■名も無きスパイの暗躍の背景にも、人間の情は流れていることがわかりますね


■オススメ度

 

中国のスパイノワールに興味のある人(★★★)

 


■公式予告編

鑑賞日:2024.5.9(アップリンク京都)


■映画情報

 

原題:无名(無名)、英題:Hidden Blade(隠された刃)

情報:2023年、中国、131分、G

ジャンル:太平洋戦争前後の中国にて繰り広げられたスパイ活動を描くノワール映画

 

監督&脚本:チェン・アル

 

キャスト:

トニー・レオン/梁朝伟(フー主任:「政治保衛部」の主任)

 

ワン・イーボー/王一博(イェ:「政治保衛部」の構成員、フー主任の部下)

 

レイ・ファン/黄磊(ジャン:投降する「中国共産党」の地下組織のスパイ)

シュウ・ジン/周迅(チェン:ペタンロードに住むジャンの妻、連絡員)

 

森博之(渡辺:日本軍将校、特務機関の隊長、石原派)

ダ・ポン/董大鹏(タン部長:「政治保衛部」の部長、フーの従兄弟)

 

エリック・ワン/王传君(ワン:「政治保衛部」の隊長、イェの同僚)

ジャン・シュイン/江疏影(ジャン:処刑される中国国民党のスパイ)

ジョイ・チャン/张婧仪(ファン:ダンサーに変装して日本に潜入する工作員、イェの婚約者)

 

古川岳史(日本軍パイロット)

美濃渡泰史(羊肉日本兵)

金子浩拓(羊肉日本兵)

三浦研一(羊肉日本兵)

佐々木智大(羊肉日本兵)

木村順傑(羊肉日本兵)

川上和文(羊肉日本兵)

イン・ウー/吴映(上海の食堂の母親)

シン・リー/李欣(上海の食堂の父親)

シー・ジンイー/徐婧荧(上海の食堂の娘)

 

【役名不明】

シュウ・シェンハオ/周生昊

イドン/董易

ペン・グァン/彭广

チャオ・ズア/赵左

ガオ・チャングァン/高曙光

ワン・ファンジアン/王华健

ヤン・ジャオユエ/杨昭月

ヤン・スー/苏阳

ヤオ・シュンユー/姚香于

リウ・ジュンミン/刘俊明

リウ・イージュウ/刘一舟

セディアン・ルー/卢泽天

ユウ・ジーチン/于志庆

リー・ヨンフェイ/李永飞

ジミン・マオ/毛纪明

シュエ・クアン/薛宽

リウ・シュシュ/刘旭

ハン・シュメイ/韩姝妹

シャー・ジンシー/夏志卿

 

シャオチャイ/小柴(柴犬)

チャーリー/查理(野良犬)

ダーバオ/大宝(ジャーマン・シェパード)

 

カイ・シンシン/邢凯新(声)

アオ・レイ/敖磊(声)

ユー・ムンスー/余梦慈(声)

 


■映画の舞台

 

1938年〜1946年

中国:上海&香港

 

ロケ地:

中国:上海

 


■簡単なあらすじ

 

1938年、中国・広州が日本軍によって陥落し、その渦中を生き延びた男がいた

3年後、男はフーとして生き、政治保衛部の主任になっていた

フーは関東軍の重慶担当の渡辺と繋がり、そこにはイェ、ワンという部下もいた

フーはタン部長からの指示である男の素性を追っていて、近々接見する予定になっていた

 

フーは情報提供者であるジャンという中国共産党から投降した男と会う

男は汪兆銘の思想に感銘を受けていると言うが、フーはそこまで単純なものではないだろうと考えていた

 

その後、日本は太平洋戦争に突入し、さらに汪兆銘も病死してしまう

フーたちは拠り所を失い、さらに戦争の余波によって、日本の行方も不明瞭になってきた

それぞれの思惑が複雑に絡み合う中、渡辺はある男を指名し、関東軍が支配している地域の統括を任せようと考え始めるのである

 

