは辛かったですね
それでも、鉄条網を突破して送り込んでいくベラルーシ側が移民をぞんざいに扱っている感じは凄く出ていました
ポーランド側も騙し討ちのような感じでトラックに乗せて、それでベラルーシの国境警備隊がいないところに放り出すので、こちらも似たようなものに映っています
そんな中で、人権活動家たちが奮闘する様子が描かれていて、精神科医から行動に感化されて行動を共にするユリアという存在もいました
国境警備隊のヤネクも行動を変えていくのですが、彼らが支援をするたびに国も疲弊する部分があるのが何とも言えないところだと思います
ベラルーシの支援でポーランドに入国して、ポーランドの人権活動家が安全を保障するというのがポーランド自体の国益になるのかどうか
この辺りもいずれは議論になると思いますし、国が行わない難民支援を民間が行うことに対する余波というものは起きてくるものでしょう
ラストはウクライナに関する実情が描かれていますが、ウクライナからの難民とベラルーシによる移民支援を一緒にはできないところがあります
人道的な部分では支援が必要になると思いますが、分けて考えないとダメな問題なのですね
ポーランド政府はこの映画を事実と異なるとして非難したものの、各上映館はそれらを無視して上映に至り、異例のヒットとなっているとのこと
これによって、ポーランドの世論が「移民を受け入れる方向に向かう」かもしれませんが、それが果たして良いことなのかはわかりません
ベラルーシの思惑通りにポーランド内に難民が溢れかえったとして、通常の入国方法を無視したやり方を支援することになるので、それがまかり通る社会になって良いのかという議論は起こってくるのではないでしょうか
映画では「国境危機の状態であること」はわからず、両国間で移民の押し付け合いをしている様子を強調していますが、それだけでは語れない問題があるように思えました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/99915/review/03843341/
公式HP:
https://transformer.co.jp/m/ningennokyoukai/