■自分の子どもに対する執着は、悪霊すらも小物に思える憎悪に満ち溢れていますね
Contents
■オススメ度
タイのホラー映画に興味のある人(★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.11.28(アップリンク京都)
■映画情報
原題:บ้านเช่า..บูชายัญ(犠牲のための賃貸住宅)、英題:Home for Rent
情報:2023年、タイ、124分、R15+
ジャンル:賃貸に出した家で不可思議なことが起こる様子を描いたホラー映画
監督:ソーホップ・サクダービシット
脚本:ソーホップ・サクダービシット&タニーダ・ハンターウィーワッタナー
キャスト:
ニッター・ジラヤンユン/Nittha Jirayungyurn(ニン/Ning:一児の母、元保険外交員)
スコラワット・カナロス/Sukollawat Kanarot(クウィン/Kwin:ニンの夫)
Thanyaphat Mayuraleela(イン/Ing:ニンとクウィンの娘、7歳)
ペンパック・シリクン/Penpak Sirikul(ラトリー・ケマラック/Ratree:ニンのコンドミニアムを借りる元医師)
Namfon Pakdee(ヌッチ/Nuch:ラトリーの娘)
Suphithak Chatsuriyawon(トム/Tom:不動産仲介業者)
Natniphaporm Ingamornrat(アンティ・ポーン/Aunty Phorn:ニンたちの邸宅の隣人)
Pawarisa Surathin(ジャー/Jaa:クウィンの前妻との娘)
Pintira Singhaseem(ニンの母)
Prapakorn Chairak(パポン:18歳の少女)
Piranpatch Teawsakul(プレー/Prae:パポンの娘)
Taofa Maneeprasopchok(ナット/Nut:ニンの友人)
Narupornkamol Chaisang(アム/Amm:ナットの婚約者)
Chanida Saejung(小学校の教師)
Tatchapon Fangruk(小学校の警備員)
Sakchai Phansri(消防署の署長)
Vikit Homerach(消防士)
Warawut Pangpanom(消防士)
Nukul Srilasak(消防士)
Thep Location(マンションの警備員)
Kreangkai Kewvimarn(マンションの警備員)
Warissara Bumrungwach(ホテルの客室係)
■映画の舞台
タイ:バンコク
バーン・クルア/Ban Khrua
https://maps.app.goo.gl/4MiACpaC7GihCdp47?g_st=ic
ロケ地:
上に同じ
■簡単なあらすじ
タイのバンコクに住むニンは、独身時代に住んでいたマンションを貸し出していた
だが、借主は姿をくらまし、家の中はめちゃくちゃになっていた
売るにも売れなくなっていて、ニンは夫のクウィンの所有しているコンドミニアムを貸し出して、マンションに住もうと提案することになった
二人にはインという7歳の娘がいて、彼女の小学校はマンションから近いところにあった
だが、クウィンは赤の他人に貸すことを躊躇っていて、ニンは半ばゴリ押しで、賃貸希望者と会うスケジュルを組んでしまった
就職の面接に来ていたニンだったが、やはりクウィンは貸すのは嫌だと言い出し、借主に会うことも拒もうとする
慌てて帰宅したニンだったが、すでに借主であるラトリーとその娘・ヌッチは内観に来ており、どうやって断るかを悩んでしまう
だが、クウィンはあれほど拒んでいたのにも関わらず、1ヶ月もあれば貸すことができると言い出した
ニンたちは必要な家財道具をマンションに移し、ラトリーたちに家を明け渡した
だが、住み始めてからインの様子がおかしくなり、さらに貸し出した家もおかしな雰囲気が漂い始める
隣人だったポーンは、ラトリーたちがおかしな儀式をしているのではと言い出し、決して中には入れようとしない気味悪さも募ってくる
そんなある日、ニンはラトリーがインに接触し、奇妙な本を見せていることに気づくのである
テーマ:死への執着
裏テーマ:転生の先にあるもの
■ひとこと感想
タイのホラーということで、ほぼ何の知識も入れずに鑑賞してきました
パンフレットも無く、色々な儀式っぽいものの解説があるのかと期待していましたが、専門家が捕まらなかったのかなあと思いました
