■「八犬伝」の脳内映像が一致するほど、二人はマブダチだったのかな、と思ってしまいました


■オススメ度

 

創作にまつわる虚実の哲学についてふれたい人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.10.25(イオンシネマ久御山)


■映画情報

 

情報:2024年、日本、149分、G

ジャンル:滝沢馬琴と葛飾北斎の目線で描く「八犬伝」誕生秘話を描いた時代劇

 

監督&脚本:曽利文彦

原作:山田風太郎『八犬伝(角川文庫)』

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キャスト:

役所広司(滝沢馬琴/曲亭馬琴:戯作に挑む人気作家)

内野聖陽(葛飾北斎:馬琴の友人、絵師)

 

【八犬伝のキャラクター】

渡邊圭祐(犬塚信乃:孝の珠、伝説の名刀・村雨を扇谷に献上に向かう)

鈴木仁(犬川荘助:義の珠、信乃に仕える使用人)

板垣李光人(犬坂毛野:智の珠、女装して扇谷を狙う)

水上恒司(犬飼現八:信の珠、小文吾の乳兄弟)

松岡広大(犬村大角:礼の珠、父に取り憑いた化け猫と戦う男)

佳久創(犬田小文吾:悌の珠、巨漢の力持ち)

藤岡真威人(犬江親兵衛:仁の珠、神隠しに遭った男)

上杉柊平(犬山道節:忠の珠、浜路の異母兄)

 

河合優実(浜路:信乃の許嫁)

 

栗山千明(玉梓:里見義実に恨みをもつ女)

真飛聖(船虫:行く先々で八犬士の邪魔をする女)

 

小木茂光(里見義実:伏姫の父、安房里見家の初代当主)

土屋太鳳(伏姫:義実の娘)

(八房:伏姫の愛犬)

 

丸山智己(金碗大輔/丶大法師:八剣士を探す義実の配下)

大河内浩(金碗八郎:大輔の父、神与家の老臣第一席)

 

庄野﨑謙(足利成氏:里見家の主君筋、信乃の主筋)

村上航(横沢在村:成氏に仕える執権)

 

神尾佑(赤岩一角:大角の父、何者かに取り憑かれた剣士)

犬山ヴィーノ(犬田文吾衛門:小文吾の父)

 

坂田聡(ひき六:浜路の育ての親)

 

南風佳子(おとね:道節の乳母)

下條アトム(世四郎:犬山家の元家臣、おとねの元密通相手)

 

忍成修吾(網乾佐母二郎:信乃の村雨を狙う浪人)

 

塩野瑛久(扇谷定正:関東管領)

安藤彰則(河鯉権之佐:扇谷家の重臣)

 

【現実パート:歌舞伎】

立川談春(鶴屋南北:歌舞伎の狂言師)

 

中村獅童(七代目 市川團十郎:歌舞伎役者、民谷伊右衛門役)

尾上右近(三代目 尾上菊五郎:歌舞伎役者、お岩役)

 

中村蝶紫(かほよ御前:塩谷判官高定の妻)

澤村國矢(高師直:傲慢な執事職)

中村吉三郎(若狭之助:高師直からいじめを受ける藩主)

澤村國矢(喜多八:塩治家の家臣)

中村獅一(重太郎:塩治家の家臣)

中村好蝶(直義:足利尊氏の弟)

 

【馬琴の家族】

寺島しのぶ(お百:馬琴の妻)

 

磯村勇斗(鎮五郎/宗伯:馬琴の息子)

黒木華(お路:宗伯の妻)

木下瑛太(太郎:宗伯の息子)

本田都々花(おつぎ:宗伯の娘)

 

永瀬未留(葛飾応為:北斎の娘)

 

【現実パート:その他】

信太昌之(丁字屋平兵衛:江戸の地本問屋の店主、『八犬伝』の出版者)

 

大貫勇輔(渡辺崋山:宗伯の友人)

 

坂東雨威(大名)

坂東彌風(大名)

中村やゑ亭(宮廷の仕丁)

足立理(江戸の木戸番)

 

中村好蝶(力也:?)

