■ろくでもない世界に生まれても、ろくでもない世界に生きなければならないわけじゃない
Contents
■オススメ度
韓国のアウトロー系ノワール映画が好きな人(★★★)
■公式予告編
鑑賞日:2024.7.31(京都シネマ)
■映画情報
原題:화란(絶望)、英題:Hopeless(絶望)
情報:2023年、韓国、123分、R15+
ジャンル:閉塞感からアウトローの世界に足を踏み入れる少年を描いたクライム映画
監督&脚本:キム・チャンフン
キャスト:
ホン・サビン/홍사빈(キム・ヨンギュ:義父と折り合いのつかない17歳)
ソン・ジュンギ/송중기(チゴン:ヨンギュを気にかける地元の半グレ)
ビビ/비비(キム・ハヤン:ヨンギュの義妹)
ユ・ソンジュ/유성주(チョンドク:ヨンギュの義父、自転車屋)
パク・ホギョン/박보경(モギュン:ヨンギュの実母)
チョン・ジェグァン/정재광(スンム:チゴンの部下)
キム・ジョンス/김종수(ジュンボム:チゴンのボス)
ソ・ドンガブ/서동갑(チョン・ウィソク:ジュンボムが囲う議員候補)
ホン・ソベク/홍서백(ワングー:中華料理店の客、足の悪い借金まみれの男)
ピョ・ドンジュン/표동준(ヒョンウ:ワングーの幼い息子)
チョン・マンシク/정만식(中華料理店のオーナー、ヨンギュのバイト先)
キム・ホンパ/김홍파(キム・グッカン:有力な国会議員、イ・ヒョンナムの後ろ盾)
チョン・ヨンジュ/정용주(ユン・ミョンフン:ハヤンをいじめるクラスメイト)
イ・ジョンウク/이종욱(ユク・ソンフン:ミョンフンの兄)
パク・スヨン/박수영(ソンフンとミョンフンの父)
ユ・スジョン/유수정(議員を接待する女)
ノ・スンウ/노승우(チゴンの仲間)
ソ・ムンホ/서문호(チゴンの仲間)
イ・ジェハン/이재한(チゴンの仲間)
カン・ヒジェ/강희제(ジュンボムの運転手)
イ・グァンミン/이관민(接待女の運転手)
チョ・スンヨン/조승연(ソンフンの仲間)
キム・ジンウ/김진우(ソンフンの仲間)
キム・ムンハク/김문학(モギョンのレストランのオーナー)
パク・インギュ/박인규(ハンバーガーショップのオーナー)
キム・ミスク/김미숙(小売店のオーナー)
ウ・ジウォン/우지원(?)
■映画の舞台
韓国:明安市
ロケ地:
韓国:明安市
■簡単なあらすじ
韓国の再開発地区・明安に住むヨンギュは、母モジュンの再婚相手チョンドクとの折り合いが悪く、義妹のハヤンとも口悪く罵りあう仲だった
ある日、ヨンギョの同級生がハヤンをいじめていて、ヨンギュはその相手のミョンフンを石で殴りつけてしまう
双方の親が出てきて、示談金300万ウォンという解決策が提示されたが、ヨンギュにそんな金が用意できるはずもなかった
そんな折、街角で少しばかりの会話を交わした半グレのチゴンが、ヨンギュにために300万ウォンを用意する
チゴンの部下スンムから「訪ねてくるな」と釘を刺されるものの、ヨンギュはチゴンの元を訪れ、「雇って欲しい」と懇願した
チゴンたちは街でバイクを盗んで海外に売る仕事を生業にしていて、組織のボス・ジュンボムは手懐けた政治家ウィソクを政界に送り込み、再開発利権を奪おうとしていた
だが、出馬断念したはずの相手陣営が動きを変えたことで、事態は良からぬ方向へと向かっていく
そんな折、何も知らないヨンギュはボスの命令にて、ある女を政治家の元に届ける任務を負うことになったのである
テーマ:生き残るために必要な絶望
裏テーマ:この世界からの解放
■ひとこと感想
貧乏少年が悪の道に走るという内容で、元々素行の悪かった人間がわかりやすい転落をしていく様子が描かれていました
家庭に居場所がなく、母の再婚で全てが終わっていて、それでも家族を守ろうとする意思を貫いていきます
自分の行動が原因で追い詰められていく物語ではありますが、水は低いところに流れるが如く、無知であることがさらに奥深いところに流されるという感じになっていました