邦題は相変わらず意味不明で、確定情報ではないけれど、彼らが住んでいる地区の名前のようですね
タイ的には歴史の長い由緒ある場所のようで、そこにある「狂愛の家」ということが言いたかったようでした
物語は、2段階ネタバラシがある構成になっていて、ニン視点、クウィン視点、ラトリー視点で全部解説という感じになっています
この構成が思った以上に下手な感じになっていて、「おお!」などと思うところがありません
無理やりつなげたなあという感じになっていて、視点の違いで意味が変わるとは言え、あまりにも露骨に変えすぎているようにも思えました
映画は、いきなり出てきて脅かす、おどろおどろしい音楽で雰囲気作り、とにかく気持ち悪いものだし解けばOKみたいな感じになっていましたね
一瞬でも見逃すと意味がわからん話になっていますが、ラストのニンの心境の変化だけは本当に意味不明になっていましたねえ
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
日本版のポスターだと、ラトリーが主人公のように見えて、この人が呪術か何かで敵を倒す系の物語だと思っていました
まさかのラスボスになっていましたが、実際のラスボスは人形の中に封印されていたパポンの魂ということになるのだと思います
自分にあった体を探すために罠を張っているのがラトリーたちのようですが、ラトリーだと思っていたのは実はパポンでみたいな感じになっていて、最後はパポンがインの中に入ったぐらいしか理解できませんでした
かなり画面が暗く、部屋のシーンは表情がほぼ読めないし、儀式は何をやってるかほとんどわかりません
ジャーという娘を亡くしたショックで荒れていたクウィンを救ったのがニンということになっていて、彼女との間に生まれたのがインでした
インがあのマンションに来たことでジャーの魂を感じるのですが、それが冒頭で荒らされているように見えた時に仕込まれていた、みたいな感じになっています
仲介業者がラトリーの息子のようですが、そのあたりの人間関係もほぼ掴めないまま最終局面にきてしまいます
ラストでは、中身が入れ替わったインをニンが育てるエンドになっているのですが、何となく、ニンの中身も変わっているのかなあと思ってしまいました
■実際にあった話らしいけど
本作のネタ元とされるのは、2004年にタイのラチャンブリ州で起きた事件で、カンチャナという女性とその家族が、ヒンドゥー教の神インドラから彼らの果樹園に祝福をもたらすと信じて、12歳の娘、プラパッソン・ジアムチャロエンを犠牲にしたというものでした
また、映画公開年の2023年には、インドのウッタル・プラデーシュ州バハラーイチ市で、ヴィヴェック・ヴァルマという名の10歳の少年が、いとこの持病の子供の健康改善に役立てようと、家族によって生贄にされたと言われています
ヒンドゥー教における人身御供は現在は完全に否定されている行為ですが、かつては様々な理由で行われていたことがわかっています
それらは「豊穣や加護を祈願する目的」であるとか、「部族宗教・土着信仰との融合」「王権や権力の正当性を強調する儀式」などが挙げられます
これらはヒンドゥー教に限ったものではなく、宗教の教義から逸脱したものであるとか、宗教指導者の解釈によって行われてきた歴史があります
現在では、カルト的な集団によってこのような事件が起こることが多く、彼らの教義が原教の派生物もしくは解釈ということ有り得ます
信じている人が突き進む道が客観的に見れば恐怖でしかあり得ませんが、人類の歴史において、目的のために色んなものを解釈するというのは、過去だけの話ではないと言えます
映画は、タイで起きた複数の事件をベースにしているようで、前述の事件に自分の家族が巻き込まれたら、というテイストで描かれています
また、その儀式を行うために賃貸する家族がいて、怪しい人に貸したらヤバいという感じになっていましたね
でも、元医師という肩書きなどがあれば社会的に信用しちゃう部分もあるし、身なりからして怪しいとかではないので、騙されてしまうのも無理はないかもしれません
あとは、こう言った事件が実際にある、ということさえ知っていれば、異変に気づけるのかもわかりませんが、個人的には「貸した家でお金さえ払っていれば無関心」だと思いますねえ
「自分の子どもが巻き込まれるかも」と考えることも難しいと思うので、近所づきあいをきちんとしておいて、情報を仕入れるしかないのかな、と感じました
■結局どうなったのか?