坂東彌七(郷右衛門:?)

 


■映画の舞台

 

江戸時代(文化11年〜天保13年)、

江戸(現在の神田明神下)

 

ロケ地:

兵庫県:姫路市

姫路城

https://maps.app.goo.gl/NaezdiRdSgeR32WKA?g_st=ic

 

書寫山圓教寺

https://maps.app.goo.gl/o6rBQ7yJEGX8dGjM9?g_st=ic

 

亀山御坊本徳寺

https://maps.app.goo.gl/UgUHB49eYFi5s3vM6?g_st=ic

 

香川県:琴平市

旧金毘羅大芝居(奈落)

https://maps.app.goo.gl/3Z84K7Rz6E9AuL9z5?g_st=ic

 

茨城県:常総市

大本山増上寺別院 弘経寺

https://maps.app.goo.gl/936prihVDNVs64WC8?g_st=ic

 

元三大師安樂寺

https://maps.app.goo.gl/NBywSp5TJ6W63cTX9?g_st=ic

 

滋賀県:長浜市

長浜別院 大通寺

https://maps.app.goo.gl/ZMAQv9jEcY5bvu3H6?g_st=ic

 

滋賀県:大津市

清水山松林院 深光寺

https://maps.app.goo.gl/ok1tapt985VdEHvX9?g_st=ic

 


■簡単なあらすじ

 

戯作者として名を馳せる曲亭馬琴は、親友の葛飾北斎に「ある物語」を聞かせた

それは、恨みによって危険に晒された武家を、散り散りになった剣士を集結させて倒すというもので、北斎はその話を気に入って、少しばかりの挿絵を描いた

馬琴は「北斎が挿絵を描いてくれるなら」というものの、北斎にもやりたいことがあって、それに付き合うことはできなかった

 

馬琴はその後も、「八犬伝」の物語を北斎に聞かせ続ける

息子の宗伯は病気がちに成り、夢だった医師の夢をあきらめて、馬琴の戯作の校正を行うようになっていた

 

「八犬伝」の世界は、勧善懲悪の世界観で、「善き者には善き結末を」という価値観で描かれていく

そんな折、歌舞伎を観にいくことになった馬琴は、自分の作風とは真逆の世界観に打ちのめされることになったのである

 

テーマ:虚実の中に潜む真実

裏テーマ:貫き通す誠は実となる

 


■ひとこと感想

 

滝沢馬琴が「八犬伝」を書いた時のエピソードを描いた作品で、聞き役は葛飾北斎となっていました

北斎がチャチャっとイラストにしてしまうのですが、20分くらいの虚構パートが3枚くらいに絵に纏まってしまうのは笑うところなのかなと思いました

 

映画は、虚実の繰り返しで、はっきり言って長すぎるという印象で、ラストバトルとかフランダース演出などは蛇足中の蛇足のようになっていました

それよりも面白いのは戯作に対する哲学とか、価値観の転換の部分であり、奈落にて南北と語り合うシーンがピークだったように思います

 

虚実のバランスはそこまで悪くないのですが、虚構パートの誇張演技が棒っぽいところがあって、もっと自然体でも良かったのかなと思いました

あの映像は馬琴の脳内イメージになると思いますが、北斎のフィルターを通すとあんな感じになるというのは興味深い部分がありましたね

 

ある程度の歴史的な知識は必要ですが、八犬伝を読み込む必要はないと思いますよ〜

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

「八犬伝」執筆秘話というテイストなのですが、「八犬伝」脳内イメージパートが思った以上に長かったですね

実際には98巻もある代物で、映画ではかなり端折らざるを得なくなっています

それゆえに「八犬士」が揃う流れが結構駆け足になっていて、最後の方はまとめて捕獲!みたいなことになっていました

 

映画は、虚構パートはイケメン揃いで、現実パートがジジイの会話劇になっていて、合計28年間を描いていることになります

高齢になってもファンタジーを描き続けるというのはすごいことで、あらかたのイメージがあったとしても、ブレずに最後まで仕上げるのはすごいことだと思いまし

 