映画の原題は「絶望」という意味なのですが、「絶望」があるからこそ、人は生にしがみつくのかな、と思ってしまいますね
チゴンはヨンギュに自分を重ねていきますが、それが部下たちの反感を買うことになっていて、それも因果応報なのかなと思います
スンムには見えていない閉じたチゴンの世界があるのですが、誰もが同じような閉じた世界の中で生きているのですね
たまたま繋がっているけれど、スンムにも同じような閉塞感はあったのでしょう
でも、彼にはコミュニティが希望に見えていて、それゆえにチゴンとヨンギュを理解できない立場にいたように感じました
↓ここからネタバレ↓
ネタバレしたくない人は読むのをやめてね
■ネタバレ感想
映画は、韓国の最底辺に生きる人々を描いていて、そこに複雑な家庭事情というものが組み込まれていました
まるで吸い寄せられるように底辺層が集まる街なのですが、再開発という強制的なリセットに縋る街のようにも思えてしまいます
そんな中で政治家を巻き込んで利権を得ようとする半グレがいて、その歯車になる無知な少年を描いていました
チゴンにも同じような過去があって、その絶望が生きる原動力になっていました
彼は組織の中で地位を確立していきますが、それでも自分が守りたいものひとつ守れないのですね
そんな中で、義理の妹との妙な関係を持つヨンギュという存在は眩しく映ったのかもしれません
ラストでは、義父の暴行によって母が殺され、それが全てのトリガーになっていました
追い詰められたら何をしでかすかわからないという性格が悪い方に出たのですが、かと言って、それがチゴンやハヤンを不幸に導いたかと言われれば違うように思えます
■韓国の再開発事情
韓国の再開発には3つの柱があって、「都心再開発」「住宅地域の再開発」「産業地域の再開発」というものがあります
都心再開発は、老朽化した都心地域を商業地域もしくは業務地域に再開発することをいいます
住宅地域の再開発は、悪い住宅環境を改善し、公共施設を再整備することをいいます
産業地域の再開発は、老後産業団地や老後伝統市場の施設などを改善することをいいます
映画の地域は「明安市」という架空の街で、街の景観などから考えると住宅地域の再開発になるのかなと思います
再開発では、「保全再開発(撤去するほどではない状態)」「修復再開発(都市骨格を残したまま、老朽化のみを再開発)」「全面再開発(都市骨格から見直して撤去し開発)」というものがあり、韓国における再開発とは「全面再開発」のことを言います
再開発に関しては、再開発地域に商店街などがあると権利関係で衝突することが多く、全国撤去民連合などとの衝突が起こる場合があります
全体的な流れとしては、基本計画の立案(広域自治団体策定)、整備計画の策定(具体的方案の策定)、整備区域指定、推進委員会の設立、組合の設立(土地所有者の3分の2以上いればOK)と言うものとされています
その後、建築審議要請が入り、事業の実施へと進んでいきます
映画では、ヤクザのボスが議員候補を育てていましたが、おそらくは都市開発の実施における建設会社の選出、土地のロンダリングなどを行うために仕向けたものだと推測されます
自分の抱えている土地が再開発地区に指定されれば莫大な資金が流入し、土地の価格も高騰します
そう言った暗躍というのはどこの国でもあるもので、政治家の汚職問題の上位に入る問題になっていますね
現行の議員にアプローチするのではなく、自分のペットを送り込むというもので、議員役はリスクだけが高いように思えました
■絶望と希望の境目
本作では、家庭環境も最悪で、交友関係も最悪というどん底にいるヨンギュが、裏社会にのめり込んでいく様子を描いていきます
母の再婚相手はアル中DV男で、義理の妹は悪態をつくだけで、唯一の希望は母だけでした