テーマ:国益と民族意識

裏テーマ:名もなき者どもの反逆

 


■ひとこと感想

 

日中戦争後から太平洋戦争前後の満州付近を描いている作品で、その時代の中国国内の政治情勢と日本軍の動きを知らないと意味わからないほどに説明がされません

スクリーンいっぱいに「広州陥落前夜」みたいに表示されますが、冒頭の数カットが「後半のシーンのちょい見せ」みたいな感じになっていましたね

 

喫茶店でコーヒーを奢られる女のシーンは1946年の香港で、イェがネクタイを黒に変えるシーンは戦後だし、食堂でリブ肉から河川敷の死体確認はそのさらに前になっていたりします

冒頭の数シーンは時系列が真逆になっていて、「1938年、広州陥落前夜」から時系列が順に戻り、冒頭の数シーンを回収していく流れになっています

 

登場人物は主要9人で、それ以外にもたくさん登場しますが、まさかの「その他のキャストには配役名がない」と言うのがエンドロールで確認できました

名前でググったけど流石に数人しかわからず、これは無理ゲーだと思って、埋めるのは断念しています

おそらくは登場順になっていると思いますが、その辺りも正確ではないように思いました

 


↓ここからネタバレ↓

ネタバレしたくない人は読むのをやめてね


ネタバレ感想

 

ある程度知っていても、これだけ説明がないと「どこで誰が何をやっているのか」はほとんどわからない感じになっています

一応は中国国民党が支配している状況で、その主席が汪兆銘となっていて、その対抗組織が中国共産党と言う構図になっています

 

中国国民党が関東軍の渡辺と懇意になっていて、政治保衛部としてタン部長、フー主任、イェ、ワンの4人が仕えていました

イェの婚約者がファンで共産党員だったために、ワンによって強姦され殺害されていて、ジャンと夫婦として共産党のスパイをしていたのがフーの妻チェンと言う関係性になっていました

 

また、政治保衛部のイェが中共のスパイで、渡辺の信頼を勝ち得て裏切ると言う構図になっていて、フーも実は中共の手下だったと言う感じに描かれています

あまりにも関係性が複雑すぎて理解するのは難しいのですが、汪兆銘の死によって国民党は瓦解しているので、その時点で寝返ったのかもしれません

このあたりは見返してわかるものなのか微妙な感じで、かなり勉強しないとダメなのかな、と思えました

 


時代背景をざっくりと

 

映画の冒頭は「本編の時系列逆順をちょい見せ」のような感じになっていて、1938年の広州陥落から時系列が順列に変わります

この広州陥落にて生き残ったフーが、のちに汪兆銘政権の政治保衛部に所属し、主任となっているのが3年後の1941年でした

汪兆銘は1940年に日本の傀儡政権を樹立した人物で、1940年11月に首席となっています

本編では蒋介石の名前が登場しますが、この二人は対立と協力を繰り返した関係性となっていました

 

1937年、盧溝橋事件が勃発し、日中戦争が勃発します

徹底抗戦を貫く蒋介石に対し、汪兆銘は「反共親日」の立場を取ることになります

それでも日本軍による南京占領などの状況を看過できず、1938年3月に行われた国民党臨時全国代表大会にて、国民党に総裁制が採用され、蒋介石が総裁、汪兆銘が副総裁という体制を余儀なくされます

汪兆銘は焦土抗戦には反対の立場で、政権を維持した状態で和平工作を模索していました

その後、戦局を鑑みて、汪兆銘はハノイに逃亡、そこで狙撃事件が起こります

 

汪兆銘は「和平のモデルケース」を考案し、重慶政府への揺さぶりをかけます

さらに1939年、純正国民党を結成し、日本政府との条約の締結交渉を開始する下地を作っていきます

1940年3月30日、南京国民政府が設立され、日華基本条約と日満華共同宣言に調印することになりました

映画の本編は、この時代の渦中と直後、太平洋戦争に向かう流れになっていました

 


裏切りの連鎖の先にあったもの

 