個人的には現実パートの創作あるあるの部分の方が興味深くて、虚構パートはどうでも良い感じになっていましたね

創作者の苦悩とか、どうして戯作を描くのかというところの話が面白くて、馬琴と北斎の会話劇なら何時間でも耐えられそうに思いました

 


「八犬伝」について

 

映画の原作にあたるのは山田風太郎の『八犬伝』ですが、劇中で馬琴が執筆するのは『南総里見八犬伝』と言う作品になります

『南総里見八犬伝』は江戸時代後期(1814年〜1842年)に曲亭馬琴によって書かれた長編小説で、全98巻、106冊にも及ぶ大作となっています

物語の舞台は、室町時代の後期に設定され、安房里美家の姫・伏姫と神犬八房の因縁によって結ばれた8人の若者(八犬士)を主人公としています

八犬士には「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」の文字が刻まれた数珠の玉(仁義八行の玉)を持っていて、牡丹の形をしたアザが体のどこかにある、という設定となっています

 

馬琴が48歳の時に描き始め、完成は76歳になった頃のこと、その間に失明に見舞われながらも、最後は息子・宗伯の妻である「お路」の口述筆記にて最終話まで完成させることができました

失明したのは1833年頃のことで、最初は右側で、1838年くらいには左目の視力も衰え始めていました

お路は漢字を全く知らなかったため、馬琴が偏や旁などを教えながら口述筆記をしたとされていますが、若干誇張されているとも言われています

1輯を5冊で綴じて、19輯までありますが、中の巻数はバラバラでこれには馬琴のこだわりがあるとされています

現在は、国会国立図書館にて収蔵されていて、明治大学所蔵の板本は初摺本がそろったものとして評価が高いと言われています

 

物語は大きく分けて、「伏姫物語」と言われる導入部分と、「犬士列伝」となる八犬士の集結、「関東大戦」「対管領戦」の戦闘シークエンスへと続き、大団円へと向かう流れになっています

映画では、物語の導入から集結までをメインに描き、玉梓の因縁を切るところまでを描いていました

ちなみに原作となっている山田風太郎の『八犬伝』は、滝沢馬琴と葛飾北斎の交流を描いた「実の世界」と、『南総里見八犬伝』の「虚の世界」を交錯させながら描いているので、作品が出来上がる過程とその内容を描いていると言えます

映画は、かなり忠実なつくりになっているので、この世界観を楽しみたい人は山田風太郎版を、八犬伝自体を楽しみたい人は馬琴のオリジナルを読むことをオススメいたします

 


虚実の中に眠る真実

 

本作では、山田風太郎の『八犬伝』を原作としているため、小説を書く原作者の心情や哲学というものがふんだんに織り込まれていました

特に、劇作家・鶴屋南北との会話劇は本作の見どころのひとつであり、同時期を生きた作家のこだわりというものが激突する名シーンになっていたと思います

南北は、お上の方針をうまく取り込みながら作品を作っていて、四谷階段に忠臣蔵を組み込むことによって、怪談話を世間に披露するという離れ技をやってのけました

二人が語っていた場所は歌舞伎の舞台裏にあたる「奈落」という場所で、ここは仏教用語のイメージを用いて名付けられているとされています

 

南北の『東海道四谷階段』は、怪談狂言として名高いもので、『仮名手本忠臣蔵』の世界観に「お岩伝説」などの怪談を組み込んでいるもので、いわゆる外伝的な体裁になっていました

元からある創作を組み合わせるという手法で、その融合が独自の世界観を生み出していると言えます

一方の馬琴の『南総里見八犬伝』は、実在の里見家と「尼子十勇士」の武士のリストを引用して独自の世界観を作り上げています

モデルとなっているのは、館山藩主の里見忠義と殉死した彼の8人の家臣とされていて、彼らには戒名に「賢」という文字が使われていました

この「八賢士」がモデルとなっている説があり、また伏姫にも「種姫」と呼ばれるモデルがいるとされいて、彼女には第二次国府合戦で亡くした夫・正木信茂がいました

 