そんな母も義父に依存している状態で、彼らの出会いもろくでもないとヨンギュは感じていました
そんな時に地元のアウトロー・チゴンに出会うのですが、その道は普通に考えれば絶望への一直線だったはずです
引き返せない入り口でもあり、ここに来るなという警告も発せられていました
それでもヨンギュはその扉を開けて、その世界で生きることを決意します
当初は「仕事」だと思い込んでいましたが、あっさりと「盗み」であることを自覚させられます
アウトローは自分の仕事を社会的に正当化することはなく、悪は悪であるという認識のもと行っていることがわかります
その道が希望に見えるのは、言うなれば環境なのですが、それは依存からの脱却を急いでいる、ようにも思えます
社会は未成年である彼を依存から脱却させませんが、それが通じるのが裏社会であり、真っ当に思える社会は未成年という呪縛を用いて、依存社会を強要しようとしています
そこに希望がある家庭ならまだしも、ヨンギュの家庭にはそれがなく、彼自身の力ではどうすることもできません
あのまま行けば、父親を殺していたと思うのですが、彼にはそこまでの根性はないのですね
でも、父親殺しをすることよりも、裏社会で生きることに希望が見えるのは自明であり、あの環境ならば、いずれその道に突き進んでいったようにも思えます
これが強要される依存関係であり、その呪縛は綺麗事で固められた理想論と成功者の戯言によって構成されたものであることは言うまでもありません
■120分で人生を少しだけ良くするヒント
本作は、行き場のない少年が居場所を見つけるために悪い大人たちに利用されていく様子を描いていきます
そんな中でも、チゴンだけは彼を特別視していて、なんとか救いたいと考えていました
でも、それはヨンギュを助けると言うよりは、あの時の自分を助けたかったと言うものに近かったのだと思います
ラストで、ヨンギュはチゴンを刺すことになるのですが、チゴンはそれによって自分が解放されると感じています
彼のポジションでもヤクザの使い勝手の良い道具にしか過ぎず、それ以上でもそれ以下でもありません
結局は、盗難バイクを売って上納金を作るだけで、それ以上の事もさせてもらえないのですね
ポジションから限界を感じ、今の人生にやりがいを感じない
そんな時に現れたのがまるであの時の自分のような目をしたヨンギュでした
ヨンギュは閉塞感の中で生きていて、どこにも安住がない人生だったと思います
義父との関係は最悪で、義妹にも悪態をつかれますが、彼女のために戦うと言う一面を持ち合わせていました
彼が妹を気にかける理由は分かりませんが、妹と言うよりは一人の女性として見ている部分があるのかな、と感じました
年頃の男の子のところに年頃の女の子が来ると言うシチュエーションと、実感がないのに家族であると突然言われてしまう
この関係に悩む青少年は普通の感覚のことかもしれません
映画では、チゴンを刺して逃げるヨンギュと妹が描かれますが、彼らにはもう保護者と言うものがいません
形式上は義父は生きていますが、彼はもう壁の向こうに行ってしまうので、保護者ではいられないのですね
年齢を考えると施設に入ることになると思いますが、そこでの安住というものはありません
組織からなるべく遠くの土地を探し、そこで二人で生きていくしかない
その時にヨンギュが妹をどのような感情で守るのかは何とも言えない部分がありますね
無論、妹もヨンギュを兄として捉えるのかは不透明ですが、この二人ならそう言った事も乗り越えて、うまくやっていくのかな、と感じました
■関連リンク
映画レビューリンク(投稿したレビュー:ネタバレあり)
https://eiga.com/movie/101720/review/04090245/
公式HP:
https://happinet-phantom.com/hopeless/index.html