映画は、名もなきスパイたちの裏切り合戦が描かれていますが、誰がどの派に属するのかはかなりわかりにくくなっていました

ざっくりとした感じだと、中国国民党の汪兆銘派と蒋介石派、中国共産党派、日本軍という4つの派があって、蒋介石派に関しては登場していない(会話だけ?)だったように思います

汪兆銘派として、フー主任、ワン大尉、ジャン(フーが助ける女性)、チェン(フーの妻、ジャン先生の偽装結婚相手)、タン部長

中国共産党として、ジャン先生(寝返ってきた男)

日本軍として、イェ(渡辺の配下)、ファン夫人(イェの婚約者で殺されるダンサー)

このような構図になっていたと思います(当初は)

 

政治保衛部は汪兆銘政権の下にあり、重慶にいる蒋介石派と対立しているようで(重慶政府と呼ばれていた)、このあたりの政治的な関係がかなりわかりにくいものになっていました

当時の政権は中国国民党が握っていて、反日派の蒋介石と親日派の汪兆銘に分かれていて、それゆえに汪兆銘派のタン部長以下の政治保衛部というものが「内部に密偵がいないか」を探っている構図になっています

中国共産党のジャン先生の動きを察知し、こちらに寝返えるようにフー主任は自分の妻を送り込んでいましたね

ジャン先生は仮面夫婦を演じる中で感情移入をしていて、本当の関係になりたいと望んでいました

 

イェには婚約者がいて、それに目をつけたのがワンでした

こちらは「婚約者とわかって手を出した」という印象がありましたね

イェが気に食わなかったのかはわかりませんが、彼は渡辺と懇意にしていて、その微妙なポジションの違いなどから嫉妬心を燃やしていました

ワンが殺した理由が「共産党員だったから」でしたが、実はイェもそちら側の人間で、汪兆銘政権の政治保衛部にはかなりの赤が混じっていた、という今後を匂わすネタバラシがありました

これらの暗躍は中国国民党と中国共産党のパワーゲームになっていて、日本側もどちらとパイプを持つべきかを模索していたことになります

とは言え、太平洋戦争の敗戦によって、全てが無に帰ったのですが、日本軍の思惑の影響というものは爪痕として残ってしまったように思えました

 


120分で人生を少しだけ良くするヒント

 

本作は、中国の歴史の転換点を描き、日本軍の侵略と撤退の狭間において、中国国内の政治バランスのパワーゲームが起こっていました

この観点で映画を見るとハードボイルドなノワールになるのですが、実質的には硬派な物語を背景にしたメロドラマであるように思います

フーと妻、フーの妻とジャン先生、ファンを巡るイェとワンというように、色恋沙汰に関連して人の死が重なっていきます

その背景に組織の思惑があって、殺す相手と殺さない相手という差異が生まれていました

 

映画の冒頭は上海の高級カフェのようなところで、チェンの元にある男からコーヒーの差し入れがある様子が描かれ、それがイェであることがわかります

フーはどこかへ潜ったようですが、彼自身も中国共産党側でしたね

彼はジャン先生の裏切りがどのように行われるかを妻をスパイにして調べていて、ジャン先生がチェンの銃を奪っただけで留まっていることを知っていました

フーはその銃でジャン先生を始末したのですが、それは中国共産党を裏切ったから、であると思います

 

終わってみれば、汪兆銘政権は中国共産党によって乗っ取られていたようなもので、イェがワンを始末したことで、傀儡状態に持っていくことができています

表向きはタンとフーによる中国国民党が対抗組織として存続しているように見えますが、実際には全てが中国共産党に支配されていたという構図なのでしょう

彼らが2大政党を演じつつ、いかにも世論に応える体制であるように演じているのも意味があると思います

現在の中国の体制を考えると不思議な感じに思えますが、下地になっている部分はあると思うので、歴史の流れは面白いものだと思わされます

 


■関連リンク

映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)

https://eiga.com/movie/100964/review/03780103/

 

公式HP:

https://unpfilm.com/mumei/

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投稿者 Hiroshi_Takata

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