既存の何かをベースにして融合することで新たな世界観が生まれるのですが、これは創作の基本であると言えます

完全なるオリジナルというのはほぼ存在せず、既存の物語の視点を変えるとか、新たな要素を付け足すことで、独自のものが生まれます

物語は「主人公、世界観、挫折、変化、仲間、報酬」というわかりやすい要素があり、キャラクターにも「主人公、対象者(主人公が助ける人)、贈与者(主人公を助ける人)、敵対者(主人公の目的を阻む人)」というものがあります

主人公を複数にして、チームにする場合もあれば、チームメイトを贈与者にする場合もあったりと、いろんなパターンで物語は構築されているのですね

このような無限の組み合わせと、主人公像の構築、世界観、結末などの要素によって、幾つもの名作が生まれていると言えます

 

物語には、作者の意図や思想、生活感などが知らない間に浸透していて、ある種の思想を押し出しているものもあります

キャラクターの内観を作るのに「自分を分解する人」もいれば、「他人を観察する人」もいるわけで、そう言った見聞きしたものがリアルに近づいてきます

逆に、指南本に載っているようなキャラクターの作り方をすると「テンプレ感」が生まれ、人間を描けていないなどと言われることになってしまいます

人間を描くというのはとても難しいものですが、キャラクターの創造に重きを置くか、物語の展開に重きを置くかで、その濃淡というものは変わってしまいます

個人的には、魅力的なキャラクターを作り上げて、この人物に行動を委ねて物語を作るというのが良いと思います

道筋通りに行かない場合もあると思いますが、このキャラの言動がブレるとかなり嘘っぽくなってしまい、それによって物語の重厚さが失われてしまうのではないでしょうか

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、虚実の世界をバランスよく映像化している作品ですが、意外なほどに賛否が分かれているように思えます

それは、このクオリティで「八犬伝」の映像を堪能したかったという人の物足りなさと、実の世界の濃厚な物語を好意的に受け取った層によって二分されている印象がありました

個人的には、後者の好意派で、見応えのある人物劇が見れたなあと思っていました

映画で描かれる八犬伝の世界は「葛飾北斎が話を聞いて脳内再生したもの」と、「馬琴の中にある脳内イメージ」が入り混じっていました

そのクオリティを変えていないのは世界観を一定させるためで、若干「虚すぎるチープさ」というものがあったと思います

 

原作が山田風太郎の小説なのでこの作風になるのは至極当然なのですが、予告編などでは虚の世界の映像がかなり使われていたので、あの割合だと「ファンタジーアクションを期待した」という人がいても不思議ではありません

個人的にも、このキャストと製作陣で「八犬伝の実写化」をしても行けるんじゃないかと思ってしまいましたね

それぐらい、完成度が高く、もっと観たいと思わせるクオリティだったと思います

 

映画は、爺さん二人があれこれ話す内容になっていて、虚の世界がイケメン若手ばかりという濃淡が凄かったように思います

北斎が挿絵を破り捨てるシーンとかでも同じ演技はないし、馬琴の反応も少しずつ変わっていたりしました

描かれている期間が長いので、周囲のキャラもたくさん登場するのですが、さすがにある程度知識がないと「誰?」みたいなキャラも多かったように思います

さらっとセリフで関係性は紹介されますが、それがスッと入ってくるよりも展開が速いようにも思えました

 

今回は「北斎に語る」というところがメインになっていましたが、「馬琴が八犬伝を思いつく」という映画があっても良いのかなと思いました

探せばあるのかもしれませんが、役所広司の馬琴で成り立ちとか、北斎との交友関係を観てみたいですね

そう言った企画が立ち上がれば楽しめますが、現実的には厳しいのかなあと思っています

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/101409/review/04406464/

 

公式HP:

https://www.hakkenden.jp/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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