本作は三人の視点で描かれる作品で、妻ニンの視点、夫クウィンの視点、そして借り手側であるラトリーの視点にて全てが明かされるという構成になっていました
ニンの視点では、家族の日常と距離感などが描かれ、そこで起きたことの裏側がクウィンの視点で補完されていきます
ラトリーの視点はさらに反対側からの視点になっていて、それで全貌がわかるのですが、実際にはラトリーというよりは彼女の体を借りている「パポン」の視点になっていたと思います
このパポンが最終的に夫婦の子どものインの中に入ったように思える、という結びになっていました
このパポンというのは娘プレーを亡くした母親のようで、彼女がラトリーの体を使ってニンたちに近づき、自身もしくは自分の娘をインの中に移し替えたように描かれています
この流れが実にわかりにくくて、半分ぐらい想像が入っている解釈になっています
娘というのは映画のキーワードになっていて、パポンにはプレーがいたし、ラトリーにはヌッチがいます
また、クウィンには前妻との間にジャーという娘がいて、ニンとの間にはインが生まれていました
パポンにとってはヌッチは大人すぎるし、ジャーはすでになくなっているので対象外でしょう
そんな中で娘を亡くした経験をもつクウィンを先に攻略することになるのですが、これは理に適っているのだと思います
これらの一連の話を噛み砕くとこんな連鎖が起こっていた、ということになると思うのですが、かなりわかりにくい作品でしたね
最後にパポン自身がインに入ったと思っていましたが、因果律を考えると、プレーの魂をそこに移して娘を蘇らせたのかな、と思いました
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
映画の原題は『บ้านเช่า..บูชายัญ』というもので、これをそのまま日本語読みすると「バーンチャオ・ブーシャヤン」となります
これが「バーン・クルア」になった理由はわかりません
原題には「生贄のための借家」という意味があるので、そのままでも良かったと思います
本来ならば、パンフレットに解説があるとかだと思うのですが、ググってもChat GPTに聞いても答えは返って来ず「映画の雰囲気を伝えるための造語」とまで言われていました
実際には「バーン(บ้าน)」「クルア(กลัว)」というタイ語の組み合わせて「家」+「怖い」となり、そのままだと「家が怖い」という意味になります
逆転させているのは、原題語感に合わせたものだと思いますが、「生贄の家」とかの方が怖かったりします(ネタバレすぎますが)
タイの映画なのでタイ語でググっても全く読めないのですが、日本語のブログとかの方がたくさんヒットしますね
このあたりはネットの事情とか、タイの映画にまつわる環境、ブロガーなどの人口がわからないので何とも言えない部分はあります
おそらくたくさんの情報があると思うのですが、最近の検索サイトは使用者向けにカスタマイズされている部分があることもあって、なかなか情報を掴めない作品となっていました
映画では、「無明」という概念が登場し、これは仏教における重要な概念の一つとされています
意味としては、真理を知らないこととか、迷いの根本原因という意味があり、映画内でも「物質、感情、表象、身体、意識」という言葉と合わさって「悟れぬこと」という風に説明されていました
映画における真理というものも掴みどころのないもののように思えますが、簡略的に言えば子どもの喪失の置き換えであるように思います
その悲しみからどのように立ち直るかというところで、新しい子どもに移行したのがクウィンであり、他人の子どもを奪っても蘇らせたいというのがパポンなのでしょう
そう言った観点からすると、映画としては略奪者の勝利ということになるので、それはそれでどうなのかなあ、と思ってしまいました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/102036/review/04510155/
公式HP: